あなたならどう生きますか?両想いを確認した直後の「余命半年」宣告

M‐赤井翼

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『あなたならどう生きますか?~両想いを確認した直後に「余命半年」の宣告を受けました~』

1-40「バイク泥棒とエアコンつぶし」

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「バイク泥棒とエアコンつぶし」
 午後一時過ぎ、稀世が武藤に電話した。ちょうど、整骨院から帰ってきたところということだった。「ふたりの結婚式に、ケチをつけてしまって申し訳ない。」と言われ、恐縮した。店の中で電話を取っているようで、店の前を走る車の排気音や道行く人たちの会話が電話越しに聞こえる。お見舞いの言葉をかけて電話を切ろうとしたとき、電話越しに「ドルルルル」とバイクのエンジンがかかる音が耳に入った。
「あっ、バイク泥棒!痛っ!(「ドガっ」という転倒音)こら、待てーっ。(遠ざかる排気音)稀世ちゃん、そっちにうちのカブ盗んだ奴が走っていった。捕まえてくれーっ!」
「は、はい。」

 稀世と三朗が店を飛び出て武藤酒店の方を向くと正面から黒いフルフェイスヘルメットにブルーの作業用ブルゾンの男が武藤のスーパーカブで突っ込んでくる。稀世が両手を広げ大の字で道を通せんぼする。バイク泥棒の男が叫んだ。
「わー、ごめんなさい、どいてくださーい。」
稀世は、逃げることなくバイクに向かって駆け出した。
「ほんと、避けてくださーい。」
半泣きの男の声が通りに響いた瞬間、稀世は、助走のスピードを上げ、元バスケット選手だった跳躍力を活かし、1.5メートル飛び上がってのハイアングルのドロップキックをバイク泥棒の胸に叩き込んだ。男は、バイクの後ろに蹴り落され、乗り手を失ったカブは10メートル先で転倒した。稀世は、男の胸倉を掴んで、ヘルメットをはぎ取った。三朗が後ろから「稀世さーん、大丈夫ですかー?」と走ってくる。

 ヘルメットを取った男はほっぺに大きな大きな絆創膏を張り、頭は包帯でぐるぐる巻きだ。破れたブルゾンの下にも包帯が見える。三朗が、包帯だらけのバイク泥棒を見て
「稀世さん、もうここまでぼこぼこにしちゃったんですか?」
と稀世を覗き込んだ。バイク泥棒の男は、思いのほか幼い顔をしていていた。自分のケガよりも稀世の身体を心配して言った。
「すいません、すいません。あなたはケガはないですか。」
(ただのバイク泥棒とちゃうな。)稀世は、何か不思議な感覚に包まれた。
「なんか、訳アリやね。私と一緒においで。」

 向日葵寿司の四人掛けの席にバイク泥棒の男を座らせた。武藤のカブは三郎が起こして、店の前に持ってきた。ミラーが折れたのとウインカーが割れたくらいで大きい損傷はない。稀世は、冷たい緑茶を男の前に置いた。男は、黙ってうつむいている。そこに、武藤が、杖をつきつつやってきた。
「この野郎、人様の商売道具に手つけやがって。警察に突き出したるからな!」
武藤が怒気を込めて、男を責める。
「武藤さん、警察は、ちょっと待って。」
「なんでや、稀世ちゃん、こんな奴、庇うこと無いで。人様のもの盗むのは悪いことやって十分わかる年やろ。」
「この子、バイクで私に突っ込んでくるとき、「ごめんなさい、どいてください」、「避けてください」ってね。普通、「どきやがれ、ばか野郎」やんなぁ。私がドロップキックかまして、この子、転んだ後も「あなたはケガはないですか」ってね。なんか、普通に悪いやつやないんとちゃうかなって思って。それに、この絆創膏に包帯。武藤さん勘違いされたらいややから、言っとくけど、私が蹴り入れる前からのもんやからね。」
「まあ、稀世ちゃんがそういうなら、警察は後でもええけどな。」
「あんた、いくつや?高校生くらいか?それに、そのケガなんや?お姉さんに話してみ。まあ、まずはお茶飲んで、心を落ち着けてな。」

 男は、涙を流しながら、お茶をすすり、ゆっくりと語り始めた。
「僕、杉田庄一って言います。十九歳です。隣町の新聞配達員です。中学三年の妹と小学六年の弟がいます。お母さんは、今入院中です。お父さんはいません。今朝、新聞配達の帰りに、車に当て逃げされて、新聞屋のカブ、廃車になってしまいました。社長から、「明日の配達までにバイク弁償せえ。でけへんねやったら、パクってでも段取りせえ。明日の新聞配られへんかったら、お前はクビや。欠配の損害賠償もしたるからな。」って言われました。お母さん入院中で仕事休んでるから、僕が、家を支えなあかんのです。泥棒は、悪いことやってわかってるんですけど・・・。すいませんでした。でも、お姉さんにケガさせなくてよかった。」
そこから先は泣き崩れて会話にならなかった。
「おい、三朗おるか?」
直がやってきた。
「なんや、この子?」

 稀世は、直に事の経緯を説明した。杉田は、まだ泣き続けている。
「よっしゃ、分かった。そこらへん詳しい司法書士事務所の変なおっさん知ってるから、今から呼び出したろ。」
と言って、どこかに電話を掛けた。

 十分ほどで、揃いの赤黒の半そでブルゾンを着た男ふたりが、スクーターにふたり乗りでやってきた。出された名刺には「金城司法書士事務所、司法書士、森隆」、「金城司法書士事務所、コンサルタント・相談員、副島勝」とあった。直とは旧知の仲のようで、副島が
「あぁ、そうですか。まずは、そのめちゃくちゃいう新聞屋の親父を折檻ですわな。配ってる新聞も「日付以外は、デマか政府への文句だけ」ちゅうあほ新聞やけど、それを扱う親父もおんなじくらいあほいうことですわな。労基署に言うてやりますわ。それで、杉田君のケガは、労災扱いにして給与の保証して、当て逃げは、ひき逃げ扱いにして、本来、相手からとる慰謝料も「政府による補償事業」いう自賠責と同等の見舞金請求したりますわ。」
と専門用語を交えて機関銃のような早口で説明した。
「難しいことは、分からんけど、なんとかしたってや。頼むで副島はん。森先生もよろしゅう頼むわな。」
直が言うと、杉田が止めに入った。
「やめてください。そんなんしたら、クビになってしまいます。家族の生活あるんで、それは困るんです。」

 それまで、黙っていた武藤が口を開いた。
「杉田君、今、給料なんぼや?」
「十二万ほどですが。」
「よっしゃ、分かった。そんなあほな新聞屋やめて、うちにこい。新聞配れんねやったら、酒の配達もできるやろ。今すぐ、そんな新聞屋やめて、今日から、うちで働け。
 うちのカブの修理代もあるから、弟さんが高校出るまでの六年間、修理代は「毎月百円」の分割払いにしたるから、月給十五万でうちで酒の配達せえ。そんで、杉田君がうちの仕事気に入ったら、ずっと働いてくれたらええ。俺一代で終わるつもりやったけど、店が残るんやったらそれもありかなってな。わかったか。」
「えっ?」
「え?やない。そこは「はい、ありがとうございます。」やろ。」
「は、はい、ありがとうございます。」
「じゃあ、金城事務所の先生方、杉田君の手続きの程、よろしくお願いします。」
武藤が頭を下げた。稀世と三朗と直も納得の表情だった。
「ぎっくり腰がきっかけで、なんか、跡取りゲットしちゃいましたね。杉田君、ようこそニコニコ商店街へ。歓迎するで。さっきは、思いっきり蹴り入れてごめんな。これからよろしくやで。」
稀世が杉田の手を握り、笑った。

 武藤と杉田の事件のすぐあと、ニコニコ商店街内で、よく似た事件が起こった。まだ寝苦しい夜が続く9月末、エアコン修理のチラシが商店街を中心にポスティングが数回にわたりあった。チラシが入るとその翌日に、大手家電の某メーカーのエアコンが故障するといった事案が続いていることが商店街でも噂になっていた。
「サブちゃん、うちのエアコンってどこのメーカーなん?」
「例の、故障が多発してるっていう、最大手のメーカーやねん。ちょっと心配やな。」
店じまいの後の片づけをしながら話していると突然、エアコンがきかなくなった。何やら、外でごそごそと人の気配があり、稀世が飛び出し、裏口に回ると、黒いつなぎを着た男が、向日葵寿司の店舗用エアコンの室外機をいじっている。
「あんた、何してんねや!」

 稀世が声をかけると、男は慌てて逃げようとした。稀世は、速攻で、男を捕まえた。しかし男があまりに騒ぐので、夜半であることを考慮し、周辺の家に不安を与えてはいけないと思い、男をチョークスリーパーで締め落とした。失神した男を店の中に連れて入ると、例のごとく、予告無しに、直が酒を持って遊びに来た。
「なんやこいつ?客なんか?」
「いや、なんかうちのエアコンの室外機ごそごそいじってたやつ。うちのエアコンが突然きけへんようなって見に行ったらこいつが居って、逃げようとするから、締め落としたってん。」

 男が意識を戻すと、直の尋問が始まった。簡略にまとめると、男は日高義巳という四十五歳の門真市内の某大手メーカー系列の販売店の従業員で、店主の命令で、エアコン修理のチラシをポスティングして、その二日以内の夜間に室外機から冷媒ガスを抜き、修理依頼をぼったくり価格で請求していたとの事だった。
 日高は、施設に入所している介護が必要な母親を抱え、店主から、「やるか」、「店を辞めるか」を迫られ、やむを得ず犯罪に手を染めていたとの事だった。前例通り、直は夜半にもかかわらず、金城司法書士事務所を呼び出した。呼び出された森と副島は、日高は、店主に強要されていた事実をもとに、自首することで、不起訴扱いを狙い、悪質業者の店主だけが詐欺と器物破損、教唆の刑を受ける筋を組んだ。
 
 直は、日高の過去の経歴を鑑み、日高は菅野電気店で引き取ることにした。男泣きする、日高に直は、
「これからは、罪滅ぼしに、ニコニコ商店街で仲間と地元のお客さんみんなの力になったってや。」
と優しく声をかけた。日高の今のアパートの家賃ももったいないと、空き部屋がたくさんある直の家に、住み込みで働くことになった。また、ニコニコ商店街に、新しい仲間ができた。
「直さん、日高さんに夜這い掛けたりしたらあきませんよ。」
と三朗が茶化すと、直が右手をくるりと回した。三朗の身体が中空で一回転し、床にたたきつけられた。稀世は、夜半にもかかわらず、三軒先まで聞こえるような声で大笑いした。




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