5 / 25
5.残念ながら運命と決めてます
八乙女の依頼日まで時間は無情に過ぎていった。
キャンセルされることを願って随時予約状況をチェックするが、何も変わらない。
嵐の前の静けさかと思うくらい静かで問題のない日々。他の同僚に代わってもらうのも一つの手だが、後々こわい。
ピンポーン。
そして、ついに八乙女のマンションのインターフォンを鳴らす時が来てしまった。
気は重いが、ここまで来たなら仕事だと割り切るしかない。
八乙女の住まいは高級マンションの最上階。焦げ茶色のドアはすぐに開いた。
依頼者は同姓同名ではないかと淡い期待を抱いていたけれど、やはり八乙女本人だった。
前会った時はオールバックに整えられていた髪の毛だけど、今は全部下ろされていて年相応に見える。
微笑む彼の口元には黒子。
怖いくらいの美形に怯みそうになるけれど、いかんいかん! これは仕事だ!!
「家事代行サービスの三栗です! お久しぶりです!」
「お久しぶりです。心待ちにしておりました」
「……」
どうぞ、中にお入りくださいと促される。奥へと案内されると掃除が不要なほどキレイなリビングが広がっていた。置かれている家具はシックでモダン。どれもセンスがいい。
ウェブの予約ページには記入欄があるけれど、家事とだけ書かれていた。一体何をすればいいのだろう。
「まずご依頼の詳細を教えてください」
俺はかばんから記入シートを取り出した。
注意事項など詳しく書いてもらった方が動きやすいことを伝えながら、シートを八乙女に手渡す。
その時、指先が触れると、きゅっとシートごと俺の手が掴まれた。
ぎゃひっと俺の心が悲鳴を上げたが、声に出すのは堪えた。
「あ、あのぅ? 八乙女さん? 離してもらえませんか?」
「貴方が僕に何も感じていないことは理解出来ました」
「感じる? な、何を?」
「不思議ですね。どういうことなんでしょうね」
──どういうことなんだ?
手を離そうとするけれど、力強くて離れない。
もたもたしているうちに八乙女の顔がすぐ近くに。目力が強い。怖い。
蛇に睨まれた蛙のように固まっていると、その口元が俺の耳元に近づいてふぅと息を吹きかけられた。
「ひぁっ!?」
緊張状態で耳に息なんぞ吹きかけられたので、足に力が入らなくなり、くにゃっと腰砕け状態になる。床にぺたんと座ると、彼もしゃがみ込んできた。
汗を掻いた額を彼の手が撫でた。額にひっついた前髪がサイドに分けられる。
「いきなりごめんなさい。だって、僕だけなんて悔しいじゃないですか。貴方にも感じてもらいたいのです」
「ひぇ……ぇ、え…ぇ」
八乙女は案外力が強く、俺の両脇を掴むと立ち上がらせてソファに座らせた。
記入シートにササっと書かれた内容は。『掃除、料理、洗濯、買い物、留守中の対応』などで特に変わった依頼ではなかった。
「七生さん、これからよろしくお願いします」
よろしくという言葉の意味が、家政婦に仕事を頼むのとは違う気がして、思わず聞き直した。
「——こ、これから?」
「はい。残念ながら、貴方は僕の運命です」
キャンセルされることを願って随時予約状況をチェックするが、何も変わらない。
嵐の前の静けさかと思うくらい静かで問題のない日々。他の同僚に代わってもらうのも一つの手だが、後々こわい。
ピンポーン。
そして、ついに八乙女のマンションのインターフォンを鳴らす時が来てしまった。
気は重いが、ここまで来たなら仕事だと割り切るしかない。
八乙女の住まいは高級マンションの最上階。焦げ茶色のドアはすぐに開いた。
依頼者は同姓同名ではないかと淡い期待を抱いていたけれど、やはり八乙女本人だった。
前会った時はオールバックに整えられていた髪の毛だけど、今は全部下ろされていて年相応に見える。
微笑む彼の口元には黒子。
怖いくらいの美形に怯みそうになるけれど、いかんいかん! これは仕事だ!!
「家事代行サービスの三栗です! お久しぶりです!」
「お久しぶりです。心待ちにしておりました」
「……」
どうぞ、中にお入りくださいと促される。奥へと案内されると掃除が不要なほどキレイなリビングが広がっていた。置かれている家具はシックでモダン。どれもセンスがいい。
ウェブの予約ページには記入欄があるけれど、家事とだけ書かれていた。一体何をすればいいのだろう。
「まずご依頼の詳細を教えてください」
俺はかばんから記入シートを取り出した。
注意事項など詳しく書いてもらった方が動きやすいことを伝えながら、シートを八乙女に手渡す。
その時、指先が触れると、きゅっとシートごと俺の手が掴まれた。
ぎゃひっと俺の心が悲鳴を上げたが、声に出すのは堪えた。
「あ、あのぅ? 八乙女さん? 離してもらえませんか?」
「貴方が僕に何も感じていないことは理解出来ました」
「感じる? な、何を?」
「不思議ですね。どういうことなんでしょうね」
──どういうことなんだ?
手を離そうとするけれど、力強くて離れない。
もたもたしているうちに八乙女の顔がすぐ近くに。目力が強い。怖い。
蛇に睨まれた蛙のように固まっていると、その口元が俺の耳元に近づいてふぅと息を吹きかけられた。
「ひぁっ!?」
緊張状態で耳に息なんぞ吹きかけられたので、足に力が入らなくなり、くにゃっと腰砕け状態になる。床にぺたんと座ると、彼もしゃがみ込んできた。
汗を掻いた額を彼の手が撫でた。額にひっついた前髪がサイドに分けられる。
「いきなりごめんなさい。だって、僕だけなんて悔しいじゃないですか。貴方にも感じてもらいたいのです」
「ひぇ……ぇ、え…ぇ」
八乙女は案外力が強く、俺の両脇を掴むと立ち上がらせてソファに座らせた。
記入シートにササっと書かれた内容は。『掃除、料理、洗濯、買い物、留守中の対応』などで特に変わった依頼ではなかった。
「七生さん、これからよろしくお願いします」
よろしくという言葉の意味が、家政婦に仕事を頼むのとは違う気がして、思わず聞き直した。
「——こ、これから?」
「はい。残念ながら、貴方は僕の運命です」
あなたにおすすめの小説
俺の婚約者は悪役令息ですか?
SEKISUI
BL
結婚まで後1年
女性が好きで何とか婚約破棄したい子爵家のウルフロ一レン
ウルフローレンをこよなく愛する婚約者
ウルフローレンを好き好ぎて24時間一緒に居たい
そんな婚約者に振り回されるウルフローレンは突っ込みが止まらない
僕はお別れしたつもりでした
まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!!
親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語
『2度目の世界で、あなたと……』 ― 魔法と番が支配する世界で、二度目の人生を ―
なの
BL
Ωとして生まれたリオナは、政略結婚の駒として生き、信じていた結婚相手に裏切られ、孤独の中で命を落とした。
――はずだった。
目を覚ますと、そこは同じ世界、同じ屋敷、同じ朝。
時間だけが巻き戻り、前世の記憶を持つのは自分だけ。
愛を知らないまま死んだ。今度こそ、本物の愛を知り、自ら選び取る人生を生きる。
これは、愛を知らず道具として生きてきたΩが、初めて出会った温もりに触れ、自らの意思で愛を選び直す物語。
「愛を知らず道具として生きてきたΩが転生を機に、
年上αの騎士と本物の愛を掴みます。
全6話+番外編完結済み!サクサク読めます。