淡色に揺れる

かなめ

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後章

学園祭準備(勘違い)

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「うーん、これは詩弦と彩里に恋のにおいがするねぇ」

「するする、間違いない」

ざわざわと広がる憶測。誰もが面白がっているが、核心には届かない。

「でもさ、今こうして頭ぽんぽんしてるのは蓮ちゃんでしょ?」

「うわ~、てことは蓮ちゃんは詩弦を?」

「いやいや、詩弦が顔紅くしてんのは彩里にだから!」

「もしかして三角関係ってやつ?」

「でもさっき紅組のひいなちゃんが彩里にキスしてなかった??」

「うわそーじゃん、ってことはまさかの四各関係??」

「ぐちゃぐちゃすぎて笑う」

野次馬たちの囁きが熱を増していく、そんな中。

「ふーん、やっぱりそういう目で見られてるんですねぇ」

軽い調子の声が響き、教室のドアが開いた。
そこに立っていたのは、にやりと笑うひいなだった。

「おっと、噂をすればご本人登場ってか」

「おつかれさまです先輩方。いやー噂話、盛り上がってますね」

白組の生徒たちが思わず身を引く。その笑顔の裏にある“何か”を察したからだ。

ひいなはそのまま、蓮と詩弦の方へと歩み寄る。

「で、結局どっちなんですか詩弦先輩。腐れ縁の彩里先輩なのか、それとも――」

言いながら、自然に蓮の手を取る。

「私のかわいい先輩ですか?」

ひいなの挑発混じりの声音に、教室の空気が一気に凍りついた。
その一言に、蓮の頬がぱっと赤く染まった。
白組の生徒たちは「うわぁ!」と息をのむ。

そんな中、俯いていた詩弦がゆっくり顔を上げ、落ち着いた声で口を開いた。

「蓮にはもう、想いを伝えた。それでちゃんと振られた。だからこれからも今まで通り、先輩後輩として仲良くやっていくつもり」

一瞬、教室の空気が張り詰める。
野次馬たちは「えっ……?告白したの!?」「マジで!?」とざわめき立ち、ひいなは驚きを隠せずに目を瞬いた。

(じゃあもう、詩弦先輩は障害じゃないってことですね)

胸の奥でそう確信したひいなは、安堵と優越感が混じった笑みを浮かべ、そっと蓮の手を引き、自分の方へ寄せる。

だが、その瞬間。

「でもさぁ、ひいなちゃんさっき彩里とキスしてたくない?」

白組の一人が何気なく放った言葉が、教室を一気に凍らせた。

「え?」

蓮の目が大きく見開かれる。

そう、あの「見せつけ」として行われたキスを、この場にいた全員が見ていたのだ。
言い逃れの余地はない。

ひいなの指先がぴくりと震える。
笑顔は貼りついたままなのに、視線は泳ぎ、言葉が出てこない。

「ひいなちゃん……」

考えるより先に、蓮はひいなの手を振りほどいていた。
胸に広がるのは、戸惑いと、裏切られたような苦い痛み。

一瞬だけ、ひいなと蓮の視線がぶつかる。
でも、どちらも何も言えない。

「ごめん。ちょっとトイレ行ってくる」

短くそう告げて、蓮は足早に教室を出て行った。
残されたひいなは、手を宙に浮かせたまま硬直し、焦ったような表情で固まっていた。
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