美しき造船王は愛の海に彼女を誘う

花里 美佐

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第六章

光と決意

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 彼との逢瀬の前に、一本のメールが私を光の道へ導いた。

『清水さくら様 当コンクールにおいてご応募いただきました作品が優秀賞を獲得されました。おめでとうございます。受賞にかんする詳細につきましては、次ページにまとめてありますのでご参考ください。つきましては、お仕事のご案内をさせていただきたくご連絡さしあげました』

 まだ、ブラッサムフラワーで働いていたころに出したフラワーアレンジのコンクールで入賞したという知らせだった。いくつかの会社が集まって開いたコンクール。名取には悪いが、いずれ独立を目指すにはそれも必要だと考えて、例年個人として出品していたものだ。

 悪意のある噂に悩まされ、芹那さんに店の実権を奪われそうになっていた私にとって、光の道のようだった。

 仕事の案内について連絡をいれたところ、できればお会いしたいと大手のフラワーアレンジメント会社の担当者から連絡があった。

 そしてその担当者と会い、フラワーアーティストとなって独立し、うちと提携しながら仕事をしていきませんかとお話を頂いたのだ。

 私はこれだとすぐに思った。これなら自分の力で独立できる。

 今の店は名取フラワーズの支店でもある。蓮さんの言うように、あそこから独立するには名取さんを納得させねばならない。

 名取さんは私の独立したいという気持ちに気づいている。ここまで売れるようになったあの支店を私に取られたくはないだろう。そうなれば、私の独立に条件を付けてくるか、阻むかの二つに一つ。

 だが、私の後ろには蓮さんがいる。名取さんは蓮さんと戦える人材を選んだ。

 店を私と蓮さんに取られることを阻むため、マスコミにも名前の売れている彼女を私の下につけたのだ。つまり、彼女に店を運営させることも考えての人選だったのだろう。

 だが、名取さんは蓮さんと芹那さんの縁談は知らなかった。知っていたら絶対彼女を寄越さなかったと思う。そこまでしたら、名取さんと蓮さんの友情は終わると思うのだ。

 蓮さんとの逢瀬は区切りになるだろう。

 叔父は手術の経過が良好で、うまくいくといずれ退院できるかもしれないという話だった。

 叔父は私が独立することを強く推してくれていた。名取フラワーズに入社したことへ反対はしなかったが、いずれ店を継ぐなら自分の名前で勝負するか、名取をいずれやめるかしたほうがいいと当時も言われたのだ。

 ようやく自分の進むべき道が見えてきた。

 彼は私の新しい道を切り開いてくれた人物でもある。経営に疎い私を先頭に立って教育してくれた。店を繁盛させるため、この街をよく知る彼だからこそできる策略で私を導いてくれた。感謝しかない。

 彼との関係に今は恋愛も加わった。でもそれがなくても恩人で尊敬できる人なのだ。彼が恋人でなかったらこの街を出ていくことを応援してくれたと思う。今はきっと反対するだろう。

 彼の縁談。そして噂。少なからず、彼の導きで店を成功させた事実。恋人であることが知れれば、おそらくどう言い繕っても、最初は彼の体面に傷がつく。この街は彼の会社の本拠地であり、住まいもある。これ以上迷惑をかけたくない。

 名取フラワーズを退社し、この街を離れる。そして蓮さんとしばらく距離を置く。そうすれば、噂もいずれ消えていくだろう。

 私が選んだ道はそれだった。決めると早かった。芹那さんには受賞を機にここを出て独立すると話した。店を頼みたいと相談した。彼女は快諾した。思った通り私を追い出し、店を手にできるのだ。嬉しそうだった。

 名取社長にその申し出をするため、夜本社へ行った。

「清水、お前……ずいぶん痩せたな。大丈夫なのか……すまなかったな。そこまで悩んでいたとは」

「社長、遅い時間に申し訳ございません。お電話でお話していた件です」

 退職願を出した。私は店を離れて自分の名前で仕事を受ける。独立するので退職させてほしいと頼んだ。デスクの前で座る名取さんはそれをじっと見て、目の前に立つ私の顔を見上げた。

「受賞おめでとう。よくやった。やめることはない。お前の名前が芹那よりも大きくなる時が来た。あの店を叔父さんの店にしたいなら、相談に乗ってもいい。それに独立したいなら……」

「名取さん。いえ、社長。お世話になりました。あとのことはすべて彼女に、林芹那さんにお任せしてあります。アルバイトも彼女が目星をつけてあります。知り合いだそうですけどね」

「おい、落ち着けよ。悪かった。この間も言っただろ。本当にあいつが縁談相手だなんて知らなかったんだ」

「それはそうでしょう。知っていてそれをやったら蓮さんと名取さんの間の友情なんてなくなります」

「!」

「私の独立心まで全部お見通しだった社長が、芹那さんをいれたことで店は大繁盛です。アレンジ教室の生徒も大勢彼女を指名してきました。すごい人気ですよ。客のほとんどを彼女に取られました。さすがですね」

「清水、そんなわけあるか。お前のことを慕っているお客さんだって大勢いる。知っているんだぞ」

 確かにそうだ。私を指名してくださるお客様もおられる。ビジネス街のお客様は特にそうだ。最初のアレンジを気に入っていただいている。叔父の店の代からのお客様もおられる。皆さん私を指名してくださった。

「でも、最初から自分の力で立つようにしないとこういうことになるんだと痛感したんです」

「それは考えすぎだ。店のことも話し合おう。大体街を出ることや店を林に任せることを蓮に話してないんだろう。あいつがそれを聞いて許すはずがない」

「彼と別れたいわけじゃないんです。でも彼の縁談の話を聞いて、自分を卑下してしまいそうでそれも嫌でした。少しづつ自分に自信が持てるようになるまで頑張りたいんです。ありがたいことに独立のめどもつきました。今だと思うんです」

 名取さんは私をじっと見て言った。

「清水がいつか自分の店を持ちたがっていることを知っていたし、本当なら今の蓮のようにパートナーとして手伝ってやるつもりだった。でもあいつが現れてあっという間にお前を搔っ攫っていきやがった」

「名取さん……」

「あいつには学生時代から色々負けてきたからな。ついむきになってしまった。自業自得だな。芹那に騙された段階で俺の負けだ。お前の隣は諦めるよ。それで引っ越してこっちに来るのか?」

「そうですね。叔父の病状も落ち着いたので時期的には今しかないと思います。二人は応援してくれると思います」

「わかった。こっちに来たらすぐに連絡しろ。うちをやめても関係は断ちたくないし、仕事での付き合いは続けてほしい。うちからお前に頼む可能性だってある。」

「ありがとうございます。名取さんに指導していただいたからこその受賞です。本当にありがとうございました。それと、彼にはこのこと絶対内緒にしてくださいね。社長を巻き込みたくありませんから。自分から言います」

「蓮を説得するのは難しいだろうな。お前はわかってないが、あいつは女を寄せ付けなかったのにお前だけは特別だった。それだけお前に執着があるんだよ」

 説得できないのは最初からわかっている。少し距離ができるだけのことで、別れたいわけではない。理解してもらえないなら、彼を諦めるしかない。今は反対されても街を出る覚悟だった。

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