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後章
帰り道(あたたかさ)
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夕暮れの放課後。
オレンジ色の影を引きずりながら、彩里は一人で歩いていた。
胸に残るのは、蓮の突き刺すような言葉と、ひいなとの険悪な言い合い。
まるで居場所を失ったような気持ちで、うつむいて足を進める。
――トントン。
不意に肩を叩かれた。
「……?」
振り返ると、頬にぷすっと指が突き刺さる。
「なっ……」と声を上げかけたところで、見慣れた顔が現れた。
「何しんみりした顔で歩いてんの。らしくない」
詩弦だった。
いつか自分がからかったときと同じ手口。
その顔には、ほんのりと優しい笑みが浮かんでいた。
驚きで言葉が出ないあかりを横目に、詩弦は自然に隣に並んで歩き出す。
「前にさ、私に聞いてくれたよね。もし好きな人が他の誰かを好きになって自分は失恋したとき、今まで全然気にしてなかった第三者から好意を向けられたら、どうするかって」
彩里の脳裏に、あの夏の夜がよみがえる。
必死に投げかけた問いを、詩弦に軽くかわされたこと。
そして、自分の心だけが取り残された、あの寂しさ。
「あー、あったねそういえば」
わざと気の抜けた声で返す。
詩弦は真っ直ぐ前を見つめたまま、一度だけ足を止めた。
夕日の中で振り返ると、その瞳は真剣そのものだった。
「私、最近知ったんだけどさ」
息を呑む。
詩弦の返事を待つ時間が、やけに長く感じられた。
「失恋したことで、第三者がちょっとよく見えることもあるらしいね」
夕陽の赤みに染まる頬。
それが光のせいなのか、感情のせいなのか、彩里には分からない。
「……ちょっとって、なんだよ」
照れ隠しに笑った瞬間、自分の顔も熱くなっているのを自覚する。
詩弦はにやりと口角を上げた。
「ふーん。初めて見た。あんたが赤くなってんの」
「なっ……赤くなってないし!」
思わず声を張り上げる。
言い返しながらも、心の奥底で嬉しさがじんわり広がっていく。
あの時期待していた詩弦の返答。
詩弦が、その「第三者」に自分を重ねてくれたことが、何よりも。
夕焼けの道を、二人は肩を並べて歩き続けた。
からかい合いながら、いつものように。
けれど、心の中にはこれまでとは違う温かさが確かに宿っていた。
オレンジ色の影を引きずりながら、彩里は一人で歩いていた。
胸に残るのは、蓮の突き刺すような言葉と、ひいなとの険悪な言い合い。
まるで居場所を失ったような気持ちで、うつむいて足を進める。
――トントン。
不意に肩を叩かれた。
「……?」
振り返ると、頬にぷすっと指が突き刺さる。
「なっ……」と声を上げかけたところで、見慣れた顔が現れた。
「何しんみりした顔で歩いてんの。らしくない」
詩弦だった。
いつか自分がからかったときと同じ手口。
その顔には、ほんのりと優しい笑みが浮かんでいた。
驚きで言葉が出ないあかりを横目に、詩弦は自然に隣に並んで歩き出す。
「前にさ、私に聞いてくれたよね。もし好きな人が他の誰かを好きになって自分は失恋したとき、今まで全然気にしてなかった第三者から好意を向けられたら、どうするかって」
彩里の脳裏に、あの夏の夜がよみがえる。
必死に投げかけた問いを、詩弦に軽くかわされたこと。
そして、自分の心だけが取り残された、あの寂しさ。
「あー、あったねそういえば」
わざと気の抜けた声で返す。
詩弦は真っ直ぐ前を見つめたまま、一度だけ足を止めた。
夕日の中で振り返ると、その瞳は真剣そのものだった。
「私、最近知ったんだけどさ」
息を呑む。
詩弦の返事を待つ時間が、やけに長く感じられた。
「失恋したことで、第三者がちょっとよく見えることもあるらしいね」
夕陽の赤みに染まる頬。
それが光のせいなのか、感情のせいなのか、彩里には分からない。
「……ちょっとって、なんだよ」
照れ隠しに笑った瞬間、自分の顔も熱くなっているのを自覚する。
詩弦はにやりと口角を上げた。
「ふーん。初めて見た。あんたが赤くなってんの」
「なっ……赤くなってないし!」
思わず声を張り上げる。
言い返しながらも、心の奥底で嬉しさがじんわり広がっていく。
あの時期待していた詩弦の返答。
詩弦が、その「第三者」に自分を重ねてくれたことが、何よりも。
夕焼けの道を、二人は肩を並べて歩き続けた。
からかい合いながら、いつものように。
けれど、心の中にはこれまでとは違う温かさが確かに宿っていた。
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