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第六章 魔女との邂逅
4-37 当初の目的は
しおりを挟む魔女の秘密について、粗方明らかになったところで、魔女はポンと明るく手を叩いた。
「さて。詳しい話は明日と思っていたのじゃが、ついつい話し込んでしまったのう。とにかく、今日はもう休むと良いぞ。では、おやすみじゃ」
「ああ。かたじけない。おやすみ」
「おやすみなさい」
魔女は自らの分のカップだけを持ち、部屋から出て行った。
窓の外はすっかり暗くなっている。
時間が止まっているからか、魔女は食事も取らないようだ。
私たちは持ってきていた携帯食料を食べると、素直に休むことにした。
ちなみに、ベッドは私――最初は断っていたのだが、聖力を回復させる必要があるからと押し切られてしまった――、ソファはシナモン様が使い、ウィル様とクロム様は、部屋に備え付けられていた衝立の向こう側で、雑魚寝をすることに。ブランは私と一緒にベッドの上だ。
落ち着かない環境だから眠れないかと思いきや、皆相当疲れていたらしく、それぞれしっかり眠ったのだった。
*
翌朝。
私が目を覚ますと、部屋には気持ちよさそうに寝息を立てているブランの姿しかなかった。
私はブランを起こさないようにベッドから出て、手早く身支度を済ませる。
しばらくして、最初に部屋に戻ってきたのは、ウィル様だった。手には、トレーを持っている。
昨晩の紅茶のカップを洗って、新しい水を入れてきたようだ。
「ああ、ミア、起きていたんだね。おはよう」
「おはようございます。あの……皆さんは?」
「シナモンは、外で鍛錬をしているよ。クロム殿は、魔女殿と話をしている。リリー嬢のことを、詳しく聞きたかったみたいだな」
ウィル様はソファーに座ると、水の入ったカップを私に手渡してくれた。
「ありがとうございます」
カップを両手で受け取り、水で口の中を潤す。よく冷えていて、美味しい。
私は、気になっていたことを尋ねた。
「あの……やはり、リリー様とクロム様は」
「ああ。親子だよ。母親は、隣国の王族……例の内紛で、家族間を引き裂かれてしまったようだ」
予想はしていたが、やはりクロム様は、リリー・ガードナー嬢とヒースの父親だったようだ。
内紛によって隣国からこの国へ流れてきたクロム様は、私の生みの母であるステラ様付きの神殿騎士となった。なんだか、不思議な縁を感じる。
「クロム殿が俺たちに同行してくれたのは、ステラ様とジュード殿の情報を得るためだけじゃない……リリー嬢のことを魔女に問いただすためでもあったんだ」
「そうだったのですね」
「それで……ミア。この後のことだけれど」
ウィル様は、一層真剣な表情になる。
「魔王の呪いについて……試してみたいことがある」
「試してみたいこと、ですか?」
「ああ。ミアの『解呪』と、俺に宿っている『加護』の力を重ねがけして、呪いにぶつけてみたらどうかと思って」
「なるほど……同時に使用することで、より強い浄化の力を、ということですわね」
「うん」
しかし、魔女にかけられていた呪いは、本当に強いものだった。
ウィル様に宿っている加護の力も、元はというと私の聖力。
重ねがけしたところで、魔王の呪いに対抗できるほどの威力が出せるかどうかは、疑問である。
けれど、試してみるだけなら、デメリットは何もない。これで何かの糸口が掴めたら、御の字である。
「やってみましょう。あ……それと、もうひとつ。あれも同時に使ってみませんか?」
「あれ?」
「ええ、あれです。私たちが用意してきた、魔法石」
他の聖女の力が込められた魔法石。
それも併用することで、より浄化の力が増すかもしれない。
昨日の風属性の魔法石のように、魔女に聖魔法の力を取り込んでもらって、内からも外からも呪いに対抗するのだ。
「うん、そうだね。やってみよう」
私たちはクロム様と魔女の会話が終わるのを待って、解呪を試してみることにしたのだった。
*
そうして、聖魔法と加護、魔法石を組み合わせて解呪に挑んでみた結果。
「……解けないのう」
「……ええ。綻びぐらい出るかと期待したのですが」
「俺には呪いが見えないからわからないのだけど……全く駄目?」
ウィル様の問いかけに、私と魔女は、同時に重々しく頷く。
「大聖女にも解けなかった呪いじゃからな。まあ……じゃが、そちが一人で『解呪』をするよりも、高効果じゃったとは思うぞ」
「それは『加護』の力でですか? それとも魔法石の効果で?」
「両方じゃ。もっと聖魔法の精度を高めて、加護も限界まで込めて、この石もたくさん集めれば、ほんの少しは削れる可能性があるかもしれぬのう」
「……長い道のりだ。もう時間がないっていうのに」
ウィル様は重いため息を吐く。私は、それを聞いて、ハッとした。
そういえば、そもそも魔女に会いに来たのは、ウィル様の払う予定の『代償』を軽減するためだったのだ。
なのに、魔王の呪いの件ばかり気にしていて、まだ尋ねていなかった。本末転倒である。
「あの、魔女様。ウィル様の『代償』は、やはり、払わなくてはならないのですか? 期間を延ばすことは……」
「無理じゃな」
少しぐらい手心を加えてくれると思ったのに、魔女は、予想に反してそう断言した。
私が協力することで、期間延長はおろか、支払う対価を減らせるとさえ思ったのだが。
「……ああ、すまぬ。わらわの言葉が足らなかったな。期間を延ばせないと言ったのは、魔力に限っての話じゃ」
私が驚きと不安を露わにしたからだろう、魔女はそう前置きをして、詳しく説明をしてくれた。
「――時の輪を開くには、遡る前と、時の輪が一周したときの二回、魔力が必要になる。時の輪を開くときの魔力は、『前回』のその男から貰い受けた。じゃが、時の輪が一周したときにも魔力を貰わねば、その輪を閉じることができないのじゃ。また同じ時を繰り返してしまうことになる……記憶の引き継ぎも、今度はできるかどうかわからぬ。前例がないからの」
魔法に詳しくない私にはよくわからないが、ウィル様は、もうすっかり納得しているらしい。
特に驚く様子も悲しむ様子もなく、ただ頷いている。
「じゃが、聖核を持つそちのおかげで、聖力は充分手に入るじゃろ? じゃから、その男からは聖力を取らぬよ。延命についても……まあ、まだ猶予はあるからの。そちからは、生命も貰わずにおこう」
「いいのですか?」
「ああ、構わぬ。『前回』のそちと違って、今のそちに死を望む気持ちは皆無のようじゃからな」
「……確かに、そうですね」
ウィル様は、自嘲的な笑みを浮かべる。
「死を望む気持ち……?」
私が呟くと、ウィル様は申し訳なさそうに肩をすくめた。
実際、満身創痍になっても、『前回』の彼は魔女の館にたどり着いて願い事をしたのだ。
自らそれを望む気持ちが、その時のウィル様には、少なからずあったのだろう。
「わらわとて、死を望んでいない者から生命を吸うことなどしたくないのじゃ。これまでも、そうしてきた」
「願いを叶えるために魔女様の元を訪れて……なのに、死を望むのですか?」
「ああ。ほとんどの者が、そうじゃったよ。決死の覚悟で……とは聞こえが良いが、要は自暴自棄じゃ。奴らは、他の者の安寧を願いはするが、正直、自分がいなくなった後のことは考えておらん。じゃから捨て身でここまで来るのじゃ」
「……思い当たりすぎて胸が痛いな」
ウィル様は苦笑した。
彼が、今はそう思っていないことは、私にもよくわかっている。
「まあ、それはさておき。つまり……当初の目的は達成、ということだね」
「そう、ですわね。ですが――」
「――ああ、わかってるよ」
私の意図を汲み、ウィル様はしかと頷く。
「魔王の呪いを、そのまま放っておくわけにはいかないよね」
「ええ」
私たちが頷き合うのを見て、魔女は目を丸くしたのだった。
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