卒業した姉とこれから入学するのではしゃぐ妹

月輝晃

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UNO

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雨の音が屋根をやさしく叩いていた。
週末の午後、ふたりとも珍しく外出予定はゼロ。部屋着のまま過ごしていると、時間がふわふわと溶けていく。

「ねえ、しおりん、ひさびさにアレやらない?」

クッションを抱えながら、ソファの上でゴロゴロしていたかおりんが顔を上げた。

「アレって?」

「UNOだよ、UNO!」

「懐かしい……でも、家にあったっけ?」

「あるある!中学生のころ使ってたやつ、ちゃんと残ってた!」

言いながら、かおりんはTVボードの下から色あせた赤い箱を取り出した。中には少し角のすれたカードたち。だけど、その色と感触には、なぜか安心感があった。

「……いいよ。やろっか」

「よーし、今日こそ“あがりドロー4”決めるぞ!」

「それ、禁止ルールじゃなかったっけ?」

「細かいこと気にしな~い!」

そう言って、かおりんは早速シャッフルを始めた。手元の動きが妙に慣れている。いや、妙に“自信ありげ”だ。

「最近やってた?」

「うん、たまに友達と。でも、家族相手のほうが燃える!」



ゲーム開始。最初の数ターンは、軽く流す感じで数字カードの応酬が続く。会話もしながら、笑いながら、淡々と出していく。

「ほい、黄色の7」

「黄色ね、じゃあ……ドロー2!」

「えっ!ちょ、早くない!?もう攻撃カード!?」

「油断大敵ですぞ?」

かおりんがにやりと笑う。その顔が、ちょっとだけ悪い顔になっていた。

「……今日は本気なんだね?」

「もちろん」

わたしは2枚引きながら、ちょっとだけ思った。

――この空気、嫌いじゃない。



ゲームはじわじわと加熱していく。
かおりんの手札が5枚、4枚、3枚と減っていくにつれ、わたしのほうは妙に“増え続けている”。

「もしかして、しおりん……運悪くない?」

「ちがう、これは……心理戦だから」

「ふふ、言い訳はあがってからにしようね~」

「よし、逆襲開始。リバース」

「え、方向変えちゃう?……じゃあ、ドロー2!」

「うわぁ、またかよ!」

この時点でわたしはすでに9枚。かおりんは3枚。あからさまな戦力差に、わたしは思わず苦笑いした。

「ねえ、なんでそんなに攻撃力高いの」

「女の武器ってやつ?」

「UNOでその言い方どうなの」



そんなやりとりが続いて、2回目の対戦が終わる頃には、ふたりとも完全に“本気モード”に突入していた。

「……じゃあさ、3戦目はちょっと……勝負つけようか?」

かおりんが、なにか思いついたようにわたしを見る。

「勝負って……何の?」

「負けたほうが、勝ったほうの言うことひとつ聞く」

「おおっと、急にそういうやつ来た?」

「ありでしょ?」

ちょっと悪戯っぽい笑み。でも、その背後には、明らかに“勝つ気しかない”空気が漂っていた。

「……面白い。受けて立ちましょう」

「じゃあ、手加減なしで!」



最終戦、3回目のUNO。

ふたりの空気は、まるで別人のように張り詰めていた。
部屋の明かりはほんのりオレンジ色。静かな雨音の中、カードのパチンという音だけがリズムを刻む。

「青の5」

「青か……ドロー2」

「またそれ!?」

「これで手札差が開いたね、ふふっ」

「くっ……じゃあ、リバース」

「リバースで返して……スキップ」

「わあっ!連携プレイしてるの!?」

「1人連携、得意なんです♪」

悔しそうな顔をしながらも、わたしは黙ってカードを出す。

互いの手札が減っていく。5枚、4枚、3枚……。
息が詰まるような静けさの中で、わたしが「2枚目のワイルドカード」を引いた時、運命が変わった。

「……ワイルド、赤に変更」

「うわ、そこ赤か~……んー……じゃあ、スキップ!」

「そっちも持ってるの!?」

「ふふっ。UNOって、運だけじゃ勝てないんだよ?」

「あーもう、負けられない!」



その後、二転三転。リバース、スキップ、ワイルドが飛び交う心理戦。
カードの出し方ひとつ、息を吐くタイミングひとつにまで駆け引きが宿る。

わたしの手札はついに「1枚」。
UNO宣言と同時にかおりんが叫ぶ。

「はい、ドロー4!」

「っ……まじかぁぁ……!」

思わず床に崩れ落ちる。かおりんのニヤリ顔が、めちゃくちゃ腹立たしい。なのに、ちょっと可愛い。

「しおりん、はい引いて~4枚!」

「ううっ……くっそぉ……!」

結局、最後はかおりんの手札が0になって、完敗。
勝ち誇った妹が、ゆっくりと指を一本立てて言った。

「じゃあ、言うこと聞いてもらうね?」

「……ど、どうぞ……」

「じゃあ……膝枕、して」

「……は?」

「いま、疲れてるから~。しおりんの太ももに、頭置いて、5分くらい目つぶってたい」

「それって、ご褒美側じゃないの?わたしが損してない?」

「でも恥ずかしいでしょ?」

「……まあ、ちょっとだけ……」

でも、それを言われると断れないのが姉バカの性(さが)で。

「……じゃあ、そこに寝なさいよ」

「わーいっ」

かおりんは素早くゴロンと転がって、わたしの膝に頭を乗せた。

「……あれ?思ったよりいいかも」

「なんか……変なこと考えてない?」

「ちょっとだけね」

「やめなさい」

わたしの太ももに頬をすり寄せて、にやにやしているかおりんを見ながら、わたしはふと笑ってしまった。

そして思わず……かおりんの頬に……チュッ……と

「あっ……」

「しまった思わず……」

かおりんの耳が赤い……

「しおりんなら……いいかな……」

雨の音はまだ続いている。
だけど、部屋の中はずっと明るく、あたたかかった。
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