ベータですが、運命の番だと迫られています

モト

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22.うるさい男

「くっ!」

 鋭い犬歯が皮膚に突き刺さる。
 いてぇ。
 あまりの痛さに、悲鳴をあげそうだ。
 スタッフの男がSEIの身体に覆い被さって噛みつこうとしたとき、咄嗟に俺はSEIを突き飛ばし、自分の腕を差し出したのだ。

「気を確かに持ってください!」

 俺の声に、スタッフの男がハッと理性を戻した。その瞬間には警備員たちが次々とやってきて、俺からスタッフを引き剥がした。そのまま地面に取り押さられる。
 近くの警備員もこの騒ぎに急いで駆けつけてきた。

 一瞬の出来事に自分も呆然としていたけど、SEIが俺の横でブルブル震えているのに気付く。

「SEI、大丈夫ですか!?」
「……はぁ、はぁ」

 SEIは、呆然として何が起きたか分かっていないようだった。
 そして、彼の視線は声をかけた俺じゃなくて、目の前で取り押さえられているスタッフだけに集中している。

 食い入るように見つめるその目がキラキラし始めた。
 その様子は、どこかで見た八乙女の様子と重なった。




 ◇



「噛まれた傷ですが、この程度でしたら、すぐに治りますよ」
「はい。全然大したことがないのに、わざわざすみません」


 男性スタッフに噛まれたあと、周囲に心配されて俺は病院に向かった。
 七月の暑い季節だけど、仕事柄長袖シャツ姿だったのが幸いした。

 ──狂犬病の心配もないのに大袈裟なんだよ。
 医者に診せるのも恥ずかしいと思いながら、一応、軟膏を塗布してもらった。
とりあえずフェスの間はSEIを守り抜けたことだし、役目としてよくやったと自分では満足しながら、病院をでた。

 ──ん?
 見覚えのある三人が病院の駐車場前で立っている。
 SEIとマネージャー、……そして八乙女だ。


 なんで八乙女がいるかって?
 フェス会場付近にいるから会えないかとメールを貰っていたんだ。 
 近くにいるなら丁度いいかと思って、病院へ送ってもらったのだ。

「お待たせし……」

 声をかけようと手をあげたが、お通夜みたいな暗い雰囲気に一度手を下げる。
 聞き耳を立てると、八乙女の口から損害賠償請求という単語が聞こえてきた。

 ──おいおい、なに言ってんだ、こいつ。

 止めなくちゃと思っていると、三人が俺に気が付いた。

「うわぁあん。三栗さん、ごめんなさいぃい!」
「SEI⁉ いいんです。そういう仕事なんですから」
「仕事の案件を確認いたしました。七生さんが怪我を負うリスク提示をしていないですよね。それにフェス運営側にも問題がある。オメガがいる空間にアルファのスタッフが通る時点で、ずさんな管理体制ですね。叩けば色々……」
「八乙女さんは、ややこしくなるので黙ってください!」


 泣きながら謝るSEIと、俺を心配しながら憤怒する八乙女と、ただひたすら謝るマネージャーという地獄絵図で疲労困憊。

「もういいですよ」
「いいえ。なりません。許せません。七生さんの肌に歯を立てるなんて」

 八乙女が見るからに怒りを露わにしている。

 俺からすれば、物凄く軽いことなんだけど。
 バース性の違いなのか、噛む行為にSEIと八乙女は酷く気にしていた。

「もういいですってば」を10回くらい繰り返した後、SEIらとは別れた。




 それで、八乙女の車で家まで送ってもらっているのだが──
 ……すっげぇ、面倒くさい。
 彼の車に乗り込んだ時は、「自分の状態を軽んじていないでもっと労わって欲しい」となんとも優しい台詞に感動していたが、そこからがクドクドと長かった。
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