25 / 29
24
しおりを挟む「本日はお招きいただきありがとうございます」
私たちが挨拶をする順番はずいぶんと早くやってきた。もっと待つものかと思っていたが、よく考えてみればリオはグレイル公爵家の人間だ。上位貴族から挨拶することを考えればすぐに順番がやってくるのは当然のことだった。
先にリオが挨拶をする。いくら王妃様からの招待であったとしても、平民の私は発言の許しが出るまで待たなければならない。
「ヴァイオレット、久しぶりね」
王妃様からお声がかかったので私は挨拶をする。
「お久しぶりでございます。本日はお招きいただきありがとうございます」
「今日はあなたに会えるのを楽しみにしていたわ」
「私も王妃陛下にお会いできて光栄です」
「あの日は色んな話を聞くことができて楽しかったわ」
(早速あの日の話題ね。それじゃあ始めましょうか!)
「私もです。実は先日の会話を参考に新しい商品を開発したのですが、そちらを本日お持ちしております。よろしければご覧いただけますか?」
「まぁ!ぜひともお願いしたいわ」
「ありがとうございます。今ご用意いたしますね。…ケビン!」
「はい」
やはり王妃様は期待していたようだ。王妃様とお会いした後、すぐに開発を始めておいてよかった。
私は後ろに控えていたケビンに声をかけ準備を始める。準備したものは口紅と布、そして献上する新商品だ。
「うふふ、何が始まるのかしら」
王妃様は楽しそうにしている。
「ではご覧ください」
そう言って私は自分の手の甲に準備した口紅を塗りたくった。
「まぁ!」
――ザワザワ
王妃様の驚きの声と共に周りにいる貴族もざわつき始めた。それもそうだろう。私は口紅をこれでもかと手の甲に塗りたくったのだから。こんなに塗ってしまえば落とすのにかなりの時間がかかるし肌への負担もかかる。男性はよく分かっていないようだが、女性はこの後の大変さを想像して顔をしかめている人がいるくらいだ。しかし何も問題もない。私は次の作業へと移ることにした。
「こうして肌についた口紅はなかなか落ちないですよね。女性はこれを落とす大変さをよくご理解いただけると思います」
「ええ、とてもよく分かるわ」
「ありがとうございます。これをお湯と布で落とすとなるとかなりの時間がかかり、また肌への負担が大きく肌が荒れる原因となります。しかし化粧をしたら落とさねばなりません。化粧を落とさないのも肌が荒れる原因になりますからね」
「落としても落とさなくても肌が荒れるのよね…。ではどうすればいいのかしら?あなたはその答えをお持ちなのでしょう?」
「はい」
私は準備された物の中にあった箱を手に取り蓋を開けた。すると箱の中から出てきたのは液体の入った小瓶だ。私はその小瓶を王妃様によく見えるように掲げた。
「こちらは今回私が開発した『クレンジングオイル』になります。これを使えば簡単に化粧を落とすことができるのです。それではご覧ください」
小瓶の蓋を開け、中に入っていたクレンジングオイルを口紅を塗った手の甲に適量垂らした。そしてそれをクルクルと軽く指で馴染ませていく。
「そして、こうして布で拭き取ると…」
「まぁ!あんなに口紅がついていたはずなのにきれいに落ちているわ…!」
――ザワザワ
王妃様の発言に再び会場がざわついた。ここは会場が落ち着くのを待った方がいいだろう。私はそのまま何も言葉を発さないで待つことにする。そして少し待って会場が落ち着いてくると王妃様から声がかかった。
「…素晴らしいわ!これはベル商会で販売する予定なのかしら?」
「はい。その予定でございます。しかしこの『クレンジングオイル』は王妃陛下のお言葉がなければ生まれることはなかったでしょう。ですのでこちらの商品をお気に召していただけたのであれば、王妃陛下には今後無償でご提供したいと思っております」
「とても気に入ったわ。私との会話からこのような画期的な商品を作り出すなんて、さすがベル商会のオーナーね」
「ありがとうございます。本日こちらを献上させていただければと思います」
そう言って私はクレンジングオイルの小瓶が三本入った箱を王妃様へと掲げた。
「ありがとう。受け取らせてもらうわ」
王妃様の侍女が私から箱を受け取り下がっていった。
「ヴァイオレット、今後も楽しみにしているわ」
「ご期待に添えるよう尽力いたします」
「ええ。この後も楽しんでいってちょうだいね」
「ありがとうございます」
私とリオは国王様と王妃様に礼をし、その場を後にしたのだった。
2,816
あなたにおすすめの小説
理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました
ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。
このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。
そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。
ーーーー
若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。
作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。
完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。
第一章 無計画な婚約破棄
第二章 無計画な白い結婚
第三章 無計画な告白
第四章 無計画なプロポーズ
第五章 無計画な真実の愛
エピローグ
危ない愛人を持つあなたが王太子でいられるのは、私のおかげです。裏切るのなら容赦しません。
Hibah
恋愛
エリザベスは王妃教育を経て、正式に王太子妃となった。夫である第一王子クリフォードと初めて対面したとき「僕には好きな人がいる。君を王太子妃として迎えるが、僕の生活には極力関わらないでくれ」と告げられる。しかしクリフォードが好きな人というのは、平民だった。もしこの事実が公になれば、クリフォードは廃太子となり、エリザベスは王太子妃でいられなくなってしまう。エリザベスは自分の立場を守るため、平民の愛人を持つ夫の密会を見守るようになる……。
え? 愛されると思っていたんですか? 本当に?
ふらり
恋愛
貧乏子爵令嬢の私は、実家への支援と引き換えに伯爵様と覚悟を決めて結婚した。だが、「私には離れ離れになってしまったがずっと探している愛する人がいる。なので君を愛するつもりはない。親が煩くて止む無く結婚をしたが、三年子供が出来なければ正式に離婚することが出来る。それまでの我慢だ」って言われたんですけど、それって白い結婚ってことですよね? その後私が世間からどう見られるかご理解されています? いえ、いいですよ慰謝料くだされば。契約書交わしましょうね。どうぞ愛する方をお探しください。その方が表れたら慰謝料上乗せですぐに出て行きますんで!
ふと思いついたので、一気に書きました。ピスカル湖は白い湖で、この湖の水が濃く感じるか薄く感じるかで家が金持ちか貧乏かが分かります(笑)
溺愛されている妹の高慢な態度を注意したら、冷血と評判な辺境伯の元に嫁がされることになりました。
木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラナフィリアは、妹であるレフーナに辟易としていた。
両親に溺愛されて育ってきた彼女は、他者を見下すわがままな娘に育っており、その相手にラナフィリアは疲れ果てていたのだ。
ある時、レフーナは晩餐会にてとある令嬢のことを罵倒した。
そんな妹の高慢なる態度に限界を感じたラナフィリアは、レフーナを諫めることにした。
だが、レフーナはそれに激昂した。
彼女にとって、自分に従うだけだった姉からの反抗は許せないことだったのだ。
その結果、ラナフィリアは冷血と評判な辺境伯の元に嫁がされることになった。
姉が不幸になるように、レフーナが両親に提言したからである。
しかし、ラナフィリアが嫁ぐことになった辺境伯ガルラントは、噂とは異なる人物だった。
戦士であるため、敵に対して冷血ではあるが、それ以外の人物に対して紳士的で誠実な人物だったのだ。
こうして、レフーナの目論見は外れ、ラナフェリアは辺境で穏やかな生活を送るのだった。
訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果
柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。
彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。
しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。
「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」
逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。
あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。
しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。
気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……?
虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。
※小説家になろうに重複投稿しています。
一年後に離婚すると言われてから三年が経ちましたが、まだその気配はありません。
木山楽斗
恋愛
「君とは一年後に離婚するつもりだ」
結婚して早々、私は夫であるマグナスからそんなことを告げられた。
彼曰く、これは親に言われて仕方なくした結婚であり、義理を果たした後は自由な独り身に戻りたいらしい。
身勝手な要求ではあったが、その気持ちが理解できない訳ではなかった。私もまた、親に言われて結婚したからだ。
こうして私は、一年間の期限付きで夫婦生活を送ることになった。
マグナスは紳士的な人物であり、最初に言ってきた要求以外は良き夫であった。故に私は、それなりに楽しい生活を送ることができた。
「もう少し様子を見たいと思っている。流石に一年では両親も納得しそうにない」
一年が経った後、マグナスはそんなことを言ってきた。
それに関しては、私も納得した。彼の言う通り、流石に離婚までが早すぎると思ったからだ。
それから一年後も、マグナスは離婚の話をしなかった。まだ様子を見たいということなのだろう。
夫がいつ離婚を切り出してくるのか、そんなことを思いながら私は日々を過ごしている。今の所、その気配はまったくないのだが。
熱烈な恋がしたいなら、勝手にしてください。私は、堅実に生きさせてもらいますので。
木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるアルネアには、婚約者がいた。
しかし、ある日その彼から婚約破棄を告げられてしまう。なんでも、アルネアの妹と婚約したいらしいのだ。
「熱烈な恋がしたいなら、勝手にしてください」
身勝手な恋愛をする二人に対して、アルネアは呆れていた。
堅実に生きたい彼女にとって、二人の行いは信じられないものだったのである。
数日後、アルネアの元にある知らせが届いた。
妹と元婚約者の間で、何か事件が起こったらしいのだ。
私は真実の愛を見つけたからと離婚されましたが、事業を起こしたので私の方が上手です
satomi
恋愛
私の名前はスロート=サーティ。これでも公爵令嬢です。結婚相手に「真実の愛を見つけた」と離婚宣告されたけど、私には興味ないもんね。旦那、元かな?にしがみつく平民女なんか。それより、慰謝料はともかくとして私が手掛けてる事業を一つも渡さないってどういうこと?!ケチにもほどがあるわよ。どうなっても知らないんだから!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる