氷麗の騎士は私にだけ甘く微笑む

矢口愛留

文字の大きさ
92 / 193
第三章 繋がりゆく縁

3-13 お手伝いと作戦会議

しおりを挟む


 魔道具研究室を訪れた私たちは、待ってましたとばかりに、すぐさまアラザン室長に捕まった。

「……早速だけど、魔石の浄化を三パターン試したいんだ。実験室借りてるから、早く来て……」

 アラザン様はぼそぼそと早口で喋ると、風のような速さで部屋から出て、実験室の方へと向かった。

「相変わらずだな」

 苦笑するウィル様と共に、私は、とって返すように特別実験室へと足を運んだ。

「……まずやってほしいのは、魔石の魔力がなくなった時点で、浄化をぴったり止めること。魔石の状況を見ながらやってもらいたいし、危険がないことがわかったから、器具を通さずに直接浄化してもらってもいい……?」

「ええ、わかりました。――我が声は天の声、応じよ聖なる光」

 私は、目の前に置かれた魔石と向き合う。魔石は黒い靄に覆われていて、ぞわぞわと嫌な感じがした。
 一刻も早く、この不快な靄を浄化してしまいたい――そう思って、私はすぐに『浄化ピュリファイ』の魔法を唱え始める。

「――『浄化ピュリファイ』!」

 浄化の聖魔法が完成すると同時に、黒い靄が少しずつ晴れていく。
 払っても払っても、最初のうちは内側からどんどん靄が湧き出してきていたが、徐々に湧き出すスピードが遅くなり、ついに湧出ゆうしゅつが止まった。
 その時点で私も魔力を収め、そのまま様子見をする。やはり新しい靄が出てくる様子は、もうない。

「もう、靄が出てこなくなりました」

「……よし、じゃあ、これは完了だ。次も頼みたいんだけど、少し休む……?」

「いえ、大丈夫ですわ」

「……じゃあ、次は……」

 次の実験は、浄化を途中で止める実験だった。
 靄の湧き出すスピードが少し緩くなったあたりで、浄化の魔法を止める。
 アラザン様は手袋をはめて、魔石を慎重に箱の中に入れた。

 三番目の実験は、最初の実験と同じ時点で浄化をやめ、代わりに『治癒ヒール』の魔法を魔石に込めることだった。
 アラザン様は、白い聖魔法の輝きを帯びた魔石を、別の箱にしまう。

「……今日の実験は、これで終わり。……聖力の残量は、どう……?」

「そうですわね……少し疲れましたけれど、倒れるほどではありませんわ」

「……なるほど……ミア嬢の聖力量は、魔石三つ分より少し多い程度、と……。次にお願いするときの参考にするよ……」





 私たちは特別実験室の後片付けをして、魔道具研究室に戻った。

 アラザン様が測定をする様子をしばらく見学していると、研究室の扉がノックされる。
 扉を叩いたのは、来る際に廊下で挨拶を交わした魔法師団長だった。

「アラザン室長、話があるのだが、魔道具研究室の会議室を使ってもいいかな?」

「……ええ、もちろん構いませんよ……」

「二人は、研究室の外で待っていてくれ」

「しかし」

「おいおい、今、私は休憩時間だろう? プライベートに関わる話をするから、部外者に聞かれたくないんだ。暇なら飯にでも行ってきていいぞ」

「……承知いたしました」

 従者の二人は、部外者とはっきり言われて、苦虫を噛みつぶしたような顔をしたものの、渋々引き下がった。
 シュウ様は、研究室の扉を閉めると、片方の手を無造作に振るう。
 その瞬間、シュウ様を中心として柔らかな風が巻き起こり、透明な膜のようなものに覆われた感覚に陥る。

「よし、これで外からは読唇も盗聴もできないぞ。アラザン室長、会議室借りるよ。好きにしててもらって構わないが、室長と話してることになってるから、外には出ないでくれ」

「……わかりました……」

 アラザン様はぼそぼそと返答すると、さっさと測定機器に向き直った。

「それにしてもシュウさん、相変わらず、非常識な魔力量ですね。そんな無造作に魔力障壁を使うなんて……」

「はは、おだてても何も出ないぞ。ただ魔力を垂れ流して壁を作っただけで、魔法でも何でもないんだから。……それで、ウィリアム君と、銀髪美人のきみ。えっと――」

「ミアです。俺の婚約者です」

「ああ、きみ、ウィリアム君の婚約者だったのか? そりゃあ、ウィリアム君が護衛任務なんて珍しい仕事を請け負うわけだ。――じゃあ、二人とも、早速会議室へ」

「はい」

 私とウィル様は、シュウ様の後に続いて会議室へと向かう。
 会議室の扉を閉め、ウィル様がセキュリティ用の魔道具を作動させると、シュウ様から発せられている圧力がふっと消え去った。魔力障壁を解除したのだろう。

「それじゃあ、改めて。私はシュウ、魔法師団長だ。ウィリアム君が王立魔法学園に在学していた時、ものすごいレポートを提出したことは知っているかな? 彼とは、その頃からの付き合いなんだ。よろしく」

「ミア・ステラ・エヴァンズと申します。よろしくお願いいたします」

 私が改めて丁寧なカーテシーをすると、シュウ様は少し驚いたような顔をした。

「わあ、ミア嬢、本当に貴族なんだ。さっき、廊下でたどたどしい礼をしただろう? あれ、良かったぞ」

「えっ」

 私は思わぬ発言に、恥ずかしさで顔が熱くなった。

「あ、あの時は動揺してしまって……お恥ずかしい限りですわ」

「……シュウさん?」

 隣でウィル様が低い声を出し、シュウ様はびくっと肩を揺らした。

「ああ、違う違う、そんな怖い顔をするなよ。わざとじゃないと思うが、あのたどたどしい礼のおかげで、きみの素性を誤魔化せるって話さ。私の従者たちは、きみが貴族式の礼に慣れてないと思ったはず――つまり、もし万が一、聖女が研究に関わっていることが発覚しても、きみが貴族だなんて考えもせず、教会育ちの聖女だって思うんじゃないかな」

「……ああ、そういうことですか。確かに、そうかもしれませんね」

 ウィル様の声色が、あっという間に元通りに戻る。

「それで、話したかったのは、魔石の浄化に関する今後の情報開示についてだ。冒険者ギルドはひとまず置いておいて、王家には話を通さなければならないだろう」

「ええ、おっしゃる通りです。何かお考えが?」

「ああ。来月に王家主催の舞踏会があるだろう? その前に宰相と顔を合わせて、舞踏会の日に、宰相を通じて王家に話をしたいと考えている」

「舞踏会……」

 舞踏会と聞いて、一瞬、ウィル様の表情に陰がさした。
 だが、それもほんのひとときのこと。次の瞬間には、ウィル様は元通りの表情に戻っていた。

「シュウさんは、宰相とご縁があるのですか?」

「実は宰相のご令息と個人的に懇意にしていてね。彼は信頼できる人物だ。教会に不信感を持っているというところも、私たちと同じさ」

「なるほど……」

「それで、だ。私の魔法通信網は見張られているから、アラザン室長を通じてきみたちと連絡を取り合いたいと思っている。魔道具研究室に特別な発注を出すから、その納品日に合わせて、二人も魔道具研究室のメンバーと一緒に王城に出向いてもらいたいんだ。可能かな?」

「ええ。もちろんです」

「では、詳細はまた後ほど。時間を取らせてしまって、悪かったね」

「いえ、こちらこそ、お忙しいところをありがとうございました」

 シュウ様はそのまま会議室から出て行き、また魔力障壁を展開して、アラザン様に挨拶をした。
 壁の外なので会話は聞こえないし、見え方もゆがんでいるが、おそらく私たちと連絡を取るための算段を話しているのだろう。

 私たちは、シュウ様がアラザン様と話し終えて研究室から出て行くのを待ってから、アラザン様の測定を手伝いに行ったのだった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない

当麻月菜
恋愛
生まれた時から雪花の紋章を持つノアは、王族と結婚しなければいけない運命だった。 だがしかし、攫われるようにお城の一室で向き合った王太子は、ノアに向けてこう言った。 「はっ、誰がこんな醜女を妻にするか」 こっちだって、初対面でいきなり自分を醜女呼ばわりする男なんて願い下げだ!! ───ということで、この茶番は終わりにな……らなかった。 「ならば、私がこのお嬢さんと結婚したいです」 そう言ってノアを求めたのは、盲目の為に王位継承権を剥奪されたもう一人の王子様だった。 ただ、この王子の見た目の美しさと薄幸さと善人キャラに騙されてはいけない。 彼は相当な策士で、ノアに無自覚ながらぞっこん惚れていた。 一目惚れした少女を絶対に逃さないと決めた盲目王子と、キノコをこよなく愛する魔力ゼロ少女の恋の攻防戦。 ※但し、他人から見たら無自覚にイチャイチャしているだけ。

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。

みゅー
恋愛
異世界へ転生していると気づいたアザレアは、このままだと自分が死んでしまう運命だと知った。 同時にチート能力に目覚めたアザレアは、自身の死を回避するために奮闘していた。するとなぜか自分に興味なさそうだった王太子殿下に溺愛され、聖女をざまぁし、チート能力で世界を救うことになり、国民に愛される存在となっていた。 そんなお話です。 以前書いたものを大幅改稿したものです。 フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。 六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。 また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。 丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。 写真の花はリアトリスです。

処理中です...