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『あなたならどう生きますか?~両想いを確認した直後に「余命半年」の宣告を受けました~』
1-42「ニコニコ商店街再活性化」
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「ニコニコ商店街再活性化」
昼間の暑さもやや和らいだ「昔の体育の日」だった10月10日。午前十時、開店を前に稀世が店の前に打ち水をしていると夏子と陽菜が真っ赤な顔をして泣きながら駆け込んできた。
「稀世姉さん!ニコニコプロレス無くなってしもた。どうしよう?」
「えっ?いったい何があったの?ここじゃなんやから、まずは、店に入って、落ち着いて。」
ふたりの話をまとめるとこうだ。夏子と陽菜の11月のデビュー戦を前に、社長が急逝し資金繰りが行きづまり興業ができなくなっただけでなく、今のジムも月末で引き払わないといけないことになった。
まりあが必死にスポンサー探しに走ってはいるが、それまでの社長ほどの援助をしてくれる人は見つからない。そこに運悪く、ジムの賃貸契約の更新月が重なり、うんともすんとも行かなくなった。11月興業の会場費、チケット・ポスター等の印刷費等の支払いもままならない。夏子の発案でクラウドファンドも募集したが、今の時点では目標額には全く届かない。みんな引退か、解散して他の団体に移籍するしかない状況にあるという。
夏子が、半泣きで一気に稀世と三朗に説明した。(えー、そんなことになってしもてんの?でも、私にはどうしようもない。大阪ニコニコプロレス無くなんのは嫌やなぁ。)稀世と三朗は、「ごめんな、私らじゃ何の力にもなられへん。」、「まあ、ショックやろうけど、お昼、お寿司でも食べて元気出して。」というのが精いっぱいだった。
その日の晩、夜九時半。商店街の月例会議が向日葵寿司で開かれた。こども食堂と市民サロンの状況と新しい援助者、後援者が報告された。会合がお開きとなり、執行部、青年部、女性部会のメンバーが居残った。直が熱燗を飲みながら、稀世に聞いた。
「稀世ちゃん、昼、夏子と陽菜がとぼとぼと駅の方に歩いて行っとんの見たんやけど何かあったんか?あんなしょぼくれとんの、あの子ららしゅうないな思て、声も掛けへんかったんやけどな。」
「うん、ニコニコプロレスの社長が亡くなってしもて、資金ショートで解散かもって。」
「そないな話か。まりあちゃんも困ってんねやろな。」
「今月末でジムの建物も出なあかんみたいで、走り回ってるって。電話しても繋がらへんのです。」
直は、腕を組んで黙り込んだ。笹井がぽそっと言った。
「なっちゃんと陽菜ちゃん、うちも、うちの商店街の為にも、いろいろ動いてくれたし、なんとか応援してやりたいけどなぁ。ん!広義、お前んとこの倉庫空いたままとちゃうんか?」
西沢米穀には、昔から毎年10月に新米を全国から購入し保管していた米蔵があった。今は、業販用の米は農家や農協から直送方式になっている。店頭販売用のものも、都度、精米してもらい店に送ってもらうので、米蔵はただの物置になっている。
「うん、今は使こて無いけど、それが?」
「ジム追い出されたら、リングやトレーニング用具も置き場無くなってしまうんやろうし、広義んとこ格安で貸したったらどないや、あかんかな?」
「いや、うちはかまわへんけど。とりあえずの物置やったら、家賃も要らんよ。どうせ空いてるし。」
直が、きゅっとお猪口を開けると立ち上がって言った。
「いや、広義、少しでも家賃取れ。その方が向こうも遠慮が要らんやろ。ニコニコプロレス、ここに呼ぶんや。そう、移転さすねん。「ニコニコ商店街」に「ニコニコプロレス」でええやないか。ここをベースに活動してもろたら、ここの活性化にも繋がるやろ。広義とこの米蔵、広さなんぼや?」
「間口八間の奥行十二間の九十六坪ほどやけど。」
「ざっくり14メートル半かけ22メートル弱の300平方くらいやな。うん、十分や。稀世ちゃん、まりあちゃんに電話してんか。」
翌日、まりあと稀世と直が西沢米穀の米蔵にやってきた。
「まりあちゃん、どないや?今は、換気扇しかないから、エアコンは入れなあかんやろうけど、九十六坪で月三万で。まあ、24時間365日使うわけやないやろうから、あんたらの練習無い時間は、市民サロンにして活用しよ思ってんねんけどな。もしよかったら、ボクササイズやダイエット教室みたいな運動指導してもらえたら、商店街としてもうれしいねんけどなぁ。」
「はい、十分です。十分すぎますよ。今のジム、三十坪やし、ここならパイプ椅子入れたら、ミニ興業もできるわ。直さん、ほんまにええんですか?」
「あぁ、広義の了解は取ってるから安心しぃ。ただし、片付けは、ニコニコプロレスのみんなでやるんやで。じゃあ、建前上、契約書とわしのTシャツにサインしてもらおか。「デンジャラスまりあ」ってな。」
10月半ば、大阪ニコニコプロレスの十四人が2トントラックのレンタカーと団体のハイエースでリングとトレーニング機材を搬入してきた。直がどこからか、三層200ボルトの業務用エアコンと音響設備を引っ張ってきて、日高が設置した。商店街からの提案で、リングを中央奥に設置し、プロレスで使わないときは、ロープは外し、多目的ステージとしてカラオケやライブで使わせてもらい、設備什器使用料としてニコニコプロレスに月二万円支払うこととした。ニコニコプロレスの実質負担は月一万円になった。更衣室とトイレは商店街で設置した。今使われていない商店街の飲食店から古いカラオケ機器とテーブルと丸椅子が搬入された。激安業務用什器店からパイプ椅子を買い足して、80席確保した。立ち見も入れると120人は入りそうだ。家主を尊重し、「西沢米穀特設リング会場」と名称が決まった。
11月3日文化の日。「西沢米穀特設リング会場」のこけら落としとして、中止になった大阪ニコニコプロレスの11月興行の代わりに、「大阪ニコニコプロレス門真移転記念興行」が開催されることになった。移転をきっかけに、自称「稀世の永遠のライバル」パイ・ヒール粋華もニコニコプロレスに移籍してきた。それをきっかけに、直の家に居候することになったと日高は少し困り顔だった。
夏子と陽菜のSNS告知と商店街のいたるところに貼られた、「手作りポスター」で、会場は満席になった。稀世は裏方で走りまわっていた。徹三とさとみは夏祭り用の屋台を出し、焼きそばを忙しく焼き、来場者に振舞っている。こども食堂と市民サロンの利用者も多数集まってきている。地元CATVも取材で来た。
午前十一時、直と広義とまりあのあいさつで開会した。夏子、陽菜のデビュー戦の「ニューYASUKIYO」としての入場で、大きな笑いでスタートした。(これは、いけるで。)稀世は確信した。試合合間のイベントの「パイ・ヒール粋華対ちびっこ10人プロレス対決」や直のニコニコプロレスの女子レスラー相手に行った「合気術試技」、そして事前に募集した「ミニカラオケ大会」で大いに盛り上がった。元バンドマンの広義も主催者特権で、ギターを持ち出し、久しぶりの人前の歌唱でご満悦だった。
メインイベントの試合が終わり、まりあが興行成功のお礼と関西の社会人プロレス、学生プロレスの共同興行や練習場所の提供と市民健康増進活動のひとつとしてスポーツジムとしての無料開放日の設定予定がある旨を発表した。夏子と陽菜のSNS発信で、即、参加希望のレスが来た。
午後六時、すべての興行が終了し、会場の椅子が片づけられ、懇親会が始まった。その中で、夏子と陽菜が笹井と一緒にコスプレ写真撮影企画を立てることが正式に決まった。夏子と陽菜の9月の笹井写真館での撮影風景の動画をアップし「#ハイテンションカメラマン」、「#夢空間」等のキーワードでバズったことがきっかけで、笹井写真館が大ブレイクしていた。そこに便乗し、笹井写真館の隣の空き店舗に夏子と陽菜は引っ越してきて、夏子が引っ張ってきた大量のコスプレ衣装のレンタルをして、笹井のところで写真を撮るという企画だ。今では、グリーンバックを使った合成写真企画は、毎週のように予約が入り、笹井写真館の売り上げの柱になりつつあった。
また、ジムの門真移転に合わせて、アルバイト先を大阪市内から変えようとしていたメンバーが、商店街内にある現在空き店舗の、もともと喫茶店の住居付き店舗でルームシェアし、一階店舗でコスプレカフェを開く話も進んだ。夏子は、メイド服やゴスロリ衣装やアニメキャラのレプリカ衣装レンタルで、「先輩たちから一儲け」を目論んでいたが、直から「衣装レンタル費は、月千円」と勝手に決められ、思惑は外れた。また、「三朗が稀世にプロレス技かけられて喜んでいた話」から、「リングコスチュームでの現役レスラーによる技かけサービス」の話も出た。商店街のおやじたちから、「絶対行くで!」、「わし、四の字固めして欲しい。」、「俺は、ベアハッグ!」と三朗以外にも変態趣味の男が多数隠れていることが発覚した。
女性部会から、ジムの機器を使ったトレーニングやダイエットプログラムの希望も多数出たのでまりあがプランを立てることになった。粋華の提案した、「ストレス解消、サンドバック蹴り放題五分百円」は、早速試したかずみが「これ、絶対ええわ。旦那にストレス抱えてる女の人多いから、絶対受けるで!」と太鼓判を押した。広義は、(かずみ、露骨に俺に対して言いよったな。)と背筋に冷たいものを感じた。
次々と、「西沢米穀特設リング会場」を使った企画がスタートしていった。週二回のニコニコプロレスの「有料公開ファイト企画」に加え、「ストリートミュージシャンの合同ライブ」、「地元劇団による公演」、「新人お笑いタレント等によるお笑いライブ」が始まった。カメラマンやアナウンサーを目指す専門学校の学生や、アマチュアも多く集まった。イベントは、次々とネット配信され、ニコニコ商店街の名前が拡散された。
地元民の為に将棋やマージャンやカラオケといった「会場サロン開放での趣味の場も提供」や理容師、ネイリストの卵たちがボランティアや低価格でサービスを提供し、地元の人たちとの交流が盛んになった。西沢米穀特設リング会場の運営は、夏子と陽菜が共同代表で設立した、「株式会社ニコニコ興業」が行い、来年3月までの予定は7割がた埋まった。なかなかの商才を発揮し、テレビ局のビジネス情報コーナーで取り上げられた。
「これをきっかけに、美人レスラー起業家としてタレントになろうかな。」
と夏子と陽菜は調子に乗り、まりあと直に怒られた。
地元の人だけでなく、若者を中心に京阪エリアから多数の人が来ることになり、商店街は活気づいた。永らくの空室で、安めの賃料設定になっていたことも追い風となり、今まで、空き店舗だった店に他エリアからの若者が移り住む事例がいくつか出てきた。若者向けのマニア商品を扱う店や新しい飲食店もでき商店街全体が活性化してきた。
まりあも「秘蔵の二十世紀のプロレスコレクション」のVHSビデオを引っ張り出し、「プロレスファンBARまりあ」を粋華と一緒にオープンした。日替わり企画で「60,70年代デイ」は年寄り。「80、90年代デイ」はおっさんたち。「女子プロファンデイ」は他の団体レスラーがバイトで店に入り、そのファンたち。「プロレスゲームデイ」は、WWEのオンラインゲームを世界中のプロレスゲームファンとの対戦を求めて若手ゲーマーが店を賑わせた。ゲーマーや海外の対戦相手が、「ニコニコプロレスは、日本の地域密着型の「ローカルプロレス」の最高峰」と紹介してくれて、海外からの観戦者も来るようになった。
もちろん、Hカップの「パイ・ヒール粋華」目当ての男性客もたくさんいたことは言うまでもない。特に、独身の武藤は、「酒の卸しのついで」と言いながら、日参し、酒の売り上げ以上の金を店に落とし、店の看板まで長居することも珍しくない。迎えに来る杉田は、困り顔だ。
今まで閑散としていた商店街は、人出が増え、飲食店も賑わい、商店街相互の出前も増えた。向日葵寿司や徹三のお好み焼き屋も稀世の後輩レスラーが夜は出前に走り回っている。
ある日曜日の夜、最後の客が勘定を済ませ、出ていった向日葵寿司で、稀世が言った。
「サブちゃん、たった三ヶ月で街がこんなに変わるんやね。私、この街、大好きやわ。」
「うん、稀世さんが持ってきてくれた「運」かな。稀世さんは、ニコニコ商店街の「女神」ですね。」
「えー、そんなん言われたら、照れてまうわ。やめてやー。」
「もちろん、僕にとっても「女神様」ですよ。さぁ、今日も、よお働いたし、暖簾下げましょか。」
昼間の暑さもやや和らいだ「昔の体育の日」だった10月10日。午前十時、開店を前に稀世が店の前に打ち水をしていると夏子と陽菜が真っ赤な顔をして泣きながら駆け込んできた。
「稀世姉さん!ニコニコプロレス無くなってしもた。どうしよう?」
「えっ?いったい何があったの?ここじゃなんやから、まずは、店に入って、落ち着いて。」
ふたりの話をまとめるとこうだ。夏子と陽菜の11月のデビュー戦を前に、社長が急逝し資金繰りが行きづまり興業ができなくなっただけでなく、今のジムも月末で引き払わないといけないことになった。
まりあが必死にスポンサー探しに走ってはいるが、それまでの社長ほどの援助をしてくれる人は見つからない。そこに運悪く、ジムの賃貸契約の更新月が重なり、うんともすんとも行かなくなった。11月興業の会場費、チケット・ポスター等の印刷費等の支払いもままならない。夏子の発案でクラウドファンドも募集したが、今の時点では目標額には全く届かない。みんな引退か、解散して他の団体に移籍するしかない状況にあるという。
夏子が、半泣きで一気に稀世と三朗に説明した。(えー、そんなことになってしもてんの?でも、私にはどうしようもない。大阪ニコニコプロレス無くなんのは嫌やなぁ。)稀世と三朗は、「ごめんな、私らじゃ何の力にもなられへん。」、「まあ、ショックやろうけど、お昼、お寿司でも食べて元気出して。」というのが精いっぱいだった。
その日の晩、夜九時半。商店街の月例会議が向日葵寿司で開かれた。こども食堂と市民サロンの状況と新しい援助者、後援者が報告された。会合がお開きとなり、執行部、青年部、女性部会のメンバーが居残った。直が熱燗を飲みながら、稀世に聞いた。
「稀世ちゃん、昼、夏子と陽菜がとぼとぼと駅の方に歩いて行っとんの見たんやけど何かあったんか?あんなしょぼくれとんの、あの子ららしゅうないな思て、声も掛けへんかったんやけどな。」
「うん、ニコニコプロレスの社長が亡くなってしもて、資金ショートで解散かもって。」
「そないな話か。まりあちゃんも困ってんねやろな。」
「今月末でジムの建物も出なあかんみたいで、走り回ってるって。電話しても繋がらへんのです。」
直は、腕を組んで黙り込んだ。笹井がぽそっと言った。
「なっちゃんと陽菜ちゃん、うちも、うちの商店街の為にも、いろいろ動いてくれたし、なんとか応援してやりたいけどなぁ。ん!広義、お前んとこの倉庫空いたままとちゃうんか?」
西沢米穀には、昔から毎年10月に新米を全国から購入し保管していた米蔵があった。今は、業販用の米は農家や農協から直送方式になっている。店頭販売用のものも、都度、精米してもらい店に送ってもらうので、米蔵はただの物置になっている。
「うん、今は使こて無いけど、それが?」
「ジム追い出されたら、リングやトレーニング用具も置き場無くなってしまうんやろうし、広義んとこ格安で貸したったらどないや、あかんかな?」
「いや、うちはかまわへんけど。とりあえずの物置やったら、家賃も要らんよ。どうせ空いてるし。」
直が、きゅっとお猪口を開けると立ち上がって言った。
「いや、広義、少しでも家賃取れ。その方が向こうも遠慮が要らんやろ。ニコニコプロレス、ここに呼ぶんや。そう、移転さすねん。「ニコニコ商店街」に「ニコニコプロレス」でええやないか。ここをベースに活動してもろたら、ここの活性化にも繋がるやろ。広義とこの米蔵、広さなんぼや?」
「間口八間の奥行十二間の九十六坪ほどやけど。」
「ざっくり14メートル半かけ22メートル弱の300平方くらいやな。うん、十分や。稀世ちゃん、まりあちゃんに電話してんか。」
翌日、まりあと稀世と直が西沢米穀の米蔵にやってきた。
「まりあちゃん、どないや?今は、換気扇しかないから、エアコンは入れなあかんやろうけど、九十六坪で月三万で。まあ、24時間365日使うわけやないやろうから、あんたらの練習無い時間は、市民サロンにして活用しよ思ってんねんけどな。もしよかったら、ボクササイズやダイエット教室みたいな運動指導してもらえたら、商店街としてもうれしいねんけどなぁ。」
「はい、十分です。十分すぎますよ。今のジム、三十坪やし、ここならパイプ椅子入れたら、ミニ興業もできるわ。直さん、ほんまにええんですか?」
「あぁ、広義の了解は取ってるから安心しぃ。ただし、片付けは、ニコニコプロレスのみんなでやるんやで。じゃあ、建前上、契約書とわしのTシャツにサインしてもらおか。「デンジャラスまりあ」ってな。」
10月半ば、大阪ニコニコプロレスの十四人が2トントラックのレンタカーと団体のハイエースでリングとトレーニング機材を搬入してきた。直がどこからか、三層200ボルトの業務用エアコンと音響設備を引っ張ってきて、日高が設置した。商店街からの提案で、リングを中央奥に設置し、プロレスで使わないときは、ロープは外し、多目的ステージとしてカラオケやライブで使わせてもらい、設備什器使用料としてニコニコプロレスに月二万円支払うこととした。ニコニコプロレスの実質負担は月一万円になった。更衣室とトイレは商店街で設置した。今使われていない商店街の飲食店から古いカラオケ機器とテーブルと丸椅子が搬入された。激安業務用什器店からパイプ椅子を買い足して、80席確保した。立ち見も入れると120人は入りそうだ。家主を尊重し、「西沢米穀特設リング会場」と名称が決まった。
11月3日文化の日。「西沢米穀特設リング会場」のこけら落としとして、中止になった大阪ニコニコプロレスの11月興行の代わりに、「大阪ニコニコプロレス門真移転記念興行」が開催されることになった。移転をきっかけに、自称「稀世の永遠のライバル」パイ・ヒール粋華もニコニコプロレスに移籍してきた。それをきっかけに、直の家に居候することになったと日高は少し困り顔だった。
夏子と陽菜のSNS告知と商店街のいたるところに貼られた、「手作りポスター」で、会場は満席になった。稀世は裏方で走りまわっていた。徹三とさとみは夏祭り用の屋台を出し、焼きそばを忙しく焼き、来場者に振舞っている。こども食堂と市民サロンの利用者も多数集まってきている。地元CATVも取材で来た。
午前十一時、直と広義とまりあのあいさつで開会した。夏子、陽菜のデビュー戦の「ニューYASUKIYO」としての入場で、大きな笑いでスタートした。(これは、いけるで。)稀世は確信した。試合合間のイベントの「パイ・ヒール粋華対ちびっこ10人プロレス対決」や直のニコニコプロレスの女子レスラー相手に行った「合気術試技」、そして事前に募集した「ミニカラオケ大会」で大いに盛り上がった。元バンドマンの広義も主催者特権で、ギターを持ち出し、久しぶりの人前の歌唱でご満悦だった。
メインイベントの試合が終わり、まりあが興行成功のお礼と関西の社会人プロレス、学生プロレスの共同興行や練習場所の提供と市民健康増進活動のひとつとしてスポーツジムとしての無料開放日の設定予定がある旨を発表した。夏子と陽菜のSNS発信で、即、参加希望のレスが来た。
午後六時、すべての興行が終了し、会場の椅子が片づけられ、懇親会が始まった。その中で、夏子と陽菜が笹井と一緒にコスプレ写真撮影企画を立てることが正式に決まった。夏子と陽菜の9月の笹井写真館での撮影風景の動画をアップし「#ハイテンションカメラマン」、「#夢空間」等のキーワードでバズったことがきっかけで、笹井写真館が大ブレイクしていた。そこに便乗し、笹井写真館の隣の空き店舗に夏子と陽菜は引っ越してきて、夏子が引っ張ってきた大量のコスプレ衣装のレンタルをして、笹井のところで写真を撮るという企画だ。今では、グリーンバックを使った合成写真企画は、毎週のように予約が入り、笹井写真館の売り上げの柱になりつつあった。
また、ジムの門真移転に合わせて、アルバイト先を大阪市内から変えようとしていたメンバーが、商店街内にある現在空き店舗の、もともと喫茶店の住居付き店舗でルームシェアし、一階店舗でコスプレカフェを開く話も進んだ。夏子は、メイド服やゴスロリ衣装やアニメキャラのレプリカ衣装レンタルで、「先輩たちから一儲け」を目論んでいたが、直から「衣装レンタル費は、月千円」と勝手に決められ、思惑は外れた。また、「三朗が稀世にプロレス技かけられて喜んでいた話」から、「リングコスチュームでの現役レスラーによる技かけサービス」の話も出た。商店街のおやじたちから、「絶対行くで!」、「わし、四の字固めして欲しい。」、「俺は、ベアハッグ!」と三朗以外にも変態趣味の男が多数隠れていることが発覚した。
女性部会から、ジムの機器を使ったトレーニングやダイエットプログラムの希望も多数出たのでまりあがプランを立てることになった。粋華の提案した、「ストレス解消、サンドバック蹴り放題五分百円」は、早速試したかずみが「これ、絶対ええわ。旦那にストレス抱えてる女の人多いから、絶対受けるで!」と太鼓判を押した。広義は、(かずみ、露骨に俺に対して言いよったな。)と背筋に冷たいものを感じた。
次々と、「西沢米穀特設リング会場」を使った企画がスタートしていった。週二回のニコニコプロレスの「有料公開ファイト企画」に加え、「ストリートミュージシャンの合同ライブ」、「地元劇団による公演」、「新人お笑いタレント等によるお笑いライブ」が始まった。カメラマンやアナウンサーを目指す専門学校の学生や、アマチュアも多く集まった。イベントは、次々とネット配信され、ニコニコ商店街の名前が拡散された。
地元民の為に将棋やマージャンやカラオケといった「会場サロン開放での趣味の場も提供」や理容師、ネイリストの卵たちがボランティアや低価格でサービスを提供し、地元の人たちとの交流が盛んになった。西沢米穀特設リング会場の運営は、夏子と陽菜が共同代表で設立した、「株式会社ニコニコ興業」が行い、来年3月までの予定は7割がた埋まった。なかなかの商才を発揮し、テレビ局のビジネス情報コーナーで取り上げられた。
「これをきっかけに、美人レスラー起業家としてタレントになろうかな。」
と夏子と陽菜は調子に乗り、まりあと直に怒られた。
地元の人だけでなく、若者を中心に京阪エリアから多数の人が来ることになり、商店街は活気づいた。永らくの空室で、安めの賃料設定になっていたことも追い風となり、今まで、空き店舗だった店に他エリアからの若者が移り住む事例がいくつか出てきた。若者向けのマニア商品を扱う店や新しい飲食店もでき商店街全体が活性化してきた。
まりあも「秘蔵の二十世紀のプロレスコレクション」のVHSビデオを引っ張り出し、「プロレスファンBARまりあ」を粋華と一緒にオープンした。日替わり企画で「60,70年代デイ」は年寄り。「80、90年代デイ」はおっさんたち。「女子プロファンデイ」は他の団体レスラーがバイトで店に入り、そのファンたち。「プロレスゲームデイ」は、WWEのオンラインゲームを世界中のプロレスゲームファンとの対戦を求めて若手ゲーマーが店を賑わせた。ゲーマーや海外の対戦相手が、「ニコニコプロレスは、日本の地域密着型の「ローカルプロレス」の最高峰」と紹介してくれて、海外からの観戦者も来るようになった。
もちろん、Hカップの「パイ・ヒール粋華」目当ての男性客もたくさんいたことは言うまでもない。特に、独身の武藤は、「酒の卸しのついで」と言いながら、日参し、酒の売り上げ以上の金を店に落とし、店の看板まで長居することも珍しくない。迎えに来る杉田は、困り顔だ。
今まで閑散としていた商店街は、人出が増え、飲食店も賑わい、商店街相互の出前も増えた。向日葵寿司や徹三のお好み焼き屋も稀世の後輩レスラーが夜は出前に走り回っている。
ある日曜日の夜、最後の客が勘定を済ませ、出ていった向日葵寿司で、稀世が言った。
「サブちゃん、たった三ヶ月で街がこんなに変わるんやね。私、この街、大好きやわ。」
「うん、稀世さんが持ってきてくれた「運」かな。稀世さんは、ニコニコ商店街の「女神」ですね。」
「えー、そんなん言われたら、照れてまうわ。やめてやー。」
「もちろん、僕にとっても「女神様」ですよ。さぁ、今日も、よお働いたし、暖簾下げましょか。」
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