淡色に揺れる

後章

放課後(いつもと違ういつもどおり)

窓の外はすでに茜色に染まっていた。
人気のなくなった教室で、二人きり。

「あのキス、実は私がやったんです」

ひいなの声は小さく震えていた。

「え？」

「蓮先輩に嫉妬してほしくて。彩里先輩を巻き込んで、わざと……」

蓮はしばし黙ってから、ぽつりと言った。

「ああ、あの、新しい挨拶のやつか」

「……は？」

拍子抜けしたひいなは思わず素っ頓狂な声を出す。
自分の張りつめた告白が、まさかそんな天然すぎる解釈に変換されるなんて。

堪えきれず小さく笑いが漏れる。
緊張がふっとほどけ、胸がじんわり温かくなった。

「ごめんなさい。やりすぎでした」

ぺこりと頭を下げるひいな。

「うん、許すよ。でも、ただ許すだけじゃ、なんかズルいよね」

「え？」

蓮はすっと近寄り、真剣な眼差しで言った。

「条件がある。目つぶって――ひいな」

驚きの表情を隠さずにも、言われるがままひいなはぎゅっと目を閉じた。

次の瞬間、柔らかな感触が唇に触れる。

「……っ」

驚いて目を開けかけたけれど、そこにあるのはきゅっと目を閉じた蓮の顔。
頬を赤く染めながらも、確かに自分に触れている。

胸がきゅっと締め付けられるようで、けれど幸福感が一気に広がった。

「……ん」

今度は自分から蓮を抱きしめて、深く応える。
放課後の静まり返った教室で、二人は長く、長く唇を重ねた。

まるでずっと前から恋人だったかのように。