褒美で授与された私は王太子殿下の元婚約者

アズやっこ

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ご武運を

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名目は合同訓練となり、王宮軍は準備ができ次第辺境へ向かうことになった。

『辺境隊との合同訓練を許可願います。訓練なので全軍で辺境に向かいます。見習い達にもいい訓練になるでしょう』おじさまはそう陛下に言った。『合同訓練か、辺境伯にその旨を伝えよう』

合同訓練という名の制圧に、陛下の許可が下りた。

そして今は王宮軍から帰る馬車の中。


「良かったのですか?」

「ん?」

「復讐する機会でした」

「確かにな、でももういい。今後も復讐するつもりはない」

「殿下にも?」

「ああ」


リーストファー様の顔は嘘を言っているような顔ではない。


「リーストファー様も王宮軍と共に辺境へ行かれますか?」

「俺は数人連れて先に行くつもりだ。俺が説得する」

「そうですか」

「ミシェル、俺は間違っているか?友に剣を向ける、間違いだろうか」

「友だから正す、友にしかできないと私はそう思います。暴動を起こせばもう後戻りはできません。謀反は成功してこそその名の意味を持ちます、失敗すれば死です。そして今回は王宮軍が動く以上、失敗する可能性が高い」

「だな」

「ご自分の判断を信じて下さい。私はリーストファー様の判断を信じています。迷いがあっては説得できませんよ?」

「ああ」


迷い、これが最善と思っていても、心を持つ以上、人は迷う。敵と言ってもリーストファー様にとって、辺境の彼等は大きな家族。幼い頃から共に育った友に、幼い頃から辺境の一員として迎えてくれた家族に剣を向ける、恩を仇で返すようなもの。

共に立ち上がろう、共に声を上げよう、共に剣を振ろう、我等の正義の為に…。

彼等はリーストファー様を裏切り者と思うかもしれない。それでも、己の信念を貫いてほしい。

今、陛下は彼等を護る為に動いている。辺境伯も彼等を護る為に止めている。

あなた達を護る為に皆が動いているという事を知ってほしい。皆の心が伝わってほしいと切に願う。


「ミシェル、辺境へはまた日を改めて行こう」

「そうですね」


私はにこっと微笑んだ。


「分かってるのか?」

「分かってますよ?」


私はにこにこと笑った。

私は辺境へ行くのではない、領地へ行くの。領地に向かうには辺境を通るしかない。馬車の旅、休憩は必要よね?たまたま、休憩する為に辺境に立ち寄っても何も問題はない。

だって、今辺境が暴動を起こそうとしているなんて知られていないんだもの。それに王宮軍が全軍で辺境へ向かったとしても、合同訓練なのよ?


「今辺境は緊迫している。口頭だけで収まればこんな状況になっていない。一戦交えるしかない。危険なんだ、本当に危険なんだ」

「ええ、辺境は危険です」


辺境はね。でも領地は安全。危険な辺境を横切らないといけないけど。

それよりも、王宮軍から帰る時若者達と挨拶をしていたら『今度は罵倒お願いします』と言われたけど、言葉の綾ってだけで、私、罵倒なんてしないわよ?まあ、してと言われたらするけど。

でも、どういう意味なのかしら。私、そんなに怖い人だと思われてるの?自分自身か弱い女性とは思っていないけど、私だって男性に守られたいと思うわ。まだ17歳よ?うら若き乙女だもの。


次の日の朝、私はリーストファー様を見送る為に玄関にいる。

リーストファー様は軍服を着て、腰にはご自分の剣とテオン様の剣を差している。


「ミシェル?」

「はいリーストファー様、とても素敵です」


私は軍服姿のリーストファー様をうっとりと見つめている。

初めて見る軍服姿、洗練された軍服に副隊長としての貫禄、そして見目まで揃い、素敵以外の言葉が見つからない。

妙々たるその姿、今すぐ絵師を呼んで描いてもらいたいくらいだわ。


「行ってくる」


リーストファー様は私を抱きしめた。


「お気をつけて」


私はリーストファー様の背に手を回した。リーストファー様は私をギュッと抱きしめた。


「ご武運をお祈りします」

「ああ、ミシェル愛してる」


リーストファー様は離れるのを惜しむかのように、長い口付けを落とした。

玄関の外に出ればリックが立っていた。


「リック、こんな朝早くどうしたの?」

「当主からこの馬を使えとの伝言です」

「お義父上からか、助かる。軍で一頭借りようと思っていた」


リーストファー様は私を抱きしめ『行ってくる』と耳元で囁やき、馬に跨った。

『お気をつけて』と私はリーストファー様の姿が見えなくなるまで見送る。


「で、すぐに出ますか?」

「何を言ってるの?」

「どうせ行くんですよね?」

「あらあら、分かる?」

「当主が『ミシェルが座して待つ訳がない』って言ってましたよ?」

「お父様にはお見通しってことね」

「俺達が護衛にあたります。公爵家は当主が居たら最も安全な場所ですから、見習いだけで十分です」

「そう?ならお父様に甘えるわ」


『一度戻ります』とリックは帰っていき、ニーナは旅支度を大急ぎで始めた。

今回、リックだけ一緒に連れて行かせてほしいとお父様に頼むつもりだった。ずっと私の護衛をしてくれていたリックなら気心も知れてるし、私も旅路を安心して任せられるから。

さあ、辺境へ出発よ。



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