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59 妻として友として最後の言葉
しおりを挟むアルバートの執務室から出て私室へ向かう。
タイラーは邸に戻り、私は私室の窓から外を眺める。
コンコン
「妃殿下、陛下がお見えです」
私はその声にソファーを立ち上がり扉まで向かった。私の腕を掴むマイラの手。マイラは駄目だと顔を横に振っている。私は私を掴んでいるマイラの手に自分の手を重ね大丈夫と笑う。
「妃殿下」
「ごめんなさい、今開けるわ」
私は扉を開けアルバートを部屋に招き入れる。アルバートはソファーに座り、私は机を挟み向かい合うようにアルバートの前のソファーに座った。
マイラはハーブティーを用意し壁際に立った。
アルバートは一口ハーブティーを飲んだ。
「リリーアンヌ、悪いが二人きりで話がしたい」
「分かりました」
私はマイラに目配せをした。マイラは小さく首を横に振った。
「マイラ」
私なら大丈夫、と微笑んだ。
「何かご用があればお呼び下さい。部屋の前で控えております」
「ええ」
マイラが部屋を出て行き部屋に残ったのは私とアルバートだけになった。
「ご用があれば先程お聞きしましたのに」
「リリーアンヌ、俺を助けてくれないか」
「助ける?」
「帝国を止めないといけない。侵略されれば…、この国は…」
「ならなぜ直ぐに返答をしなかったのです。3通も書簡が届き、そのいずれも返答をしていない。そうなのでしょ」
「あぁ…」
「返答をしなければ帝国と刃を交えるつもりだと答えているのと同じです」
「だからリリーアンヌに助けてほしいんだ」
アルバートの縋るような顔。
「王なら王らしくして下さい」
「リリーアンヌ…」
「はぁ、分かりました。では辺境にいる皇帝に直ぐに返答をして下さい。侵略は待ってくれと。今まで返答をせず申し訳なかったと」
「分かった。だが書簡の内容についての返答はどうしたら良い」
「それも私に尋ねると?」
「ナーシャの事は申し訳ないと思っている。リリーアンヌに相談もせず勝手に決めたのは俺だ。こんな事リリーアンヌに頼む事ではないと俺も分かっている。
それでも俺にはリリーアンヌしかいないんだ」
「では私と離縁して下さい」
「嫌だ!……それだけは嫌だ」
私はアルバートを無視し話し始めた。
「書簡の返答にこう示して下さい。
王妃は王妃の器にあらず。事実関係を把握するために返答が遅くなり申し訳ない。王妃の器に相応しくない者をその座に置くことは出来ない。よって王妃とは離縁を決断した。王妃は北の離宮へ、そして第二夫人を王妃へと決定した」
「リリーアンヌ、北の離宮がどんな所が知っているのか」
北の離宮、離宮の中でも一番厳しい環境。周りには綺麗な景色も何もない。農作物が育たない地。荒れた地で国が管理している土地。離宮だけがポツンと建ち、その土地に住む者は誰一人いない。
目立つ離宮は標的になる。その地で誰が死のうが誰に殺されそうが誰にも目撃される事もなければ発見される事もない。
国が管理している土地に騎士であろうと無断で入る事は出来ないから。月に一度物資を騎士が運ぶ。その時に安否確認をする。
でも逆に誰に目撃される事もなく脱出出来る。お兄様が離宮へ来た時の為に北の離宮が一番都合が良い。
「ええ、でもこれで良いのよ」
「…い…や……だ………。俺を、俺を一人にするのか?」
「アルバート、貴方はもう一人でも大丈夫。私やタイラーが側に居なくてももう貴方は一人で立つ事が出来るわ。
貴方のこれからを支えるのはナーシャ様。ナーシャ様なら王妃として貴方を支えてくれる」
「ナーシャでは無理だ」
「アルバート、これからは貴方がナーシャ様を導けば良いの。そしてアルバート、貴方なら導けると私は信じてる。それだけの努力を今までしてきたでしょ?
私は王になるまでの支え、ナーシャ様は王になってからの支え、私はそう思うわ」
「…嫌…だ……、嫌だ、俺は王になったこれからもリリーアンヌに支えてほしい」
「アルバート、人の心は移りゆくものよ。アルバートの心が移ったのも自然の流れ。
アルバートは本当の愛を知ったの。
私とアルバートは友情の域を越えなかった。それなのにアルバートはそれを愛情と勘違いしただけ」
「違う!俺はリリーアンヌを愛してた」
愛してた、もう過去形。それがアルバートの心…。
「アルバート、貴方の妻として最後の言葉よ。
立派な王におなりください」
「リリーアンヌ……」
「そしてこれは友として最後の言葉。
アルバートなら立派な王に必ずなれると信じてる。貴方は優しく強い。自信を持って。
私はもう近くで貴方を見守る事は出来ない。でも遠い地で貴方が立派な王になるのを祈ってるわ。
いつか、いつかまた、友として会える日まで…」
「ああ、いつかまた、必ず会おう」
この日、私とアルバートは書類上ではなくお互い心の区切りを付け、決別した……。
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