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第四章 貴方の隣に相応しくなりたい!
35、何と言われようが、父は私の誇りです
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「リグレット王国の第二王女セシリア・リグレットと申します。この度はご婚約おめでとうございます」
お、王女様?!
人間だった頃には一度も見た事がない王女様をここで拝見できるとは、夢にも思わなかった。
だけどお祝いの言葉を口にしながら、セシリア様の瞳は全く笑っていないように見えた。もしかしなくても私、嫌われてるよね。
「初めまして、セシリア様。アリシアと申します」
「あら、アリシア様! 家名はございませんの?!」
そう言ってセシリア様は、大袈裟に驚かれた。
「私は平民ですので」
「そうでしたの?! とてもそのようにお見受けしなかったもので、気を悪くさせてしまったのならごめんなさいね」
「いえ、大丈夫です」
「それでしたら高貴なフォルネウス様とお話が合わずに、苦労されているのではありませんか?」
心配した様子で尋ねてこられたけれど、扇子で隠された口元は多分嘲笑っている。そんな声色だった。
「いえ、そのような事はございませんよ。フォルネウス様はいつもお優しく、豊富な話題をお持ちですので」
「ふーん。そうですの。所でお父様は何をしておいでですの?」
尋問されているような気分になった。けれど、王女様に失礼があってはならない。冷静に言葉を選んで返した。
「父は王国騎士団に所属しておりました。ジークリンドという騎士を、セシリア様はご存知ですか?」
「まぁ! ジークの娘さんだったのね。幼い頃、ジークリンドは私の護衛騎士をしてくれていたのですよ。本当に冴えない騎士で、王女である私の護衛を放棄して、目の前で馬車に轢かれそうなゴミ同然の汚ならしい子供を勝手に助けに行って無駄死にした、あの役立たず騎士の娘さんでしたのね」
無駄死にした役立たずの騎士?!
大切な父を馬鹿にされ、腸が煮えくりかえりそうだった。
けれど我慢、我慢しなければならない。
折角のフォルネウス様の誕生日パーティーで、リグレット王国の王女と争うわけにはいかない。必死に堪えていると、突然セシリア様が悲鳴をあげた。
「キャーッ! 誰よ、私にこんなものかけたのは!」
白ワインの芳醇な香りが鼻先を掠める。
顔を上げると後ろから現れたフォルネウス様が、セシリア様の頭にワイングラスを傾けていた。
「これは失礼。醜く汚れていらしたので、洗い流してさしあげただけですよ」
「な、何ですって!」
「殉職した騎士の名誉を汚すのは、いくら王女様とは言え、言葉が過ぎるのではありませんか?」
「私は本当のことを教えてさしあげただけですわ。何の勲章も授からずに死んだ騎士など、ただの役立たずでしょう」
私の事を馬鹿にするのはまだ許せる。私はまだ未熟だし、立派でもないから。でも大切な家族を悪く言われる事だけは、どうしても許せない! お父さんは、本当に騎士の鑑のような方だった!
『遠慮する事はない、アリシア。ここはハイグランド帝国。愛を重んじる国だ。愛する家族を守るためなら売られた喧嘩は買う流儀だ。この場は俺が責任を持つから、言いたいことを言ってやるといい』
ポータブルコールでフォルネウス様がそう話しかけてこられた。前を見ると私の視線に気付いたフォルネウス様は、後押しするように頷いて下さった。
「父は確かに、何の戦果も上げられなかったかもしれません。ですが困っている人には率先して手を差しのべ、有事の際に一人でも多くの人々を守れるようにと、毎日欠かすことなく鍛練を積んでおりました。そんな父は今も私の誇りであり、憧れです!」
「な、なによ! 役立たずが誇りだなんて、バカみたい。たかだか平民風情が皇族に嫁ぐだなんて、身のほどを知りなさい。私の方がフォルネウス様の隣に相応しいに決まってるじゃない!」
セシリア様はそう言って、ふんと鼻をならした。ここがリグレット王国ならば、その言葉に反論など出来なかっただろう。もし反論でもしようものなら、不敬罪で私は捕まり処刑されていてもおかしくない。
けれどここはハイグランド帝国。優しい吸血鬼達の住まう国だ。ここでそんな元自国の王女様に、自国の品位を貶めるような発言はして欲しくなかった。
「フォルネウス様は、臣下を労り、民を大切にされるお方です。貴方のように人を貶める発言しか出来ない方が、市民をゴミ同然のようにしか思っていない方が、フォルネウス様の隣に相応しいわけがありません!」
こちらに歩いてこられたフォルネウス様は、私の腰を抱いて口を開いた。
「流石はアリシア、私の事をよく分かってくれているね。君のような素敵な女性が隣に居てくれる事は、私の誇りだよ」
セシリア様が悔しそうにこちらを睨んでいる。
「フォルネウス様はどうして、そんな役立たずの娘を婚約者などにされたのですか?!」
「それは勿論、アリシアを心から愛しているからに決まっているでしょう。彼女の崇高な考えも美しい心も可憐な容姿も、全てが愛おしくてたまりません。私はそんな愛しいアリシアを傷付ける害虫が大嫌いでして、視界に入れるのも目障りなので即刻お帰り頂けますか」
「なっ!」
「ご安心ください、リグレット王にはきちんと事の顛末を報告しておきますので。無礼なそちらの娘さんが、私の大切な婚約者を傷付けたので早目にお帰り頂いたと」
「私はリグレット王国の王女なのよ! 両国で真の和平を結ぶのに、これ以上もない地位を持ってるわ」
「生憎ここは、ハイグランド帝国です。我が国では愛のある結婚しか認めておりません。いくら和平のためといえど、貴方のような心も見た目も汚い方とご一緒になるなど、天と地がひっくり返ってもありえませんよ」
「お、覚えてなさい! 私にこのような恥をかかせたこと、絶対後悔させてやりますからね!」
びしっと扇子の先をこちらに向けてそう言いきったセシリア様は、踵を返して歩き出す。
「お待ちください、セシリア様」
「なによ!」
怒った様子で振り向かれたセシリア様に、私は回帰魔法をかける。
「リバース」
白ワインを被る前の状態まで、セシリア様の状態を戻す。
「そのままで風邪を引かれるといけませんので」
この時期の外は寒い。濡れたまま帰られて体調を崩されると大変だわ。
「え、うそ! ワインが消えた?!」
「アリシア、このような者にまで慈悲をかけるとは。やはり君は、とても美しい奇跡の聖女だね」
私の隣でフォルネウス様は嬉しそうに微笑んでおられて、何故か会場から歓声がわき起こった。
「見たか? 今の魔法?!」
「あれが伝説の回帰魔法か!」
「アリシア様、万歳!」
「奇跡の聖女様、万歳!」
この一件以来、ハイグランド帝国で私の存在が、『奇跡の聖女』としてすっかり定着してしまったのだった。
お、王女様?!
人間だった頃には一度も見た事がない王女様をここで拝見できるとは、夢にも思わなかった。
だけどお祝いの言葉を口にしながら、セシリア様の瞳は全く笑っていないように見えた。もしかしなくても私、嫌われてるよね。
「初めまして、セシリア様。アリシアと申します」
「あら、アリシア様! 家名はございませんの?!」
そう言ってセシリア様は、大袈裟に驚かれた。
「私は平民ですので」
「そうでしたの?! とてもそのようにお見受けしなかったもので、気を悪くさせてしまったのならごめんなさいね」
「いえ、大丈夫です」
「それでしたら高貴なフォルネウス様とお話が合わずに、苦労されているのではありませんか?」
心配した様子で尋ねてこられたけれど、扇子で隠された口元は多分嘲笑っている。そんな声色だった。
「いえ、そのような事はございませんよ。フォルネウス様はいつもお優しく、豊富な話題をお持ちですので」
「ふーん。そうですの。所でお父様は何をしておいでですの?」
尋問されているような気分になった。けれど、王女様に失礼があってはならない。冷静に言葉を選んで返した。
「父は王国騎士団に所属しておりました。ジークリンドという騎士を、セシリア様はご存知ですか?」
「まぁ! ジークの娘さんだったのね。幼い頃、ジークリンドは私の護衛騎士をしてくれていたのですよ。本当に冴えない騎士で、王女である私の護衛を放棄して、目の前で馬車に轢かれそうなゴミ同然の汚ならしい子供を勝手に助けに行って無駄死にした、あの役立たず騎士の娘さんでしたのね」
無駄死にした役立たずの騎士?!
大切な父を馬鹿にされ、腸が煮えくりかえりそうだった。
けれど我慢、我慢しなければならない。
折角のフォルネウス様の誕生日パーティーで、リグレット王国の王女と争うわけにはいかない。必死に堪えていると、突然セシリア様が悲鳴をあげた。
「キャーッ! 誰よ、私にこんなものかけたのは!」
白ワインの芳醇な香りが鼻先を掠める。
顔を上げると後ろから現れたフォルネウス様が、セシリア様の頭にワイングラスを傾けていた。
「これは失礼。醜く汚れていらしたので、洗い流してさしあげただけですよ」
「な、何ですって!」
「殉職した騎士の名誉を汚すのは、いくら王女様とは言え、言葉が過ぎるのではありませんか?」
「私は本当のことを教えてさしあげただけですわ。何の勲章も授からずに死んだ騎士など、ただの役立たずでしょう」
私の事を馬鹿にするのはまだ許せる。私はまだ未熟だし、立派でもないから。でも大切な家族を悪く言われる事だけは、どうしても許せない! お父さんは、本当に騎士の鑑のような方だった!
『遠慮する事はない、アリシア。ここはハイグランド帝国。愛を重んじる国だ。愛する家族を守るためなら売られた喧嘩は買う流儀だ。この場は俺が責任を持つから、言いたいことを言ってやるといい』
ポータブルコールでフォルネウス様がそう話しかけてこられた。前を見ると私の視線に気付いたフォルネウス様は、後押しするように頷いて下さった。
「父は確かに、何の戦果も上げられなかったかもしれません。ですが困っている人には率先して手を差しのべ、有事の際に一人でも多くの人々を守れるようにと、毎日欠かすことなく鍛練を積んでおりました。そんな父は今も私の誇りであり、憧れです!」
「な、なによ! 役立たずが誇りだなんて、バカみたい。たかだか平民風情が皇族に嫁ぐだなんて、身のほどを知りなさい。私の方がフォルネウス様の隣に相応しいに決まってるじゃない!」
セシリア様はそう言って、ふんと鼻をならした。ここがリグレット王国ならば、その言葉に反論など出来なかっただろう。もし反論でもしようものなら、不敬罪で私は捕まり処刑されていてもおかしくない。
けれどここはハイグランド帝国。優しい吸血鬼達の住まう国だ。ここでそんな元自国の王女様に、自国の品位を貶めるような発言はして欲しくなかった。
「フォルネウス様は、臣下を労り、民を大切にされるお方です。貴方のように人を貶める発言しか出来ない方が、市民をゴミ同然のようにしか思っていない方が、フォルネウス様の隣に相応しいわけがありません!」
こちらに歩いてこられたフォルネウス様は、私の腰を抱いて口を開いた。
「流石はアリシア、私の事をよく分かってくれているね。君のような素敵な女性が隣に居てくれる事は、私の誇りだよ」
セシリア様が悔しそうにこちらを睨んでいる。
「フォルネウス様はどうして、そんな役立たずの娘を婚約者などにされたのですか?!」
「それは勿論、アリシアを心から愛しているからに決まっているでしょう。彼女の崇高な考えも美しい心も可憐な容姿も、全てが愛おしくてたまりません。私はそんな愛しいアリシアを傷付ける害虫が大嫌いでして、視界に入れるのも目障りなので即刻お帰り頂けますか」
「なっ!」
「ご安心ください、リグレット王にはきちんと事の顛末を報告しておきますので。無礼なそちらの娘さんが、私の大切な婚約者を傷付けたので早目にお帰り頂いたと」
「私はリグレット王国の王女なのよ! 両国で真の和平を結ぶのに、これ以上もない地位を持ってるわ」
「生憎ここは、ハイグランド帝国です。我が国では愛のある結婚しか認めておりません。いくら和平のためといえど、貴方のような心も見た目も汚い方とご一緒になるなど、天と地がひっくり返ってもありえませんよ」
「お、覚えてなさい! 私にこのような恥をかかせたこと、絶対後悔させてやりますからね!」
びしっと扇子の先をこちらに向けてそう言いきったセシリア様は、踵を返して歩き出す。
「お待ちください、セシリア様」
「なによ!」
怒った様子で振り向かれたセシリア様に、私は回帰魔法をかける。
「リバース」
白ワインを被る前の状態まで、セシリア様の状態を戻す。
「そのままで風邪を引かれるといけませんので」
この時期の外は寒い。濡れたまま帰られて体調を崩されると大変だわ。
「え、うそ! ワインが消えた?!」
「アリシア、このような者にまで慈悲をかけるとは。やはり君は、とても美しい奇跡の聖女だね」
私の隣でフォルネウス様は嬉しそうに微笑んでおられて、何故か会場から歓声がわき起こった。
「見たか? 今の魔法?!」
「あれが伝説の回帰魔法か!」
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