美しき造船王は愛の海に彼女を誘う

花里 美佐

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第六章

驚愕の事実~side蓮

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 椎名が言っていた通り、ノースサイドを中心にSNSで噂が広がっているのはわかっていた。うちの広報のほうもインスタのほうを見ていて気付いたようだった。煽るような文章は注意するよう言って、きちんと削除させてきた。

「蓮様。新しい店員が林大臣のお嬢さんだったとか、一体名取社長はなんなんです?喧嘩を吹っかけてきたなら私も一枚かみます」

 椎名が怒っている。久しぶりにそんな顔を見た。

「名取は縁談のことを知らなかった。あいつもあの女に騙されたんだよ。だが、林芹那はよくわからん。大学時代から計算高いところがあった。今回のこともいまだに自分からは接触してこない。何を考えているのかわからないんだ」

「そうですか。いつでも言ってください。あれでは清水様がおかわいそうです。蓮様のいいなりになっただけなのに……」

「お前……。言い方ってものがあるだろう」

「だって、真実です。あなたが一目ぼれして、ほんとは彼女を囲う為にお金を貸して、さらには知恵を授けて店を大きくして、いつの間にやら恋人にした」

「黙れ」

「とにかく、彼女はこのままでは孤立無援です。目を配らないと心配ですよ」

 彼女に内緒で林のことを片付けようとそのことばかりに必死になり、本人へのケアが足りなかった。

「今日こそ、さくらを癒してやる」

「そうしてください」

「大臣との面会大丈夫だろうな」

「旦那様は同席されないんですか?直接蓮様がお目にかかるということを許されておられるんですか?」

「するわけないだろ。お前に頼むんだから僕だけだ」

「つまり、旦那様は蓮様のお相手として、清水さんのほうを応援してくださるんですね」

「さくらは僕が選んだ相手だ。父さんはうなずくだけだ」

 オーベルージュへ入っているシャンパンフラワーという有名な花屋で、さくらのために今日は花束を予約した。ここは結婚式もできるレストランだ。上にチャペルや空中庭園もある。

 この会員制オーベルージュのお得意様は街のVIPばかり。店にある花も豪華だとさくらが前にうらやましそうに話していたのを思い出した。だから注文したのだ。

 コンシェルジュには事前に花束を部屋へ入れておいてくれと頼んだ。それなのに、直接店長が部屋へ届けに来た。そして、その店長から思いもかけないことを聞かされた。

「神崎副社長、初めてのご注文ありがとうございました。お礼に少し教えて差し上げます。寵愛なさっているブラッサムフラワーの清水さん。私も昔から知っていますけど、いい子ですね。ただ、店に入った林芹那のこと覚えておられます?」

「……君……」

「芹那と副社長は大学の同窓でしょう。私は彼女の姉と同級生だったので、こちらに一家が住んでいたころのことも知っています。芹那が急にフラワーアーティストになりたいと私に三年前相談してきました。留学先を紹介して一年ほどして戻ってきたら父親の力と名取の名前であっという間にメディアにとりあげられて有名になったんですよ」

「そうだったのか」

「正直、芹那より清水さんのほうが性格もまっすぐで私は好きなんですけどね。副社長、芹那にはご注意くださいな。大体フラワーアーティストになったのも、父親から離れたかったからと言っていたのに……この間大臣がうちの店へお見えになって、彼女がここへ戻ったことと副社長が関係あるかのようにほのめかしておられたんです」

「……まさか、君……」

「誰にも言ってませんから安心してください。私、駆け出しのころにブラッサムフラワーの前の店主に救われたことがあるんです。お金もなくてね、花を少し融通してもらったの。店長の姪である清水さんもいい子だと思っていました。名取じゃなければうちでと思っていたくらいなの」

「君はさくらの味方なのか?」

「大きな声では言えないんですよ、この店の立場もあってね。あなたのお家と同様です。ただ、芹那があの店をもらえそうだと昨日嬉しそうに話していたから清水さんのことが心配になったんです。老婆心でお伝えしました。ご注文のお礼です。お幸せに」

 驚愕した。これみよがしに花を届けるためこんな話をするなんてありえない。

 この店長は縁談を知っていて、警告してくれたのだ。林が店を乗っ取る?もしかしてさくらの耳に入ったのではないだろうかと恐怖が頭を占めた。彼女が痩せたと椎名が言っていた理由……それだったのかもしれないと初めて気づいた。
 
 さくらのことが心配だ。この様子だと店で林に何かされているのかもしれない。もっと早く手を打つべきだった。

 今日の夜、彼女に会えるのでその時に話そうと決めた。

「刈り残した草をきちんと刈らないとな」

 自分でも思いもかけない辛辣な言葉が口から出た。

 そのくらい、さくらを苦しめているだろう林を許す気には到底なれなかったのだ。

 
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