29 / 258
28
しおりを挟む
「……勝負? 何それ?」
クラスメイトたちが注目する中、銀河は自信ありげな笑みを浮かべながらそれを口にする。
「男の勝負だっ!」
こちらが聞いているのは何でそんなことをする必要があるのかということ。しかも男の勝負とのたまうが、内容すら不明とは呆れてしまう。
ただ、宣言したあとにニコッと輝くような笑顔を銀河が見せると、周りの女子たちが彼に向かって黄色い声援を送る。一体女子生徒たちはどうしたというのか。
確かにイケメンではあるが、ナクル以外のほとんどが心を奪われている現状は些か不気味としか思えない。まるで何か催眠術にでもかかっているかのようだ。
「……バカバカしい。ナクル、帰ろっか」
「はいッス!」
ナクルも相手にするつもりはないようで、ランドセルを背負うと隣にやってくる。そのまま二人並んで歩き出そうとするが……。
「…………どいてくれない?」
星クズ少年が立ちはだかる。
「もう! じゃましないでほしいッス!」
さすがのナクルも黙っていられないようで、口を尖らせながら言い放った。
「うっ……じゃ、邪魔なんてしてない! 俺はただナクルのために!」
「ボクのためにって何ッスか! ボクはオキくんといっしょに帰りたいのに、じゃましてるのはそっちじゃないッスか!」
ナクルの正論に対し、一瞬気圧される銀河だがそれでも諦めない。
「いいや目を覚ませ、ナクル! お前はそいつに騙されてんるだよ! そうだ、そうに違いない!」
「むぅ、そんなことないッス! オキくんはとってもやさしくていい子ッス!」
ナクルがそんな風に思っているなんてどこか気恥ずかしい。自分はただナクルを妹分として可愛がっているだけなのだが。
「うぐっ! ……一体どうなってんだよ……マジでコイツ誰なんだ? 俺がまだやってなかったゲームに出てきたキャラとかか?」
だからブツブツ言おうがこちらは聞こえているのだ。
(ゲーム……ね。じゃあ原作はゲームなのか? それともアニメが人気になってゲーム化したのか?)
憶測はできるが、少なくともゲームが出ていることだけは分かった。それも恐らくは複数。ということはかなりの人気作だった可能性が高い。
(俺もゲーム好きだったし、RPGだけじゃなくいろいろ手を出したけど、ナクルが出てくるようなゲームは知らないよなぁ)
当然すべてのジャンルを網羅したわけではないし、好きなRPGにも知らないゲームは存在する。だから沖長が知らないのも無理からぬこと。
「と、とにかくナクルはこっちに来い!」
口では勝てないと察したのか、焦ったようにナクルを腕を握った銀河……だったが、
「触らないでッス!」
相手が悪かったと言うしかない。
ナクルはこう見えて古武術を習い続けているのだ。普通の女の子だと思って甘く見ると痛い目を見る。
その証拠に、銀河はナクルによって投げ飛ばされてしまった。
(今のは確か空気投げだったけか?)
柔道にある技であり、足を掛けたり背負うことはせず、手の崩しだけで投げるのだ。かなり難易度の高い技であるのだが、ナクルはいとも簡単に繰り出してみせた。
銀河は「ぐへぇ!?」とカエルが潰れたような声を上げて床に叩きつけられている。
「……! あ、ご、ごめんなさいッス!」
ナクルも反射的に起こした手段だったのか、慌てて銀河の心配をする。やはりナクルは優しい子だと感心する。
しかしその時だ。
「――大丈夫。そんな奴に謝らなくていいから」
そんな声とともに教室へ入ってきた一人の女子生徒がいた。
一気に場がざわつき始め、特に男子たちがそのあまりの可愛さに見惚れてしまっている。
といっても沖長は、その女子生徒のことを知っていたし見惚れるほどロリコンではない。間違いなく可愛いとは思うが。
「……っ!? あ、あああ姉貴!?」
銀河がその女子生徒を見て愕然とする。
そう、登場したのは彼の姉。名前は……そう言えば知らない。
「アンタ、やっぱりまた騒ぎを起こしてるのね」
「な、何でここにいるんだよ! ここは下級生の教室だぞ!」
「授業中ならともかく今は放課後だし。昨日も言ったでしょ。アタシは美化委員なの。放課後に定期的に学校内を見て回る仕事だってあるのよ」
なるほど。委員会というのは前世の時もあったけど、なかなかに面倒そうだ。必ず何かに入らなければならないのであれば、できれば自分の時間をあまり削らない、あるいは利点の多い委員会に入りたい。
図書委員とか保健委員なら何となく楽そうだし、いろいろ回収もできそうなので推奨である。
「でもやっぱりここに来て正解ね。大きな粗大ゴミがあるし」
「だ、誰が粗大ゴミだよ!」
「アンタよ、ア・ン・タ! また人様に迷惑かけて! もういい加減にしなさいよね!」
そう言いながら銀河の耳を引っ張り上げ、彼はその痛みに顔を歪めている。
「アンタはこれからアタシの仕事を手伝いなさい。ううん、アタシが卒業するまで放課後はずっとね」
「ふ、ふざけんな! 何で俺がそんなことを――」
「ああん?」
「い、いや……だって……お、俺にだって用事があったり……」
どんどん語気が弱くなっていくのが分かる。
「いいからお姉さまの言うことは聞くの。それが弟の使命なの。生きがいなの。運命なの。分かった?」
「そ、そんな理不尽な……」
沖長もそう思うが、心の中では「いいぞ、もっとやれ」と姉を応援している。
「文句あんの? ああ?」
「…………分かりました」
「ん、素直な子は好きよ」
そう言いながら銀河の頭を軽く撫でる。そしてその顔が彼からこちらへと向く。
「あなたたちはあの時の……ね。何度もごめんね、このバカが」
「え? あ、ボ、ボクは大丈夫ッス!」
「あは、確かにそうね。コイツを投げ飛ばすくらいだもん。あなたは何もされてない?」
今度は沖長に尋ねてきたので、「問題ありません」と簡単に答えておく。
「それは良かったわ。あ、そうそう。アタシは四年生の金剛寺夜風よ、このバカともどもよろしくね」
次に他のクラスメイトたちにも夜風は謝罪をし、意気消沈している銀河を引き連れて去って行った。
クラスメイトたちが注目する中、銀河は自信ありげな笑みを浮かべながらそれを口にする。
「男の勝負だっ!」
こちらが聞いているのは何でそんなことをする必要があるのかということ。しかも男の勝負とのたまうが、内容すら不明とは呆れてしまう。
ただ、宣言したあとにニコッと輝くような笑顔を銀河が見せると、周りの女子たちが彼に向かって黄色い声援を送る。一体女子生徒たちはどうしたというのか。
確かにイケメンではあるが、ナクル以外のほとんどが心を奪われている現状は些か不気味としか思えない。まるで何か催眠術にでもかかっているかのようだ。
「……バカバカしい。ナクル、帰ろっか」
「はいッス!」
ナクルも相手にするつもりはないようで、ランドセルを背負うと隣にやってくる。そのまま二人並んで歩き出そうとするが……。
「…………どいてくれない?」
星クズ少年が立ちはだかる。
「もう! じゃましないでほしいッス!」
さすがのナクルも黙っていられないようで、口を尖らせながら言い放った。
「うっ……じゃ、邪魔なんてしてない! 俺はただナクルのために!」
「ボクのためにって何ッスか! ボクはオキくんといっしょに帰りたいのに、じゃましてるのはそっちじゃないッスか!」
ナクルの正論に対し、一瞬気圧される銀河だがそれでも諦めない。
「いいや目を覚ませ、ナクル! お前はそいつに騙されてんるだよ! そうだ、そうに違いない!」
「むぅ、そんなことないッス! オキくんはとってもやさしくていい子ッス!」
ナクルがそんな風に思っているなんてどこか気恥ずかしい。自分はただナクルを妹分として可愛がっているだけなのだが。
「うぐっ! ……一体どうなってんだよ……マジでコイツ誰なんだ? 俺がまだやってなかったゲームに出てきたキャラとかか?」
だからブツブツ言おうがこちらは聞こえているのだ。
(ゲーム……ね。じゃあ原作はゲームなのか? それともアニメが人気になってゲーム化したのか?)
憶測はできるが、少なくともゲームが出ていることだけは分かった。それも恐らくは複数。ということはかなりの人気作だった可能性が高い。
(俺もゲーム好きだったし、RPGだけじゃなくいろいろ手を出したけど、ナクルが出てくるようなゲームは知らないよなぁ)
当然すべてのジャンルを網羅したわけではないし、好きなRPGにも知らないゲームは存在する。だから沖長が知らないのも無理からぬこと。
「と、とにかくナクルはこっちに来い!」
口では勝てないと察したのか、焦ったようにナクルを腕を握った銀河……だったが、
「触らないでッス!」
相手が悪かったと言うしかない。
ナクルはこう見えて古武術を習い続けているのだ。普通の女の子だと思って甘く見ると痛い目を見る。
その証拠に、銀河はナクルによって投げ飛ばされてしまった。
(今のは確か空気投げだったけか?)
柔道にある技であり、足を掛けたり背負うことはせず、手の崩しだけで投げるのだ。かなり難易度の高い技であるのだが、ナクルはいとも簡単に繰り出してみせた。
銀河は「ぐへぇ!?」とカエルが潰れたような声を上げて床に叩きつけられている。
「……! あ、ご、ごめんなさいッス!」
ナクルも反射的に起こした手段だったのか、慌てて銀河の心配をする。やはりナクルは優しい子だと感心する。
しかしその時だ。
「――大丈夫。そんな奴に謝らなくていいから」
そんな声とともに教室へ入ってきた一人の女子生徒がいた。
一気に場がざわつき始め、特に男子たちがそのあまりの可愛さに見惚れてしまっている。
といっても沖長は、その女子生徒のことを知っていたし見惚れるほどロリコンではない。間違いなく可愛いとは思うが。
「……っ!? あ、あああ姉貴!?」
銀河がその女子生徒を見て愕然とする。
そう、登場したのは彼の姉。名前は……そう言えば知らない。
「アンタ、やっぱりまた騒ぎを起こしてるのね」
「な、何でここにいるんだよ! ここは下級生の教室だぞ!」
「授業中ならともかく今は放課後だし。昨日も言ったでしょ。アタシは美化委員なの。放課後に定期的に学校内を見て回る仕事だってあるのよ」
なるほど。委員会というのは前世の時もあったけど、なかなかに面倒そうだ。必ず何かに入らなければならないのであれば、できれば自分の時間をあまり削らない、あるいは利点の多い委員会に入りたい。
図書委員とか保健委員なら何となく楽そうだし、いろいろ回収もできそうなので推奨である。
「でもやっぱりここに来て正解ね。大きな粗大ゴミがあるし」
「だ、誰が粗大ゴミだよ!」
「アンタよ、ア・ン・タ! また人様に迷惑かけて! もういい加減にしなさいよね!」
そう言いながら銀河の耳を引っ張り上げ、彼はその痛みに顔を歪めている。
「アンタはこれからアタシの仕事を手伝いなさい。ううん、アタシが卒業するまで放課後はずっとね」
「ふ、ふざけんな! 何で俺がそんなことを――」
「ああん?」
「い、いや……だって……お、俺にだって用事があったり……」
どんどん語気が弱くなっていくのが分かる。
「いいからお姉さまの言うことは聞くの。それが弟の使命なの。生きがいなの。運命なの。分かった?」
「そ、そんな理不尽な……」
沖長もそう思うが、心の中では「いいぞ、もっとやれ」と姉を応援している。
「文句あんの? ああ?」
「…………分かりました」
「ん、素直な子は好きよ」
そう言いながら銀河の頭を軽く撫でる。そしてその顔が彼からこちらへと向く。
「あなたたちはあの時の……ね。何度もごめんね、このバカが」
「え? あ、ボ、ボクは大丈夫ッス!」
「あは、確かにそうね。コイツを投げ飛ばすくらいだもん。あなたは何もされてない?」
今度は沖長に尋ねてきたので、「問題ありません」と簡単に答えておく。
「それは良かったわ。あ、そうそう。アタシは四年生の金剛寺夜風よ、このバカともどもよろしくね」
次に他のクラスメイトたちにも夜風は謝罪をし、意気消沈している銀河を引き連れて去って行った。
599
あなたにおすすめの小説
社畜の異世界再出発
U65
ファンタジー
社畜、気づけば異世界の赤ちゃんでした――!?
ブラック企業に心身を削られ、人生リタイアした社畜が目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界。
前世では死ぬほど働いた。今度は、笑って生きたい。
けれどこの世界、穏やかに生きるには……ちょっと強くなる必要があるらしい。
どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-
すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン]
何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?…
たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。
※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける
縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は……
ゆっくりしていってね!!!
※ 現在書き直し慣行中!!!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。
現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜
涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。
ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。
しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。
奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。
そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。
桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。
だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。
そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。
異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。
チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!?
“真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる