200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚

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第6章

06-152 強行偵察

 高知空港には6機の旅客機が取り残されていた。
 エアバスA320が2機、ボーイング737が2機、ボーイング767、エンブラエルE-Jetだ。
 このうち、外見上の損傷がない機体は、ボーイング737とエンブラエルE-Jetの2機。エアバスA320は、1機は後部胴体が折れ、1機は左翼先端がなくなっている。この2機は特に損傷が大きい。他の2機は、前脚が折れていたり、エンジンが脱落している。
 自衛隊は、機体の損傷がない2機を飛べるようにしようとしているが、部品不足と工作機械がないために遅々として進んでいない。
 固定翼機の飛行が途絶えていた高知空港に2機が着陸した。
 偵察機となるフェノム300小型ジェット機と、それを支援するための川崎C-1輸送機だ。

 今湊正一臨時代表は、上海への航空偵察の離陸に立ち会うため空港を訪れていた。
 香野木恵一郎は、結城光二の出発を見届けるため、空港にいた。
 香野木は今湊臨時代表とは、初対面だった。誰かに引き合わされることもなかったので、香野木からは挨拶しなかった。
 彼は、空港のロビーで結城とありきたりの内容の話をしていた。
「各務原はどう?」
「香野木さん、基本は関東と同じですね。空は茶色に霞んでいて、太陽がぼんやりと見える……。
 冬は寒そうです。
 工場や物資があるし、少ないですが富山で原油が自噴しているから、重要な場所ですけど、高知ほど生活にいい場所じゃないですよ」
「結城くん、大変だろうけど、しばらく頑張ってくれ。
 飛行機は?」
「飛行機の組み立て工場が丸々残っているので、修理はできます。
 周辺の工場も残っていて、ネジ1本から作れます。
 何か見つけたんですって……」
「あぁ、造船所にとんでもないものがあった。
 秘密にしているわけじゃないけど、あれをどうするか、まだ何も決まっていないんだ」

 香野木は背後にヒトの気配を感じた。結城が唐突に口を閉じる。
 香野木がゆっくりと振り返ると、白髪の交じった短髪の男が立っている。
 今湊臨時代表だった。
「あなたも偵察機に乗るのですか?」
「はい、結城光二と言います」
「失礼、今湊です」
「知っています。
 今湊代表」
「臨時、ですよ。
 ところで、お2人はどういったご関係ですか?」
「彼は、香野木恵一郎。
 私たちのリーダーです」
「リーダー?
 北関東……の」
「えぇ、相馬原のリーダーです」
「……。
 相馬原のリーダーは女性だと、聞いたことがありますが……。
 確か花山真弓さん……。
 香野木さんのお名前は初めてで……」
 香野木はどう答えるべきか、思案した。
「香野木恵一郎です。
 私は影が薄いんですよ」
 パイロットスーツの男が近寄ってきた。
「結城くん?」
「土井さん!
 こちらは、代表の今湊さん。
 そして、我々のリーダー、香野木さんです」
 土井と紹介された痩躯の男は、今湊よりも先に、香野木に向かって手を出した。
 香野木が握手に応じると、土井はその手を両手で握った。
「たくさんのヒトから、香野木さんのお話を聞きました。
 襲い来る化け物をバッタバッタと斬り伏せたとか」
「その話は嘘だよ。
 香野木恵一郎です」
「土井将馬、航空機のエンジニアでした」
 土井は今湊にも挨拶する。
「今回の作戦で、パイロットを務める土井です」
「臨時代表の今湊です。
 今回はご苦労様です。
 あなたも北関東の?」
「いいえ、各務原の生き残りです。
 大消滅の後、各務原には数百人は生き残っていたのですけど、多くが死にました。
 空腹ではなく、絶望で」
「そうですか、痛ましい……。
 何もできなくて、申し訳なかった……」
「あの状況では、誰も何もできませんよ」
 土井は陽気な口調の男だが、長宗元親とは異なる影がある。身体の特徴も健康を感じさせない。

 燃料の搭載が終わると、フェノム300は滑走路に向かった。クルーは8人。自衛隊からは、3人が参加する。
 見送りの全員が横列に並び、クルー1人ひとりと握手を交わした。
 予定では、4時間以内で戻ってくるはず。戻ってこない場合も考えられる。
 大消滅以後、1200キロ離れた場所の天候は、まったくわからない。気象衛星も気象レーダーもないのだから……。
 生命がけの作戦だ。

 香野木はいったん、造船所に戻る。
 この時点で、彼らは食器や調理器具も不足していた。長宗の「実家にある」との説明で、彼は数人の子供たちを伴って、数年ぶりに父母の家に向かう。

 マイクロバスを降りた笹原大和は驚いた。豪邸なのだ。母屋は木造で、歴史を感じさせる。
 笹原が長宗に「古い家みたいですね」と問うと、長宗は「大正の初め頃に建てられた。1910年代の中頃だったと思う」と答える。
 笹原は「では、100年以上前に?」と言葉をつなぎ、長宗は「百数十年は経っている。木造の民家としては、この付近だと最古に近い」と。
 笹原は不思議に感じた。長宗の曾祖父が造船所を創設したとのことだが、彼の実家は土讃線を越えた内陸にあった。実際、非消滅地の境界にあり、広大な敷地の一部は消えている。母屋の一部も消えていた。

 母屋に土足で入り、有村沙織と吉良愛美は、母屋の外見とは大きく異なる、おしゃれなキッチンで食器や鍋・釜・包丁の物色を始める。

 笹原は、20畳以上ある和室の床の間に置かれた長物に目が留まる。
 チーちゃんが「これ何!」と問う。笹原が「刀だ。日本刀だ。触っちゃダメだよ。危ないよ」と諭す。
 チーちゃんが「ズルイよ」と抗議した。
 笹原が日本刀を手にしたからだ。
 それを廊下に立つ長宗が見ていた。
 笹原が長宗の視線に気付き、刀を戻す。
「すみません……」
 長宗が少し微笑む。
「いいよ。
 別に。
 先祖伝来と聞いているが、子孫は私で終わりだ。
 興味があるなら、きみにやる」
「長宗さん、あのぅ……。
 長宗さんの家は、名家なんですか?」
「いいや。
 江戸時代の終わり頃までは、農民だった。祖父からの伝聞だが、祖先は江戸時代の始め頃、家名を変えた。
 長宗我部から橋爪に。
 明治になって、橋爪姓を長宗に改めた」
「長宗我部……。
 戦国武将の?」
「ほう、知っているのか?
 当家は傍流の傍流でね。長宗我部親房の系統からも外れている。帰農して土佐に残り、生命をながらえた。
 土佐藩の山之内家にも、他家にも仕官はしなかった。
 船を造り始めたのは、幕末になってからしい。170年ほど前か。近代的な造船所になるのは、明治の終わり頃だと思う」
「ならば、この刀は大事なものですね」
「そんなものなら、いくらでもある」
「いくらでも……」
「武器蔵にね。
 私のご先祖様は、いつでも反乱できるよう、準備していたらしいんだ。
 武器蔵に行ってみるか?」
 笹原は、純粋な好奇心で武器蔵を見たかった。

 敷地内の一角に、土壁と漆喰で造られた重厚な土蔵がいくつもある。土蔵群と母屋敷地とは、肩の高さほどの土塀で仕切られている。
「大和くん、塀の上の瓦、何でできていると思う?」
「え、瓦だから焼き物でしょ」
「鉛だよ。
 いざというときは、瓦を溶かして鉄砲玉にするんだ。
 この土蔵は、江戸の中期に建てられたらしい。その頃は、羽振りがよかったのだろう」
 長宗は、古めかしい鍵を手にしている。この鍵は、古めかしい大型のダイヤル式金庫に納められていた。その金庫は仏間にあり、壁に埋め込まれていた。
 笹原は、異次元の世界を見ているようで、心臓の高鳴りを感じている。

 武器蔵が開けられる。
 外光が蔵の中に差し込む。
 笹原の目に飛び込んできたのは、刀、槍、弓、矢、鎧、冑、鉄砲だったが、チーちゃんと加賀谷哲平は違った。
「あっ、自転車!」
 チーちゃんと加賀谷哲平が、埃だらけの子供用自転車に駆け寄る。
「私の息子たちが幼いときに使っていた自転車だ。ここにあったのか」
 長宗は、チーちゃんと加賀谷哲平のために小さな自転車を蔵の外に運び出す。
「大和くん、好きにしろ」
 笹原は、長宗を見て頷いた。

 最初に彼の目が注がれたものは、刃渡り1メートルを超える野太刀だ。
 刀身は錆びているが、鞘からは抜けた。蔵の中は乾燥しているし、刀身には油が引かれていた。
 太刀や打ち刀を数振物色し、彼は満足しかけていた。火縄銃を手にしたが、これで戦えるはずはない。弓矢も同じだ。
 脇差しや懐剣を探すが、見当たらない。
 少し高いところに棚があり、古めかしい小さな木箱が載っている。その中身に興味が生まれる。
 踏み台代わりに、近くにあった長持(衣類や寝具の収納に使う長方形の木箱)を動かそうとするが、重くて動かない。
 棚の箱よりも長持に引かれた笹原は、重い木製の蓋を開けた。錆びた蝶番が重さを倍増させる。
 油紙に包まれた長い物体が多数、収まっている。
 その1つを手に取る。
 明らかに銃だった。そして、火縄銃ではない。
 笹原は油紙を解く。
「長宗さん!」
 笹原の大声で、長宗は事故かと慌てた。
 まだ幼いチーちゃんと加賀谷哲平は、タイヤから空気が抜けた自転車に夢中だった。長宗は、2人に「ここにいなさい」と言い残して、蔵の中に向かおうとする。
 笹原が蔵から出てくる。
 手には古い銃が握られている。古いが火縄銃よりは新しい。
「アメリカ軍の小銃です」
 長宗は驚く。
「何でこんなものが……」
 だが、長宗には心当たりがあった。祖父は大日本帝国憲法下の政府も、日本国憲法下の政府も、どちらも信じていなかった。第二次世界大戦後、軍人だった祖父は戦地から鹵獲したアメリカ製の武器を戦後のどさくさに紛れて持ち込んだ。
 M1ガーランド、M1/M2カービン、M1/M1A1トンプソン短機関銃、M1911/M1911A1自動拳銃が合計40挺も江戸期に作られたと思われる長持に整然と納められていた。
 長宗は咄嗟に「こんな骨董品、使えないだろう」と言ったが、笹原は「持ち帰って、花山さんに見てもらいましょう。武器がなくて不安な状態なんですから」と反論した。
 長宗は笹原の意見を子供の言と撥ね付けることができたが、それはしなかった。彼の精神は、そこまでの強さを回復していなかったからだ。

 今湊臨時政権は、南海トラフ地震を非常に恐れていた。そのため、沿岸部での居住を避け、内陸部に移動するよう生き残りたちに要請している。
 現実の問題として、南海トラフ地震の発生は確実だろう。時期を知りたいがそれは不可能。ならば、いつ起きてもいいように準備をする。
 沿岸部は津波で壊滅すると、予測されている。
 今湊臨時政権発足後、沿岸部に居住しているのは、香野木たちだけだった。
 もっとも、高知空港は物部川河口右岸にあるし、自衛隊海上部が拠点にしている高知海上保安部の建物も浦戸湾内沿岸にある。
 沿岸部が無人というわけではない。現実として、工業施設の大半が沿岸部にあり、ここを放棄したら生活は立ちゆかなくなる。
 今湊臨時政権は現実を踏まえて、住居の内陸化を進めているが、沿岸部に近寄るな、とは言っていない。
 香野木たちは地震発生時、北東にある丘陵に避難する計画だった。橋が崩落してしまうと移動できなくなるが、その対策のために加賀谷真梨が水陸両用装甲車を作っている。

 香野木が造船所に戻ると、宿舎としている独身寮の前で、自転車の修理が始まっていた。チーちゃんと加賀谷哲平は、目を輝かせている。
 自転車は2台あり、埃は水で洗い流され、錆が少なく、念願の自転車を手に入れた2人のはしゃぎようは凄かった。

 花山真弓は独身寮の狭いロビーで、骨董品の小銃を見ている。
 笹原が「どうですか?」と尋ね、花山がチラッと香野木を見てから、笹原に向き直り答えた。
「古いけど、使えると思う。だけど、弾がない。
 M1小銃の.30-06スプリングフィールド弾とM1カービンの7.62ミリカービン弾は、ほとんど使われてないから、弾の補給は困難かな」
 香野木は、古めかしい木製銃床の小銃を見ていた。
「花山さん、弾をコンバートしてもらおう。民間に銃はほとんどない。警察署を漁ったって、オークやギガスに有効な武器はない。
 自衛隊由来の武器は返却させられた。ならば作るしかない」
「香野木さん……、の考えはわかった。
 私が交渉してみる」

 すでに9月。台風のシーズンに入っている。大災厄で地球の気象は激変し、大消滅によって自然に対する過去の経験は無意味になった。
 地球は寒冷化しており、台風の発生は減少している。だが、台風になれない熱帯低気圧や温帯低気圧は、数多く発生している。
 それが、前線を刺激し、大雨を降らせる。現在のヒトは、太古の祖先と同様に気象に怯えながら生きている。
 幸運にも上海に向かった偵察機は、移動性低気圧にも、しつこい秋雨前線にも、出会わなかった。
 予定よりも速く、3時間強で高知空港に帰還した。
 偵察に向かった8人のクルーをねぎらう余裕がなかった。彼らは空港のロビーで、偵察の報告を始めたのだ。
 香野木は、彼らの切羽詰まったような表情に驚いていた。
 同行していた自衛官が代表して報告する。
「みなさん……。
 たいへんなものを見ました。
 上海付近には、オークの降下船が集まっていました。巨大な円錐形の例の物体です。
 詳細な分析はこれからですが、150はあるかもしれません。
 とすれば、杭州湾の建造物はオークが造っていると推測していいでしょう。
 ヒトもいました。オークに使役されているようです。
 杭州湾には半円状の物体がありました。巨大な輪を造ろうとしているようです。
 基台は降下船の一部を使っているようです。状況から、浮いていると推測できます。
 その基台の上に直径250メートルに達する巨大な輪を組み立てているようです」
 香野木はイヤな予感がした。
「1尉、何だと思う?
 その輪は……」
「ゲートだと思います」
 香野木の予想と同じだ。
「ゲートで、何をしようとしているのかな?」
 1尉は「まったくの私見ですが」と断ってから、「逃げ出すつもりでしょう。未来に」と続けた。
 確かにオークには不利な状況だ。
 この戦いは、オークとギガスが始めた。ヨーロッパと中央アジアの見解は一致している。
 オークは宇宙からやって来て、ギガスは東アフリカの地底から現れた。
 緒戦こそオーク対ギガスだったが、すでにヒト対ギガスの戦いになっている。
 オークは両方から叩かれ、疲弊している。宇宙船を失ったギガスの逃げ場は、未来しかない。

 大災厄によって、地球には不思議な“歪”が生まれた。それが、2億年後に至る“ゲート”だ。未来側のゲートを開けたのは、スイスのジュネーブに本部がある欧州原子核研究機構だ。
 2億年後のゲートの“影”のような、200万年後のゲートも開いた。2億年後への移住が国際的な事業として推進されたが、こっそりと200万年後で“途中下車”した連中も多いそうだ。
 途中下車の理由は、2億年後の地球環境が予測不能だったことが原因らしい。
 香野木にとっては、未来への移住は“与太話”でしかなかった。

 香野木恵一郎が重ねて問う。
「1尉、ヒトはどうすべきだと思う?」
 彼は淀みなく答えた。
「当然、破壊すべきです。
 未来に行った同胞を守るために」

 臨時の報告会は終わったが、正式の報告会は1週間後と決まった。
 その日の夕方、在高知の全員が集まって、独身寮のロビーでミーティングが始まる。

 結城光二の報告から始まる。
「上海上空は、関東と同じです。大気中に舞う塵で霞んでいます。
 高度1万1000メートルを飛行し、最初は高度1000メートルで上海上空に侵入し、地上を観測しました。
 上空を旋回し、高度500メートルまで降下しました。地上を観察すると、白い鎧がヒトを使役して、何かを作っているようでした。
 杭州湾には、建設途上の輪が浮いていました。フロートは降下船の下3分の1を利用しているようで、フロート上の輪は降下船胴体の一部のようです。
 空港で行われた緊急の報告では、直径250メートルとされていましたが、もう少し小さいと思います。200メートルくらいではないかと……。
 降下船1隻分の資材から、杭州湾の物体を造っているのだと思います。
 それと……。
 形状から判断して、やはり“ゲート”であることは間違いないでしょう」
 花山がポツリと言う。
「海自はハープーン(対艦ミサイル)を持っているから、破壊は難しくない……けれど……」
 井澤貞之が花山の言を引き継ぐ。
「ヨーロッパからの情報なんだけど……。
 ヒトが未来への扉を開いたとき、現在側の“ゲート”はCERN(欧州原子核研究機構)が管理していた。しかし、管理仕切れなかったらしい。無許可“ゲート”を作った国や組織が複数ある。
 独裁国家、武装勢力、麻薬などの犯罪組織、人権系NGO、富豪、など、目的は同じでも動機が異なるヒトたちが“闇ゲート”を作った。
 直径5メートル以下なら、比較的簡単に作れるから……。
 それでも“闇ゲート”の持ち主については、確証はなくても想像はできた。
 だけど、15メートル級となれば、使用する電力だけでも半端じゃない。100万キロワット級発電所が必要。だけど、所有者の見当が付かない。電源の在処も不明。
 そういうものが1基だけあった。
 ヨーロッパは、ギガスの“ゲート”だと推測している」
 来栖早希が発言。
「ギガスが地球にいたことは確か。
 ムーさんがそう証言している。
 そして、オークが宇宙からやって来たことも確か。
 降下船がその証拠。
 だけど、ギガスが2億年後に向かったのは、オークが現れる前でしょ。
 2億年後移住計画は、大災厄後のこと。大消滅が起きたときには、終わってから何年も経っていた」
 井澤が来栖の言を訂正する。
「2億年後じゃない……。
 200万年後だ。
 ギガスは200万年後に向かった。
 CERNはそう判断している」
 井澤は一瞬言葉を切り、息を吐いてから続けた。
「200万年後に向かったヒトは、意外なほど多いらしい。
 北欧、東欧、東南アジア、そして日本。
 カナダの東海岸、南アメリカは少数。
 200万年後の移住者には、地域の偏重があって、移住者は多くないとされていた。
 しかし、数万人に達するらしい。推定だが、2万人から4万人。
 彼らを追って、ギガスが時渡りをしたのかもしれない。
 CERNは、大型ハドロン衝突型加速器の故障で、未来側の“ゲート”は開けない。
 だが、観察はできるそうだ。
 200万年後の“ゲート”を何者かが開こうとしている」
 奥宮要介が不安を口にする。
「と、言うことは……。
 200万年後でも、ヒト対ギガスの戦いが続いていると言うことですか?
 さらに、オークが行く。
 それを、200万年後のヒトは知らない……」
 夏見智子が中央アジアの情報を伝える。
「中央アジアでギガスへの攻撃の主体になっているのは、ソ連時代でさえ不可触な謎の遊牧民とされていたデニソワ人の子孫だとされている。
 実際は混血が進んで、ホモ・サピエンスになってしまっているそうだけど……。
 彼らは、200万年後にオークとギガスの脅威を伝えるための使者4人を送ったそうなの。
 名前もわかっている。
 サビーナ、セルゲイ、トクタル、アネリア」
 畠野史子の懸念は、全員が共有していた。
「だけど、1回だけでしょ。
 伝えると言っても……」

 香野木は、さらに誰かを200万年後に送らなければならない、と考え始めていた。
 ヒトの歴史が終わろうとしている。
 だが、香野木はもう少し大胆に、悪あがきをしたくなっていた。

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