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『あなたならどう生きますか?~両想いを確認した直後に「余命半年」の宣告を受けました~』
1-41「万引き兄妹と子ども食堂」
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「万引き兄妹とこども食堂」
稀世が初めて迎える門真での秋、十月一日を迎えた。先月の「バイク泥棒阻止事件」と「エアコン修理詐欺事件」は商店街の中で噂となり、稀世は一躍ニコニコ商店街の人気者になった。元々、大柄な身体に愛嬌のある顔立ちは、レスラー時代からファンからの人気は非常に高いものがあったが、今は、老若男女から、街を歩けば、「稀世ちゃん、一休みしていかない?」、「稀世ちゃん、飴ちゃんあげよ。」、「稀世ちゃん、今日も元気やね。」とみんなが声をかけてくれるのが、心地よかった。
「万引きや、捕まえて!」と小さいスーパーマーケットを営んでいる宮崎勇が、小学生低学年くらいの男の子を追いかけてる。稀世が気づき、男の子をひょいと捕まえた。男の子は足をバタバタと稀世に蹴りを入れるが、蚊に刺されたほども感じない。男の子は、派手に暴れまくるが、両手に抱えたふたつのお弁当と右手にぎゅっと掴んだものは離さない。宮崎が息を切らせて、追いついた。
「また、お前か。何回目やねん、いったい。ええ加減にせえよ。」
と大きい声を上げる。すると、幼稚園前くらいの小さな女の子がひょこッと現れ、
「お兄ちゃん、何して遊んでんの?この大きいお姉ちゃん誰?」
と男の子に話しかける。稀世は、この場で騒動を起こすのは良くないと思い、少し先にある「お好み焼きがんちゃん」に宮崎と子供ふたりを連れて入った。
「ごめん、さとみさん、がんちゃん、訳有りでちょっと店貸してね。」
と暖簾をくぐった。
男の子は、奥村武雄、小学三年生で八歳。女の子は凛、三歳との事で、近くの市営住宅の子で、過去にも何度か宮崎の店で万引きをしているという。盗んだものはハンバーグ弁当ふたつにプリキュアのラムネ菓子ひとつだった。凛がプリキュアのラムネをじっと見つめ続けるので、稀世は、宮崎にラムネ代を払い、弁当は返した。「店の事があるので」と宮崎は、弁当ふたつを持って中座した。凛のお腹が「ぐーっ」っと鳴った。続いて武雄のお腹も鳴った。
「お腹すいてんの?」
稀世がふたりに優しく聞いた。凛はすかさず首を縦に振ったが、武雄は黙っている。
「さとみさん、焼きそば二人前、焼いてもらえるかな。」
稀世が言った。カウンターの調理台から、ソースの焼けるいい香りが漂ってきた。まもなく、二皿の焼きそばが出てきた。
「どうぞ、召し上がれ。暖かいうちに食べや。」
稀世は、ふたりに割り箸を渡した。うまく割り箸を割れない、凛の箸を取り、武雄が割ってやって、凜に渡した。凛は、「いただきます。お姉ちゃんありがとう。」と言うと、握り箸で焼きそばをかき込むように食べた。武雄は箸を前に置きじっと黙ってる。
「武雄君も食べてええねんで。これはお姉ちゃんからのおごりやから、遠慮せんとって。」
というと、武雄は涙をぽろぽろこぼしながら、
「おねえちゃん、ありがとうございます。いただきます。」
と両手を合わせて食べ始めた。
「稀世ちゃん、この子らなんなん?」
さとみが不思議そうな顔をして聞いた。
焼きそばを食べ終わった武雄が稀世に話し始めた。凛は、さとみがカウンター席に連れて行き、ジュースを飲ませている。
「お姉ちゃん、ごちそうさまでした。ありがとうございました。それと、ラムネありがとうございました。今日、凜の誕生日やったから、凜の好きなプリキュア買ってやりたかったんですけど、お金なかったんで。ごめんなさい。」
丁寧な言葉づかいで、やぐされた感じは無い。事情を聴くと、元々は、駅近の市営住宅で家族四人で暮らしていたが、春に母親が家を出ていき、父は荒れ、会社にも行かず、家で酒を飲んでいるか、パチンコに行っているという。武雄と凜は昨日から何も食べていなかったとの事だった。市役所の福祉相談員が何度か家に来たのだが、父親が酒瓶を投げつけ追い返してしまってからは来なくなったという。
「おう、徹三、食べに来ったぞ。イカ玉焼いてくれ、あとビールの小瓶な。」
と直が入ってきた。
「あれ、稀世ちゃんやないか。何やこの子は?」
「うーん、いわゆる育児放棄、ネグレストゆうやつやなぁ。わしが親に文句言いに行ったってもええねんけど、嫁に逃げられてしまって、酒とパチンコに溺れてるやつに何言うてもなぁ。稀世ちゃんも、深入りしなや。」
「おばちゃん、あんまりお父ちゃんの事、悪く言わんとったって下さい。ほんまは、ええお父ちゃんなんです。」
「ほんま、武雄君は優しいねんな。でも、万引きは、この先、絶対にやめような。お店の人かて、困ってしまうからな。今度、お腹すいたら、お姉ちゃん、この先の向日葵寿司っていうとこに居るから、凜ちゃんと一緒においで。」
「向日葵寿司、知ってます。まだ、お母ちゃんおったときは、僕の誕生日はいつも向日葵寿司でしたから。僕の三歳の誕生日の時は、お父さんが、向日葵寿司で美味しいお寿司買って来てくれて、プレゼントにポケモンのゲーム買ってくれたりしたんです。けど、凜はお寿司もプレゼントも無しやったから、余りに可哀そうやからつい…。」
「えっ、武雄君、誕生日っていつ?」
「9月3日です。先月で八歳になったとこです。」
(えっ、私と一緒や。三歳の誕生日ってことは五年前。お父ちゃんがパチンコ好き。さらに、ポケモンのゲーム?お寿司の持ち帰り?それって。)稀世の頭の中に、門真大会の日、初めて三朗の家で一晩過ごした時の会話が頭の中をよぎった。(こりゃ、ほっとけへんわ。何とかしたらな。)
武雄と凛を見送り、店へ戻った。直もついてきた。稀世は、三朗に今日あったことを話した。
「あー、奥村さんか。最近、来えへん思てたら、家、そないなってたんですか。そりゃ、寿司どころやないですね。親の育児放棄でろくにご飯食べられてない子供が結構おって社会問題になってるって、この間テレビでやってましたねぇ。」
「私も見たわ。こども食堂とか、ボランティアが百円とか無料で、家で食事とられへん子供らに食事出したりしてるけど、市や府から援助があるわけやないから、どことも大変やって言うてたな。」
「そうやろな、まともなもん出してあげよと思たら、最低二百円は、原価が掛かりますからねぇ。それが、十人、二十人となって、週に何日もってなったら、ボランティアではきついですね。」
三人で頭を突き合わせて、悩んでいると、引き戸が開いた。
「こんにちわー。稀世姉さん、三朗さん、ちょっとのお久でーす。近く来たんで遊びに来ました。」
夏子と陽菜だった。
「ん?三人で何難しい顔してはるんですか?」
稀世が事の経緯を夏子と陽菜に説明した。
「なんや、そんなことですか。お金出してくれる人見つけたら、ええんでしょ。楽勝やないですか。」
夏子と陽菜はあたかも簡単な事のように言った。三人は、(そんなうまい話あるんかいな?夏子と陽菜の言うことやからなぁ。大丈夫か?)と正直思った。
それから、一週間。ニコニコ商店街の飲食店で持ち回り制の「こども食堂」が始まった。子供の食事の経済負担は全くのゼロ。食事の原材料の費用は、全額寄付で賄う仕組みができ、飲食店の経済的負担もゼロである。
事の顛末は、夏子が知り合いのテレビ番組制作会社に、「変わったこども食堂の企画があるんで、朝のワイドショー系の番組や夕方の大阪ローカルの番組で取り上げてみてくれへんか。」と投げたことがスタートだった。商店街の五つの飲食店が、日替わりで月曜日から金曜日までの午後五時から六時半まで、諸事情で食事がとれない十五歳までの子供たちに食事を無料で提供する。子供たちは、街の掃除や、単身独居の高齢者等にお弁当を届けたりといったようなお手伝いをする。それは、三歳児でも十五歳でも、必ず何か手伝いをすることをルールとして決めている。
商店街内のスーパーが、消費期限が近付いた商品を安価で提供し、フードロス対策にもなり、貧困世帯の子供による万引き被害も減少して一石二鳥だと、スーパーオーナーの宮崎がインタビューに答えていた。稀世も、「元女子レスラーの寿司屋の若女将」ということで取り上げられ、クラウドファンディングの協力を呼び掛けた。楽しんで食事をとる子供たちのシーンや喜ぶ子供たちのインタビューがいくつかの番組で流された。
それを、夏子や陽菜たちが、SNSで拡散した。やや、仕込み的なところもあったが、子供政策を打ち出す、市会議員や府会議員のSNSでリンクさせたところ、さらに広まり、番組放送から三日間で、一ケ月の運営費の目標金額を超えた。農協も地元食材のPRになると、食材提供に協力してくれることになり、ロータリークラブやライオンズクラブも協賛してくれることになった。
予算的に余裕ができたので、こども食堂に加え、「市民サロン」として、高齢者世帯や単身独居の老人にもそのサービスは広がった。子供たちが、高齢者を訪問しての見守りと配食サービスを行った。中学生は、車いすでサロンまでの送迎などを行い、引きこもりがちな老人たちのコミュニケーションの場を広め、地域コミュニティの活性化にも効果があると、国営放送や、有名タレントが司会を務める報道番組でも取り上げられ、ますます、寄付とボランティアの輪が広がった。
ある日、武雄と凛が配達に行った単身独居の老人宅で、サービスの利用者が家の中で倒れているのを凜が見つけ、武雄が大急ぎで稀世を呼びに来て、九死に一生を得た話があった。一番最初にこども食堂を取り上げてくれた夕方の関西ローカル番組が再び取材に来て、放送となった。
エリア周辺の大手スーパーや業務用のスーパーも商品の提供に協力し、食品メーカーは自社HPの広告記事用に、新商品を提供し、喜ぶ利用者の顔を掲載した。議員も選挙対策用なのか、わいろ扱いにならない範囲で、若干の寄付をしてくれた。
商店街の役員、メンバーたちが予想していた、十倍、いや百倍の効果を上げ、ニコニコ商店街のこども食堂と高齢者向けの市民サロン、配食サービスは、十二分に機能する体制が出来上がった。
商店街の会合で、夏子と陽菜が呼ばれ、サービス利用者も含めた感謝会が開かれた。夏子と陽菜は鼻高々だった。今回ばかりは、直も稀世も三郎もふたりを純粋に褒めた。直が言った。
「今回は、大人の都合で、不自由のあおりを食らってた子供たちが、大人の事情で助けられたちゅう事かのう。議員や業者の好意は一部気に入らんものもあるが、まあ「偽善も善のうち」じゃな。結果オーライやのう。」
稀世と三朗は同意し、頷いた。
日曜日の昼、奥村が武雄と凛を連れて、向日葵寿司を訪れた。武雄から、事情は聴いているようであった。
「武雄と凜がお世話になりました。酒とパチンコは控え、普通に客として来させてもらいました。」
と稀世に頭を下げた。稀世は、笑顔で答えた。
「いえいえ、お酒はともかく、無理にパチンコやめんでええですよ。お父さんのパチンコで幸せになった人もいるんですから。今回の事は、恩返しのひとつやから、気にせんとってくださいね。」
武雄と凜の父親は不思議な顔をしていた。今日も、ニコニコ商店街には、子供から老人まで、みんなの笑顔が溢れていた。
稀世が初めて迎える門真での秋、十月一日を迎えた。先月の「バイク泥棒阻止事件」と「エアコン修理詐欺事件」は商店街の中で噂となり、稀世は一躍ニコニコ商店街の人気者になった。元々、大柄な身体に愛嬌のある顔立ちは、レスラー時代からファンからの人気は非常に高いものがあったが、今は、老若男女から、街を歩けば、「稀世ちゃん、一休みしていかない?」、「稀世ちゃん、飴ちゃんあげよ。」、「稀世ちゃん、今日も元気やね。」とみんなが声をかけてくれるのが、心地よかった。
「万引きや、捕まえて!」と小さいスーパーマーケットを営んでいる宮崎勇が、小学生低学年くらいの男の子を追いかけてる。稀世が気づき、男の子をひょいと捕まえた。男の子は足をバタバタと稀世に蹴りを入れるが、蚊に刺されたほども感じない。男の子は、派手に暴れまくるが、両手に抱えたふたつのお弁当と右手にぎゅっと掴んだものは離さない。宮崎が息を切らせて、追いついた。
「また、お前か。何回目やねん、いったい。ええ加減にせえよ。」
と大きい声を上げる。すると、幼稚園前くらいの小さな女の子がひょこッと現れ、
「お兄ちゃん、何して遊んでんの?この大きいお姉ちゃん誰?」
と男の子に話しかける。稀世は、この場で騒動を起こすのは良くないと思い、少し先にある「お好み焼きがんちゃん」に宮崎と子供ふたりを連れて入った。
「ごめん、さとみさん、がんちゃん、訳有りでちょっと店貸してね。」
と暖簾をくぐった。
男の子は、奥村武雄、小学三年生で八歳。女の子は凛、三歳との事で、近くの市営住宅の子で、過去にも何度か宮崎の店で万引きをしているという。盗んだものはハンバーグ弁当ふたつにプリキュアのラムネ菓子ひとつだった。凛がプリキュアのラムネをじっと見つめ続けるので、稀世は、宮崎にラムネ代を払い、弁当は返した。「店の事があるので」と宮崎は、弁当ふたつを持って中座した。凛のお腹が「ぐーっ」っと鳴った。続いて武雄のお腹も鳴った。
「お腹すいてんの?」
稀世がふたりに優しく聞いた。凛はすかさず首を縦に振ったが、武雄は黙っている。
「さとみさん、焼きそば二人前、焼いてもらえるかな。」
稀世が言った。カウンターの調理台から、ソースの焼けるいい香りが漂ってきた。まもなく、二皿の焼きそばが出てきた。
「どうぞ、召し上がれ。暖かいうちに食べや。」
稀世は、ふたりに割り箸を渡した。うまく割り箸を割れない、凛の箸を取り、武雄が割ってやって、凜に渡した。凛は、「いただきます。お姉ちゃんありがとう。」と言うと、握り箸で焼きそばをかき込むように食べた。武雄は箸を前に置きじっと黙ってる。
「武雄君も食べてええねんで。これはお姉ちゃんからのおごりやから、遠慮せんとって。」
というと、武雄は涙をぽろぽろこぼしながら、
「おねえちゃん、ありがとうございます。いただきます。」
と両手を合わせて食べ始めた。
「稀世ちゃん、この子らなんなん?」
さとみが不思議そうな顔をして聞いた。
焼きそばを食べ終わった武雄が稀世に話し始めた。凛は、さとみがカウンター席に連れて行き、ジュースを飲ませている。
「お姉ちゃん、ごちそうさまでした。ありがとうございました。それと、ラムネありがとうございました。今日、凜の誕生日やったから、凜の好きなプリキュア買ってやりたかったんですけど、お金なかったんで。ごめんなさい。」
丁寧な言葉づかいで、やぐされた感じは無い。事情を聴くと、元々は、駅近の市営住宅で家族四人で暮らしていたが、春に母親が家を出ていき、父は荒れ、会社にも行かず、家で酒を飲んでいるか、パチンコに行っているという。武雄と凜は昨日から何も食べていなかったとの事だった。市役所の福祉相談員が何度か家に来たのだが、父親が酒瓶を投げつけ追い返してしまってからは来なくなったという。
「おう、徹三、食べに来ったぞ。イカ玉焼いてくれ、あとビールの小瓶な。」
と直が入ってきた。
「あれ、稀世ちゃんやないか。何やこの子は?」
「うーん、いわゆる育児放棄、ネグレストゆうやつやなぁ。わしが親に文句言いに行ったってもええねんけど、嫁に逃げられてしまって、酒とパチンコに溺れてるやつに何言うてもなぁ。稀世ちゃんも、深入りしなや。」
「おばちゃん、あんまりお父ちゃんの事、悪く言わんとったって下さい。ほんまは、ええお父ちゃんなんです。」
「ほんま、武雄君は優しいねんな。でも、万引きは、この先、絶対にやめような。お店の人かて、困ってしまうからな。今度、お腹すいたら、お姉ちゃん、この先の向日葵寿司っていうとこに居るから、凜ちゃんと一緒においで。」
「向日葵寿司、知ってます。まだ、お母ちゃんおったときは、僕の誕生日はいつも向日葵寿司でしたから。僕の三歳の誕生日の時は、お父さんが、向日葵寿司で美味しいお寿司買って来てくれて、プレゼントにポケモンのゲーム買ってくれたりしたんです。けど、凜はお寿司もプレゼントも無しやったから、余りに可哀そうやからつい…。」
「えっ、武雄君、誕生日っていつ?」
「9月3日です。先月で八歳になったとこです。」
(えっ、私と一緒や。三歳の誕生日ってことは五年前。お父ちゃんがパチンコ好き。さらに、ポケモンのゲーム?お寿司の持ち帰り?それって。)稀世の頭の中に、門真大会の日、初めて三朗の家で一晩過ごした時の会話が頭の中をよぎった。(こりゃ、ほっとけへんわ。何とかしたらな。)
武雄と凛を見送り、店へ戻った。直もついてきた。稀世は、三朗に今日あったことを話した。
「あー、奥村さんか。最近、来えへん思てたら、家、そないなってたんですか。そりゃ、寿司どころやないですね。親の育児放棄でろくにご飯食べられてない子供が結構おって社会問題になってるって、この間テレビでやってましたねぇ。」
「私も見たわ。こども食堂とか、ボランティアが百円とか無料で、家で食事とられへん子供らに食事出したりしてるけど、市や府から援助があるわけやないから、どことも大変やって言うてたな。」
「そうやろな、まともなもん出してあげよと思たら、最低二百円は、原価が掛かりますからねぇ。それが、十人、二十人となって、週に何日もってなったら、ボランティアではきついですね。」
三人で頭を突き合わせて、悩んでいると、引き戸が開いた。
「こんにちわー。稀世姉さん、三朗さん、ちょっとのお久でーす。近く来たんで遊びに来ました。」
夏子と陽菜だった。
「ん?三人で何難しい顔してはるんですか?」
稀世が事の経緯を夏子と陽菜に説明した。
「なんや、そんなことですか。お金出してくれる人見つけたら、ええんでしょ。楽勝やないですか。」
夏子と陽菜はあたかも簡単な事のように言った。三人は、(そんなうまい話あるんかいな?夏子と陽菜の言うことやからなぁ。大丈夫か?)と正直思った。
それから、一週間。ニコニコ商店街の飲食店で持ち回り制の「こども食堂」が始まった。子供の食事の経済負担は全くのゼロ。食事の原材料の費用は、全額寄付で賄う仕組みができ、飲食店の経済的負担もゼロである。
事の顛末は、夏子が知り合いのテレビ番組制作会社に、「変わったこども食堂の企画があるんで、朝のワイドショー系の番組や夕方の大阪ローカルの番組で取り上げてみてくれへんか。」と投げたことがスタートだった。商店街の五つの飲食店が、日替わりで月曜日から金曜日までの午後五時から六時半まで、諸事情で食事がとれない十五歳までの子供たちに食事を無料で提供する。子供たちは、街の掃除や、単身独居の高齢者等にお弁当を届けたりといったようなお手伝いをする。それは、三歳児でも十五歳でも、必ず何か手伝いをすることをルールとして決めている。
商店街内のスーパーが、消費期限が近付いた商品を安価で提供し、フードロス対策にもなり、貧困世帯の子供による万引き被害も減少して一石二鳥だと、スーパーオーナーの宮崎がインタビューに答えていた。稀世も、「元女子レスラーの寿司屋の若女将」ということで取り上げられ、クラウドファンディングの協力を呼び掛けた。楽しんで食事をとる子供たちのシーンや喜ぶ子供たちのインタビューがいくつかの番組で流された。
それを、夏子や陽菜たちが、SNSで拡散した。やや、仕込み的なところもあったが、子供政策を打ち出す、市会議員や府会議員のSNSでリンクさせたところ、さらに広まり、番組放送から三日間で、一ケ月の運営費の目標金額を超えた。農協も地元食材のPRになると、食材提供に協力してくれることになり、ロータリークラブやライオンズクラブも協賛してくれることになった。
予算的に余裕ができたので、こども食堂に加え、「市民サロン」として、高齢者世帯や単身独居の老人にもそのサービスは広がった。子供たちが、高齢者を訪問しての見守りと配食サービスを行った。中学生は、車いすでサロンまでの送迎などを行い、引きこもりがちな老人たちのコミュニケーションの場を広め、地域コミュニティの活性化にも効果があると、国営放送や、有名タレントが司会を務める報道番組でも取り上げられ、ますます、寄付とボランティアの輪が広がった。
ある日、武雄と凛が配達に行った単身独居の老人宅で、サービスの利用者が家の中で倒れているのを凜が見つけ、武雄が大急ぎで稀世を呼びに来て、九死に一生を得た話があった。一番最初にこども食堂を取り上げてくれた夕方の関西ローカル番組が再び取材に来て、放送となった。
エリア周辺の大手スーパーや業務用のスーパーも商品の提供に協力し、食品メーカーは自社HPの広告記事用に、新商品を提供し、喜ぶ利用者の顔を掲載した。議員も選挙対策用なのか、わいろ扱いにならない範囲で、若干の寄付をしてくれた。
商店街の役員、メンバーたちが予想していた、十倍、いや百倍の効果を上げ、ニコニコ商店街のこども食堂と高齢者向けの市民サロン、配食サービスは、十二分に機能する体制が出来上がった。
商店街の会合で、夏子と陽菜が呼ばれ、サービス利用者も含めた感謝会が開かれた。夏子と陽菜は鼻高々だった。今回ばかりは、直も稀世も三郎もふたりを純粋に褒めた。直が言った。
「今回は、大人の都合で、不自由のあおりを食らってた子供たちが、大人の事情で助けられたちゅう事かのう。議員や業者の好意は一部気に入らんものもあるが、まあ「偽善も善のうち」じゃな。結果オーライやのう。」
稀世と三朗は同意し、頷いた。
日曜日の昼、奥村が武雄と凛を連れて、向日葵寿司を訪れた。武雄から、事情は聴いているようであった。
「武雄と凜がお世話になりました。酒とパチンコは控え、普通に客として来させてもらいました。」
と稀世に頭を下げた。稀世は、笑顔で答えた。
「いえいえ、お酒はともかく、無理にパチンコやめんでええですよ。お父さんのパチンコで幸せになった人もいるんですから。今回の事は、恩返しのひとつやから、気にせんとってくださいね。」
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