叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する

花里 美佐

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玖生の縁談1

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 玖生はアメリカへ飛んでからというもの、分刻みのスケジュールに忙殺されていた。今日は杉原ロジスティクス社長との久しぶりの面談が予定されていた。

 アメリカ全土での清家財閥の物流をすべて担う会社だった。社長は経営者としても有能で、若く経験の浅い玖生の相談に色々乗ってくれた頼もしいビジネスの大先輩だった。

 その娘こそ、祖父が縁談相手に指名してきた亜紀だ。玖生の五歳年下の杉原亜紀は優秀で、玖生のカレッジに十七歳でハイスクールから推薦されてきた。

 高校生の娘を心配した父親が玖生を紹介し、できるだけ助けて欲しいと頼んだのだ。

 渡米してすぐに祖父から杉原社長を紹介されていた玖生は断ることも、冷たくすることも出来ず、妹のようなつもりで接してきた。彼女は玖生の意に反して、彼に恋心を抱きはじめ、告白してきた。

 大学卒業を機に日本へ戻り、本格的に仕事を始める矢先だった。その時はそれを理由に彼女を説得して断った。

 彼女はアメリカで父の会社へ入社が予定されていたこともあり、追いかけてはこなかった。だが、アメリカへ玖生が仕事で来るたび、必ず会いにくる。そして、付き合ってくれと言う。

 数年しても彼女は全く結婚しない。もうすぐ三十歳になるというのに、父親の勧める相手や言い寄る男性を袖にしてきた。理由は玖生。杉原会長もこれにはとうとう折れて、祖父である総帥に縁談として本格的に話をしてきたのだ。

 玖生にとって、妹同然の亜紀に対して恋愛感情などない。ただ今までは亜紀を言いくるめればよかったが、今回は縁談として祖父を通じ、杉原会長から話がきているとなると適当にあしらうことが出来なくなった。

 「玖生君。久しぶりだ。会うたびに男ぶりが上がっていく。亜紀の諦められない気持ちもわからんではない」

 「……杉原さん。お久しぶりです。いつもありがとうございます。この間の問題もおかげさまで無事解決しました」

 「そうか。お役に立てて何よりだ。もはや、本業以外で君にアドバイスすることもなくなった。そろそろ総帥がおっしゃるように頃合いだろう。決心したのだろ?」

 「そうですね。父がどうしても継承を拒んでいるのでしょうがないです」

 杉原は向かい合ってソファで背中をつけて座った。

 「まあ、しょうがないだろうな。私も何度かお父上とは話しているが、十年前ならいざ知らず、財閥内の重鎮達が君じゃないと納得しないだろう」

 玖生はため息をついた。

 「私の周りは年上ばかりです。私に任せるということは、若い者を私が抜擢して改革をするということもわかっているのでしょうか」

 「そうだな。本来ならお父上の同僚が多いはず。だが、総帥に従ってきたご老人らも結構そのままだ。代変わりが遅れているのは確かだな」

 「……」

 玖生は黙っている。

 「君のいいようにすればいい。取引先は私がまとめよう。君は財閥内をまとめるんだな。同年代の従兄弟らをうまく使えばいい」

 「はい。よろしくお願いします」

 何も言わずお互いコーヒーを飲みながら、腹を探り合っていた。

 「玖生君……やはり日本に想い人がいるという噂は本当のようだな」

 玖生は驚いて顔を上げた。

 「いや、縁談のはなしは聞いているだろうに、君は何も言わない。わかってはいたが、その気がないんだな。まあ、その気があればとっくにどうにかなっていただろう」

 「杉原さん……すみません」

 玖生は立ち上がると丁寧に頭を下げた。杉原は驚いて立ち上がり、座るよう促した。

 「玖生君。お相手の女性についてこちらも少し情報を得ている。大奥様の知り合いで、当初結婚相手として考えていたわけではないと聞いているが、違うかね?」

 「確かにそうです。私はご存じのように結婚どころか女性とお付き合いすることを拒んでましたので、友人ならどうだろうという話だったのです。俺にとっては正直どれも大差なかったのです」

 「失礼を承知で話すと、その人は財閥に何の関係もなかった女性。しかも君の仕事を支えるのは難しそうだ」

 「……祖父から聞いておられるのですか?」

 杉原はうなずいた。

 「娘はこの仕事についてよく理解してきているし、君の力になれる程度には成長している。私も君が息子になるなら嬉しい。幸いにも総帥はうちの娘を孫同然に可愛がって下さっている。それもあって、おそらく君に亜紀を後押しして下さっているはずだ。条件なら悪くないはずだとね」

 「杉原さん。亜紀さんは優秀ですし、縁談なら他にも……」

 「玖生君。あの子がここまで粘っているのは何故だと思う?君に特定の女性の影がなかったこと。結婚していないこと。そして、女性を拒絶しきれていないことを知っているからだよ」

 俺が特定の女性と付き合っていなかったが、関係を持った女性がいたことを暗に言っているのだとわかった。こんなことまで口にするとは、やはりよほど娘と一緒にさせたいんだとわかった。

 「君の総帥継承に結婚問題も関係しているのは、君のおじいさまやお父上からも耳にしていた。おばあさまがその女性を友人にと勧めたのも君の意識を変えさせるためだろう」

 「確かにそうでしょうね。ただ、もうすべて解決しました。僕はその女性といずれ結婚するつもりです」

 「玖生君!」

 「今すぐには彼女の都合で無理なのです。でもいずれ何があろうと彼女と一緒になると決めています。彼女もわかってくれている」

 「……そうか。君が結婚してくれないと娘は諦められないんだよ。するならとっととしてくれ」

 強い口調で言われ、玖生は父親としての彼の苦渋を再認識した。そして、申し訳なく思った。

 「申し訳ございません。本当に……」

 「玖生君。あの子は今ロサンゼルスのほうの支社にいるが、君がいる間に必ずこちらへ来るだろう。落ち着いて話せるように配慮してやってくれ。君のおじいさまから結婚できるかもしれないという淡い望みを与えられてその気なのだ」

 「……わかりました。努力します」

 杉原会長は立ち上がると、握手を求めた。 

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