傲慢な神様の巫女

きたじまともみ

文字の大きさ
28 / 45
心の光

28 異種族家族

しおりを挟む
 以前ローレライを連れてくる時に止めた駐車場で車を降りた。今回も千代と宗一郎には車で待機してもらう。

 未舗装の道のない道を進んでいく。
 結衣と善は手を繋いだまま前を歩き、結衣が後ろを振り返ると、ドッペルゲンガーが懸命に追いかけてきていた。

 険しい道を超えた先に、滝壺が見える。
 傍に、以前はなかった丸太小屋があった。

「人が住んでるのかな?」
「こんなところに住む人間はいないだろう。ローレライのために、河童が建てたのではないか?」

 丸太小屋に近付くと、扉が勢いよく開いた。
 ローレライが「結衣!」と叫ぶ。
 ローレライのプラチナブロンドが、月明かりに照らされて輝いていた。
 こちらに跳ねるように駆けてくる。

「こんな時間にどうしたの?」
「遅い時間にごめんね」
「ううん、会いにきてくれて嬉しい」

 ローレライは満面の笑みを向ける。
 結衣は後ろで俯いているドッペルゲンガーの背中をそっと押して、ローレライの前に歩みを進ませた。

「この子がどうかしたの?」

 ドッペルゲンガーはビクリと肩を跳ねさせて、服の裾をギュッと掴む。

「この子はドッペルゲンガー。愛情を持って育ててくれる人を探しているの」

 結衣はこれまでの経緯を簡潔に話す。

「結衣に育てさせてもよかったが、結衣は100年もしないうちに寿命がくる。その時にまた同じ過ちを犯すかもしれない。だから人間ではダメなんだ。河童と二人で過ごしたいのなら、断ればいい。だが、子供を望んでいるなら、育ててみないか?」

 善の言葉に、ローレライは手を口元に添えて「私とかっちゃんの子供……」と目を瞬かせる。そしてすぐに表情を明るくした。

「ちょっと待ってて。かっちゃんも連れてくる」

 ローレライは丸太小屋に引き返し、しばらくして河童の手を引いて戻ってきた。
 河童には、ローレライが手短に説明する。

「かっちゃん、私たちには子供はできないって諦めて、二人でずっと一緒にいようって約束したよね。でも、血はつながらなくても、子供を育てる機会をもらえたんだ。一緒に愛情いっぱいに育てよ?」
「そうだね。ライちゃんと一緒なら幸せだけど、子供がいたらもっと幸せになれるだろうね」

 ローレライと河童は顔を見合わせて笑った。二人はドッペルゲンガーと視線を合わせるためにしゃがむ。

「ローレライと河童が、お母さんとお父さんになってくれるよ」

 二人はお母さんとお父さんという言葉に、くすぐったそうにはにかんだ。
 ドッペルゲンガーはローレライと河童へ交互に視線を走らせる。

「どちらの姿になれば、愛してもらえますか?」

 眉を下げるドッペルゲンガーを、ローレライと河童は優しく抱きしめた。

「そのままの姿でいいんだよ」

 ローレライの不安を受け止めるような穏やかな声で、ドッペルゲンガーは肩を震わせて啜り泣く。
 両腕を伸ばして、しっかりとローレライと河童に抱きついた。

 結衣と善は顔を見合わせる。
 結衣が目に涙を溜めて「よかったね」と笑うと、善は微かに口角を上げた。

「帰るぞ」

 善が踵を返し、結衣は引っ張られる格好になった。

「ローレライ、また遊ぼうね」
「うん。結衣、善、この子を連れてきてくれてありがとう」
「またね」

 手を振ると、河童とローレライがドッペルゲンガーの手を繋いで見送ってくれる。
 ドッペルゲンガーは丸い頬を赤く染めて、ぎこちないけれど笑っていた。ローレライと河童の優しさが伝わったのだろう。

 来た道を戻って車に乗り、千代と宗一郎に先ほどのことを話すと、二人ともホッとしたように頬を緩めた。




 日曜日の朝、結衣が目覚めてリビングに入ると、千代が神棚に向かって手を合わせていた。

「おはよ」

 結衣が声をかけると、千代は手を下ろしてにっこりと微笑む。

「結衣おはよう。朝ごはん、すぐに食べられるわよ」
「うん、食べる」

 結衣が席に着くと、寝転がっている善と目が合った。

「どうしたの? 今日は機嫌が良さそうだね」

 善の口角は上がり、穏やかな表情をしていた。普段は引き結ばれた口をしているから、珍しくて目を瞬かせる。ほんの少しだけ、ドキッとしたのは内緒だ。

「やっぱり朝は千代の祈りに限るな」

 千代の記憶が戻って初めての祈りで、善が満足そうに頷く。

「結衣も祈れよ」
「ご飯を食べたらね」

 結衣は千代の用意した朝食を「美味しい!」と顔を綻ばせながら頬張った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

烏の王と宵の花嫁

水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。 唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。 その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。 ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。 死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。 ※初出2024年7月

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

紅玉楽師は後宮の音を聞く 〜生き残りたい私の脱走計画〜

高里まつり
キャラ文芸
【耳のいい隠れ長公主】✕【したたかな美貌の文官】コンビが挑む後宮の陰謀! 片目が紅い娘・曄琳(イェリン)は訳あって後宮から逃走した妃の娘ーー先帝の血を引く、隠れ長公主。 貧民街で隠れて生活していたのに、ひょんなことから宮廷に舞い戻ってしまった曄琳は、生まれを秘匿し、楽師としてあらゆる音を聞き分けるという特技を活かしながら、宮廷からの脱走を目論んでいた。 しかしある日、後宮で起きた幽鬼騒動の解決に駆り出された先で、運命を狂わされてしまう。 利用できるものは利用します精神の美形の文官・暁明(シャオメイ)と、出生の秘密をなんとか隠して外に出たい曄琳。 二人が後宮での事件を追う中で、母や貴妃の死、過去の出来事が少しずつ絡んで、宮廷の陰謀に巻き込まれていく。契約じみた曄琳と暁明の関係も少しずつ、少しずつ、形を変えていきーー? 曄琳の運命やいかに!

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

後宮の隠れ薬師は闇夜を照らす

絹乃
キャラ文芸
12月26日よりコミカライズ開始。 旧題:後宮の隠れ薬師は、ため息をつく~花果根茎に毒は有り~ 陸翠鈴(ルーツイリン)は年をごまかして、後宮の宮女となった。姉の仇を討つためだ。薬師なので薬草と毒の知識はある。だが翠鈴が後宮に潜りこんだことがばれては、仇が討てなくなる。翠鈴は目立たぬように司燈(しとう)の仕事をこなしていた。ある日、桃莉(タオリィ)公主に毒が盛られた。幼い公主を救うため、翠鈴は薬師として動く。力を貸してくれるのは、美貌の宦官である松光柳(ソンクアンリュウ)。翠鈴は苦しむ桃莉公主を助け、犯人を見つけ出す。※中国の複数の王朝を参考にしているので、制度などはオリジナル設定となります。 ※第7回キャラ文芸大賞、後宮賞を受賞しました。ありがとうございます。

あやかし帝都の婚姻譚 〜浄癒の花嫁が祓魔の軍人に溺愛されるまで〜

鳴猫ツミキ
キャラ文芸
【完結】【第一章までで一区切り】時は大正。天羽家に生まれた桜子は、特異な体質から、家族に虐げられた生活を送っていた。すると女学院から帰ったある日、見合いをするよう命じられる。相手は冷酷だと評判の帝国陸軍あやかし対策部隊の四峰礼人だった。※和風シンデレラ風のお話です。恋愛要素が多いですが、あやかし要素が主体です。第9回キャラ文芸大賞に応募しているので、応援して頂けましたら嬉しいです。【第一章で一区切りで単体で読めますので、そこまででもご覧頂けると嬉しいです】。

処理中です...