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後章
学園祭準備(険悪な空気)
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冷たい水で何度も顔を洗っても、蓮の胸のざわつきは収まらなかった。
しぶきが頬を伝うたびに、蓮は心の奥で繰り返す。
(ひいなちゃん、なんで。なんで彩里先輩なんかと――)
信じたくなんてなかった。
でも、その場の空気、ひいなの動揺。
全部が事実だと告げていた。
(好きなのはやっぱり、私だけだったのかな)
握った拳が震えた。
ひいなが一方的に迫られたのか、それとも――
考えるほど胸が苦しい。
その時、トイレのドアが開いた。
「あれ、蓮ちゃん?ここにいたんだ」
入ってきたのは彩里だった。
いつもの快活な笑顔ではなく、心配そうな顔。
「顔色、悪いよ。大丈夫?」
その姿を見た瞬間、蓮の中で怒りが弾けた。
「彩里先輩」
「ん?」
「どうしてひいなちゃんとキスなんてしたんですか」
低く、震える声。
彩里の瞳が一瞬驚きに揺れる。
「ちょ、ちが――」
「言い訳しないでください!」
蓮は声を荒げた。
自分でも驚くくらい、刺々しい言葉が止まらない。
「ひいなちゃんは、そんなことされて嫌だったに決まってます!先輩、無理やりしたんじゃないですか?」
「違うよ、蓮ちゃんおちついて!ほんとに違――」
「信じられません!」
彩里が必死に言いかけても、蓮の耳には届かない。
胸の中の嫉妬と怒りが、尊敬していた先輩への態度を歪ませていた。
「……最低です」
絞り出すようにそう吐き捨てて、蓮は彩里の横をすり抜けるように勢いよくトイレを出ていった。
「ま、待って!蓮ちゃん!」
いてもたってもいられなくなって、彩里はすぐにトイレを出た。
大事な後輩に罵声を浴びせられて、悔しくて悲しくて、彩里は唇をかみしめる。
すると、曲がり角から見慣れた顔が現れた。
「彩里先輩?」
ひいなだった。
蓮を探しに来たらしく、小走りでこちらに近づいてくる。
その笑顔を見た途端、彩里の感情が弾けた。
「あんたのせいでしょ」
声は低く震え、怒りがにじんでいた。
ひいなは目を丸くする。
「……せいって?」
「蓮が、私を最低だって言った。ひいなと、あんなことしたから……!」
唇が震えた。
こみあげる悔しさと悲しさを必死に押さえ込みながら、彩里は睨みつける。
「見せつけだかなんだか知らないけど、キスなんてするから!」
「彩里先輩だってよけなかったじゃないですか!」
ひいなの声が重なった。
笑顔は消え、真剣な表情。
「したくなかったなら振り払えばよかったでしょ!?私が顔を近づけたとき止めようと思えばできたはずです!」
「……っ!」
「ぽけーっと受け入れて、私のせいにするなんてずるいですよ!」
一歩も引かないひいなの言葉に、彩里は言い返そうとして言葉を失った。
確かに、自分は抵抗できなかった。
頭の中は昨日抱きしめた詩弦のことでいっぱいで、防御反応がはたらかなかっただけ。
「彩里先輩」
「……」
「蓮先輩を泣かせたら、私が許しませんから」
互いの視線がぶつかり合う。
廊下に張り詰めた空気を破ったのは、校舎中に響くチャイムの音だった。
キーンコーンカーンコーン。
昼休みの終わりを告げるその音に、二人は同時に息を吐いた。
言い争いはそこで中断されたが、心の中に残った火種は消えていなかった。
しぶきが頬を伝うたびに、蓮は心の奥で繰り返す。
(ひいなちゃん、なんで。なんで彩里先輩なんかと――)
信じたくなんてなかった。
でも、その場の空気、ひいなの動揺。
全部が事実だと告げていた。
(好きなのはやっぱり、私だけだったのかな)
握った拳が震えた。
ひいなが一方的に迫られたのか、それとも――
考えるほど胸が苦しい。
その時、トイレのドアが開いた。
「あれ、蓮ちゃん?ここにいたんだ」
入ってきたのは彩里だった。
いつもの快活な笑顔ではなく、心配そうな顔。
「顔色、悪いよ。大丈夫?」
その姿を見た瞬間、蓮の中で怒りが弾けた。
「彩里先輩」
「ん?」
「どうしてひいなちゃんとキスなんてしたんですか」
低く、震える声。
彩里の瞳が一瞬驚きに揺れる。
「ちょ、ちが――」
「言い訳しないでください!」
蓮は声を荒げた。
自分でも驚くくらい、刺々しい言葉が止まらない。
「ひいなちゃんは、そんなことされて嫌だったに決まってます!先輩、無理やりしたんじゃないですか?」
「違うよ、蓮ちゃんおちついて!ほんとに違――」
「信じられません!」
彩里が必死に言いかけても、蓮の耳には届かない。
胸の中の嫉妬と怒りが、尊敬していた先輩への態度を歪ませていた。
「……最低です」
絞り出すようにそう吐き捨てて、蓮は彩里の横をすり抜けるように勢いよくトイレを出ていった。
「ま、待って!蓮ちゃん!」
いてもたってもいられなくなって、彩里はすぐにトイレを出た。
大事な後輩に罵声を浴びせられて、悔しくて悲しくて、彩里は唇をかみしめる。
すると、曲がり角から見慣れた顔が現れた。
「彩里先輩?」
ひいなだった。
蓮を探しに来たらしく、小走りでこちらに近づいてくる。
その笑顔を見た途端、彩里の感情が弾けた。
「あんたのせいでしょ」
声は低く震え、怒りがにじんでいた。
ひいなは目を丸くする。
「……せいって?」
「蓮が、私を最低だって言った。ひいなと、あんなことしたから……!」
唇が震えた。
こみあげる悔しさと悲しさを必死に押さえ込みながら、彩里は睨みつける。
「見せつけだかなんだか知らないけど、キスなんてするから!」
「彩里先輩だってよけなかったじゃないですか!」
ひいなの声が重なった。
笑顔は消え、真剣な表情。
「したくなかったなら振り払えばよかったでしょ!?私が顔を近づけたとき止めようと思えばできたはずです!」
「……っ!」
「ぽけーっと受け入れて、私のせいにするなんてずるいですよ!」
一歩も引かないひいなの言葉に、彩里は言い返そうとして言葉を失った。
確かに、自分は抵抗できなかった。
頭の中は昨日抱きしめた詩弦のことでいっぱいで、防御反応がはたらかなかっただけ。
「彩里先輩」
「……」
「蓮先輩を泣かせたら、私が許しませんから」
互いの視線がぶつかり合う。
廊下に張り詰めた空気を破ったのは、校舎中に響くチャイムの音だった。
キーンコーンカーンコーン。
昼休みの終わりを告げるその音に、二人は同時に息を吐いた。
言い争いはそこで中断されたが、心の中に残った火種は消えていなかった。
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