6 / 25
6.アルファのお色気
しおりを挟む──運命。
この男、また言った……。
アルファがオメガに見せる執着を俺に向けている。
フェロモンに鈍感な俺だが、八乙女が醸す執着オーラには背筋がゾクゾクする。
アルファ流の告白されてキュンするかって? いやいや、初対面がヤクザ事務所だったから、怖いの倍増。
しかし、下手に断って仕事をクビになったりしない? 脅されない? 店とか客に迷惑かかりそう。日の下歩ける?
八乙女から予約が入った時からそれらのストレスで胃がムカムカしていた。挨拶すぐに本題からくるなんて。
「ち……違います。人違いじゃないですか? 俺に似た人はいくらでもいますよ。きっと他人の空似でしょう」
「貴方を20年ぶりに見ても、すぐに運命だと分かったというのに?」
「いうのにぃ………?」
なんで、自分が正しいですって言い切るんだ! おかしいのはお前の方だって!?
例えば、幽霊を見たことがない人間に幽霊がいるよって言っても本当かどうかわからない。なのに「ほら! 幽霊いるだろ!? 見えるだろ!」って押し付けてくるのと同じくらいだと思う。
この理不尽をどうにか説得しなければ。凝固しまくった相手を説得するなんて芸当を俺ができるだろうか!? しかも相手は口達者な弁護士だぞ!?
「もしかして、僕のことをどう断ろうか考えていますか?」
「……え、と。…………はい」
「正直な方ですね」
八乙女は真っすぐに座っていた体勢からやや前屈になる。美形の無表情は圧力が凄い。
口調は優しいけど、目がギラギラしている。
「断るのは運命という言葉が信じられないからですか? 難しいことを考える必要はありません。要は僕を好きになってくれればいいだけです」
なにこれ、俺が八乙女に惚れて当然だろって雰囲気は。
自信過剰はアルファあるあるなのか。
今のところ何か感じているとしたら胃部不快感、眠りが浅い、焦燥感……つまりストレスだけ。
「は、はっきり言わせていただきます! 運命を感じません。執着されてもどうしていいのか分かりません! 今は仕事の時間ですので、仕事の話に戻してもよろしいでしょうか!?」
大きく脱線した話を仕事に戻したい! 無視して新規客へのマニュアル説明をして……いいんだよな? いや、俺は仕事しに来たんだからこれで正しい。
だけど、八乙女は白黒つけたい人だった。
「お仕事熱心なんですね。では、今のお仕事はお話にしましょう。まず恋人になって欲しいです」
「…………」
断ったばかりなのに、随分攻めて来るじゃァねぇか。
まず恋人からってことは最終的には何だよ!? まさか結婚?
白服着たヤクザ達に祝われてバージンロードを歩く姿を想像する。ひえ、怖い。絶対やだ。
ドン引きが表情に出ていたのだろう、ベラベラ話していた八乙女がようやく静かになって眉間にシワを寄せる。
「ゴホン、では譲歩しましょう。……とりあえずお試しで付き合いませんか? 一か月更新はいかがでしょうか。僕的には長期でお願いしたいですけど」
「先伸ばしするのは心苦しいので……」
「どうしてもと言っているのです」
ひぇえ……
こわ。
「そ、そう言われましても……」
この様子は断っても無駄だろう。(いや何度も断っているけどさ)
この手のアルファは何度か会ったことがあるけど、ツガイのことになると、哀れなほど周りが見えなくなる。
周りが見えていない……?
そうか、見えていないんだ。暫くして冷静になり頭が冷えればきっと“勘違い”に気づくだろう。
「あの……一ヶ月経っても好きになれなかったら、お断りできますか?」
「……えぇ、勿論です」
「じゃぁ……とりあえず……お試しでならいいですよ」
俺ってチョロと思いながら、八乙女は息を吐いた。その様子に彼なりに緊張していたことが伝わって来る。
「……ありがとうございます」
おぉお……笑顔もお色気だ……。
703
あなたにおすすめの小説
言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
運命じゃない人
万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。
理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。
カミサンオメガは番運がなさすぎる
ミミナガ
BL
医療の進歩により番関係を解消できるようになってから番解消回数により「噛み1(カミイチ)」「噛み2(カミニ)」と言われるようになった。
「噛み3(カミサン)」の経歴を持つオメガの満(みつる)は人生に疲れていた。
ある日、ふらりと迷い込んだ古びた神社で不思議な体験をすることとなった。
※オメガバースの基本設定の説明は特に入れていません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる