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秘められた熱
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昼間の疲れが一気に体に圧し掛かり、欠伸をかみ殺しながら廊下を歩いていた。
図書室の前を通ると珍しく人がいるらしい姿が、ばっちりと目に留まる。僕の昼寝の場所を、占拠してる奴は誰だ?
音を立てないように扉をゆっくり開けて中に忍び込むと、見慣れたシルエットについ笑ってしまった。
机に置かれた国語辞典――きちんと言うことをきいているじゃないか。
忍び足で背後に近づいて華奢な両肩にそっと手を置くと、かなりビックリした顔してバッと振り返る。
「思ったより、進んでるじゃないか」
「いえ、全然。そんなには進んでないですけど」
素っ気無く答えて、ふたたびノートに視線を移す奈美。どれどれと思いながら、後ろからノートを覗き込んでみた。
「んー? 僕が想像してたよりも、話が進んでるって。それに随分と表現が良くなった。頑張ってるな、偉いぞ奈美」
ちょっとだけ頬を赤くして俯く姿に
頭を撫でてやる。
講義を始めた当初は反発ばかりしてボキャブラリーが足りないくせに、同じ言葉ばかりで口撃していた。なのに今じゃ、素直に従ってくれている。
スポンジに水が沁み込む様に吸収していく様子が、僕の中で実はとても嬉しい事実だった。
なので奈美の印象が、素直で照れ屋で可愛い奴という認識に変わっている。あまりにも可愛くてつい、意地悪してしまったりするんだよなぁ。こういうことをやるから、嫌われるんだと思いながら腕時計を見た。
「気をつけついでに、もうすぐ下校の時間だ。学校帰り、気をつけて帰るんだぞ」
「……家に帰りたくない、かも」
(どこか浮かない顔をしていると思ったら、家で何かあったのか)
「まったく、ワガママお嬢様だな、奈美は。パーティがあるなら、いろいろと準備があるだろ。さっさと帰らなきゃ、ダメじゃないか」
戻りかけた体の向きを変えてやり机の上に置かれた辞典を手に取ると、奥の方にある棚に戻す。そして奈美が手に持っていたノートを強引に取り上げて、鞄の中に入れてやった。
「デモもストも、言語道断! さっさと立ち上がりなさい」
公共交通機関がデモやストを起こしたら、本当に大変なんだ……って違うか。
僕の言葉に渋々従い、ムスッとした顔をして立ち上がる。
「そんな可愛くない顔してると、パーティでモテないぞ」
お前はニコニコ、笑ってるのが可愛いんだ――
奈美の前髪を右手でどけて、オデコにちゅっとキスをしてやった。途端に茹でタコみたいに真っ赤になり、慌てふためく様子は僕の笑いを誘う。
初々しい感じがいいねぇ。何気にドキドキが、こっちにまで移ってしまいそうだ。
「うんうん、さっきの顔よりこっちの顔の方が、僕の好みだよ。いつも笑ってろ、そのほうが似合ってる」
困り果ててるその顔も、結構可愛い……って、何考えてるんだ。
しまったと思いながら奈美を図書室から追い出すように無理矢理廊下へと押し出して、身を翻すように職員室へ向かう。
よく分からんが、テレが移ってしまったみたいだ。ちょっとだけ頬が熱い――
昼間の疲れが一気に体に圧し掛かり、欠伸をかみ殺しながら廊下を歩いていた。
図書室の前を通ると珍しく人がいるらしい姿が、ばっちりと目に留まる。僕の昼寝の場所を、占拠してる奴は誰だ?
音を立てないように扉をゆっくり開けて中に忍び込むと、見慣れたシルエットについ笑ってしまった。
机に置かれた国語辞典――きちんと言うことをきいているじゃないか。
忍び足で背後に近づいて華奢な両肩にそっと手を置くと、かなりビックリした顔してバッと振り返る。
「思ったより、進んでるじゃないか」
「いえ、全然。そんなには進んでないですけど」
素っ気無く答えて、ふたたびノートに視線を移す奈美。どれどれと思いながら、後ろからノートを覗き込んでみた。
「んー? 僕が想像してたよりも、話が進んでるって。それに随分と表現が良くなった。頑張ってるな、偉いぞ奈美」
ちょっとだけ頬を赤くして俯く姿に
頭を撫でてやる。
講義を始めた当初は反発ばかりしてボキャブラリーが足りないくせに、同じ言葉ばかりで口撃していた。なのに今じゃ、素直に従ってくれている。
スポンジに水が沁み込む様に吸収していく様子が、僕の中で実はとても嬉しい事実だった。
なので奈美の印象が、素直で照れ屋で可愛い奴という認識に変わっている。あまりにも可愛くてつい、意地悪してしまったりするんだよなぁ。こういうことをやるから、嫌われるんだと思いながら腕時計を見た。
「気をつけついでに、もうすぐ下校の時間だ。学校帰り、気をつけて帰るんだぞ」
「……家に帰りたくない、かも」
(どこか浮かない顔をしていると思ったら、家で何かあったのか)
「まったく、ワガママお嬢様だな、奈美は。パーティがあるなら、いろいろと準備があるだろ。さっさと帰らなきゃ、ダメじゃないか」
戻りかけた体の向きを変えてやり机の上に置かれた辞典を手に取ると、奥の方にある棚に戻す。そして奈美が手に持っていたノートを強引に取り上げて、鞄の中に入れてやった。
「デモもストも、言語道断! さっさと立ち上がりなさい」
公共交通機関がデモやストを起こしたら、本当に大変なんだ……って違うか。
僕の言葉に渋々従い、ムスッとした顔をして立ち上がる。
「そんな可愛くない顔してると、パーティでモテないぞ」
お前はニコニコ、笑ってるのが可愛いんだ――
奈美の前髪を右手でどけて、オデコにちゅっとキスをしてやった。途端に茹でタコみたいに真っ赤になり、慌てふためく様子は僕の笑いを誘う。
初々しい感じがいいねぇ。何気にドキドキが、こっちにまで移ってしまいそうだ。
「うんうん、さっきの顔よりこっちの顔の方が、僕の好みだよ。いつも笑ってろ、そのほうが似合ってる」
困り果ててるその顔も、結構可愛い……って、何考えてるんだ。
しまったと思いながら奈美を図書室から追い出すように無理矢理廊下へと押し出して、身を翻すように職員室へ向かう。
よく分からんが、テレが移ってしまったみたいだ。ちょっとだけ頬が熱い――
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