転生なの?召喚なの?

陽真

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第二章

お茶の脅威

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にしてもヒマリが高い茶葉をメイファお婆さんに頼んだ時のレイトの嫌がり方が異常だったな。
「レイト、高い茶葉が嫌いなのか?」
「いや、茶葉自体は凄く好き。けど、ヒマリが高い茶葉で淹れると本当に不味い」
「えっ、そうなのか」
俺が返すとレイトはこくりと頷き、再び話を始めた。
まるで、現実逃避するように。
「学園には必修科目が男女それぞれにあるんだ。男子なら乗馬、女子ならお茶会とかね。ナーマなら必修科目について聞いたことあるんじゃないかな」
そう言いながらレイトはナーマに視線をうつす。
「確かに聞いたことはある。学園の教育理念が国で活躍する人材の教育にあるため、それに伴う教育として女子、男子ともに必修科目が存在するだよな」
「ナーマ、詳しいな」
学園に行っていないナーマが詳しく話す様子に目を見開き驚いた。
「ハルヤ様、いえ、ここでは分かりにくいのでハルヤ殿下とお呼びします。ハルヤ殿下が『異世界渡り』をされた後、一度だけ学園からの入学の誘いを受けまして、そこでいくつか説明を。俺は学園には行かないことを決めていましたので断りました」
「そうだったんだ‥‥‥」

貴族の子息であるナーマは無条件で入ることが許されている立場ではあるが、それでも王立学園卒業という肩書きは平民であっても貴族であっても社交界や国を担う時には重要視される点だ。
ナーマが俺がこの世界に居なくなり、騎士団長である父の方が剣術を学ぶのに良いからと言っていた。
聞いた時は確かにと思ったけど、学園からの誘いを蹴っていたとなるとなんだか申し訳なくなってくる。
貴族の子息とはいえ、学園側から入学の誘いをすることは滅多にない。

それは日本の推薦入試似ていて日本の場合は出身学校の校長の推薦に基づいて、学力試験や面接、小論文などの総合的な評価で合否が決まるというものだ。
この国では社交界に出ていない時点で勉学、剣術、魔法、礼儀作法などが一定の評価に値する者のみが学園側より誘われる。
その事実があるだけで若くして国のトップ近くにまで行けたはずだ。

「蹴って良かったの?ナーマが学園に行かなかった理由ってハルヤ殿下が『異世界渡り』でこの世界に居なくなったからでしょ。でも、それはナーマの人生を左右することだったの?」
ナーマの話を聞き、何気なしにレイトが聞く。
「そうだな~、正直なことを言えば学園生活にも多少なりとも憧れはあった。学園の誘いも一瞬だが、魅力的に感じたのも事実だ。けど、それはハルヤ殿下がいるからこそだ。ハルヤ殿下がいない学園生活に楽しみを見出せなかった。ずっと一緒だと、仕える方だと思っていたから。学園の誘いを蹴ったのは俺にとっては決まりきった事だった。後悔はしてない」
俺の方をチラリと見ると、ナーマは真剣な目をしながらレイトの質問に答える。
ナーマの答えは俺にとって重要な話だった。
楽しみを見出せなかったか‥‥‥。

「ナーマ。もし、もし仮に今ここにハルヤ殿下がいたとして、学園に行きたいといったらナーマは共に通うのか?」
「はい。俺はハルヤ殿下のおそばにいます。それがあの方のおそばに立てる唯一の方法ですから」
「そう‥‥か」
俺の問いにナーマの真剣な表情がより一層強くなった。
俺のそばに立つ方法か‥‥‥。
俺はそんなに殊勝な人間じゃないんだけどな。

「ねぇ、そろそろ入っても大丈夫?」
微妙な空気の中、ヒマリが気まずそうにリビングへ入ってきた。
そう言えばお茶を淹れるにしては妙に時間がかかったな。
「いいよ。それにしても遅い。喉カラカラだよ」
「はぁ?あんな話してるのに入れるわけないでしょう?」
レイトの抗議にヒマリは顔を顰めて反論する。
確かにあの状況でお茶を出せ、と言われても気まずすぎて出せないな。
「ごめん、ヒマリ。レイトも冷めないうちにお茶飲めば?」
「う、うん。‥‥‥って不味っ!ゲホ、ゲホッ!」
「ひっどい!いくら不味いからって、そんなに過剰反応しなくても良くない?」
戸惑いながらも一口飲むとすぐに盛大に咳き込む、レイトをみてヒマリは顔を歪めながら言う。
「そうだぞ。ヒマリが可哀想だ」
「だったら、ナーマも飲んでみてよ」
「いや、それは遠慮しとく」
誰も味方がいないと察するとレイトはナーマに味方になったもらうために飲むように勧めるが、ナーマは即答し、断った。
なりふり構わなくなったレイトは目をぎらつかせて俺の方を向き、手元でゆっくりとカップを入れ替えようとしていると、ナーマに止められた。

「ハルヤ様がお飲みになることだけは絶対に避ける‥‥!」
拳を胸元で作り、覚悟を固めているナーマには悪いが、少し飲んでみたい気持ちもあるんだよな。
人間の習性的に怖いものほど興味を唆られてしまうのは仕方なしだと思うんだよ。
それに俺が飲むと言えばナーマが飲まなくて済むし、良い案だな。
「いや、俺もちょっと気になるし‥‥飲むよ」
「神‥‥!」
「ハルヤ様!危険です。毒物並みに危険です」
俺の提案にレイトは目を輝かせ、ナーマは焦ったように不味そうな言葉を口走った。
そこまで言い張るとは‥‥飲んだことがあるのだろうか。
「ナーマくん~?」
その言葉にヒマリは煽るような声で呼びかけると、レイトのカップをナーマの口元に近づけた。

「あ、いや、言葉の綾というか‥‥なぁ」
「問答無用!」
「ゲホッ!なんの拷問だよ‥‥」
無理やり力づくで飲まされたナーマは喉に詰まったのか、それとも本当に美味しくなかったのかレイトと同じように咳き込んだ。
騎士であるナーマの力ならヒマリの手を振り解くことなんて簡単だったろうに流石に飲むのが嫌とはいえ、そこまではしなかったらしい。
まぁ、ヒマリが怪我をするかもしれないし、せっかく淹れたお茶が無駄になることを避けたかったのかもしれない。

「俺にも飲ませて」
そういうと、ヒマリは少し目を見開き頬を赤く染めた。
いや、なんで‥‥‥あ、やばい、やばい!
「か、勘違いしないで、俺はそのお茶を飲みたいといっただけで‥‥!」
「分かってる‥‥!は、はいお茶」
「ねぇ、ハルヤくん?僕自ら、このお茶を飲ませてあげようではないか」
「やめろ」
じりじりと近づいてくるレイトの前にナーマが立ちはだかり、阻止しようとする。
未だにヒマリは頬を赤らめているし、俺はナーマにガッチリと守られて逃げられそうにないし。
収集がつかない‥‥。

「こらこら、良い加減になさい」
そんな状況で神にも等しい声が響いてきた。
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