財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す

花里 美佐

文字の大きさ
14 / 42

彼の思惑3

しおりを挟む
「ありがとう。色々言ってくれたんだってね。でもね私、一旦本部へ戻ることになったの。向こうで無理なら、半年後支社へ戻してくれるってさ」

「本当か?よし、半年と言わず、とっとと行って、とっとと戻ってこい。お前に本部へ行かれると俺も困るんだよ。とりあえず、今日はこのプレゼン資料頼むよ。あと、これを入れたいんだ」

 彼がパソコンの中を見せた。

「お任せあれ。坂本君が出世できるようにアシストするね」

 すると、彼は周りをキョロキョロと見て、私の横に来て小声で話した。

「おい、それホントなのか?支社長からもチラッと言われたが……」

 私は彼の顔を見てにっこりうなずいた。彼は勢いよく立ち上がって両手を上げてガッツポーズをする。

「今回の結果次第らしいから頑張ってね」

「おう、頑張るわ」

 午前中は坂本君のプレゼン資料を作ることに専念した。

 昼休みになって、崇さんは支社長と昼に出て行った。私は坂本君に資料を渡してとりあえず社食へ。

 すると、携帯に電話が入った。辰巳さんだ。急いで出た。

「香月。今、いいか?」

「はい」

「驚いただろ?」

「それはもう驚きました。辰巳さん、まさか本当に外れるわけじゃないですよね」

「外れた方が彼のためだと思う。それに、後任がお前なら俺に聞きやすいだろうし、お前を通して彼に接触しているようなものだから俺はそれでも構わない」

「辰巳さん、今何をなさっているんです?」

「総帥秘書の新藤さんの手伝い。というか、新藤さんが辞めるかもしれないんだ」

「ええ!?」

「奥様がご病気で結構重篤なんだ。今も早く帰ったり、遅く出たりしている。本当は斉藤が新藤さんの後につくと立候補していたが、新藤さんが俺の方が総帥の仕事を知っているからと言って、結局俺が全てやっている。だが、総帥はいずれ時期を見て俺を崇さんに戻す気だろうな」

「それはそうでしょう。みんなそう思ってます。私なんて無理ですから……」

「総帥は俺を使って崇さんを支配したいし、女のお前を警戒してる。縁談の話を聞いたか?」

「聞きました。何考えてんでしょうね、御曹司」

「お前を側に置くことから全てを始めたいんだろ。ただ、継承するだけじゃなくて自分の世界を作りたいんだ。さすが専務の教え子だよ」

「私はそういう対象じゃありませんってお伝え下さったそうですので、黒沢さんも喜んだんじゃないですか?」

「馬鹿だな、香月。仕事は出来るくせに相変わらず鈍い。まあ、とにかく斉藤と別れて本当に良かった。お前は大切な俺の後輩だし、あんなチャラい奴にもったいない。とっととお前から振ってやればよかったのに……あいつのことは戻ってきても心配ないぞ。何かしたら俺がぶん殴って押さえてやるからな」

「……ありがとうございます」

 私が本部秘書課に戻りたくない本当の理由をわかってくれている。

「とにかく、崇さんを頼んだぞ」

「頼まれません。きちんと引き継ぎと今後もフォローをお願いしますね」

「わかってるよ。とにかく、佐々木部長の件は本当に助かった。ありがとう。さっき崇さんからも連絡が来ていた。お前のこと褒めてたぞ。俺はまた怒られたよ。全部仕事をお前に振って逃げたからな」

「自業自得です」

「いいんだ。支社にお前をやって、結果辞めさせずにすんだ。とにかく早く戻ってこい。御曹司は忙しいからな」

「……わかりました」

「ああ、じゃあな」

 昼休みがなくなりそうで、急いでご飯を食べる。難波さんがこちらをチロチロと見てる。立ち上がって、私の横に座った。

「香月さん、本部へ戻るって本当です?」

「誰から聞いたの?」

「支社長です」

「え?みんな知ってるってこと?」

「そうじゃないですか?というか、私、これから支社長の秘書やれって言われたんです。いやなんですけど……」

 私は彼女の耳元で囁いた。

「坂本君のはどう?」

 びっくりしたように私を見る。

「もしかすると、空席のところに彼が入るかもしれないよ。難波さん、坂本君のことまんざらじゃないでしょ?」

 真っ赤になった彼女が目の前にいる。やっぱりね。そうじゃないかとずっと思ってた。

「どうして……?」

「まあ、いいじゃない。とにかく、彼が今回のプロジェクト後に昇格したら、元々部長の秘書だったんだからやればいいんじゃない?支社長には私から言っておく。今まで難波さんに助けてもらったお礼よ」

 すると、難波さんが私に抱きついた。

「うれしいです。でも、坂本課長は香月さんの事……」

「私、坂本君とは仲がいいけどタダの同期よ。それに、本部へこのまま戻ると恋愛なんてしてる時間は皆無になる」

「香月さん、もしかして御曹司の秘書になるんですか?前は専務理事の秘書だったって噂が……」

「そうね。みんな気を遣って何も言わないでくれたけど、色々あってね」

「でも支社長の秘書は?」

「元は佳奈美さんだったのに、私が来てから、無理矢理私にされたの。絶対佳奈美さんに戻してもらう」

 私が言い切ったら、難波さんが拍手してる。

「すごい、香月さん。私、坂本課長のことがなかったらもっと香月さんと仲良くなれました。残念です」

「これからよろしくね。何かあれば連絡するとき難波さんにするかもしれない」

「はい、おまかせください。あと、戻られる前に出来たらコーヒーを美味しく入れるこつを教えて下さい。支社長がいつも褒めてました」

「うん。いいよ。あ、時間だ。戻ろう」

 ふたりでフロアへ戻った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る

水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。 婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。 だが―― 「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」 そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。 しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。 『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』 さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。 かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。 そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。 そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。 そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。 アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。 ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。

溺愛彼氏は消防士!?

すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。 「別れよう。」 その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。 飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。 「男ならキスの先をは期待させないとな。」 「俺とこの先・・・してみない?」 「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」 私の身は持つの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。 ※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

処理中です...