あなたならどう生きますか?両想いを確認した直後の「余命半年」宣告

M‐赤井翼

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『あなたならどう生きますか?~両想いを確認した直後に「余命半年」の宣告を受けました~』

1-43「花見は無理」

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「花見は無理」
 2022年3月最初の日曜日。小春日和の西沢米穀特設リング会場のリング上に大きな祭壇が設置されていた。3月にもかかわらず祭壇には数えきれないくらいの向日葵が飾られていた。檜と由紀恵が切りばさみを片手に手際よく、次々と花をセッティングしていく。季節外れの向日葵は、檜が2月頭に知り合いのハウス栽培を行っている生花業者に無理を言って、九十九本の向日葵を頼んでいたのだった。祭壇の上には、達者な筆文字で、「長井稀世生前葬」と書かれた横断幕が飾られている。
 リング下には、いくつかのテーブルが一定間隔で置かれ、商店街女性部会のメンバーと大阪ニコニコプロレスのメンバーがバタバタとオードブルのセットを並べ、グラスや取り皿や割り箸を並べて行っている。テレビ局のリポーターとカメラマンがテストを何度も繰り返している。広義と徹三が男性陣に、かずみとさとみが女性陣に指示を次々と出す。
「さあ、あと一時間でスタートやで。きばって行こ―。」
腕時計で午前九時を確認した広義がみんなにはっぱをかける。
「おっ、だいぶ進んどんな。広義、ええ式になりそうか?ビアサーバー、四台は各々の隅にセットでええかな。酒と焼酎は、頼んでたテーブルに並べて、ジュースとチューハイは氷水張れる折り畳みバケツで、順次追加で行くからな。足らんようになったらなんぼでも持ってくるから。」
武藤が広義に声をかけ、杉田を連れて台車で道具を運び込む。
 九時過ぎに笹井写真館の雅子が稀世と直を連れて来て、リング奥の控室に入っていった。九時半前に三朗もやってきた。
「皆さん、早い時間からご苦労様です。今日は、どうもすみませんねぇ。よろしくお願いします。」
と言い、控室に入っていった。
 会場の準備が進むにつれて、来場者が集まりだし、表の道路に人が溢れた。商店街の人、大阪ニコニコプロレスのファンの人、こども食堂や市民サロンの利用者の人。多数の人たちが口々に稀世の話をしている。
 はーい、あと30分で開場やでー。やり残し無いか、各セクションのリーダーさんはチェックしてや―。」
徹三がみんなに声をかけた。

 2021年12月20日午後六時、ニコニコ商店街の忘年会が、「お好み焼きがんちゃん」で開かれた。多くのメンバーが出席する中、稀世は、朝から39度の熱が出て、インフルエンザと診断されたため、向日葵寿司からは、三朗だけの出席だった。会長の直のあいさつの後、この9月からの新メンバーの、武藤酒店の杉田、菅野電気店の日高、笹井の写真館の横にコスプレ衣裳レンタル店を出した、夏子と陽菜、コスプレ喫茶のニコニコプロレスのメンバーの自己紹介が行われた。十人もの新メンバーが入ったのは、商店街立ち上げの時以来である。新たに発足した、女性部会を代表してかずみも直から無理やり前に出され、挨拶させられていた。こども食堂や市民サロンへの皆の協力に感謝を伝えた。
 自己紹介がひとり終わるたび、大きな拍手と「〇〇さんにかんぱーい。」と武藤がはっちゃけていた。自己紹介が終わるころには、執行部の男性陣はすっかりスイッチが入っていた。ニコニコプロレスの女の子たちは、商店街のおやじたちに大人気だ。一番人気は、この三ケ月の商店街活性化のきっかけとなった稀世になるのだが、今日は、稀世がインフルエンザでお休みのため、その分、三朗が飲まされた。
 午後九時、青年部の部長として、三朗が中締めを行い、忘年会はお開きとなった。女性部会の主婦たちは家へと向かい、ニコニコプロレスの女の子たちは、京橋に二次会の場所を移した。

 いつもの執行部と青年部の男たちは、そのまま、場所を変えず、徹三の店で飲み続けることとした。三朗は、稀世が心配なので帰りたかったのだが、檜、武藤、笹井、広義、徹三に捕まってしまった。さとみがおじやを作ってくれた。直とかずみとさとみの三人で、見舞がてら稀世の様子を見て、おじやを届けてきてくれることになった。
 檜と武藤と笹井のおやじ組も広義と徹三の青年部も、ご機嫌で、ビールのグラスを空けては、
「ほんま、稀世ちゃん来てから、商店街、一気に変わったよなぁ。」
「そうそう、三十年前のバブルの頃の活気やな。来年できるモールがなんぼのもんじゃい。」
「広義とこの、米蔵を一般開放してから、外部の人もよう来てくれるようになったな。」
「テレビの取材なんて、ここ二十年全く無かったもんなぁ。」
「ニコニコプロレスの子たちもみんなええ子や。街が明るくなったよなぁ。」
「今日も、稀世ちゃん来てくれてたら、もっと盛り上がったのになぁ。」
「4月の花見は、稀世ちゃん「風邪ひいたらあかんで」って、しっかり言うとってや。サブちゃん。」
みんなが、三朗に視線を向けた。
「・・・・。」

 三朗は、テーブルに突っ伏して、もごもごと答えた。武藤が、三朗の肩をゆすって聞いた。
「サブちゃん、なんて?聞こえへんで。4月の花見は、稀世ちゃんに風邪ひかんように言うとってや。ちゅう話やねんけど。」
「き、稀世さんは、は、花見は来られへんのです。」
「なんでや?花粉症きついんか?」
「・・・・」
「なんや、夫婦喧嘩でもして、離婚言われとんか?」
「・・・・」
「サブちゃん、どないやねん。聞こえへんから、もうちょっと大きい声で言うてくれ。なんや、泣いてんのか?」

 三朗は、突っ伏したまま、肩を震わせてみんなに言った。
「き、稀世さんは、桜の季節にはもう居れへんのです。き、稀世さん、元気に見えますけど、9月に、よ、「余命半年あれへん重病」やって言われて…。」
三朗は泣き崩れた。泣き続ける三朗を見守る事しか五人にはできなかった。そこに、直とかずみとさとみが帰ってきた。
「おい、三朗。稀世ちゃん、薬効いて熱下がっとったで。かずみはん作ってくれたおじやも全部食べたから安心せえ。」
直が三朗に声をかけたが、三朗は酔いつぶれて寝てしまっていた。
「それにしても、お前らなんやその顔は?お通夜か葬式みたいな顔しやがって。忘年会やねんから、もっと明るい顔して飲まんと、酒の神さんにしばかれんぞ。徹三、ビール出してくれや。」

 徹三が生ビールのジョッキを持って、直に手渡した。かずみはカウンターの中に入り、さとみの後かたづけを手伝っている。
「サブちゃんが、稀世ちゃん、春の花見にはもう居れへんって。9月に余命半年の重病って言われたって言うて、寝てしもてんけど、直さん、なんか聞いてんの?」
「あほボン、みんなに言うてしもたんか…。お前ら以外には、絶対に他言無用やぞ。わかったな。」
さとみとかずみも、片付けを中断して、客席に出て来た。全員が直の話に耳を疑った。
「うそ!そんな、稀世ちゃんもサブちゃんも可哀そ過ぎるやんか。」
さとみとかずみが泣き出した。
「俺らにできる事、なんかあれへんかいな。」
広義がぼそりと言った。
 それから、毎週八人で集まり話し合った。良い案が出ることなく、カレンダーは進んでいった。



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