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「海だ」
「はい!」
砂浜部分は少ないけど、誰もいない。
自分達だけの海だと胸が躍る。
服を脱ごうとすると、梓が突然「ひゃああ」と声をあげ、手で両目を隠す。
けど、指が広がっているから薄目でこっちを見ている。
「何? 泳がないの?」
「……子供だけじゃ危ないです」
「そうか、それもそうだな。梓は俺より一年下なのにしっかりしているなぁ」
「……七生さんは7歳ですか。年上って素敵ですね。刺激的で魅力に溢れています」
梓はひょろひょろと砂場に座った。
俺も梓の目の前に座って、二人の間に砂の山を作った。えっと、木の棒は。あったあった。
よっと砂山のてっぺんに棒を立てた。
「棒倒ししようぜ!」
誘うと、梓の目がキラキラ光る。あまりに俺をじっと見るから、どきっとする。
「こ、こうやってするんだ……」
教えてあげると、梓は俺をやたら褒めてくれるので天狗になってしまう。
よし付いてこいなんて言って、棒遊びの後は、砂場に水が出るまで穴を掘ったり、岩辺のイソギンチャクを棒で突いたり、色々遊んだ。
「七生さん、今日の夜、祭りがあるんです。ここから近くなんです。一緒に行きませんか?」
「え? 祭あるんだ! でも、親に聞かないと分からないよ」
「七生さんの御両親! 是非ご挨拶させてください。あ、でもこんな恰好じゃだめだ。……手土産もない。一度帰らなくちゃ。いずれ結婚する相手のご両親なのだから、ちゃんとしなくちゃ」
梓って独り言が多い。
訳が分からなくて、俺は梓の頬をつんつん突いた。
「結婚って?」
「はい! 僕たち結婚します」
「え? 結婚?」
「僕たち、伝説の運命の番です。間違いありません、だってこんなに好きなんですもの」
俺を見る梓の目が嬉しそう。
頬を突いている俺の手を梓が触れると、びりびりする。
梓の言っていることは分からないけれど、特別な気がした。
「梓は俺の特別なの?」
「はい。大きくなったら、絶対一緒に住みましょうね!」
梓のあまりの迫力に頷くと、梓が俺の小指に小指を巻きつけて強引に指切りをした。
ゆびきりげんまーん、うそついたら、はりせんぼん、のーまーす
ゆびきった
「やった!」
梓は感極まって、俺に抱き着いてきた。
すると、またビリビリと静電気が身体に走る。
なんだろ。これが運命?
身体のビリビリが止まらない。
それに親とか友達と抱き着くような感じじゃなくて、身体の奥でふわぁと喜ぶ? みたいな感じがする。
「はぁ、いい匂い……な、なおさ、ん」
くんくん俺の匂いを嗅ぎだした梓がぐにゃぁと腕の中で動けなくなった。
はっはっと息が荒くなっていく。
急にどうしたのかと思って、額に手を置くと熱い。熱が出ている。
「あっ、帽子! そっか、太陽にあたり過ぎたんだ!」
「はぁはぁ、やだ、っ、離れない。なな、おさん」
梓が真っ赤な顔で俺を呼ぶ。
「大丈夫だからな。おぶされ!」
梓を背中におんぶして、ヨタ……と立ち上がった。背中越しに梓の体温を感じる。梓は体重が軽くてなんとか運べると思った。
スンスンと梓が俺の首に鼻を擦りつけてくる。
「っ……七生、さん……なな」
「うわっ」
「ん、ん、いい匂い」
こっちは必死になっているのに、梓が俺の首を舐め始めた。くすぐったくて梓を落としそうになる。
「まって……ひゃっ」
ちゅうっと首筋を吸われた時、カクンと膝が崩れた。俺は梓ごと後ろに尻餅を付いた。
「あっ、ごめん、大丈夫か!?」
「……」
振り向いた時、梓の口は大きく開いた。がぶりとは首に歯を立てられる。
「っ! 馬鹿っ! 痛いって」
首を思いっきり噛んでくるから、涙目になる。
首がジンジン痛い。
なにこれ、いたい。
首が熱い。
梓を突き飛ばした時、「おーい、七生~」と俺を探す両親と従兄弟の声する。
「あっ、ここだよ! お父さーんっ」
俺は半泣きで声をあげて、手を振る。
俺たちに気付いた皆は、ホッとした表情になった。
それから熱を出している梓のことは父さんが運んでくれた。
いつもは優しい両親だけど、この時は、子供だけで行くなと物凄く説教された。
浮かれた気分もなくなり、しょんぼりしながらログハウスに戻ると、俺も高熱で倒れた。
病院へ運ばれる程で、原因は不明。
折角の旅行が台無しになった。
皆と大人気の遊園地に行く予定だった。しんどさと悲しさで大泣きした。
残念な記憶として思い出したくない記憶の片隅に置いたんだ。
◇
あの女の子は八乙女だったのか。
はじめから、八乙女は俺に運命を感じていたんだ。
飛び込んでくる男の大きな口を見て、はっきり思い出した。
「はい!」
砂浜部分は少ないけど、誰もいない。
自分達だけの海だと胸が躍る。
服を脱ごうとすると、梓が突然「ひゃああ」と声をあげ、手で両目を隠す。
けど、指が広がっているから薄目でこっちを見ている。
「何? 泳がないの?」
「……子供だけじゃ危ないです」
「そうか、それもそうだな。梓は俺より一年下なのにしっかりしているなぁ」
「……七生さんは7歳ですか。年上って素敵ですね。刺激的で魅力に溢れています」
梓はひょろひょろと砂場に座った。
俺も梓の目の前に座って、二人の間に砂の山を作った。えっと、木の棒は。あったあった。
よっと砂山のてっぺんに棒を立てた。
「棒倒ししようぜ!」
誘うと、梓の目がキラキラ光る。あまりに俺をじっと見るから、どきっとする。
「こ、こうやってするんだ……」
教えてあげると、梓は俺をやたら褒めてくれるので天狗になってしまう。
よし付いてこいなんて言って、棒遊びの後は、砂場に水が出るまで穴を掘ったり、岩辺のイソギンチャクを棒で突いたり、色々遊んだ。
「七生さん、今日の夜、祭りがあるんです。ここから近くなんです。一緒に行きませんか?」
「え? 祭あるんだ! でも、親に聞かないと分からないよ」
「七生さんの御両親! 是非ご挨拶させてください。あ、でもこんな恰好じゃだめだ。……手土産もない。一度帰らなくちゃ。いずれ結婚する相手のご両親なのだから、ちゃんとしなくちゃ」
梓って独り言が多い。
訳が分からなくて、俺は梓の頬をつんつん突いた。
「結婚って?」
「はい! 僕たち結婚します」
「え? 結婚?」
「僕たち、伝説の運命の番です。間違いありません、だってこんなに好きなんですもの」
俺を見る梓の目が嬉しそう。
頬を突いている俺の手を梓が触れると、びりびりする。
梓の言っていることは分からないけれど、特別な気がした。
「梓は俺の特別なの?」
「はい。大きくなったら、絶対一緒に住みましょうね!」
梓のあまりの迫力に頷くと、梓が俺の小指に小指を巻きつけて強引に指切りをした。
ゆびきりげんまーん、うそついたら、はりせんぼん、のーまーす
ゆびきった
「やった!」
梓は感極まって、俺に抱き着いてきた。
すると、またビリビリと静電気が身体に走る。
なんだろ。これが運命?
身体のビリビリが止まらない。
それに親とか友達と抱き着くような感じじゃなくて、身体の奥でふわぁと喜ぶ? みたいな感じがする。
「はぁ、いい匂い……な、なおさ、ん」
くんくん俺の匂いを嗅ぎだした梓がぐにゃぁと腕の中で動けなくなった。
はっはっと息が荒くなっていく。
急にどうしたのかと思って、額に手を置くと熱い。熱が出ている。
「あっ、帽子! そっか、太陽にあたり過ぎたんだ!」
「はぁはぁ、やだ、っ、離れない。なな、おさん」
梓が真っ赤な顔で俺を呼ぶ。
「大丈夫だからな。おぶされ!」
梓を背中におんぶして、ヨタ……と立ち上がった。背中越しに梓の体温を感じる。梓は体重が軽くてなんとか運べると思った。
スンスンと梓が俺の首に鼻を擦りつけてくる。
「っ……七生、さん……なな」
「うわっ」
「ん、ん、いい匂い」
こっちは必死になっているのに、梓が俺の首を舐め始めた。くすぐったくて梓を落としそうになる。
「まって……ひゃっ」
ちゅうっと首筋を吸われた時、カクンと膝が崩れた。俺は梓ごと後ろに尻餅を付いた。
「あっ、ごめん、大丈夫か!?」
「……」
振り向いた時、梓の口は大きく開いた。がぶりとは首に歯を立てられる。
「っ! 馬鹿っ! 痛いって」
首を思いっきり噛んでくるから、涙目になる。
首がジンジン痛い。
なにこれ、いたい。
首が熱い。
梓を突き飛ばした時、「おーい、七生~」と俺を探す両親と従兄弟の声する。
「あっ、ここだよ! お父さーんっ」
俺は半泣きで声をあげて、手を振る。
俺たちに気付いた皆は、ホッとした表情になった。
それから熱を出している梓のことは父さんが運んでくれた。
いつもは優しい両親だけど、この時は、子供だけで行くなと物凄く説教された。
浮かれた気分もなくなり、しょんぼりしながらログハウスに戻ると、俺も高熱で倒れた。
病院へ運ばれる程で、原因は不明。
折角の旅行が台無しになった。
皆と大人気の遊園地に行く予定だった。しんどさと悲しさで大泣きした。
残念な記憶として思い出したくない記憶の片隅に置いたんだ。
◇
あの女の子は八乙女だったのか。
はじめから、八乙女は俺に運命を感じていたんだ。
飛び込んでくる男の大きな口を見て、はっきり思い出した。
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