120 / 193
第一章 魔法石研究所と新たな力
4-5 魔力相性
しおりを挟む朝の光が、瞼の裏を刺激する。
けれど、身体がすごくだるい……もう少しだけ、寝ていたい。
ごそごそと寝返りをうつと、なんだかいつもと違う香りがする。
――シトラスの香り。ウィル様の香りだ。
「ん……ウィル様……。ウィル様の香り……」
私は寝ぼけたまま、呟く。
「――おはよう、ミア」
「……ウィル様の、こ……え……?」
私の独り言に返事をする、澄んだ優しい声が聞こえてきて、私の頭は急に覚醒した。
慌てて目を開くと、私の寝ているベッドの前に長ソファーが置かれていて、そこにウィル様が騎士服のシャツのまま、襟元だけを緩めて、寝転がっていた。
「え……ウ、ウィル様? どうしてここに!?」
「どうしてって……ふわぁ……ここ、俺の部屋だし」
「え? えっ?」
あくびをしながら、少しかすれた甘い声で答えるウィル様は、そのままソファーに身を起こす。
私も起き上がってあたりを見回すと、確かにここは、私が借りている部屋ではなかった。
「ななな、なんで? あれ、昨日、私、どうしたんでしたっけ!?」
私は寝起きの頭をフル回転させる。馬車に乗って聖魔法を発動したところまでは覚えているが、その後どうやってオースティン伯爵家に帰ってきて、どうしてウィル様の部屋で寝ていたのか、全く思い出せない。
恐る恐る自分の身体を見ると、いつのまにか部屋着への着替えまで済んでいた。
「ふふ、心配しなくても、俺は何もしてないよ。身体を拭くのも、着替えも、きみの侍女シェリーがやってくれたから。馬車からここに運んだ時以外は、眠っているきみに、指一本触れていないよ」
「そ、そうなのですか?」
「うん。シェリーには怒られたけれどね。『貴方様がついていながら、どうしてこんなに無理をさせるんですか』って」
そう言ってウィル様はふふ、と笑う。ベッドの横の水差しに手を伸ばして、二つのグラスに、それぞれ果実水を注ぐと、私に一つ、手渡した。
「ありがとうございます」
「ああ」
私はベッドから出て、お礼を言ってグラスを受け取る。ウィル様は安心したように目を細めた。
「もう動けるみたいだね。良かった。……昨日は、ごめん。無理をさせてしまって」
「まあ、謝らないでください……私が、悪いのですから」
「ううん。注意していなかった俺も悪かった。ごめん」
「いえ、そんな……」
ウィル様は申し訳なさそうに眉を下げた。
「ミアは昨日、馬車であったこと、覚えてる?」
「ええ……『加護』の魔法がウィル様に定着しなくて、私、むきになってしまって……」
「定着?」
「はい。聖女様が、言っていたのです。『加護』の魔法は、ある程度聖力を注ぐと、ある一点で、それ以上注げなくなるのだと。そこで、カチッとはまるように相手の身体に固定され、定着すると言っていました。けれど、私、うまくウィル様に魔法を定着させることができなくて」
「ああ……そういうことか。それで倒れる前に、あんなに悲しそうな顔を……」
ウィル様は顎に手を当てて私の話を聞いていたが、眉を顰めて頷いた。
「……私、ウィル様と相性が良くないのかもしれません。そう思ったら悲しくて……それで、どうしても『加護』を完成させたくて、躍起になって」
「そっか……」
ウィル様は、ソファーから立ち上がると、私の頬に片手を伸ばして、親指で優しく撫でた。
「相性、ね。ふふ。ミアが俺との相性を心配していたなんて……本当に、なんていうか。ああ……もうだめだ、可愛い」
「ウ、ウィル様。魔法の相性ですからね?」
「もちろん、わかってるよ」
なんだかウィル様の表情と言葉尻に妖しげな響きを感じたが、魔力相性が悪いのは、冗談抜きで困る。
なんせ、これから二人で一緒に行動する時間も、身を守らなくてはならない場面も、増えていくのだから。
「……そう言って甘やかして下さるのは嬉しいですけれど、私にとっては、そんな場合ではないのです。だって……『加護』ができなければ、もしも魔族が現れても、ウィル様と一緒に戦えないもの」
「――大丈夫」
ウィル様は、私の額に、ちゅっと音を立ててキスをした。
「心配しなくても、ミアと俺の魔力相性なら、抜群にいいはずだよ。もう既に証明されてる」
「既に……? どういうことですか?」
「うん。ほら、これ。この魔法石が、証拠だよ」
ウィル様は漆黒の髪を耳にかけ、自らの耳を飾っているピアスを指し示した。
彼の瞳と同じ、新緑色の魔法石が、耳元で美しく輝き、揺れている。
「魔法石に二つ以上の魔法を込める仕組みについても、最近少しずつわかってきてね。一つの魔法石内で、二つの力が、反発せず長期間維持されている――これは、俺の魔力とミアの聖力の相性がいいという証拠に他ならない」
ウィル様の話によると、魔力相性の悪い相手が魔法を込めた魔法石には、魔力は蓄積されないか、短期間で霧散してしまうという。
彼が幼少期から肌身離さず持っていた『癒しの護符』にウィル様の魔力が蓄積されなかったのは、その魔力相性が原因だったようだ。
「それに、これも。――ほら、見て」
ウィル様が手のひらを上に向けると、きらきらと輝く光の粒が、手のひらに集まった。
「ミアの聖力だよ。いまだに俺の身体に、ミアの『加護』が保持されている。それに、あの見知らぬ聖女に加護をかけられた時と違って、俺の意思に呼応するように、不自由なく動いてくれるんだ」
ウィル様がもう片方の手のひらを上に向ける。
それと同時に、光の粒が出ていたほうの手のひらからは光が消え、もう片方の手のひらが輝きだした。
「私、『加護』に失敗したわけじゃなかった……?」
「うん。際限なく聖力が注がれてしまった理由は、誰かに聞いてみないとわからないけど……とにかく、ミアが心配していたようなことはないと思うよ」
「はあ……よかった……」
私は心底ホッとした。ふにゃりと頬が緩むのが、自分でもわかる。
「ふふ。本当に可愛い……昨夜の俺、一緒の部屋にいてよく我慢したな」
ウィル様は、緩めていた騎士服の襟を直しながら、苦笑する。
「ねえ、ミア。身体はまだだるい?」
「ええ……少しだけ」
「なら、今日は休む?」
「いいえ。出勤二日目からお休みするなんて、できませんわ」
「そう言うと思ったよ。でも、今日は大事をとって、聖力は使わずに過ごそう。情報の整理とか、資料作りとか、聖魔法の練習以外にもできることはたくさんあるから」
「ええ……そうします。ありがとうございます」
「じゃあ、せめてちょっと出勤を遅らせようか。シュウさんに連絡してくる。シェリーを呼ぶから、ここで待っててね……よっと」
ウィル様は、ベッドの横に移動していたソファーを持ち上げ、元あった場所に戻す。
重そうなソファーなのに、一人で軽々と運んでいて、細身に見えるけれどやはり鍛えているのだな、と私は再認識した。
そうして、ウィル様は私に甘い笑顔を残すと、颯爽と部屋を出て行った。
今更だけれど、ずっと部屋の扉が細く開いたままになっていたことに気づき、ウィル様が私を本当に大切にしてくれていることを実感する。
「あ……そういえば、加護の解除、してない」
私がそのことに気づいたのは、ウィル様が出て行ってしばらく経ち、シェリーが部屋に入ってきた時だった。
21
あなたにおすすめの小説
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない
当麻月菜
恋愛
生まれた時から雪花の紋章を持つノアは、王族と結婚しなければいけない運命だった。
だがしかし、攫われるようにお城の一室で向き合った王太子は、ノアに向けてこう言った。
「はっ、誰がこんな醜女を妻にするか」
こっちだって、初対面でいきなり自分を醜女呼ばわりする男なんて願い下げだ!!
───ということで、この茶番は終わりにな……らなかった。
「ならば、私がこのお嬢さんと結婚したいです」
そう言ってノアを求めたのは、盲目の為に王位継承権を剥奪されたもう一人の王子様だった。
ただ、この王子の見た目の美しさと薄幸さと善人キャラに騙されてはいけない。
彼は相当な策士で、ノアに無自覚ながらぞっこん惚れていた。
一目惚れした少女を絶対に逃さないと決めた盲目王子と、キノコをこよなく愛する魔力ゼロ少女の恋の攻防戦。
※但し、他人から見たら無自覚にイチャイチャしているだけ。
捨てられた王妃は情熱王子に攫われて
きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。
貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?
猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。
疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り――
ざまあ系の物語です。
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────
私、この子と生きていきますっ!!
シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。
幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。
みゅー
恋愛
異世界へ転生していると気づいたアザレアは、このままだと自分が死んでしまう運命だと知った。
同時にチート能力に目覚めたアザレアは、自身の死を回避するために奮闘していた。するとなぜか自分に興味なさそうだった王太子殿下に溺愛され、聖女をざまぁし、チート能力で世界を救うことになり、国民に愛される存在となっていた。
そんなお話です。
以前書いたものを大幅改稿したものです。
フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。
六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。
また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。
丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。
写真の花はリアトリスです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる