フィライン・エデン Ⅲ

夜市彼乃

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14.巫覡の磐座編

67風をかたる疾風 ③

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***

 長押なげしにかけられた時計は、間もなく十時を指そうとしていた。
 四十畳の居間に漂うのは、通夜前の空気そのものだった。
 長い木製の座卓が中央に鎮座する、純和風の一室。一面畳で、扉の代わりに襖、部屋の端には床の間。広大な屋敷の中でも一番広い部屋だ。
 今、座卓を囲むように、五名の老若男女が座っていた。
「……フーは今、最終準備に入っているわ。……みんな、覚悟はいいかしら」
 重い沈黙の中、ようやく口を開いたのは、上座に正座する女性だ。
 フーと同じ、ブラウンのセミロングヘアに同系色の瞳。実年齢よりも若く見える柔らかな顔立ちを、今日に限っては暗い影に落としている。
 このフィライン・エデンで知らぬ者のいない名家の現当主――風中ウィンディだ。
 彼女の顔には、この半日で一生分の苦悩を背負い込んだかのような困憊の色が浮かんでいた。当然だ。朝から愛娘が泣きながら、自身の存在の否定ともとれる破門の神託を受けたと告白してきたのを皮切りに、穏やかな朝が一転。家族一同、今日一日の全ての予定を吹き飛ばして、彼女を試練へと送り出す準備に追われる羽目になったのだ。
 下手をすれば二度と会えなくなるかもしれない、死地ともいえる場所へ。
 ウィンディの言葉は、ずんと沈んだ空気の比重をさらに増した。
 誰もが口を閉ざす中で、
「……かっ!」
 吐き捨てるような声が、重い沈黙を切り裂いた。
「覚悟はいいかだと? いいわけねぇだろがい! 何が悲しくて、可愛い孫娘を禊に送らにゃならんのか! フーが何したってんだ!」
 巻き舌交じりに言い放ったのは、座卓の角を挟んでウィンディの右手側に座った短髪の男だった。白髪がほとんどを占める年齢にもかかわらず、体の衰えを感じさせない精悍な風貌だ。
 厳つい顔をさらに険しくして、唾を飛ばさん勢いでまくしたてる様子は、小さい子供なら泣き出しかねない凄みがあった。
 だが、そんな彼を隣からなだめたのは、物々しい剣幕とは正反対の、丸っこくかわいらしいしわがれ声だった。
「まあまあ、シフウさん、落ち着いて」
 シフウと呼ばれた老齢の男の、隣に並んで座る老女だ。シフウ同様に霜の降りた髪を、後頭部でシニヨンにまとめている。ちょこん、という擬態語が似合うつつましやかな小躯で品よく正座した彼女に、振り向いたシフウが低い声を浴びせる。
「落ち着けるか、ふゆ! オメェの孫でもあるんだぞ! こんなことになっちまって、オメェは平気なのか!」
 傍から見れば、狼が白ウサギをねめつけているかのような構図。だが、ふゆは全く動じることなく、旦那に静かに言葉を返す。
「みんな落ち着いてなんかいないのよ。けれど君臨者様からの神託があったならば、禊は行わなければならない。そうしなければ、風中家と流清家には何らかの天罰が下る――それは嫁いだわたしなんかよりも、あなたのほうがよく知っているでしょう。元正統後継者なのだから」
「……けッ!」
 諭すふゆの言葉に、シフウは口悪くよそを向いた。だが、それ以降の沈黙は、彼女の言葉に反論する意思がないことを示している。
 ふゆは加えて、シフウの向かいに座る男を視線で指しながら言う。
「ごらんなさい、タイガさんなんて、もうずっとこの調子なんですよ。おかわいそうに……」
 タイガと呼ばれたのは、シフウにも劣らないたくましい体をもつ四十路の男だ。あの華奢なフーやリーゼの父とは思えない屈強な風貌。
 が、その体躯を今は少女のように丸めていた。家の中にもかかわらずかけているサングラスからはほとほとと涙が零れ落ち、冗談のように似合わない白のフリルエプロンにしたたっている。彼の前の机上には、皿に乗ったショートケーキ風カップケーキが置かれていた。数日前に、苦手なパソコンをフーに手取り足取り教えてもらったので、そのお礼にと手作りしたものだ。
「夜中にフーちゃんのために作ったのに、いざ朝になってあげようとしたら、こんなことになって……おつらいですねぇ、タイガさん……」
 ふゆの同情の言葉に、大男タイガは涙を落としながら無言でうなずく。るんるんと冷蔵庫から取り出してきたところでウィンディから知らせを聞いた時の反応たるや、見ていられないほどの痛ましさだった。
 隣でウィンディがティッシュを差し出した。
「ほら、タイちゃん。お父さんでしょ、泣かないで。私だって我慢してるのよ」
 それを受け取ってちーんと鼻をかむタイガ。その左隣で最後の一人が手を上げる。
「ねえ、そのカップケーキ、今日はフーちゃん食べられないんでしょう。よかったら、ちょうだい。置いといたら悪くなっちゃうから」
 ウィンディと年の近い女性だ。彼女より年下ということを考慮しても、ゆるく前に流した三つ編みや素朴な表情は、まるで少女のような若さをまとっていた。
 場違いなセリフを、シフウが聞きとがめて一喝する。
「スフレ! オメェは状況がわかってんのか!」
「わかってるわよ、お父さん」
 横から取ったカップケーキの外側の紙をむきながら、女性――スフレが答える。
「私だって、フーちゃんを禊に送る準備なんて精神的エネルギーがいる仕事をしたのよ。腹ごしらえくらいさせて。――それに」
 スフレはたっぷり乗ったホイップクリームに口づけする距離で、そっとウィンディに流し目を送る。
「姉さんがそれだけ冷静ってことは、何か考えてるんでしょ? そして、そのことには――みんなも気づいてる」
 それだけ言って、スフレはカップケーキにかぶりつく。それを咀嚼して飲み込むまでの間、居間には無言が広がっていた。誰も、彼女の言葉を否定しなかった。
 やがて、発言権が現当主に戻ってくる。
「――禊は、必ずしも完遂されて終わるわけじゃない」
 ウィンディの、長いまつ毛でけぶる瞳は、二家の綿々たる歴史を見つめていた。
「破門の神託は、確かに正統後継者に穢れを認めて下されるもの。けれど、君臨者は禊の直前、もう一度審判を下す。その『二の判』の沙汰次第では、着水の直前、噴き上げる水が、あるいは吹き流す風が、正統後継者を救い上げるといわれている。それもまた、君臨者の意志。……それならば」
 読み上げるように言葉を紡ぐウィンディを、家族の面々は黙って見つめていた。一家の視線を集めながら、風中家当主は真っすぐに前を見つめた。
 いつも純朴な輝きをたたえる両眼は、仄暗く。
 けれど、罪深き決意の光をそこに宿して。
「――私が、神意を偽る」

***

「……というのが、風中家の動きだろうね」
 風中家とそっくり同じ屋敷、そっくり同じ大広間では、やはり同様の家族会議が執り行われていた。
 座卓に頬杖をついてそう言ったのは、黒髪を結い上げた女性だ。結い上げた、というよりポニーテールという表現が似合うかもしれない。由緒ある家の貴婦人には間違いないのだが、気高さを裏庭に捨ててきたようにさばけた庶民的な雰囲気をまとっている。
 アワの母親にして先代の正統後継者、そして流清家現当主である流清バブルだ。
「シフウさんは当たり散らし、ふゆさんがそれを収め、タイガは泣くわ、スフレはいつも通りに見えてちゃんと考えてるわ……おお、目に浮かぶようだよ」
 うんうん、と自分の想像の確からしさに深くうなずくバブル。そんな彼女の、座卓の角を挟んだ左隣から、「それにしても」と声が上がった。
「まさかフーちゃんが、って感じだなぁ。礼儀正しいし、真面目だし、あんな子が破門の神託を受けるなんて思わなかったよ」
 そう言って緑茶を啜るのは、同じく黒髪をした男性だ。
 年齢はバブルの二つ下。とはいえ二子の父親ともなるいい大人だが、頼りなさそうな線の細さや素直さのにじみ出る目元から、青年のような印象さえ与える。
 夫の発言に、バブルは黒い瞳を鋭く光らせ、つかみかからん勢いで彼の方へ身を乗り出した。
「なんだい、イチ! あの子に幻滅したっていうのか!?」
「ち、違うよ、バブル。そうは言ってない」
 姉さん女房に詰め寄られた流清イチは、気圧されながらも両手を振って彼女をなだめる。自分より強い女性に糾弾された時の表情や声色や仕草は、彼の長男にそっくり受け継がれているものだ。
「本当に、純粋に、信じられないって意味だよ。何かの間違いなんじゃないかって思うくらい」
「私も……私もそう思う」
 口を開く機を見計らっていたように、イチのさらに左隣に座る少女が身を乗り出した。二つ離れたアワの妹、アクアだ。
 巫女のように一つにまとめられた黒い髪。顔立ちは素朴なかわいらしさで、服装も飾らないラフなものだ。だが、ひとたび化粧を施せば化け、洒落た服を身にまとえばそれが最も生きる角度とポーズを知っている。それが、正統後継者から外れた彼女の今の仕事だからだ。
「フーちゃんは……人間界学の勉強も、人間と出会ってからも、すごく真っすぐに使命を全うしてきてる。あの子が何をしたっていうのっていうくらい、私……」
 アクアはそう言ったきり、視線をさまよわせて黙り込んだ。まとまった言葉で事態を評価できるほど、まだうまく現状を飲み込み切れていない。
「けれども」
 うつむいたアクアの向かいから、しゃがれた女性の声が上がった。
「彼女は破門の神託を受けた。これは事実です。そしていかに信じられなくとも、何かの間違いと思われても、禊へは向かわなければなりません」
 ぴしゃり、という表現が似合うだろう。一句一句をはっきりと、迷いなく述べたのは、プラチナブロンドに近い白髪を一つに結い上げた老女だ。顔の表面にこそ年齢が刻まれているが、目元は刀のように鋭く、背筋には下手な若者よりも芯が通っている。知らぬ者が見れば、流清家の実子と勘違いするほどの堂々たる女史だ。
「まあ、キンカの言う通りではあるねェ」
 老女・流清キンカの隣、イチの正面に座す老人が、真っ白いひげを撫でながらおっとりと言った。流清家前当主で元正統後継者の流清シスイだ。細い目に少し曲がった腰、好々爺然とした柔らかな雰囲気。縁側で茶を飲んでいる絵がこれ以上なく似合うご隠居である。
「私もフーちゃんが小さい頃から見てきたからねェ、あの子の素直さはよく知っとるよ。私ゃ、禊の間へ踏み込んでも、最後は君臨者の慈悲の采配で助かると思うんだがねェ。……けれども」
 開いているのかどうかも分からない糸のような目を、バブルに向ける。そうして発した声は、どこか悲しげだった。
「ウィンディちゃんはフーちゃんを信じきれないんだろうねェ」
 父の言葉に、バブルは頷く代わりに大きなため息をついた。
「フーを信じきれてないのか、君臨者を信じ切れていないのか。そりゃ、気持ちはわかるけどな。いくらフーが潔白なら直前で着水を止められると言われても、懐手で見てはいられないのが母親だ。高い崖から水に身を投げて、万が一にも風も水も出なかったら……なぁ」
 まるで酒でも煽るかのような豪快さで、ぐいっと湯飲みの茶を飲み干す。そうしたバブルの口からは、悩ましげな、けれど的確な予想が零れ落ちた。
「……ウィンディのやつ、きっとフーが飛び降りた後、自分で風を起こして助けるんだろうなぁ」
「それって……」
「何代か前の流清家うちがやったのと同じだよ」
 顔をのぞきこんでくる夫に、バブルは渋面で頷く。
「君臨者は破門の神託を授けておきながら、『やっぱやめた』とばかりに禊の直前に助けることがある。二の判ってやつだ。間欠泉みたいな水を噴き上げたり、上昇気流を起こしたりして、着水ダメージを和らげたり、着水自体を拒んだりしてな」
「破門の神託から禊の間に来るまでの間に正統後継者が自らを省みる様子をご覧になってのご慈悲です。『やっぱやめた』などという不敬な言いぐさはよしなさい」
「それを流清家うちのバカ祖先は、子供可愛さに自分の水術で水を噴き上げて助けようとした。畏れ多くも神のふりをしてな」
「これこれ、それじゃあウィンディちゃんのこともバカって言ってるようなもんじゃないかねェ」
 両親に咎められるも、バブルは痛くもかゆくもない様子で、腕組みをして言葉を続ける。
「それじゃあ禊を完遂したことにならないんだから、両家に神罰が下ることになるってわからんのかね」
「やっぱりそうだよね……ってことは、今回もその代の時と同じように……」
 懸念顔のイチに、バブルは「ああそうだよ」と答える。
「その時は、風中家が流清家を止めて、禊は完遂された。あの時、風中家が止めてくれたからこそ、今の二家があるのかもしれない。そう考えると、今度は私らの番だ」
 言って、また眉間にしわを寄せる。厄介ごとを抱えた当主の顔だ。めんどくさい、というよりは不本意、といった表情。親友ウィンディと対立するなど、不本意以外の何物でもないのだから、当然だ。
 それでも。
「禊に不義があれば、両家に神罰が下る。流清家と風中家、両方を守るためにも、禊に手を出させるわけにはいかない。行くぞ――家族ぐるみで大波乱だ」
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