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60 悲しみの涙
しおりを挟むアルバートが去った部屋の中にマイラとローレン隊長が入って来た。
「リリーアンヌ様、大丈夫でしたか?」
マイラはメイドとしてではなく、私の心に寄り添おうと思う時、王妃様ではなくリリーアンヌ様と呼ぶ。
「ええ、私は大丈夫よ。心配かけてごめんなさいね。それと私とアルバートは離縁する事になったわ」
「ど、どうしてです。どうして離縁しないといけないんですか」
「人の心はどうにもならないものよ。私がどう思っていてもアルバートの心はアルバートのものだもの…。それに離縁が一番良いの。欲を言えばもっと早くしてほしかったけどね」
私はマイラに微笑んだ。
「リリーアンヌ様…」
マイラは私を抱きしめた。
「ありがとうマイラ。貴女が側にいてくれて本当に良かったわ。一人で悲しむ所だったもの。でも私にはマイラが付いている。それだけでどれだけ心強いか…」
「私がずっとお側にいます。私だけは必ず最後までお側に付いています」
「ありがとうマイラ……」
私もマイラに抱きついた。
アルバートが私をどう思っていようと私はアルバートを愛してる。この思いは友情ではなくて愛情。
でも離縁しか、北の離宮へ行くしかアルバートを救えない。私はアルバートに生きてほしい。
アルバートを支え見守る
それは幼い頃からの私の意志。離縁し遠く離れても私は見守り続けるつもり。
アルバートとナーシャ様が築くこの国を
王として立派になったアルバートを
側で支える事は出来なくてもこの選択はアルバートを支える事に繋がる。
だから『さよなら』は言わない。
またいつか、いつかまたアルバートと、今度は幼い頃からの友として会えると信じているから。
だから今は…、
泣か、せて……、ほしい…の………
私の恋が終わった日だから…
愛する人と離縁した日だから…
こぼれ落ちる涙と一緒に私のこの心も流れてほしい。
愛されていなかったと
ただ支える存在だったと
同じ志を目指す同士だったと
アルバートにとって私は女性ではなかったと…。
私はマイラに抱きつき涙を止める事が出来なかった。マイラは私の背中を優しく撫でる。まるでお母様に撫でられているみたいに……。
マイラは私が泣き止むまでずっと背中を撫でてくれた。
「リリーアンヌ様、たくさん泣いた後は水分をたくさん取りましょう」
「ええ」
マイラはハーブティーを入れ直してくれた。目の前に置かれた温かいハーブティーを飲もうとした時。
「うっ」
湯気が、香りが、
持っていたカップが私の手から離れ床に落ちた。
「王妃様、お怪我はありませんか?」
「え、ええ、ごめんな、さい……。床に、落として、しまった、わ……」
「カップも床も大丈夫です。掃除をすれば良いだけです。ですが王妃様のお怪我の方が大事です。火傷はしていませんか?」
「私は大丈夫よ。ドレスが濡れてしまったけど」
「ドレスも洗えば良いだけです。
ローレン隊長、申し訳ないのですが確認をしたいので部屋の外へ」
「あぁ、直ぐに出て行く」
「申し訳ありません」
ローレン隊長が部屋を出て行き、マイラは私のドレスの裾を捲り上げた。
「良かった…。火傷もお怪我もしていません。お召し物は濡れてしまったので着替えましょう」
「ええ、悪いわね」
マイラは衣装部屋からドレスを持って来て着替えを手伝ってくれた。
それから床のカップを拾い掃除をしてくれた。私はその間さっきまでアルバートが座っていたソファーに座っている。
掃除が終わったマイラは私の側に来て両膝を床に付け私を見上げる。膝の上で組まれた私の手に手を重ねた。
「リリーアンヌ様、一度医師に診察して頂きましょう」
「火傷も怪我もしてないんでしょ?」
「そちらは大丈夫です。そちらではなく…、
お子の方です……」
私は顔を横に振った。
「ですが月のものも遅れています」
「王太子妃になってから月のものが来ない月もあったの。精神的なものだと思うけど…。前の時もそう医師に言われたの。だから医師の診察は必要ないわ」
「ですが、」
「立て続けに色々あったから…。だから疲れているだけよ」
「……分かりました。ですが体調が悪くなるようならリリーアンヌ様が何を言おうとも医師に診察して頂きます」
「分かったわ。マイラ、ローレン隊長を呼んでほしいの」
マイラは部屋の外にいるローレン隊長を呼び、ローレン隊長が私の近くへ来た。
「妃殿下お怪我はありませんでしたか?」
「ええ大丈夫よ。それより今日の夜、地下の牢屋に行きたいの。地下の牢屋までの警備の対応、それから地下の牢屋には監視の騎士がいるわ。それにきっと影が隠れている。全員を眠らせてほしいの。そうしないとお父様と話をする事も出来ないわ」
「分かりました」
「牢屋の中にはローレン隊長、貴方だけ一緒に入って来て」
「お父上とお話する時は席を外します」
「ありがとう」
後は夜を待つだけ。
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