ベータですが、運命の番だと迫られています

モト

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23.運命論

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「はいはい、気を付けますって」

「七生さんが気をつけても、男の方から襲ってくるかもしれません。そうですよ、こんなに素敵な人なんですから、誰だって噛みつきたい。僕は何度理性を崩しかけたでしょうか。保護しなくちゃいけませんね……」
「わぁあっ! ヤンデレはやめてください!」
「僕の片想い期間も長いですからね。我慢している分、性格曲がるくらいは許されるかと」


 このまま話が進めば、俺を囲い込んでしまうんじゃないか。
 ……まずい。この男がヤンデレになったら、手を付けられないだろう。
 話を変えないと……

 話……
 話題を変えようとして昔の八乙女のことを思い出した。

 ツンとすまして、声かけてもフル無視だった梓ちゃん。
 梓ちゃんは梓くんだったわけで。まぁ、性格曲がったというか、元々そういう性格なんじゃないかと思う。きっと気に入らない奴にはツンツンしているんだろうな……


「……八乙女さんは、アルファとベータの運命論をどうお考えで?」
「運命は、七生さんが嫌いですから、僕も言うのを止めました。急にどうしたんですか?」
「気が変わりました。……あれ、そちらを曲がると、家とは逆方向になるのですが」

 声をかけたのに、八乙女はUターンしようとしない。
 そのまま突っ走る。

「はい、逆ですね」 
「また勝手なことを」
「すみません」


 口だけの謝罪に口元をゆがめたとき、八乙女が「運命の番のことですが」と話しはじめた。

「“運命の番”は別名“魂の番”と呼ばれるそうです。魂の番と呼ばれるなら、アルファ同士でもオメガ同士でもありえますよね? 勿論ベータ同士でも」
「なるほど、魂論ですか」
「はい。魂は誰にでもあるものでしょう」

 ただ、アルファとオメガみたいに分かり合う器官がないだけ。言われてみればその通りだ。

「でも、やっぱり惹かれるのではないでしょうか。赤い糸みたいな感じで」
「赤い糸……八乙女さんは、ロマンティックですね」
「子供の頃は、一切信じていませんでしたけどね」
「へぇ」

 運命や赤い糸を信じる八乙女は、ずっとずっと小さい子供の頃は信じていなかったそうだ。

 幽霊や超能力を持ったヒーロー、目に見えないものは特に信じていなかった。
 運命の番もそういった見えないものの類で、馬鹿みたいに思っていたらしい。
 根拠があるものが好きなだけだったけれど、周りから冷めた子供だと言われ始め、より卑屈になっていたのだそう。
 

「実は、僕が六歳の頃に七生さんに出会ったんですよ。あのとき、一瞬で運命を信じました。すると、馬鹿にしていた幽霊も超能力なども信じられるようになりました。……七生さんは覚えていないようですが」

 いえ。さっき、思い出しました……。
 思い出したくない苦い記憶として封印していました。

「……えーと、辛くなかったですか? たったちょっと会っただけの人を長年探すのは」
「……」

 八乙女は、運転しながら少し目を見開いた。でも、俺が過去を思い出したかどうかを聞かず、口元を緩ませた。

「いえ。見えないものを信じる僕は、冒険の旅に出た気分でした。伝説の宝を探しているみたいで、ずっとワクワクしていたんです」
 
 宝の地図とかにも憧れた、どこに出かけても会えるかもしれないと楽しい気分になる。
 そんなキラキラした目で言われている宝物というのが、自分であること。
 そして、今も求められて口説かれている状況の一つだということに、恥ずかしさが込み上げてくる。

 息苦しさに少し窓を開けて、ややぬるい風を吸い込んだ。

「八乙女さん、ちょっと車を停めてもらえませんか?」

 ちゃんと話がしたいと言うと、八乙女は路肩に車を停めた。時間は夜の22時。
 対向車もほとんどない。ハザードをたいて何か? と彼がこちらを向いた。
 正直、このイケメンに真正面から見られて、ドキリとしない人間はいないと思う。

 なので、俺が、彼を見てドキリとしていても正常な心臓機能といえよう。


「あの、何度も言いますが……、俺は運命を感じる器官が俺にはなくて、分からないんです」

「理解しています。今は聞かれたから答えただけです。もう自分から運命だとは言うつもりはありませんよ」

「いえ……、こちらも否定するつもりは、ありません」
「……」


 八乙女が俺を見て、言葉を待っている。
 手で顔を覆ってはぁーっと大きくため息をついた後、顔を上げた。


「俺、ずっとドキドキしています。……この、トキメキが運命だからかは分かりませんが、気持ちが貴方に向かっている。その……お試しとかではなくて、ちゃんとお付き合いし」
「はい」
「はいが早いです。最後まで言っていません」


 すみません、もう待ちきれませんでした。と言う八乙女の目があまりにキラキラしているから、俺はツッコむのを止めて、すぐに迫ってくる彼の唇を受け入れた。
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