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彼の思惑2
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崇さんは拳を握って、机を叩いた。びっくりした。
「俺は結婚相手どころか秘書も選べないのか?女性秘書自体を警戒する父の気持ちはわからないでもないが、俺にだって自分の周りに置く人間を選ぶ権利がある」
辛そうな彼の横顔を見ると心が痛んだ。今までずっと、総帥に遠慮して色々我慢していたのかもしれない。
『彼が干からびる前に……水を……たまには肥料もやってね……』
専務の言葉が頭に蘇った。私には残ってやることがあると専務は言っていた。
きっと彼がこうなることもわかっていて、財閥に残っていずれ彼の秘書となり、助けていけと言いたかったんだろう。ようやく腑に落ちた。
「わかりました。私で良ければ崇さんのために出来るだけのことをします。でも……半年猶予を下さい」
「半年?」
「半年秘書として私を使って、やっぱり使えないと思われたり、私がどうしても無理で辛かったら、支社へ戻して頂けませんか?」
何かブツブツと小さい声であっちの方向を向いて言う。何なの?
「しょうがないな。じゃあ、その条件をのむから、とりあえず俺の秘書になってくれるよな?」
「ええ。でもあとでやっぱりお前なんてとか影で言わない約束をしてください。いくら出来なくても怒らないでくださいね」
「ああ、もちろんだ、ありがとう。やった!」
崇さんが笑った。うそでしょ……。
普段、全く笑わない彼が満面の笑みで私の手を取って立ち上がった。
これを見たら、イエスと言うしかない。普段からこうやって笑ってればいいのに……。
子供のように嬉しそう。
「そうだ、辰巳がいなくても大丈夫だから心配するな。アメリカで俺はひとりだったが、父の指図を受けずに、ようやく自分の思うように仕事が出来た。父は俺の成果を見て辰巳を外すことを認めた」
「……でも」
「それに、お前は社内営業部にとても評判がいいみたいだな。アメリカに来ていた第三営業部長がお前を秘書にすると話したらとてもいいんじゃないかと言ってくれた」
「あの方は昔の私もご存じだからです」
「そんなことはないぞ。自信を持てよ。そんなお前だから側におきたいんだ。お前のことは俺が守るから安心しろ。父のことは俺に任せておけ」
「わかりました。とりあえず、ご迷惑をおかけしない程度に頑張ってみます。よろしくお願いします」
私を見て、いたずらっぽい目を輝かせた。
「へえ。そんな加減が出来るのか。さすが元専務秘書」
「やめてください!」
頭にきて、つい大きな声を出した。
「あはは……」
綺麗な笑顔。びっくりして見とれてしまった。するとニヤリとしていつものように意地悪を言う。
「お、俺に見とれてるのか?香月。これからはタダで毎日見放題だぞ。よかったな」
この人、こんな冗談も言える人だったの?驚きすぎて口を開けてしまう。
「ほら、見とれてないでやるぞ。さっさと部長のことを片付けて本部へ帰るぞ」
「あ、それですけど、部長が出社停止になったということは……」
「辰巳に聞いてきたが、データを送っていたそうだな。証拠固めもしたんだろ。やるなあ香月。探偵にもなれそうだ。使えるじゃないか」
「……そ、そうですかね?」
また、嬉しそうにこちらを見てる。なんか、調子狂うな。
「俺に見せろ」
そう言われて、隠していたファイルを崇さんの前に出した。緊張する。ふと、目を上げて私を見た。
「うん、よくまとめてあるな。しかもピンポイント。お前こういう才能もあったのか。これは使えそうだ」
「……あ、ありがとうございます。辰巳さんの指示が最近明確になってきたのでそのせいです」
「とりあえず、佐々木部長の解雇は決定。その後の人事はそうだな、今回のプロジェクトがうまくいったら坂本課長を昇格させてもいいんだが、香月お前、坂本課長のプレゼン資料も作っているらしいな」
「え?あ、そうです」
「彼とは同期とか……」
「あ、はい。こちらに来てから色々と助けられました。すごく頼りになるし、いい人なんです」
眉根を寄せた御曹司が私を見た。
「……ふーん……」
「あ、それで坂本課長のプレゼン資料を作りたいんです。実は昨日からやるはずだったのにできなくて、今日中なんです。明日先方へ持って行くので……」
「……実は今朝一番で坂本課長が俺を訪ねてきた」
「え?」
「お前にプレゼン資料を作ってもらえるか確認と、この支社へお前が飛ばされてきた経緯を詳しく聞いてないが、自分が大切に使うので、支社に残して欲しいと言ってきたんだ」
驚いた。坂本君、私がここに来たときからきっと色々知ってたんだね。それなのに私には一度も聞いてこなかったし、そんな素振りを見せない。本当にいい人だな。
「今日は坂本の案件をやることを許す。このファイルを俺も確認する時間が欲しいからな。ファイル何冊ある?」
「えっと……三冊です」
「俺がそれを確認して本部へ連絡するのに今日は丸一日かかりそうだ。その代わり、お前はプレゼンで坂本が案件を獲得できるようアシストしてこい。命令だ」
じっと私を見据えて言う。私は敬礼した。
「もちろんです。いつも全力投球が私のモットーですから」
「……ぷっ!やっぱりお前、面白いな。専務ともいつもそうやって面白いやりとりしていたな。懐かしいよ」
彼は私を見て笑った。
私はさっそく坂本君のところへ行った。
「おお、香月来たか、良かった。御曹司、俺の頼みを聞いてくれたんだな」
うれしそうにデスクで頬杖をつく坂本君。
「俺は結婚相手どころか秘書も選べないのか?女性秘書自体を警戒する父の気持ちはわからないでもないが、俺にだって自分の周りに置く人間を選ぶ権利がある」
辛そうな彼の横顔を見ると心が痛んだ。今までずっと、総帥に遠慮して色々我慢していたのかもしれない。
『彼が干からびる前に……水を……たまには肥料もやってね……』
専務の言葉が頭に蘇った。私には残ってやることがあると専務は言っていた。
きっと彼がこうなることもわかっていて、財閥に残っていずれ彼の秘書となり、助けていけと言いたかったんだろう。ようやく腑に落ちた。
「わかりました。私で良ければ崇さんのために出来るだけのことをします。でも……半年猶予を下さい」
「半年?」
「半年秘書として私を使って、やっぱり使えないと思われたり、私がどうしても無理で辛かったら、支社へ戻して頂けませんか?」
何かブツブツと小さい声であっちの方向を向いて言う。何なの?
「しょうがないな。じゃあ、その条件をのむから、とりあえず俺の秘書になってくれるよな?」
「ええ。でもあとでやっぱりお前なんてとか影で言わない約束をしてください。いくら出来なくても怒らないでくださいね」
「ああ、もちろんだ、ありがとう。やった!」
崇さんが笑った。うそでしょ……。
普段、全く笑わない彼が満面の笑みで私の手を取って立ち上がった。
これを見たら、イエスと言うしかない。普段からこうやって笑ってればいいのに……。
子供のように嬉しそう。
「そうだ、辰巳がいなくても大丈夫だから心配するな。アメリカで俺はひとりだったが、父の指図を受けずに、ようやく自分の思うように仕事が出来た。父は俺の成果を見て辰巳を外すことを認めた」
「……でも」
「それに、お前は社内営業部にとても評判がいいみたいだな。アメリカに来ていた第三営業部長がお前を秘書にすると話したらとてもいいんじゃないかと言ってくれた」
「あの方は昔の私もご存じだからです」
「そんなことはないぞ。自信を持てよ。そんなお前だから側におきたいんだ。お前のことは俺が守るから安心しろ。父のことは俺に任せておけ」
「わかりました。とりあえず、ご迷惑をおかけしない程度に頑張ってみます。よろしくお願いします」
私を見て、いたずらっぽい目を輝かせた。
「へえ。そんな加減が出来るのか。さすが元専務秘書」
「やめてください!」
頭にきて、つい大きな声を出した。
「あはは……」
綺麗な笑顔。びっくりして見とれてしまった。するとニヤリとしていつものように意地悪を言う。
「お、俺に見とれてるのか?香月。これからはタダで毎日見放題だぞ。よかったな」
この人、こんな冗談も言える人だったの?驚きすぎて口を開けてしまう。
「ほら、見とれてないでやるぞ。さっさと部長のことを片付けて本部へ帰るぞ」
「あ、それですけど、部長が出社停止になったということは……」
「辰巳に聞いてきたが、データを送っていたそうだな。証拠固めもしたんだろ。やるなあ香月。探偵にもなれそうだ。使えるじゃないか」
「……そ、そうですかね?」
また、嬉しそうにこちらを見てる。なんか、調子狂うな。
「俺に見せろ」
そう言われて、隠していたファイルを崇さんの前に出した。緊張する。ふと、目を上げて私を見た。
「うん、よくまとめてあるな。しかもピンポイント。お前こういう才能もあったのか。これは使えそうだ」
「……あ、ありがとうございます。辰巳さんの指示が最近明確になってきたのでそのせいです」
「とりあえず、佐々木部長の解雇は決定。その後の人事はそうだな、今回のプロジェクトがうまくいったら坂本課長を昇格させてもいいんだが、香月お前、坂本課長のプレゼン資料も作っているらしいな」
「え?あ、そうです」
「彼とは同期とか……」
「あ、はい。こちらに来てから色々と助けられました。すごく頼りになるし、いい人なんです」
眉根を寄せた御曹司が私を見た。
「……ふーん……」
「あ、それで坂本課長のプレゼン資料を作りたいんです。実は昨日からやるはずだったのにできなくて、今日中なんです。明日先方へ持って行くので……」
「……実は今朝一番で坂本課長が俺を訪ねてきた」
「え?」
「お前にプレゼン資料を作ってもらえるか確認と、この支社へお前が飛ばされてきた経緯を詳しく聞いてないが、自分が大切に使うので、支社に残して欲しいと言ってきたんだ」
驚いた。坂本君、私がここに来たときからきっと色々知ってたんだね。それなのに私には一度も聞いてこなかったし、そんな素振りを見せない。本当にいい人だな。
「今日は坂本の案件をやることを許す。このファイルを俺も確認する時間が欲しいからな。ファイル何冊ある?」
「えっと……三冊です」
「俺がそれを確認して本部へ連絡するのに今日は丸一日かかりそうだ。その代わり、お前はプレゼンで坂本が案件を獲得できるようアシストしてこい。命令だ」
じっと私を見据えて言う。私は敬礼した。
「もちろんです。いつも全力投球が私のモットーですから」
「……ぷっ!やっぱりお前、面白いな。専務ともいつもそうやって面白いやりとりしていたな。懐かしいよ」
彼は私を見て笑った。
私はさっそく坂本君のところへ行った。
「おお、香月来たか、良かった。御曹司、俺の頼みを聞いてくれたんだな」
うれしそうにデスクで頬杖をつく坂本君。
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