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第6章
06-151 上海
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最初の情報は、ベトナムからの移住者からもたらされた。
漁船での旅の途中、雨を避けて杭州湾に避難した際、そこで何者かによる巨大な輪の建設を目撃した、と。
銃器のほとんどを“返納”した香野木たちは、失ったものを購入しようとしていた。
原資は、74式自走105mmりゅう弾砲2輌の“修理費用”として支払われた、10グラム桜金貨4000枚、大災厄前の価値に換算すると1800万円に相当する。
74式自走105mmりゅう弾砲は、2000年に全車が退役していたことから、不当に“奪った”と噂されたことから、新政府は金で解決しようとした。
有澤臨時代表が始めた、国有財産返納は彼を追い込み始めていた。
移住者の多くが「新政府は武器の次は食料を狙ってくる」と噂し始めたからだ。有澤臨時代表の信条は公平・公正だが、彼が公平・公正だと考える移住者は限られていた。
花山真弓は、ベトナムからの移住者からベトナム製のSKSカービン3挺を購入することができた。
古めかしい木製銃床で、ナイフ型の銃剣が備えられている。銃の状態はいい。ベトナムからの移住者たちは、武器を失った香野木たちを心配してくれていた。この銃の譲渡は、友誼の印でもある。
彼らから質問があった。
「シオタは信頼に足る人物だったが、アリサワはどうか?」
花山は答えなかった。
無言が答えだった。
その他、フィリピンの移住者からスプリングフィールドM14バトルライフル数挺とM60汎用機関銃、台湾の移住者から57式歩槍(M14のライセンス生産品)数挺と74式機槍(FN MAGのライセンス生産品)を入手できた。
台湾の移住者は豊富に武器を持っていたが、多くを残置している。フィリピンやベトナムの移住者は、身を守る程度の武器がある。
秋が深まり、恐ろしい冬の足音が近付いているが、高知は関東と比べると、死に至るほどの寒さにはならない。
各務原も関東ほどは寒くない。
冬を前に、高知空港から航空自衛隊岐阜基地に向けて、旧北関東の各グループの航空機が一斉に飛び立った。
距離は370キロしかないので、ヘリコプターも離陸した。各務原に本格的な拠点を建設するため、ラダ・ムーと井澤貞之が結城光二とともに離陸した。
これで、北関東由来の各グループの思惑が明らかになる。
有澤純太郎臨時代表と、彼の取り巻きたちが慌てる。
有澤臨時代表は公平・公正を訴えているが、彼は公平・公正であることを行動で示せなかった。不公平で偏重な人物だと、移住者の大半が判断し始めていた。
高知では、代表選挙の実施を求める運動が始まっていた。有澤臨時代表は、選挙人名簿の不備を理由に選挙の実施を拒んでいた。
各務原では、上海の南、杭州湾沖で建設されているという巨大な物体について、非常な興味が持たれていた。
オークかギガスの関与が疑われており、兵器ではないか、との疑念が絶えなかった。
情報の出所は高知なのだが、危機感は各務原のほうが何倍も高かった。
各務原では、最も航続距離の長いエンブラエル製フェノム300ビジネスジェットで、上海までの長距離偵察を計画した。
この計画には結城と井澤貞之が深く関わり、5人が乗る偵察機には結城も搭乗することが決まっている。
井澤貞之が香野木に要請したことは、高知空港の利用だった。岐阜基地からなら1550キロだが、高知空港を起点にすれば1200キロ。高知空港を利用するほうが、有利で安全だ。燃料の補給だけでも意味がある。
香野木は、加賀谷真梨とともに高知空港に向かった。通称である高知龍馬空港は、施設と設備は大災厄から5年後の状態のままだった。この空港は、阿蘇山が噴火した2カ月後には閉鎖されている。高知港は6カ月後に政府の船以外は、寄港できなくなった。
それだけに、状態がいい。その後の混乱の洗礼を受けていると、あるべきものがなくなっているのだ。
空港の床や壁はきれいに清掃されていたが、窓は汚れたままだ。敷地内は火山灰が除かれ、空港として完全に使用可能だ。
空港は自衛隊が管理している。市ヶ谷台は、多数の回転翼機を持っているが、固定翼機は皆無。航空機による長距離の移動は、V-22オスプレイに頼っていた。
市ヶ谷台は、このオスプレイをグァムの生き残りから手に入れている。
一方、北関東由来の各グループは、航続距離の長い固定翼機を好んだ。ヘリコプターは相馬原の他は、1機しかない。
これは、深い意味のある選択ではなかった。一定の指向性があったのは確かなのだろうが……。
各務原の確保を考えた理由は、有澤臨時代表だけが理由ではない。
市ヶ谷台には多くの旧海上自衛隊員がいる。彼らのほとんどは、潜水艦に乗っていて助かった。
潜水艦は船の一種である以上、船には港が必要。港湾施設がしっかり残っていて、造船設備まで健在な高知港周辺は、彼らにとって理想的だった。
北関東由来の各グループは船舶関係者もいるのだが、航空機の専門家が相当数いた。各務原には、航空機の組み立て工場が残っており、3000メートル級滑走路もある。
関連工場も多いし、大災厄後に集められた飛行機が多数残置されている。航空博物館まで健在なのだ。
船舶関係者は造船所が残る浦戸湾湾口付近に留まる意向で、航空機関連は各務原に移動する。
そして、両者は互いに連携することで合意している。
香野木は、高知空港を管理する自衛隊の指揮官と、きれいに清掃された会議室にいる。基地司令は航空部1尉で、海上部の3佐も同席する。この基地は、陸海空の自衛隊が共同使用している。
いまどき貴重な緑茶が出された。
茶を勧められ、口を付け、香野木が口を開く。
「面談の機会をいいただき、感謝します。
知っているとは思うのですが……。
杭州湾で、オークかギガスが何かを作っています。直径250メートルに達する金属の輪だとか。
各務原は、これを偵察しようと考えています」
基地司令の航空部1尉が唇を舐めた。
「知っています。
ですが、新政府は興味を持っていません。
空からの偵察は、計画していません」
自衛隊海上部の3佐は思案気だ。
「潜水艦が、杭州湾に入るのは危険すぎるんです。浅いので……」
香野木は、自信のある芝居をしている。
「偵察には、エンブラエルのフェノム300を使います。過荷状態で3500キロ飛べます。
往復にあたり、高知空港を中継地にしたいのです」
基地司令の航空部1尉が賛意を示すが、同時に困惑もしている。
「自衛隊員の同乗は可能ですか?」
「考慮します。
最大11人乗れるので、可能でしょう」
「ですが……、香野木さん。
新政府は許可しないでしょう」
「司令、給油する燃料は、我々が運びます」
「燃料は、豊富なんですか?」
「実は……、富山にある油田が自噴しています。毎時400リットルほどですが、精製して各務原に運んでいます。
原油は良質の軽質油で、車輌、船舶、航空機に使っています。
もちろん、農機にも使えます」
基地司令の航空部1尉と海上部の3佐は顔を見合わせる。
高知では、農業による食糧増産、地下資源の開発など、一切が手つかずなのだ。有澤臨時代表にとって、資源・物資の確保のプライオリティは低いらしい。
「言下に拒否されるか、幸運なら“空港使用料”を要求するかもしれません。
その場合、どうします?
香野木さん……」
「オライオンを1機修理する、でどうでしょう」
「P-3Cですか?」
「えぇ。
各務原には、用途廃止のオライオンが何機もありますから、部品を集成すれば1機くらいは修理できます」
海上部の3佐が懸念を示す。
「修理してくれるという保証がなければ、臨時政府は信用しないでしょう」
「では、空港使用時に機体を引き渡します」
「もう、修理済み?
……ですか?
香野木さん?」
「えぇ」
「何機?」
「オライオンは3機」
基地司令の航空部1尉がニヤつく。
「それ以外は?」
「C-1が2機」
2人が顔を見合わせ微笑む。
「そいつはすごい」
香野木は、知らせるべきことを伝える。
「オライオンの機内からは、哨戒機のセンサー類がすべて取り外されていました。
ですから、あるのは裸の機体だけです」
海上部の3佐が微笑む。
「十分です。
臨時政府との交渉は任せてください」
有澤臨時代表は政府内でも不人気で、無能呼ばわりされている。彼はそれを知っており、政権はレームダック化し始めている。
香野木は、各務原が資源の開発に着手していることを、若年者の力を借りて噂を流していた。農地の大規模復旧に必要な、農機の修理についても宣伝している。有澤臨時代表に対する圧力だ。
彼の信条は公平・公正だが、香野木の信条は勝てば官軍、負ければ賊軍。
有澤臨時代表は普遍的正義を信じているが、香野木にとっての正義とは権力者の論理だ。
岐阜基地に“放置”されている機種は、C-1輸送機、P-3C哨戒機、C-130H輸送機、T-4練習機。ヘリコプターは整備途中のBK117が2機。
P-3CとC-130Hのエンジンは基本的に同型なので、ある程度の融通性がある。状態のいいP-3Cの機体にC-130Hのエンジンを移植したり、その逆もできる。
翌日、造船所に自衛隊航空部の3佐が尋ねてきた。
自衛隊は、戦闘機はもちろん、航空機を1機も持っていない。
対空砲は20ミリバルカン砲の対空版VADS-1を数基保有しているだけ。地対空ミサイルは、1基もない。
3佐は、屋根付き船台の装甲車輌を見て、ギョッとしている。オリジナルに近いセンチュリオンの本格改造と、返納させられた74式自走105ミリりゅう弾砲の代わりとなる、新型装甲車輌の開発が始まっているからだ。
会談は、事務棟の応接室で始まった。少しくたびれたソファーが、この造船所の歴史を物語っている。
自己紹介がすむと、柏木3佐は単刀直入に切り出した。
「香野木さん、早速なんですが、C-1が2機、再生されているとか……」
「えぇ、各務原で……」
「それを譲ってもらうには、何をどうすればいいですか?」
「柏木さん、もう少し待ちましょう。
そうすれば、事態が変わりますから。
選挙で、次の代表が決まってからでいいと思います」
「いや、そういうわけにはいかないんです。切羽詰まってまして……」
「飛行機がない?」
「その通りです」
「各務原には、T-4練習機が複数あるそうです。
隊員を各務原に送ってみませんか?
お互い飛べる飛行機は、1機でも多く欲しいのですから……」
「香野木さん、それが簡単ではないんです。
なんというか……」
「裏切り者、転向者、変節漢、盗人、略奪者、守銭奴……。
我々は、ボロクソに言われていますからね」
「そう思っているのは、声が大きい数人で……」
「柏木さん、パイロットや整備士を密かに送ったらどうです?」
「秘密作戦ですか?」
「まぁ。
除隊させてしまえば、あとは知ったことじゃないでしょう」
「家族がいる隊員が多いのです」
「確かに、この状況では1人は寂しいですね。
誰かと一緒にいたいし、1人で死ぬのは怖い。
問題は、除隊後の収入ですか……」
「香野木さん、現物でもいいのです。
金貨や銀貨では、空腹はどうにもならないので……」
「根本的な解決は選挙の実施でしょうが、それを待っていたら後手に回ります。
柏木さん、台湾にF-5を取りに行く作戦を立ててください。その後、何人かは各務原に向かう……。
選挙の終了後、政府と議会に報告する……」
「そんな違法行為はできません。
ですが、各務原の監視のために、隊員を送る、との名目なら政府は許可すると思います」
「柏木さん、ではそれで。
うまくやりましょう」
選挙があるとしても、あと半年はかかる。その間は、現在の有澤臨時代表が指揮を執る。
民主主義は、面倒でも手順が大事なのだ。
その夜、有沢臨時代表の退陣を求めるリコールの署名を求める用紙が回ってきた。
このリコール運動は、選挙権のない10歳代前半が始めたもので、10日で有権者1万人分の署名を目指している。
香野木たちは、強制的に署名させられた。やや強面の長宗は3人の女の子に囲まれて、否応を言う暇を与えられなかった。
「大人なんだから、責任持とうよ」
有村沙織の言はもっともだ。
各務原の常駐者は、必ずしも高知市から“離脱”したわけではなかった。
高知市は気流の関係で青空が広がり、日照が多く、同時に十分な降雨があり、農作物を育てやすい。
食料の生産は、ヒトの死活に直結する問題だ。高知市を捨てる理由はない。
北関東に由来する各グループは、電気の供給がないことと、物資の減耗から、各務原での補給を考えただけ。
臨時政権は、高知市内の残存物資を統制しており、勝手な持ち出しは一切認めていない。
それは、それで正しい。しかし、溜め込むだけで車輌などの入手物資の再配分をしなかった。農機などもそこそこあるが、配分しないので農業ができない。
鍬と鎌で小さな菜園を耕し、野菜を作る程度だ。農地の配分もしないし、恒久的な住宅の割り当てもしない。
仮の宿を得ても、不法占拠だと宣う。結局、何も進まない。
だから、リコールされかけているのだが……。
香野木は、北関東由来の他のグループに依存しない、各務原との交通手段を考えている。輸送機と船舶を確保すればいいのだが、簡単ではない。
航空機よりは、船舶のほうが現実的。高知空港には、離陸できなかった旅客機4機が残置されているが、機体に損傷があり、容易に修理できる状態ではない。
その夜、子供たちが眠った後、数人の大人たちが、長宗が提供した本物の焼酎を飲みながら、雑談していた。
香野木が「有澤さんが椅子から降りるのを待っていると、危機的状況に陥ってしまうかも……」と危惧すると、何となくその場の全員が黙して頷いた。
花山真弓が「上海はどうするの?」と尋ね、視線が香野木に集まる。
「無理をすれば、空からの偵察は可能だけど……。
無理をして事故を起こせば、人命と飛行機を失う。
現状での決行は無理だ。
海上保安庁の220トン級つるぎ型巡視船がある。最大50ノット出るそうだから、あれが使えれば、海からの偵察は可能だろう。
しかし、臨時政権が我々の言葉に耳を貸すとは思えない。
2000トン級のあぶくま型護衛艦では、速度が足りない。
高速発揮が可能だったとしても、臨時政権は派遣しないと思う。
我々とは、彼らが見ているものは違うんだ」
長宗が香野木を見る。
「40ノット出る船があれば?」
香野木が微笑む。
「理想だろうね」
長宗が事もなげに言う。
「あるよ。
1番船台に引き上げてある」
全員の目が長宗に注がれる。彼は長期間、言葉を発していなかった。そのためか、会話が億劫になっていた。
しかし、視線に負けた。
「ベルーガ。
オーストラリアのインキャットが建造した85メートル型高速双胴船。
基本的には、佐渡汽船の高速フェリー“あかね”と同型だ」
彼に向けられる視線がさらに鋭くなる。
「ちょっと、変わった経歴の船でね。
最初に建造を依頼したのはチリ海軍で、輸送艦として使われていたけれど、インドの海運会社に売却されて、しばらくはインド海軍が輸送艦としてリースしていた。
それをフィリピンのフェリー会社が買い取って、高速フェリーとして運航していた。
軍用輸送艦のままでは不都合が多くて、民間のフェリーに改装することになったんだ。その工事を請け負った。
大災厄の直前だった。
大災厄が起こって、工事は中断。避難のために艤装岸壁を開ける必要があり、面倒だが船台に上げた。
民間フェリーの塗装だけど、船体は軍用輸送艦時代のままだ。船橋はそのままだけど、乗客のエリアは椅子を全部取り外してある。
始めた工事はその程度。何もやっていないのと同じだ。
だけど、船としては異常はない、はず……だけど……」
香野木は少し疑念を持った。
「全長85メートルもある民間の船が、本当に40ノットも出るのか?
時速に直すと、74キロだぞ」
長宗は動じない。
「出るよ。
ただ……。
高速ディーゼル4基とウオータージェット推進4基なんだが、全基ディーゼルエレクトリックなんだ。
試験的に潜水艦の技術を応用した船でね。ディーゼルで発電して、電動モーターで推進器を駆動する。
少量のリチウムイオン電池を積んでいるから、短時間なら電池だけでも航行できる。
巡航速度30ノットで、2時間くらいなら主機を動かさなくても航行できる」
翌早朝、太陽が昇ると、長宗は大人たちを最も遠い船台に案内した。
香野木は率直な感想を言葉にした。
「大きい船だな。
普通の船よりは横幅が広い印象だが……」
長宗は、香野木の見解を否定する。
「陸に上がっているから大きく見えるだけだ。海の浮かべたら小舟だよ。
全長90メートル、全幅26メートル、5700総トン、積載重量460トン、満載喫水は4メートル以下と浅い。
巡航速度30ノット、最大速度40ノット。
軍用輸送艦だったから、戦車だって運べる。レオパルト2を運ぶために造られた船だ。
あんたたちの化け物戦車だって運べるよ」
長宗は船内を案内し、最後にヘリパッドに到る。
「この大きなヘリパッドがフェリーにとっては邪魔なんだ。乗客区画がこのヘリパッドで潰されている。
請け負った仕事は、ヘリパッドを撤去して、客室を増やす工事だった。乗客350人から700人へ倍増する予定だったんだ。
このヘリパッドは、アエロスパシアルの大型ヘリが2機降りられるだけの広さと強度がある」
香野木は、どうするか考えた。
「動くのか?
動くなら、動かすために何をすればいい?
この先の安全を考えるなら、上海を偵察する必要がある」
この日、簡単で量の少ない朝食の後、自然と全員参加の会議が始まる。
11時頃、突然の情報が舞い込んできた。
ラジオ放送は、有澤臨時代表が辞任したことを繰り返し伝えている。
今日の13時、10歳代の若者たちが集めた辞任要求の署名が臨時政権に届けられる予定になっていた。
署名数は1万5000筆を超えていた。
有澤臨時代表は、戒厳令の施行を画策したが、自衛隊の協力が得られなかった。
有澤臨時代表は、自身の生命の保障を条件に、臨時政権から退くことを承諾する。
13時、もう1人の副代表であった今湊正一が臨時代表に就任した。彼は政治学者であり、政治と行政の実務経験はなく、言わば素人だった。
しかし、普通の感覚の良識ある人物だ。
15時、今湊臨時代表は、ラジオを通じて、当面の方針を伝えた。
「まず、恒久的な住居の割り当てを行います。
次に農地の復旧と作物の生産。できれば、来年春には稲作の再開ができるようにしましょう。
そして、燃料の確保。これは大問題で、困難な状況です。
ですが、電力は確保できています。
力を合わせて、この困難な状況を乗り切りましょう」
16時、今湊臨時代表は、上海の航空偵察実施を決定する。
明日早朝、フェノム300小型ジェット機が各務原を離陸し、高知空港に向かう。
上海を巡る、ヒト、オーク、ギガスの三つ巴の戦いが始まろうとしていた。
漁船での旅の途中、雨を避けて杭州湾に避難した際、そこで何者かによる巨大な輪の建設を目撃した、と。
銃器のほとんどを“返納”した香野木たちは、失ったものを購入しようとしていた。
原資は、74式自走105mmりゅう弾砲2輌の“修理費用”として支払われた、10グラム桜金貨4000枚、大災厄前の価値に換算すると1800万円に相当する。
74式自走105mmりゅう弾砲は、2000年に全車が退役していたことから、不当に“奪った”と噂されたことから、新政府は金で解決しようとした。
有澤臨時代表が始めた、国有財産返納は彼を追い込み始めていた。
移住者の多くが「新政府は武器の次は食料を狙ってくる」と噂し始めたからだ。有澤臨時代表の信条は公平・公正だが、彼が公平・公正だと考える移住者は限られていた。
花山真弓は、ベトナムからの移住者からベトナム製のSKSカービン3挺を購入することができた。
古めかしい木製銃床で、ナイフ型の銃剣が備えられている。銃の状態はいい。ベトナムからの移住者たちは、武器を失った香野木たちを心配してくれていた。この銃の譲渡は、友誼の印でもある。
彼らから質問があった。
「シオタは信頼に足る人物だったが、アリサワはどうか?」
花山は答えなかった。
無言が答えだった。
その他、フィリピンの移住者からスプリングフィールドM14バトルライフル数挺とM60汎用機関銃、台湾の移住者から57式歩槍(M14のライセンス生産品)数挺と74式機槍(FN MAGのライセンス生産品)を入手できた。
台湾の移住者は豊富に武器を持っていたが、多くを残置している。フィリピンやベトナムの移住者は、身を守る程度の武器がある。
秋が深まり、恐ろしい冬の足音が近付いているが、高知は関東と比べると、死に至るほどの寒さにはならない。
各務原も関東ほどは寒くない。
冬を前に、高知空港から航空自衛隊岐阜基地に向けて、旧北関東の各グループの航空機が一斉に飛び立った。
距離は370キロしかないので、ヘリコプターも離陸した。各務原に本格的な拠点を建設するため、ラダ・ムーと井澤貞之が結城光二とともに離陸した。
これで、北関東由来の各グループの思惑が明らかになる。
有澤純太郎臨時代表と、彼の取り巻きたちが慌てる。
有澤臨時代表は公平・公正を訴えているが、彼は公平・公正であることを行動で示せなかった。不公平で偏重な人物だと、移住者の大半が判断し始めていた。
高知では、代表選挙の実施を求める運動が始まっていた。有澤臨時代表は、選挙人名簿の不備を理由に選挙の実施を拒んでいた。
各務原では、上海の南、杭州湾沖で建設されているという巨大な物体について、非常な興味が持たれていた。
オークかギガスの関与が疑われており、兵器ではないか、との疑念が絶えなかった。
情報の出所は高知なのだが、危機感は各務原のほうが何倍も高かった。
各務原では、最も航続距離の長いエンブラエル製フェノム300ビジネスジェットで、上海までの長距離偵察を計画した。
この計画には結城と井澤貞之が深く関わり、5人が乗る偵察機には結城も搭乗することが決まっている。
井澤貞之が香野木に要請したことは、高知空港の利用だった。岐阜基地からなら1550キロだが、高知空港を起点にすれば1200キロ。高知空港を利用するほうが、有利で安全だ。燃料の補給だけでも意味がある。
香野木は、加賀谷真梨とともに高知空港に向かった。通称である高知龍馬空港は、施設と設備は大災厄から5年後の状態のままだった。この空港は、阿蘇山が噴火した2カ月後には閉鎖されている。高知港は6カ月後に政府の船以外は、寄港できなくなった。
それだけに、状態がいい。その後の混乱の洗礼を受けていると、あるべきものがなくなっているのだ。
空港の床や壁はきれいに清掃されていたが、窓は汚れたままだ。敷地内は火山灰が除かれ、空港として完全に使用可能だ。
空港は自衛隊が管理している。市ヶ谷台は、多数の回転翼機を持っているが、固定翼機は皆無。航空機による長距離の移動は、V-22オスプレイに頼っていた。
市ヶ谷台は、このオスプレイをグァムの生き残りから手に入れている。
一方、北関東由来の各グループは、航続距離の長い固定翼機を好んだ。ヘリコプターは相馬原の他は、1機しかない。
これは、深い意味のある選択ではなかった。一定の指向性があったのは確かなのだろうが……。
各務原の確保を考えた理由は、有澤臨時代表だけが理由ではない。
市ヶ谷台には多くの旧海上自衛隊員がいる。彼らのほとんどは、潜水艦に乗っていて助かった。
潜水艦は船の一種である以上、船には港が必要。港湾施設がしっかり残っていて、造船設備まで健在な高知港周辺は、彼らにとって理想的だった。
北関東由来の各グループは船舶関係者もいるのだが、航空機の専門家が相当数いた。各務原には、航空機の組み立て工場が残っており、3000メートル級滑走路もある。
関連工場も多いし、大災厄後に集められた飛行機が多数残置されている。航空博物館まで健在なのだ。
船舶関係者は造船所が残る浦戸湾湾口付近に留まる意向で、航空機関連は各務原に移動する。
そして、両者は互いに連携することで合意している。
香野木は、高知空港を管理する自衛隊の指揮官と、きれいに清掃された会議室にいる。基地司令は航空部1尉で、海上部の3佐も同席する。この基地は、陸海空の自衛隊が共同使用している。
いまどき貴重な緑茶が出された。
茶を勧められ、口を付け、香野木が口を開く。
「面談の機会をいいただき、感謝します。
知っているとは思うのですが……。
杭州湾で、オークかギガスが何かを作っています。直径250メートルに達する金属の輪だとか。
各務原は、これを偵察しようと考えています」
基地司令の航空部1尉が唇を舐めた。
「知っています。
ですが、新政府は興味を持っていません。
空からの偵察は、計画していません」
自衛隊海上部の3佐は思案気だ。
「潜水艦が、杭州湾に入るのは危険すぎるんです。浅いので……」
香野木は、自信のある芝居をしている。
「偵察には、エンブラエルのフェノム300を使います。過荷状態で3500キロ飛べます。
往復にあたり、高知空港を中継地にしたいのです」
基地司令の航空部1尉が賛意を示すが、同時に困惑もしている。
「自衛隊員の同乗は可能ですか?」
「考慮します。
最大11人乗れるので、可能でしょう」
「ですが……、香野木さん。
新政府は許可しないでしょう」
「司令、給油する燃料は、我々が運びます」
「燃料は、豊富なんですか?」
「実は……、富山にある油田が自噴しています。毎時400リットルほどですが、精製して各務原に運んでいます。
原油は良質の軽質油で、車輌、船舶、航空機に使っています。
もちろん、農機にも使えます」
基地司令の航空部1尉と海上部の3佐は顔を見合わせる。
高知では、農業による食糧増産、地下資源の開発など、一切が手つかずなのだ。有澤臨時代表にとって、資源・物資の確保のプライオリティは低いらしい。
「言下に拒否されるか、幸運なら“空港使用料”を要求するかもしれません。
その場合、どうします?
香野木さん……」
「オライオンを1機修理する、でどうでしょう」
「P-3Cですか?」
「えぇ。
各務原には、用途廃止のオライオンが何機もありますから、部品を集成すれば1機くらいは修理できます」
海上部の3佐が懸念を示す。
「修理してくれるという保証がなければ、臨時政府は信用しないでしょう」
「では、空港使用時に機体を引き渡します」
「もう、修理済み?
……ですか?
香野木さん?」
「えぇ」
「何機?」
「オライオンは3機」
基地司令の航空部1尉がニヤつく。
「それ以外は?」
「C-1が2機」
2人が顔を見合わせ微笑む。
「そいつはすごい」
香野木は、知らせるべきことを伝える。
「オライオンの機内からは、哨戒機のセンサー類がすべて取り外されていました。
ですから、あるのは裸の機体だけです」
海上部の3佐が微笑む。
「十分です。
臨時政府との交渉は任せてください」
有澤臨時代表は政府内でも不人気で、無能呼ばわりされている。彼はそれを知っており、政権はレームダック化し始めている。
香野木は、各務原が資源の開発に着手していることを、若年者の力を借りて噂を流していた。農地の大規模復旧に必要な、農機の修理についても宣伝している。有澤臨時代表に対する圧力だ。
彼の信条は公平・公正だが、香野木の信条は勝てば官軍、負ければ賊軍。
有澤臨時代表は普遍的正義を信じているが、香野木にとっての正義とは権力者の論理だ。
岐阜基地に“放置”されている機種は、C-1輸送機、P-3C哨戒機、C-130H輸送機、T-4練習機。ヘリコプターは整備途中のBK117が2機。
P-3CとC-130Hのエンジンは基本的に同型なので、ある程度の融通性がある。状態のいいP-3Cの機体にC-130Hのエンジンを移植したり、その逆もできる。
翌日、造船所に自衛隊航空部の3佐が尋ねてきた。
自衛隊は、戦闘機はもちろん、航空機を1機も持っていない。
対空砲は20ミリバルカン砲の対空版VADS-1を数基保有しているだけ。地対空ミサイルは、1基もない。
3佐は、屋根付き船台の装甲車輌を見て、ギョッとしている。オリジナルに近いセンチュリオンの本格改造と、返納させられた74式自走105ミリりゅう弾砲の代わりとなる、新型装甲車輌の開発が始まっているからだ。
会談は、事務棟の応接室で始まった。少しくたびれたソファーが、この造船所の歴史を物語っている。
自己紹介がすむと、柏木3佐は単刀直入に切り出した。
「香野木さん、早速なんですが、C-1が2機、再生されているとか……」
「えぇ、各務原で……」
「それを譲ってもらうには、何をどうすればいいですか?」
「柏木さん、もう少し待ちましょう。
そうすれば、事態が変わりますから。
選挙で、次の代表が決まってからでいいと思います」
「いや、そういうわけにはいかないんです。切羽詰まってまして……」
「飛行機がない?」
「その通りです」
「各務原には、T-4練習機が複数あるそうです。
隊員を各務原に送ってみませんか?
お互い飛べる飛行機は、1機でも多く欲しいのですから……」
「香野木さん、それが簡単ではないんです。
なんというか……」
「裏切り者、転向者、変節漢、盗人、略奪者、守銭奴……。
我々は、ボロクソに言われていますからね」
「そう思っているのは、声が大きい数人で……」
「柏木さん、パイロットや整備士を密かに送ったらどうです?」
「秘密作戦ですか?」
「まぁ。
除隊させてしまえば、あとは知ったことじゃないでしょう」
「家族がいる隊員が多いのです」
「確かに、この状況では1人は寂しいですね。
誰かと一緒にいたいし、1人で死ぬのは怖い。
問題は、除隊後の収入ですか……」
「香野木さん、現物でもいいのです。
金貨や銀貨では、空腹はどうにもならないので……」
「根本的な解決は選挙の実施でしょうが、それを待っていたら後手に回ります。
柏木さん、台湾にF-5を取りに行く作戦を立ててください。その後、何人かは各務原に向かう……。
選挙の終了後、政府と議会に報告する……」
「そんな違法行為はできません。
ですが、各務原の監視のために、隊員を送る、との名目なら政府は許可すると思います」
「柏木さん、ではそれで。
うまくやりましょう」
選挙があるとしても、あと半年はかかる。その間は、現在の有澤臨時代表が指揮を執る。
民主主義は、面倒でも手順が大事なのだ。
その夜、有沢臨時代表の退陣を求めるリコールの署名を求める用紙が回ってきた。
このリコール運動は、選挙権のない10歳代前半が始めたもので、10日で有権者1万人分の署名を目指している。
香野木たちは、強制的に署名させられた。やや強面の長宗は3人の女の子に囲まれて、否応を言う暇を与えられなかった。
「大人なんだから、責任持とうよ」
有村沙織の言はもっともだ。
各務原の常駐者は、必ずしも高知市から“離脱”したわけではなかった。
高知市は気流の関係で青空が広がり、日照が多く、同時に十分な降雨があり、農作物を育てやすい。
食料の生産は、ヒトの死活に直結する問題だ。高知市を捨てる理由はない。
北関東に由来する各グループは、電気の供給がないことと、物資の減耗から、各務原での補給を考えただけ。
臨時政権は、高知市内の残存物資を統制しており、勝手な持ち出しは一切認めていない。
それは、それで正しい。しかし、溜め込むだけで車輌などの入手物資の再配分をしなかった。農機などもそこそこあるが、配分しないので農業ができない。
鍬と鎌で小さな菜園を耕し、野菜を作る程度だ。農地の配分もしないし、恒久的な住宅の割り当てもしない。
仮の宿を得ても、不法占拠だと宣う。結局、何も進まない。
だから、リコールされかけているのだが……。
香野木は、北関東由来の他のグループに依存しない、各務原との交通手段を考えている。輸送機と船舶を確保すればいいのだが、簡単ではない。
航空機よりは、船舶のほうが現実的。高知空港には、離陸できなかった旅客機4機が残置されているが、機体に損傷があり、容易に修理できる状態ではない。
その夜、子供たちが眠った後、数人の大人たちが、長宗が提供した本物の焼酎を飲みながら、雑談していた。
香野木が「有澤さんが椅子から降りるのを待っていると、危機的状況に陥ってしまうかも……」と危惧すると、何となくその場の全員が黙して頷いた。
花山真弓が「上海はどうするの?」と尋ね、視線が香野木に集まる。
「無理をすれば、空からの偵察は可能だけど……。
無理をして事故を起こせば、人命と飛行機を失う。
現状での決行は無理だ。
海上保安庁の220トン級つるぎ型巡視船がある。最大50ノット出るそうだから、あれが使えれば、海からの偵察は可能だろう。
しかし、臨時政権が我々の言葉に耳を貸すとは思えない。
2000トン級のあぶくま型護衛艦では、速度が足りない。
高速発揮が可能だったとしても、臨時政権は派遣しないと思う。
我々とは、彼らが見ているものは違うんだ」
長宗が香野木を見る。
「40ノット出る船があれば?」
香野木が微笑む。
「理想だろうね」
長宗が事もなげに言う。
「あるよ。
1番船台に引き上げてある」
全員の目が長宗に注がれる。彼は長期間、言葉を発していなかった。そのためか、会話が億劫になっていた。
しかし、視線に負けた。
「ベルーガ。
オーストラリアのインキャットが建造した85メートル型高速双胴船。
基本的には、佐渡汽船の高速フェリー“あかね”と同型だ」
彼に向けられる視線がさらに鋭くなる。
「ちょっと、変わった経歴の船でね。
最初に建造を依頼したのはチリ海軍で、輸送艦として使われていたけれど、インドの海運会社に売却されて、しばらくはインド海軍が輸送艦としてリースしていた。
それをフィリピンのフェリー会社が買い取って、高速フェリーとして運航していた。
軍用輸送艦のままでは不都合が多くて、民間のフェリーに改装することになったんだ。その工事を請け負った。
大災厄の直前だった。
大災厄が起こって、工事は中断。避難のために艤装岸壁を開ける必要があり、面倒だが船台に上げた。
民間フェリーの塗装だけど、船体は軍用輸送艦時代のままだ。船橋はそのままだけど、乗客のエリアは椅子を全部取り外してある。
始めた工事はその程度。何もやっていないのと同じだ。
だけど、船としては異常はない、はず……だけど……」
香野木は少し疑念を持った。
「全長85メートルもある民間の船が、本当に40ノットも出るのか?
時速に直すと、74キロだぞ」
長宗は動じない。
「出るよ。
ただ……。
高速ディーゼル4基とウオータージェット推進4基なんだが、全基ディーゼルエレクトリックなんだ。
試験的に潜水艦の技術を応用した船でね。ディーゼルで発電して、電動モーターで推進器を駆動する。
少量のリチウムイオン電池を積んでいるから、短時間なら電池だけでも航行できる。
巡航速度30ノットで、2時間くらいなら主機を動かさなくても航行できる」
翌早朝、太陽が昇ると、長宗は大人たちを最も遠い船台に案内した。
香野木は率直な感想を言葉にした。
「大きい船だな。
普通の船よりは横幅が広い印象だが……」
長宗は、香野木の見解を否定する。
「陸に上がっているから大きく見えるだけだ。海の浮かべたら小舟だよ。
全長90メートル、全幅26メートル、5700総トン、積載重量460トン、満載喫水は4メートル以下と浅い。
巡航速度30ノット、最大速度40ノット。
軍用輸送艦だったから、戦車だって運べる。レオパルト2を運ぶために造られた船だ。
あんたたちの化け物戦車だって運べるよ」
長宗は船内を案内し、最後にヘリパッドに到る。
「この大きなヘリパッドがフェリーにとっては邪魔なんだ。乗客区画がこのヘリパッドで潰されている。
請け負った仕事は、ヘリパッドを撤去して、客室を増やす工事だった。乗客350人から700人へ倍増する予定だったんだ。
このヘリパッドは、アエロスパシアルの大型ヘリが2機降りられるだけの広さと強度がある」
香野木は、どうするか考えた。
「動くのか?
動くなら、動かすために何をすればいい?
この先の安全を考えるなら、上海を偵察する必要がある」
この日、簡単で量の少ない朝食の後、自然と全員参加の会議が始まる。
11時頃、突然の情報が舞い込んできた。
ラジオ放送は、有澤臨時代表が辞任したことを繰り返し伝えている。
今日の13時、10歳代の若者たちが集めた辞任要求の署名が臨時政権に届けられる予定になっていた。
署名数は1万5000筆を超えていた。
有澤臨時代表は、戒厳令の施行を画策したが、自衛隊の協力が得られなかった。
有澤臨時代表は、自身の生命の保障を条件に、臨時政権から退くことを承諾する。
13時、もう1人の副代表であった今湊正一が臨時代表に就任した。彼は政治学者であり、政治と行政の実務経験はなく、言わば素人だった。
しかし、普通の感覚の良識ある人物だ。
15時、今湊臨時代表は、ラジオを通じて、当面の方針を伝えた。
「まず、恒久的な住居の割り当てを行います。
次に農地の復旧と作物の生産。できれば、来年春には稲作の再開ができるようにしましょう。
そして、燃料の確保。これは大問題で、困難な状況です。
ですが、電力は確保できています。
力を合わせて、この困難な状況を乗り切りましょう」
16時、今湊臨時代表は、上海の航空偵察実施を決定する。
明日早朝、フェノム300小型ジェット機が各務原を離陸し、高知空港に向かう。
上海を巡る、ヒト、オーク、ギガスの三つ巴の戦いが始まろうとしていた。
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