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噂と決意~玖生side
しおりを挟む「由花、変な勘ぐりはよせ。それと、俺といる限りそういう心配は無用だ。神田と一緒にするな。それが一番むかつく」
由花はびっくりしたようにこちらを見た。
「ごめんなさい。そんなつもりで言ったんじゃないの」
「由花。これからも似たようなことがあるかもしれない。これからは何かあったらすぐに俺に報告してくれ。鷹也から話を聞いて俺がどれだけ心配したか……」
「……ごめんなさい」
「約束してくれ。ひとりで抱えるな」
黙ってしまった由花の肩を自分の方へ抱き寄せた。彼女は逆らわず、俺に頭を預けた。
「玖生さんの足を引っ張るようなことはしたくないの。今は大事な時期よ。あなたこそ注意して欲しい。私の襲名とは規模も大きさも違いすぎる」
「俺のほうは大丈夫だ。何しろおじいさまも清家内部の人間も俺しか跡取りに考えていない」
「今後噂がなくなるといいけれど……色々ごめんなさい」
「だから何故謝る?」
「おふたりさん、仲いいのはいいけど、時間見ろよ。玖生、二時には出るって言ってなかったか?」
「……まずい、何時だ?」
「二時過ぎてる。エントランスで運転手が待ってるぞ。お前が携帯出ないから俺に連絡が来た」
俺は急いで立ち上がると、由花の手を握り言った。
「すまん、また連絡する」
「うん、ごめんなさい。お仕事頑張ってね」
「ああ。鷹也ありがとう」
二人を残して俺は急いで車へ向かった。
「崎田。すまん、遅れた」
「……坊ちゃん。急ぎますよ」
携帯を見るとおばあさまからメールが来ていた。噂のことか……おばあさまは社交界に出入りするし、色々耳にするからおそらく知っているはずだ。
夜にでも屋敷で話しましょうと返信し、仕事へ戻った。
その夜。
おばあさまから呼ばれて部屋へうかがうと、座るように促された。
「玖生さん。由花さんとは結婚前提にお付き合いしていると噂が流れています。どういうこと?私に報告が先でしょ?」
まさか、あの家元……今日の昼の話をすでに半日であちこち吹聴して回っているのか……俺が考え込んでいたら、おばあさまが睨んでいる。まずい。
「……どなたから聞いたんですか?」
「私の情報網を甘くみないでちょうだい。噂すずめが周りにたくさんいるのよ。真実も嘘も半々だけどね」
「やっと由花が俺と付き合うことを了承しました。それより由花のことでろくでもない噂を五十嵐流の家元が流していて、それを今日の昼に鷹也と一緒に訂正してやりました。由花とは結婚前提で付き合っていると言ってやったんです」
「あなたという人は……そういうことに免疫がないせいでしょうけど、少し大人げないですよ」
「……すみません。おばあさまのおっしゃるとおり、免疫ありませんので」
開き直って嫌みを言ってやると、おばあさまはため息をついた。
「あの人には報告しましたか?まあ、私にもまだなんだから、言ってないんでしょうけど」
「おじいさまはもちろん、父さんにも何も話してません。まだ、最近なんです」
「他人に話す暇があるなら、私達へ先に言えるでしょ?」
「すみません」
ここは謝るしかない。
「玖生さん。アメリカの彼女はどうするの?」
「最初から全くその気がないのに、どうするもこうするもありません。お断りするつもりです」
「由花さんとはいつ結婚するの?」
「それはまだわかりません。すぐには無理なのはおわかりでしょう。あちらも襲名を控えていて大変な時期です」
「お前は彼女以外考えていないのね?」
「もちろんです」
「そう。わかりました。とにかく、アメリカへ行ってやるべきことをしてきなさい。彼女のことは私が何とかしましょう」
何をする気だ?おばあさまは実はとても有能なのだ。おじいさまも一目置く清家の裏の頭領だ。
おじいさまはおばあさまあっての清家総帥だといっても過言ではない。
「……あの。何をする気ですか?」
「……教えません。お前も報告が遅かったしね」
怖すぎる。ここは、頭を下げよう。由花のためだ。
「おばあさま。彼女に無理を言わないで下さい。由花は清家に迷惑かけたくないとそればかりですので、あまり追い詰めると結婚を拒まれるかもしれない」
「情けないこと……捨てられそうなの?玖生さん」
「おばあさま!」
「いいですか。彼女も大変なのは知ってますよ。でもお前を選ぶなら、彼女も覚悟が必要です」
だから追い詰めるなと言っているのに。
「大丈夫。彼女とはお前よりずっと前から知り合いよ。彼女のことはお前よりよく知ってるわ」
「……」
おばあさまは含みのある笑いを浮かべ、俺に出て行くよう言った。
こうなると俺はお手上げだ。由花と連絡を取り合って、確認するしかない。
俺も覚悟を決めた。
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