褒美で授与された私は王太子殿下の元婚約者

アズやっこ

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ロータス卿

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次の日、私は婚姻証明書の紙を持って、婚姻の手続きをする為に王宮へ向かった。


「早急にこちらをお願いしますね」

「本当によろしいんですね」

「ええ、お願いします」


文官は何度も私に確認した。あの場に居なかった者もこの婚姻を皆が知っている。王命と同等だという事も。優先して陛下に印を貰いに行くと思う。

私はそのまま王宮軍の宿舎に立ち寄った。


「すみません、アンセム侯爵家の者ですが、リーストファー様の荷物を受け取りに伺いました」

「はい」


奥から出てきた若い騎士見習いは私の顔を見た。


「あ、あの…、少し、お待ち頂けますか?」

「ええ構いません」


バタバタと足音が遠くなり、私は宿舎の入口で待っている。王宮軍の宿舎に入ったのは初めて。

大きな樽が、123………8、8樽?


「お、酒、の、樽よね?」

「ええ」


後ろから聞こえた声に私は振り返った。


「陛下から先日頂きました。騎士は酒飲みが多いですから」

「ロータス卿、お久しぶりです」

「お久しぶりですエルギール公爵令嬢」

「1樽リーストファーに持っていかれますか?」

「いいえ、皆様で」


私は軽く微笑んだ。


「ではありがたく。本日はリーストファーの荷物を取りにみえたと聞きましたが」

「リーストファー様に頼まれた訳ではないんですが、先程婚姻の手続きも終わりまして、王宮へ来たついでにこちらに残っている荷物をと。アンセム侯爵家にはリーストファー様のお荷物があまりないようなので、こちらかと思いまして」

「本人でないとお渡しができないんですが、奥方なら問題はないですね。では案内します」


私はロータス卿の後ろを付いて歩いていく。すれ違う騎士達にジロジロと見られ、中には鋭い視線を向けられる時もあった。


「本当に夫婦になられたんですね」


前を歩くロータス卿は前を向いたまま話している。


「はい先程」

「申し訳ありません」

「ロータス卿に謝られては私が困ってしまいます。私の方こそロータス卿に謝らなくてはなりません。戦場では殿下がご迷惑をおかけしたそうで申し訳ありませんでした」

「それこそエルギール公爵令嬢に謝られては私が困ります」


ロータス卿は立ち止まり後ろを振り返った。私とロータス卿は向かい合った。

ロータス卿は少し白髪の混じった優しい雰囲気を纏う王宮軍の戦術家。元々前線で剣を振っていた。怪我をして戦術家になったと聞いた。武術にも長けていて頭が賢く機転が利く。騎士は無骨な方が多いけどロータス卿は紳士な人という印象。


「リーストファーを止めれず申し訳ありません。王太子殿下の婚約者の貴女を妻に望むとは思いませんでした」

「私も初めは驚きましたが今は夫婦です。だからもうお気になさらないで下さい」


私はロータス卿に微笑んだ。ロータス卿も『ふっ』と微笑んだ。


「こちらです。ここがリーストファーの部屋になります」


ロータス卿が部屋の扉を開け中に入り私も後に続いて部屋に入った。

机と椅子、それとベッド。軍服が椅子に掛けてあり床には練習着が数枚無造作に置いてあった。壁に立て掛けてある剣が数本。木刀も数本立て掛けてある。


「辺境へ向かう前ですから少し散らかっていますが、整頓されている方です。歩く場所がある。他の部屋は足の踏み場もないですから」


苦笑いをしたロータス卿。

私は部屋を見渡した。殺風景な部屋。置いてあるのは騎士にとって必要な物だけ。この部屋で暮らしたのも1年ぐらいだから?

26歳のリーストファー様は王都より辺境にいる方が長い。


「ロータス卿はベートン伯爵家のご子息をご存知ですか?」

「テオン騎士の事ですか?」

「はい。リーストファー様とご友人のテオン騎士の事です」

「辺境で二人が一緒にいるのをよく見かけました」

「ロータス卿から見てお二人はどう映りましたか?」

「一言で言うと一対」

「一対、ですか」

「言葉を交わさなくてもお互いの考えている事が分かる。そして互いの背を託し片方が動きやすいように動く」

「そうですか、辺境にはテオン様はじめご友人達が多くいますもの、リーストファー様も戦場では阿吽の呼吸で動きやすかったのかもしれませんね。

あの、テオン様は今も辺境ですか?テオン様のお話はリーストファー様にお聞きしたんですが、今どうしているのか聞きそびれてしまって…」


ロータス卿の空気が変わった。


「私がお伝えする事はありません。きっと貴女ならこの意味がお分かりになると思います」


ロータス卿は私を真っ直ぐ見つめた。


「分かりました。ありがとうございます」


テオン様はあの戦で亡くなった。

ロータス卿が一対と思うほど二人の絆は強かった。同じ境遇で育ち騎士になった。きっと兄弟よりももっと近い自分の片割れ、そんな存在。


「ロータス卿、一つお伺いしてもよろしいですか」

「どうぞ」

「殿下は辺境で何をしたのですか?」

「それは…、それはやめましょう」


ロータス卿が言葉に詰まるほどの事をした。


「そうですね」


きっといつか聞ける時がくる。


「部屋にご案内までして頂きましたが私が持ち帰れる物は何もありませんね」

「いつか本人が片付けに来るでしょう。それまでこの部屋はこのままにするつもりです。リーストファー自身がこの部屋を片付け前に進まなくては」

「そうですね…。それまでよろしくお願いします」


私はロータス卿にお礼を言って王宮を後にした。



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