悪役令嬢の弟。

❄️冬は つとめて

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戦に向かう二人と、

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騒然とした城内、ほろ酔い気分で浮かれて城に帰って来た王と聖教長は居るはずのセルビィが居ないことに驚愕をする。

「何故だ!! 何故いない!! 」
独立を宣言された後にも呑気に会場に残っていた王は、城に戻ってきて奇声を上げた。

「何故、彼奴がいない!! 」
「彼は何処です? 」
「彼とは、どなたのことでしょうか? 」
聖教長の言葉に執事は首を傾げる。壁ぎわで控えるメイド達も何の事かと顔を見合わせる。

「セルビィ・ランドールです。」
「何処にやった!? 直ぐに連れて来い!! 」
王は近くにあったテーブルを蹴り倒した。上に置かれていた菓子が床に転がる。
「陛下。何処と仰られても、そのような者はおりません。」
「馬鹿な!! 確かに儂は兵士に城に送るよう言いつけたぞ!! 」
「ええ、確かに兵士に言いつけていました。」
王と聖教長は執事を責め立てる。その有様にメイド達は震え上がった。
「し、しかし、そのように仰られても……。」
「ええいっ!! 城内に居るはずだ、兵士にさがさせろ!! 」
「しかし、今は有事で有り兵士は……。」
「黙りなさい、王の言葉は神の言葉の様なもの。あなたは、神に背くのですか? 」
恐縮して黙る執事を、王と聖教長は責め立てた。

「何事ですか? これは。」
王の帰還を報告された宰相は王の部屋へと訪れた。部屋の外まで聞こえる王の声に、不快感を露わに声を掛ける。
「エリオット。」
「あの餓鬼が、いないのだ。」
「あの餓鬼? 」
宰相は首を傾げる。
「セルビィ・ランドールです。」
「ああ、彼ですか。彼が如何しました? 」
宰相は部屋の中にいる執事達に下がるよう指示を出す。ほっとしたように執事達は頭を下げ、部屋から出て行った。
「いないのだ!! 」
「兵士に鳥籠に入れるよう信書を持たせ、城に送ったはずです。」
二人は宰相に向かって詰め寄る。

「はぁ……。」
宰相は溜息を付いた。
「セルビィ・ランドールはいません。その様な信書も届いては折りません。」
「ば、馬鹿な!! 」
「そんなはずはありません、エリオット。」
二人の様子に、宰相は再び溜息を付いた。
「この有事にあなた達は、何をしていたのです? 彼を兵士達に? あなた達は、馬鹿ですか? 」
呆れたように二人を見る。

「あの狡猾な彼が一人であの場所にいると本当に思っていたのですか? 未だに城に現れないと言う事は、その兵士達は仲間だったのでしょう。」
「「……!! 」」
「有事に帰って来ないと思ったら、彼を人質に取ったと思って遊んでいたのですか。」
忌々しげに二人を見詰める。
「人質に取るつもりなら、何故信用おける近衛兵に送らせなかったのです。馬鹿ですか? 二人は。」
宰相は再度溜息を付いた。
「私は忙しいので、これで失礼します。陛下、シアン。」
茫然とする二人を置いて、宰相は部屋から出て行った。


「待て、エリオット!! 」
「待ちなさい!! 」
王と聖教長は宰相を追って部屋を出て、廊下で宰相を捕まえる。

「何ですか、私は忙しいのです。」
今にも始まろうとする戦争の準備で宰相は忙しかった。
「この城にいないとしても、まだ王都にはいるはずです。」
「兵を出せ、さがさせるのだ。」
二人の言い分に宰相は頭を抱えた。

「今は有事だ、そんな暇な兵はいない。」
宰相の後から鎧を着込んだ軍事総長閣下が現れ、王達に意見を述べる。
「レイズ…。」
「レイズ、兵を出せ!! あの餓鬼をさがさせるのだ。」
「そうです、王都に潜伏しているはずです。」
「さがして如何する? 」
冷たい声で総長閣下は二人に言った。宰相も冷たい目で二人を見る。
「あの餓鬼を人質に取れば、」
「戦の相手は、アメリゴ帝国です。」
王の言葉に宰相は応える。
「セラム・ランドールに相手をさせるのです。」
「そんな時間はない。」
聖教長の言葉に総長閣下が応える。

「お前達が遊んでいる間に、王都はアメリゴ帝国兵に囲まれている。」
「「なっ!! 」」

闇夜の中、帝国の篝火がオースト国の外壁の遠方を囲んでいた。それは先方の僅かな兵だとは彼等からは解らなかった。ゆらゆらと揺れる炎がオースト国を脅かす。その間に確実にリオル達は兵を集合させていた。一日かかる距離を軍馬なら半日で来れるであろう。真夜中にリオル軍は集結し、明け方に外門が開くのを待ち体を休めるだけだった。

「今、攻め込んで来るかも知れない。その中で兵を割くことは出来ない。」
「しかし、あの餓鬼を人質に取れれば、」
「そうです、セラムは息子可愛さに戻って来ます。」
「何処に連絡を入れるのです? 」
王達の言葉に宰相は聞き返す。
「ランドール殿の居場所は? 」

「あの餓鬼を捕まえれば!! 」
「そんな時間は無いと言っている。捕まえたとしても彼奴が吐くと思うか? 」
総長閣下は王に聞き返す。
「のらりくらりと時間を掛けるだけだ、その間に帝国は攻め入って来るだろう。」
総長閣下は背を向ける。

「ならば、憲兵にさがさせれは。」
「憲兵はいません。」
聖教長の言葉に宰相は応える。

「彼奴らはチャイニ国国境ぞいの森に盗賊退治に出ている。」
「憲兵がなぜ? 」
「馬鹿な騎士共が、卒業生の親族を祝ってやりたいと憲兵に任務を押し付けていた。」
高位貴族の息子達の隊であった。それは王お気に入りの隊である。その隊に押し付けられれば行かない訳にはいかなかった。

「此処まて腐っていたか。」
総長閣下は頭を掻いた。
「探したければさがせ、近衛兵を使うなりしてな。」
「そんな事をすれば誰が儂を護る!? 」

「聖徒でも使いなさい、シアン。」
「エリオット。」

そう言うと二人はその場を後にした。ただ残される王と聖教長。






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