卒業した姉とこれから入学するのではしゃぐ妹

月輝晃

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尻文字

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その日は雨がしとしとと降っていて、外に出る気にもなれず、私たちはダラダラと午後を過ごしていた。

「だるい……」

リビングにはクッションが散らばっていて、かおりんはテレビを見ながらポテトチップスを食べている。私はその隣でぼんやりとスマホをいじっていた。

「ねえ、しおりん」

「ん?」

「ちょっと変なことしてみない?」

かおりんが、ポテチの袋から顔を出して、にやっと笑った。

「なにそれ、また変なゲーム?」

「そう、名付けて“尻文字”ゲーム!」

「え……しり……もじ?なにそれ、エッチな」

私は思わず聞き返した。なんとなく、ヤバい予感がする。

「うん。ルールは簡単!」



◆尻文字ルール◆
お題となる「ひらがな1文字」を相手に伝えずに、自分のお尻で空中に描く。

相手はそれを見て、何の文字かを当てる。

当たったらポイント、外れたら罰ゲーム(マッサージ1分とか)。

2人交互にやる。

お尻の動きが大きいほどヒントになるけど、ちょっと恥ずかしいかも……!



「いや、それ恥ずかしすぎるでしょ!」

「でも楽しそうじゃない?ってか、昔やったじゃん、小学校の修学旅行とかで」

「そうだけど、あれってクラスメイトとやるやつでしょ!?姉妹でやるの……どうなん」

「えー、姉妹だからこそいいんじゃん!」

と、言いながら、かおりんは立ち上がって、クッションをよけ、部屋の中央にぽつんと立った。

「じゃあ、先攻、わたし!」

「もう決定事項なのね……」

「いきまーす!」

かおりんはふわっとスウェットの裾を直して、軽く膝を曲げて立つ。私は真面目な顔をしながらも、思わずクッションを抱えてその様子を凝視した。

「~~~……んっ!」

、かおりんがぐいっとお尻を突き出して……でかいな、いつのまに……空中に何かを描き始める。

腰がくねり、左右にゆらゆらと動く。見ようによっては……いや、というかどう見ても……ちょっと、色っぽい。

「えっ、なに今の……くっ、笑いそう……」

「ちゃんと集中して!今のが1画目!」

「むずかしっ!」

くるっと回って、次の線を描く。お尻のラインで文字をなぞる様子は、なんとも形容しがたい。動きに合わせてスウェットがやや揺れて、なんか変な汗が出そう。

「……え、これは……“あ”?」

「ピンポーン!!正解!」

「え、まじ?やった……でもこれ、すっごい気まずい」

「ふふふ、じゃあ次はしおりんの番!」

「えええええっ!?やんないとダメ?」

「当たり前~!ほらほら、立って立って!」

渋々ながら、私も立ち上がる。自分で言うのもなんだけど、やる前から顔が熱い。

「……じゃ、行くよ……」

私はなるべく自然に動こうとしたけど、背後から「ふふっ」て笑うかおりんの気配が気になって集中できない。

「ほら、小さいお尻もっと使って!」

「言い方っ!!」

それでもがんばって動く。ぐいっと腰をひねって、横に曲線を描いて、下に下げて……。

「……これは、“つ”?」

「正解~~!すごいじゃん!」

「いやでもこれ、自分の姿想像したら耐えられないんだけど……!」

「めっちゃおもしろかったよ、しおりんの“つ”」

「やめて」



ゲームは、次第にエスカレートしていく。

かおりんの「も」のときなんか、全力で腰を回して、お尻で円を描いていた。

「“も”はね、丸がポイントだから!この二重丸が!」

「わかったわかった!腰壊すなよ!」

私も対抗して「ぬ」とか「き」とか、難しい文字を選んで腰をひねりまくった。

「えー!“ぬ”ってそんな形だったっけ!?めっちゃくねってた!」

「違う違う、あれは点のところが難しいのよ!」

どちらのターンでも、ふたりで笑い転げて、ソファに倒れ込む。

「はあ……腹筋痛い……」

「でも、なんか変なテンションになってきたね……」

「うん。ていうか、これさ、けっこう……体にくるよね」

「腰があったまるというか、むしろセクシー体操……?」

「やっぱそれ言っちゃう?」

少し照れながら笑い合って、また順番が回ってくる。

「……ねえ、次の文字、ちょっとだけサービスする?」

かおりんがそう言って、わざとウインクしてきた。

「サービスって……おい、未成年」

「気にするな!」

そう言いながら、くいっとヒップラインを強調するように動き始めた。

「……っ!!おい、それ絶対“へ”とかじゃなくて“ポーズ”だろ!動き意味不明!」

「ちがうもーん、“ん”だもーん」

「動き的に“ん”じゃないでしょ……っ、やめろ、そのゆっくり回すの!」

「しおりん、まさかドキドキしてる~?」

「してないしてないしてない!そんなんじゃない!」

顔が熱い。耳まで真っ赤になってる自覚がある。
でも、まさか妹にそんな揺さぶられるとは。

「……じゃあ、私も本気で行くか……」

「おお?」

私はふぅと息を吐いて、心を決めた。

「次の文字、“ら”!」

そう言って、くるっとターンして、華麗に(のつもり)一筆書きのお尻文字を披露。

「おおお!なんか……ちゃんと“ら”だった!」

「完璧な“ら”だよ!これぞ芸術!」

「まって、今のはちょっと色気あった……」

「わーったわーった、じゃあ今日はこれでおしまい!」



最後にふたりで冷蔵庫からジュースを取り出して、ソファに並んで座った。

「……たかが尻文字なのに、なんでこんな楽しいんだろ」

「ほんと。なんか、ちょっと照れくさくて、でも笑えるって最高だね」

「でも、これ誰にも見せられないな」

「絶対だめ。これ、姉妹だけの秘密にしようね」

「うん。じゃないと、私、まじで消えたくなる」

ふたりでグラスを軽くぶつけて、カランという音を響かせる。
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