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麗らかな春の温もりと風が、少し開け放たれた窓から教室へとやってくる。その優しさに包まれていると眠気が襲ってくるのは必然だ。
特に五時間目という、腹が満たされた状態だとより顕著になるだろう。それに加えて、淡々とした先生の授業が子守歌のように思えて意識が途切れ途切れになってくる。
今、布団の中で眠ることができたらきっと幸せだろう。そんなことを思った学生はこれまで数知れないはず。
しかし次の瞬間、頭に何かが当たる感触があった。
一度目は気のせいかと思ったが、続けて二度三度と繰り返されるので、これは明らかに人為的なものだろう判断し確認すると、そこには不敵な笑みを浮かべる銀河の姿があった。
銀河は沖長の席から左斜め後ろの席であり、一つ列を挟んでいるのもかかわらず、どうやら器用に消しゴムの欠片を飛ばしてきていた。
こういうのは相手にしない方が良いと無視する。しかしそれでも銀河は手を止めることなく消しゴム攻撃を繰り出してきた。
(まったく……ガキかよアイツは)
転生者なんだから、そんなくだらないことをするなと言いたいが、それを言えばこちらも同じ穴の狢だと言っているようなものなので我慢だ。
消しゴムがなくなれば諦めるだろうと思ってチラッと銀河の方を見ると、カバンの中から新しい消しゴムを取り出して千切り出した。
(うっそぉ……)
わざわざ新品まで取り出してまた弾を補充するとは、そこまでするのは逆に感嘆ものだった。しかし悪いことはいずれバレるとはよく言ったもので……。
「――金剛寺くん?」
いつの間にか彼の目の前に立っていた先生に声をかけられビクッとして、ゆっくりと顔を上げて先生の顔を見る銀河。
「授業中はちゃ~んとお勉強に集中しましょうね?」
丁寧な口調ではあるが、その雰囲気はどこか物言わせぬ気迫があった。
「うっ……お、俺はちゃんと勉強してるし、この程度の授業なんて退屈でしかないんだよ!」
それを言うかと心の中で呆れていると、先生の額に青筋が走った。
「ふぅん……そっかそっかぁ。金剛寺くんにはお勉強は必要ないってことかぁ」
「そうだ! 俺は天才だしな! 小学生の勉強なんてとっくに終わらせてる!」
それは転生者だからだろう。そんなに胸を張って自慢することではない。
「へぇ…………これは本当に金剛寺さんが言ってた子のようね」
ボソッと言ったので、周りには聞こえていないかもしれないが、例の如く耳の良い沖長には先生が何を言ったか分かっていた。
(金剛寺さんが言ってた? ああ、もしかしてアイツの姉のことかな?)
先生がどこか納得気な表情なのは、銀河の態度に驚いていないこと。つまり予測されていたからこその平静さなのだろう。そしてその情報の出所は、銀河の姉。
「じゃあここでお勉強しても意味ないんだね?」
「もちろんだ! これでも高校受験を控えてたからな!」
「……はい?」
「ん? ……! あ、いや、今のはその……じょ、冗談だ!」
さすがに自分が墓穴を掘ったことに気づいたようで、銀河が焦りを見せる。
どうやら彼も堂々と自分が転生したことを周囲に教えるつもりはないようだ。
(それにしても高校生だったのかよ。しかも受験生。だったら猶更痛過ぎだろ)
受験生ともなれば、それなりに精神が熟達していてもおかしくはない。なのにもかかわらずあの言動。もしかしたら肉体に精神が引っ張られている状態なのか。
(まあ確かに俺も、どこか感情的になった自覚はあるけど)
子供は感情に素直で、コントロールが上手くできないものだ。それを様々な経験の中で学び成長させていくのである。
肉体的にも精神的にも未熟な子供という器に生まれ変わったことで、記憶や知識はあるものの、子供の肉体に合わせて精神が退行している可能性は否めない。
(だとしても赤髪や金剛寺はガキっぽ過ぎだけどなぁ)
とても元高校生以上とは思えない。自分で自分を律し、自制心を強く持とうと心掛けている沖長と、欲望のままに生きている彼らとでは、退行するにしても、その度合いは違うのかもしれない。
「よく分からないことまで言って。こうなったらそうねぇ。賢~い金剛寺くんには、別のお勉強が必要みたいね」
「べ、別のだと?」
すると先生はニッコリと口角を上げると、その言葉を口にする。
「君のお姉さんとのマンツーマン授業よ」
「んなぁっ!? ど、どっどどどどどういうことだそれはぁっ!?」
明らかに動揺する銀河。顔は真っ青で汗も溢れ出ている。それだけで彼にとって姉の存在がどれだけ強いものか理解できる。
「君のお姉さんがね、君が授業の邪魔をしたらそう言ってほしいって頼まれてたのよ」
「っ…………!?」
言葉が出ない様子だ。まさに驚天動地といったところ。先ほどまでの余裕は微塵も残っていない。
「きっと金剛寺くんは授業の邪魔になるようなことをするから。その時は、お姉さんがここに直接迎えに来て、その後に二人だけで授業をするそうよ?」
銀河の表情が面白いように歪み始め、今にも涙を流しそうだ。
「それが嫌なら、ちゃーんと授業に集中すること。……それとも呼ぶ?」
「いいえっ! しっかり勉強します、はいっ!」
「うん、素直でよろしい」
先生は結果に満足したようで、上機嫌のまま授業を再開した。
対して銀河はというと、脇目も振らずに先生を凝視している。瞬きすらせずに。
(どんだけ姉が怖いんだよ……)
もっとも入学式の一件を知っているから、何となくその恐ろしさは分かっているが。
とにもかくにもこれで静かになると安堵した。
しかし、この金剛寺銀河という奴は、こちらの想像以上にねちっこい性格をしていたらしく……。
「おいお前! この俺と勝負しろ!」
放課後になり、ナクルと一緒に下校の準備をしていると、突然銀河が沖長に対して申し出てきたのであった。
特に五時間目という、腹が満たされた状態だとより顕著になるだろう。それに加えて、淡々とした先生の授業が子守歌のように思えて意識が途切れ途切れになってくる。
今、布団の中で眠ることができたらきっと幸せだろう。そんなことを思った学生はこれまで数知れないはず。
しかし次の瞬間、頭に何かが当たる感触があった。
一度目は気のせいかと思ったが、続けて二度三度と繰り返されるので、これは明らかに人為的なものだろう判断し確認すると、そこには不敵な笑みを浮かべる銀河の姿があった。
銀河は沖長の席から左斜め後ろの席であり、一つ列を挟んでいるのもかかわらず、どうやら器用に消しゴムの欠片を飛ばしてきていた。
こういうのは相手にしない方が良いと無視する。しかしそれでも銀河は手を止めることなく消しゴム攻撃を繰り出してきた。
(まったく……ガキかよアイツは)
転生者なんだから、そんなくだらないことをするなと言いたいが、それを言えばこちらも同じ穴の狢だと言っているようなものなので我慢だ。
消しゴムがなくなれば諦めるだろうと思ってチラッと銀河の方を見ると、カバンの中から新しい消しゴムを取り出して千切り出した。
(うっそぉ……)
わざわざ新品まで取り出してまた弾を補充するとは、そこまでするのは逆に感嘆ものだった。しかし悪いことはいずれバレるとはよく言ったもので……。
「――金剛寺くん?」
いつの間にか彼の目の前に立っていた先生に声をかけられビクッとして、ゆっくりと顔を上げて先生の顔を見る銀河。
「授業中はちゃ~んとお勉強に集中しましょうね?」
丁寧な口調ではあるが、その雰囲気はどこか物言わせぬ気迫があった。
「うっ……お、俺はちゃんと勉強してるし、この程度の授業なんて退屈でしかないんだよ!」
それを言うかと心の中で呆れていると、先生の額に青筋が走った。
「ふぅん……そっかそっかぁ。金剛寺くんにはお勉強は必要ないってことかぁ」
「そうだ! 俺は天才だしな! 小学生の勉強なんてとっくに終わらせてる!」
それは転生者だからだろう。そんなに胸を張って自慢することではない。
「へぇ…………これは本当に金剛寺さんが言ってた子のようね」
ボソッと言ったので、周りには聞こえていないかもしれないが、例の如く耳の良い沖長には先生が何を言ったか分かっていた。
(金剛寺さんが言ってた? ああ、もしかしてアイツの姉のことかな?)
先生がどこか納得気な表情なのは、銀河の態度に驚いていないこと。つまり予測されていたからこその平静さなのだろう。そしてその情報の出所は、銀河の姉。
「じゃあここでお勉強しても意味ないんだね?」
「もちろんだ! これでも高校受験を控えてたからな!」
「……はい?」
「ん? ……! あ、いや、今のはその……じょ、冗談だ!」
さすがに自分が墓穴を掘ったことに気づいたようで、銀河が焦りを見せる。
どうやら彼も堂々と自分が転生したことを周囲に教えるつもりはないようだ。
(それにしても高校生だったのかよ。しかも受験生。だったら猶更痛過ぎだろ)
受験生ともなれば、それなりに精神が熟達していてもおかしくはない。なのにもかかわらずあの言動。もしかしたら肉体に精神が引っ張られている状態なのか。
(まあ確かに俺も、どこか感情的になった自覚はあるけど)
子供は感情に素直で、コントロールが上手くできないものだ。それを様々な経験の中で学び成長させていくのである。
肉体的にも精神的にも未熟な子供という器に生まれ変わったことで、記憶や知識はあるものの、子供の肉体に合わせて精神が退行している可能性は否めない。
(だとしても赤髪や金剛寺はガキっぽ過ぎだけどなぁ)
とても元高校生以上とは思えない。自分で自分を律し、自制心を強く持とうと心掛けている沖長と、欲望のままに生きている彼らとでは、退行するにしても、その度合いは違うのかもしれない。
「よく分からないことまで言って。こうなったらそうねぇ。賢~い金剛寺くんには、別のお勉強が必要みたいね」
「べ、別のだと?」
すると先生はニッコリと口角を上げると、その言葉を口にする。
「君のお姉さんとのマンツーマン授業よ」
「んなぁっ!? ど、どっどどどどどういうことだそれはぁっ!?」
明らかに動揺する銀河。顔は真っ青で汗も溢れ出ている。それだけで彼にとって姉の存在がどれだけ強いものか理解できる。
「君のお姉さんがね、君が授業の邪魔をしたらそう言ってほしいって頼まれてたのよ」
「っ…………!?」
言葉が出ない様子だ。まさに驚天動地といったところ。先ほどまでの余裕は微塵も残っていない。
「きっと金剛寺くんは授業の邪魔になるようなことをするから。その時は、お姉さんがここに直接迎えに来て、その後に二人だけで授業をするそうよ?」
銀河の表情が面白いように歪み始め、今にも涙を流しそうだ。
「それが嫌なら、ちゃーんと授業に集中すること。……それとも呼ぶ?」
「いいえっ! しっかり勉強します、はいっ!」
「うん、素直でよろしい」
先生は結果に満足したようで、上機嫌のまま授業を再開した。
対して銀河はというと、脇目も振らずに先生を凝視している。瞬きすらせずに。
(どんだけ姉が怖いんだよ……)
もっとも入学式の一件を知っているから、何となくその恐ろしさは分かっているが。
とにもかくにもこれで静かになると安堵した。
しかし、この金剛寺銀河という奴は、こちらの想像以上にねちっこい性格をしていたらしく……。
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