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第1部
第5話:人間ファンクラブへようこそ③
しおりを挟む【side:アカツキ】
―――――――――
ディアとの出会いは、1000年前…当時の僕が19歳だったと思う。
僕はかなり特殊な生い立ちの人間で…20歳まで生活の保証はされていたけど自由もなく、ただ魔力を高めるために魔法の訓練のみさせられて生きていた。
あまり自分のことは覚えていないけど、彼と会う前の記憶は全くと言っていいほど無いから非常につまらない生活だったと思う。
今となっては秘密にする必要もないから正直に言うと、僕はディアを封印するために生まれてきた人間だ。
当時のディアはかなり悪事を働いていたみたいで、人間に大きな被害をもたらしていたからね。
だけど今より魔法も科学も発達していない当時の人間では、ディアを倒すことが出来なかった。封印するにしても、ディアを超える膨大な魔力が必要だった。
偉い大人たちは有能な魔法使いの赤子を集め、“一番初めの僕”となる人間をつくることにした。
健康で五体満足であること。魔力が強いこと。
そして何より、悪魔の力を抑える力…封魔の力を絶対に持っていること。
その他様々な基準があり、その中で一番条件を満たした赤子1人を選んだ。
人間は死ぬと輪廻転生といって魂が循環し、別の者へ転生するらしい。
その際全ての記憶や人格等はリセットされ本当に新しい人間へと生まれ変わるのだが、人間の魂は転生を繰り返すごとに強くなるらしい。
簡単に言えば、時の流れとともに人類は少しずつ成長していく。
何を証拠に…と思うかもしれないが、1000年前と違い今は悪魔が簡単に人間のいる町に出入りできないから、人類が成長しているのは本当なのだと思う。
当時の人間にとっては悪魔は本当におぞましい存在だった。ディアほどでなくても強い悪魔に対して対抗手段がほぼなかったから。
だから当時の人間はその輪廻転生を利用し、強い人間を通常より遥かに早く生み出そうというとんでもない計画を立てたのだ。
息絶える時、その魂にその人間が持っている全ての魔力を引き継がせる特別な魔法を作り上げた。
その魔法を魂にかけられた人間というのが、大昔の僕だ。
正確にはディアに合うよりずっと前の僕なのだが…ディアと会う前は記憶を引き継いでいないから分からない。
今は魔力に自分の記憶情報を込めて、魔力と一緒に記憶も引き継いで転生しているから、1000年経ってもディアのことを覚えていたわけだ。
加えて人間は20歳までが魔力の成長率が高いらしく、20年生きればその魔法をかけられた人間は息絶えてしまう。
ディアとの出会いが19歳だと覚えていたのはこの為だ。もうすぐ死ぬんだなと毎日のように考えていたから…
こうして20年のサイクルで生と死を繰り返し強い人間を育てるというのが、当時の馬鹿げた計画だ。
この魂の魔法をつくりあげるのにかなりの犠牲を伴ったらしく、僕以外に生まれていないのは不幸中の幸いだと思う。
そんなわけで当時の僕は人目もつかない小国の塔で幽閉されていた。他の悪魔に僕の存在がバレるわけにはいかなかったし、途中で野垂れ死にしたら計画は水の泡だ。
当時の僕でもディアには遠く及ばなかったから、未来の僕の為に本当にただ魔法の訓練をして死を待つだけの人生だった。
ずっと退屈で苦しかった。
世話係の者たちは僕を憐れんで優しくしてくれたが、本当に1人の人間として大切にされていたのかは疑問だ。自由もなく何も成せない。目の前に“死”が迫っているとなれば、何も楽しみも目標も抱けない。
空虚な毎日を送っていた。
あの日の僕は、課せられた魔法の訓練が終わった後、毎日椅子に座って呆然と部屋の天井を見上げていた。
真っ暗な部屋の電気をつける気力もなく、やる事といえばたまに椅子を揺らしているだけ。
その日の晩は月が綺麗な夜だった。
間接照明くらいしか明かりはついていなかったが、月が眩しくて周りのものがよく見えた。
天井を見上げて、暇つぶしに読んだ絵物語の話を思い出していた。
おとぎ話に出る天使様が僕をどこかにさらってくれるような、あり得ない程の奇跡でも起これば面白いのになと。そんなつまらないこと考えてるくらい退屈だったし、精神的に追い込まれていた。
そんな時だよ、ディアが来てくれた。
窓をたたく音が聞こえるものだから、なんだろうと思って開けたんだ。
その時は姿が見えず気のせいかと思って窓を閉めようとしたんだけど、遮るように手が滑り込んできて、ディアが入ってきたんだ。
本当におとぎ話みたいなシチュエーションだったよ。
『ご機嫌よう、初めまして』
窓から入ってきた彼は紳士のように優雅に頭を下げて挨拶した。
月を背景に照らされる彼は、本当に息をのむほど綺麗で美しかった。
彼を見て、心臓がうるさいほどドキドキするのを感じた。
それがあまりにも夢みたいで美しい光景に感動しているのか、退屈な人生を塗り替えてくれるという期待からかは分からない。でも、僕はこの時彼に…ディアに一目惚れしたというのはすぐに分かった。
相手が悪魔であることはすぐに気付いた。
こんなところまで侵入できるという事、聞かされた容姿の特徴から彼が僕の封印すべき悪魔であることは察しがついた。それでも、駄目だとは思ったが彼に強く惹かれてしまった。
彼の事をもっと知りたい、いろんな話を聞いてみたい、一緒に笑い合いたい、この退屈な日々から救ってほしい。
燃え上がる炎のようにブワッと、熱い思いを焚き付けられた瞬間だった。
こんなに欲深くなったのは、生まれて初めてだった。
当時の僕はもう死にかけの人間だ。最後の最後に訪れた、心に抱えていた暗闇を吹き飛ばすほどの強い衝撃だった。
だから……
絶対に逃がすものかと思った。
そう思った途端、僕はほぼ無意識に魔法を発動させ、彼の首に魔法の鎖を巻き付けて束縛した。
今思えば首はまずいだろと思うけど、絶対に自分のものにしたくて…首輪を付けたかったんだと思う。まあ彼が悪魔で良かった。
今では反省している。実際すごく困惑していたし。
鎖を巻き付けられたディアは驚いてその場に倒れてしまったけど、身体が丈夫なようで怪我はなかった。鎖を引き寄せてまじまじと見てみると、なんと顔もタイプだった。
今までの得られなかった幸せを一気に取り返したかのような奇跡だ。絵物語に出てくる天使様からの贈り物だと言っても納得できるくらい、フワフワした気持ちだった。
ディアは呆気にとられつつも、こちらの意思表示を待っているみたいだったので、僕はその場で素直な気持ちを伝えた。
『一目惚れです!! どうか僕のものになってください!!』
いやぁ、ちょっと先走りすぎたかなと思う。
告白するのは当然初めてだった。本当に恥ずかしくて顔が真っ赤になったよ。
だけど当時の僕には心の余裕がなかったし、自分が自由に出歩けない以上ここで逃したらもう会えないと焦っていた。
結果として、この思いは実を結んだので言って良かったと思う。
◆―――――――――◆
【side:ルキ】
―――――――――
「これが僕たちの出会いかな。ふふっ、本当に今までの人生で一番興奮した瞬間だったよ」
「あ、うん、そっか」
あれ、俺は何を聞かされていたんだ?
話の最初の方はなんともやるせない気持ちだった。
まさか目の前にいる青年がそんな壮絶な運命を背負っていた人間だなんて思わず、退屈な人生だったと嘆く言葉に感情移入してしまい、涙ぐんでしまいそうだった。
ああ、ディアさんとの出会いがアカツキさんの人生をいい方向に変えたんだ。良かったね。
と、思っていたんだけど、後半どうした?
自分のものにしたくて首輪? 鎖で縛りつけた状態で告白?
途中から猛スピードで話が進行しすぎだろう。
自分は一生の殆どを人間社会の中で生きているからバルドロさんに『感性が人間みたい』と言われたが、途中から『なんでそうなるんだ!?』という気持ちでいっぱいだった。
人間というのは俺には理解できない程いろいろな考えを持っているんだな…。
いやしかしこの話、ディアさんは聞いていてどう思うのだろう。というかこの話本当なの?
人間と悪魔はこれがきっかけで恋人になれるものなのか?
ディアさんの方を無言で向くと、彼は口を開いた。
「とても情熱的で当時の私も一目惚れしましたよ」
「本当? 慌ててたから記憶の引継ぎが完璧に出来なくて、その先はあんまり覚えてなくてさ…。という事はOKしてくれたってこと?」
「ひと悶着ありましたが、告白された瞬間から答えが決まっていたようなものなので、だいたい合っています」
まじか。嘘じゃない上にこれで一目惚れするのか…。
頬を染めて喜んでいるアカツキさんの身体を見る。
強い力を持っている気がするが、どういうわけか感知できない。
そういえば先ほどの話でアカツキさんは封魔の力を持っていると言っていたっけ? あまり詳しくないが、ずっと昔に読んだ教材に『悪魔に感知されにくく、悪魔に対して有効な性質の魔力』と書かれていたはず。
ディアさんは、アカツキさんがどれくらい魔力を持っているのか知っているのだろうか。
目を凝らして集中すると、彼の魂の姿がうっすら見えた。
人間にしては大きな魂だ。
その魂はなんというか…いくつもの魂を細かく切って無理やり縫い合わせているかのような、歪で痛々しさすら感じる姿だった。本人の身体に痛みはないだろうが、なんだか見ていて苦しい。
その魂を見て、彼はただの人間ではないなとは思っていた。
転生を繰り返しているからこうなっているのだろうか?
アカツキさんの告白に“情熱的”と言ったり、この魂の姿に“人形みたいで可愛らしい”と言ったり、ディアさんの感性もおかしい気がする。ある意味お似合いだと思う。お互いの性格がピッタリかみ合いすぎた奇跡のカップルだ…。
これは友好関係を広げる参考に出来そうにないな。
「ええと…お話を聞かせてくださり有難うございました」
全員お皿に盛ってある食事を食べ終えた頃、俺は礼を言って頭を下げた。
この3人との会話はとても面白いしまだまだ興味も尽きないが、他の悪魔たちとの話も聞いてみたいので席を外すことに。
「いや、こっちこそ長々と惚気話を聞かせてごめんね」
アカツキさんは慌てたように『顔を上げて』と言ってくれた。
お話を聞いて驚きはしたが、彼が礼儀正しい人間であることに変わりはないようだ。悪魔に対してこう友好的な人間も存在している、それが分かっただけでもここに来てお話が出来て良かったと思う。
俺は他の悪魔たちと話をするためにもう一度お礼を言ってからその場を後にした。
バルドロさんはアカツキさんたちとまだまだ会話がしたいようだ。『人間は転生出来てズルい』と言ってアカツキさんの魂の魔法について聞きたがっていたが、あの話を聞いて俺は羨ましいとは思わなかったなぁ…。
ハルがアカツキさんたちの事を気になっているならその場に居させた方が良いかなと思ったけど、俺が離れるとハルは当然かのようにこちらについてきた。
「置いて行かれると困る」
「うん、ごめん」
珍しく文句を言うハルに謝罪をした。
その後も何人かの悪魔と会話をしたが、ハルは他の悪魔たちにもあまり興味がなさそうだ。
俺は弱い悪魔だからハルより長く生きられない。こんな機会だって、最後かもしれない。だから今のうちに頑張らないと…
それがハルに出来る唯一の恩返しだから。
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