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13.水鏡編
63スワンプマンの実証実験 ⑦
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***
――一方その頃。
「きゃあっ!」
「あうっ!」
竜巻から放り出された芽華実とフーは、腹ばいで地面に叩きつけられると、痛みに呻きながら何とか体を起こした。
「痛た……フー、大丈夫?」
「ええ……頭から落ちなかっただけよかったわ……」
「そんな悠長なことも言っていられなくなるわよ」
会話の間に滑り込ませられたナイフのような声に、二人はハッと前を向いた。薄グレーの髪をしたフーの生き写しが、ゆっくりと二人に歩み寄ってくるところだった。
彼女が身にまとっているのは、ルシルが着ていたものとはまた異なる民族衣装だ。着物のような右前の襟が二重になった少し丈の長い上衣と短いキュロット。大きく広がった袖とキュロットにはスリットが入っており、二重構造に見えるものの、全体的に薄手の仕立てだ。ルシルが着ていたものが着物に相当するなら、こちらは浴衣のような簡素さがある。
二人はまだ痛む体に鞭打って立ち上がった。骨が折れていなかったのが幸いだ。
どうやら、ここにいた猫たちは先程の竜巻に恐れをなして逃げていったらしい。遊びに使われていたのだろうボールや、途中で脱げたのか小さな子供用の靴などがあちこちに残されていた。先程の場所からは見えなかった噴水が近くで水を噴き上げているのを見るに、だいぶ離れた位置に落とされたようだ。
閑散としてしまった公園の広場で、芽華実とフーは不敵なたたずまいを見せる少女と相対した。
フーがぴりりと神経をとがらせながら問う。
「……あなたは、私の鏡像……」
「あなたたちが決めた呼称なんて知らないし、あなたに準ずる存在ととらえられるのも不愉快よ。私は私、カザナカフー。飾仲フーよ」
飾仲と名乗った鏡像は、フーとは違い歯に衣着せぬ言葉選びで言い放った。フーならあくまでも婉曲的に、角の立たない言い回しを探すだろう。
「私に準ずるのが嫌というけれど、同じ名前を名乗るのは厭わないの?」
「いずれあなたはいなくなって、私がこの名前の主になるのだからいいのよ。それに、主従はともかく私とあなたが同位の存在なのは認めているし」
飾仲は自分の胸に左手を当て、瞑目しながら言う。
「風猫なのも、人間界の知識に精通しているのも同じ。ショートケーキが好きなのも――それを上回ってアワのことが好きなのも」
「……、ぇえっ!?」
変わらず身構えながら飾仲の口上を聞いていたフーは、最後の一言に数秒遅れで激しく反応した。
「す、えっ、すっ……す!?」
「好きでしょ。アワのこと。私がそうなんだもの」
「ち、違っ……め、芽華実、違うのよ! これはその、アワは……そう、友達! 友達として好きってことなの!」
漫画であれば手足が四本描かれるであろうほどバタつきながら、同じく漫画であれば波線で描かれるであろうほど口をあわあわさせる。パートナーがそこまで否定するなら信じたい芽華実だが、ノンバーバルな側面が懸命に墓穴を掘っている。
「私には家のしがらみなどないもの。あなただって本当は、自分の気持ちを……」
「あーっ、わー、わー! 聞こえないーっ!」
耳をふさいで闇雲に叫びだすフーは、自分が聞こえなくても芽華実が耳にするのが一番困ることに気づいていない。
「だけど、その気持ちを伝えることはもうないわ」
飾仲の手の中で風が渦を巻いた。セルフ耳栓をしていたフーは、それを見てハッと基に戻る。
「自分の気持ちに素直にならなかったことを後悔するのね」
「――芽華実っ!」
フーが鋭く叫ぶと同時に、芽華実の前に躍り出て半球状の結界を展開する。直後、そこへ風の刃がぶつかる衝撃が、空気をびりびりと震わせた。
「フー……!」
「芽華実、お願い」
両手を突き出して結界を保ちながら、フーが真剣な顔で芽華実を振り返った。
共闘の覚悟なら決まっている。芽華実は猫力を解放しながら、パートナーの言葉を待った。
やがて、フーが口を開いた。
「……デ、デタラメだとしても、彼女の言ってたこと、ほ、他の人には言わないでね!」
「……あ、うん」
期待と違うお願いだった。彼女にとっては目の前の鎌鼬より実家の勘当のほうが怖いらしい。
「それより、私も戦うわ。フーの姿をした相手を攻撃するのは心苦しいけれど、でも……!」
「いいのよ」
落ち着きを取り戻したフーは、柔らかな目元に凛とした覚悟を宿して言った。
「私のために力を貸してくれるんでしょう。お願いするわ、私のパートナー」
頷きあう二人。
直後、以心伝心の示し合わせに従って、結界を解いたフーと芽華実は二手に分かれた。
飾仲の攻撃が再開される。ヒュンと音を立てて迫る鎌鼬は、フーを狙った。
「二穴の足、惰気飾る苦悩、意思超える願と心得よ、思考の広原に盲目に踊れ!」
芽華実の詠唱に応じた源子が、木の根となって地面から突き出る。その鋭い先端が飾仲に向けられるも、当の本人は見向きもしない。
鎌鼬は変わらずフーを狙う。これにはフーも黙ってはおらず、風術で対抗した。
「渦巻け、旋風!」
突き出した手から巻き起こるつむじ風。直接的な殺傷力のある利器でこそないものの、鎌鼬よりも大きな風の塊だ。
風を風でかき消そうというフーの目論見。しかし、飾仲が伸ばした左手がそれをさらに覆した。フーが放った風の塊が、繭の糸がほどかれるように消えていく。
鏡像であるがゆえか、詠唱や言霊を必要としないようだが、飾仲が今使った術は、気憩と呼ばれる、無風状態を作り出すものだ。ご丁寧にフーの旋風のみを狙って空気の流れを止め、鎌鼬を阻むものを取り払った。
「く……!」
慌てて地面に身を投げ出したフーの頭上を、二つの鎌鼬がかすめ去っていく。その崩れた体勢を狙った飾仲が、次なる攻撃に移るより先に――芽華実の詠唱が完成した。
「這え、堅肢!」
水面から顔を出した首長竜のような太い木の根が、一気に伸び上がった。鎌首をもたげ、その先端を飾仲へ突き込んでいく。
飾仲はそこでようやく振り返った。無造作に手を振り、予備動作いらずの鎌鼬で迎え撃つ。鋭い風の刃は、人の頭ほどの直径の根も一太刀で済ませてしまう。
一本目が切り飛ばされる。二本目が切り伏せられる。そして三本目……だけは、その外皮を削ぐにとどまった。地面と平行に突き進んできた二本と違い、途中で突き上げるように角度を変えた三本目の動きを、飾仲は予測できなかったのだ。
鋭い先端が、飾仲の腕をとらえた。衣服が裂け、皮膚が破られる。
だが、その出来事に息をのんだのは、フーと芽華実の方だった。
「そんな……!」
「水……!?」
二人もまた、傷口から飛び散るものが赤い血ではなく透明な水であることに驚きを隠せなかった。それは、鏡像との戦いにおけるたった一度きりの猫だましのようなもので、されど決定的な隙を生む瞬間。
「止まっている暇なんてないわよ!」
無色透明な血を滴らせ、左手がフーに向けられる。そこに荒々しい風が渦を巻いた。それが次の瞬間、凄まじいスピードで直線状に放たれた。
言うなれば、横向きの竜巻。二人を吹き飛ばしたものよりも細く小ぶりだが、直感的に分かる――鎌鼬だ。
通常の鎌鼬が一太刀浴びせるようなものだとすれば、この竜巻状の鎌鼬は粉砕機の回転刃のようなもの。巻き込まれれば、ズタズタという言葉では足りない惨劇は必至だ。
触れるだけで指が飛ぶ凶悪な風の蛇が、フーにあぎとを開く。
芽華実の喉が叫声をほとばしらせた。彼女の視線が追いついた時には、すでに爆発的な土ぼこりが舞い上がっていた。地面がえぐられ、芝の付着した土が辺りに無造作に飛び散る。
茶色くけぶる空間に、芽華実が恐る恐る呼びかける。
「ふ……フー……!?」
土煙が、風に乗って彼方へ流されていく。その跡に、フーの姿はなかった。
まさか、と総毛立つ芽華実だが、えぐれた地面には肉片も赤黒い液体もなかった。何より、飾仲の苛立たしげなため息が、芽華実にとっての最悪の事態を否定していた。
「そうね、その手はあった」
上へ向けて放たれた言葉に、芽華実も頭上を仰ぐ。その視線の先――地上五メートルほどの高さで、白鳥のような真っ白な翼を携えたフーが刀印を構えていた。
「刈れ、鎌鼬!」
刀印を突き出し、続けざまに風の刃を差し向ける。ヒュンヒュンッと音を立て、刃は空気を撫で切りながら飾仲へ向かう。
さらに。
「渦巻け、旋風!」
飾仲の近くで、渦巻く風が巻き起こった。ちょうど、その退路を塞ぐように。
旋風自体には強い殺傷能力はないものの、巻き込まれれば体の自由を奪われることは必至。その間に鎌鼬に追いつかれれば、斬り捨て御免と相成る。
無論、飾仲も黙ってはいないだろう。さっきと同様に気憩を使うだろうか。それでもいい、と芽華実は思う。それならば、その直後に草術で不意をつくだけだ。
だが、芽華実の見当は外れた。
飾仲は、回避を選んだ。全方向を封鎖されながら。
四面楚歌でも、飾仲がフーと同じ特性を持つ以上――一方向だけ退路が保証されている。
源子の翼が大きく羽ばたいた。それは、風の渦と刃が入り乱れる地上から、飾仲をフーと同じ高さに引き上げた。
フーに使える術が、その鏡像に使えないはずがないのだ。
「私の方が上手く飛べるわよ」
不敵に笑うと、飾仲は一気に滑空した。その左手から鎌鼬を繰り出しながら、滞空するフーへと肉薄していく。
「……!」
フーは動揺を見せた。まさか飾仲自身が向かって来るとは思わなかった。
泡を食いながらも、翼を操り、飛んでくる鎌鼬はかろうじてかわした。だが、次の瞬間、肩に衝撃を受ける。空中でフーの体がふらついた。
スピードを乗せて激突した飾仲のほうは、軌道を大きくぶれさせることなくしばらく滑空。その後、残心をとるようにターンを利かせて体ごと振り返った。
「……っ!」
フーも素早く振り返る。その両手に風を集め、砲弾の形をとって打ち放った。
「飛ばせ、風砲!」
風術の中では初歩的な技。それゆえに、発射も迅速だ。
だが、飾仲の白翔もまた敏捷だった。
速度をつけて、滑るように後退。さすがに追う風砲の速度の方が勝り、徐々に距離は詰まっていく。
それでも、着弾の時間は緩やかに遅らせられた。
風の砲弾が頭部に直撃する直前、ぐっと高度を落とす。彼方へ飛び去った風砲の余波に頭頂の髪を揺らしながら、飾仲はフーの方へと飛びながら急上昇。あまりにトリッキーな相手の動きについていけないフーに、身をひねって突き上げるような肘打ちを叩き込んだ。
「く……!」
とっさに体の正面で腕を交差させてガードするフー。飛行速度を乗せて激突してくる衝撃が、骨までびりびりと震わせた。
突き上げる衝突の勢いで、二人の体はさらに高度を増す。
その速度が緩んだところで、間合いを切られる前にフーが鎌鼬を放った。彼我の距離は一メートルもなく、一瞬で届く距離。にもかかわらず、一瞬で横にさばいた飾仲の白翔の羽の数枚を散らすだけに終わる。
間髪入れずに飛ばしたもう一撃も、飾仲は見切ったように最低限の動きで彼方送りにすると、いたずらっぽい笑みとともに大きく旋回してみせた。
後を追おうとするフーを嘲笑うように背後へ回り、かと思えば急上昇して天を仰がせる。猛スピードの滑空と鋭い方向転換を自由自在に操り、フーの目を翻弄する。
地上十メートルでの移動とは思えない縦横無尽。重力も慣性も無視したような飛び方は、まるで自身という駒を指先で動かすかのよう。
(格が……違いすぎる……!)
その姿を見失わないことにさえ必死のフーに、反撃の余地はなかった。
再び、猛スピードで飾仲の特攻が迫る。悪意のある自動車のような緩まぬ速度が、容赦なくフーをはね飛ばした。大きく体勢を崩されるフーを尻目に、飾仲は貫通した弾丸のごとくまっすぐに抜けていく。
半ば錐もみ状態となったフーは、めまいを覚えながら何とか持ち直した。そうしてとらえた視界の中に、決して見失ってはならない相手の姿を探す。
――ない。
全身が戦慄する。
フーの認識から、ついに飾仲が消えた。
「フー!」
下方から芽華実の声が響く。
その切迫した声色に、飾仲の所在を知った。
空中で踵を返す。一瞬でも早く、真後ろの敵に相対しようとする。
直後、フーの片翼が真っ二つに切り裂かれた。
「っ……!」
風の刃の名残が頬をかすめ去る。はらはらと散る白い羽根が、そしてその源泉たる片翼が、崩れ去って源子へと返っていく。
滞空はままならなかった。がくんと高度が落ちる。
そこへ、ダメ押しの鎌鼬が迫った。狙いはもう片方の翼、ではない。
これ以上機動性を奪う必要がないなら、目的への最短距離は――。
「うぅ……っ!」
「フー……!」
赤いしぶきが弾けた。舞い上がる羽根の白が共演する。
ほどけていく翼の残滓に包まれるようにして、フーの体は地上へと落下した。最初の片翼を消された時点で徐々に高度が下がっていたため、およそ三メートルからの地面への打擲ですんだのは幸いだ。
ぐったりと横倒しになったフーは、左の脇腹を真っ赤に染め上げていた。すっぱりと切られた傷口からは、じわじわと血が流れ出ている。
駆け寄った芽華実は、直後、後方に軽やかな着地の音を聞いた。
振り返って、飾仲が冷酷な天使のように降り立つのを見ると、とっさに撓葛を発動させる。地面を突き破って現れた撓葛は、飾仲を下ろした両の腕ごと胴体に巻き付いて拘束した。これで、しばらくの時間は稼げるだろう。
「フー、大丈夫!?」
「ええ……!」
警戒を怠らぬよう、体は飾仲のほうを向けながら、芽華実は後ろにかばったフーの様子を振り返った。フーは体を起こして座り込んだ姿勢になり、純猫術の光を脇腹にあてがっていた。顔は痛みをこらえるようにこわばっているが、その目はしっかりと芽華実を見つめ返している。
その様子を心配そうに見ていた芽華実は、ふと目を見開いた。
手をかざしている脇腹のブラウスが、それ以上赤色の面積を広げない。
既に出血が止まっている。それは、以前見たフーの回解処法と比べると、格段の速さだった。
「……春先にアワと修行した時、パワーのある術は私には難しかった」
芽華実の表情から察したフーが、そう切り出した。
「水術最強の術を会得したアワとは違って、私は強力な風術を習得することはできなかった。だけど……ううん、だからといってもいい。私はそのかわりに、回解処法を上達させたの」
一つ大きく呼吸して、フーは汗の浮かんだ顔で微笑んで見せる。
「アワみたいに、あなた達を脅かす者を撃退する術は得ることはできなかったけれど……私はこの術で、助ける術であなた達を守るって決めたの」
言って、治療は継続しながら、フーはゆっくりと立ち上がった。
まだ休んでいた方が、と声をかけそうになって、芽華実はフーが警戒したものに気づいた。
ぶつん、と繊維質のものがちぎれる音。振り返れば、飾仲を拘束していたはずの撓葛が、彼女の足元に散らばっていた。何とか手を体とつるの間に滑り込ませ、鎌鼬で断ち切ったようだ。
「私を束縛している間に攻撃すればよかったのに。そちらのミフウメガミはまぬけた子なのね」
「敵なんて眼中になくなるほど友達を心配してくれる、とっても優しい子よ。自慢のパートナーだわ」
いまだダメージを抱えながらも、珍しくフーが皮肉めいた反論をする。
飾仲はそれさえも軽くあしらうように笑った。
「おかげで勝機を逃すとしても?」
飾仲の手から生まれた鎌鼬が、次々に二人へと襲い掛かる。動転してたたらを踏んだ芽華実の前に出たフーが、両手を突き出し結界を張った。オレンジがかった半透明の湾曲した壁に、刺さりそうな勢いで鎌鼬が激突していく。
「ほらほら、そのままじゃ反撃もできずにされるがままよ?」
「く……!」
フーの表情に焦りが浮かんだ。結界術も無敵ではない。強力な技を、あるいは度重なる攻撃を受ければ、耐久性を上回った時点で瓦解する。
今のフーは、まだ傷が癒えきっていないせいで結界も本調子ではない。ただでさえ防御力の低下した結界に、鎌鼬は矢継ぎ早に飛んできては衝突を繰り返していく。
みし、と身の毛もよだつような音がした。
前方の防壁に亀裂が走ったことに、フーも、芽華実も――そして飾仲も、気づいた。
「これで終わりね」
脆弱点へ目がけて、鎌鼬が飛ぶ。飾仲の確信めいた面持ちを見れば、着弾前からその威力の大きさは明らかだった。
芽華実の喉がひきつった。鎌鼬が正面から結界を突き破れば、中央に立つフーは確実に犠牲になる。しかし、だからといって、結界を解いて横へかわすほどの猶予はない。
最善はおろか、次善の行動に移る間もなかった。
今度こそ無事では済まない凶暴な風の刃が、結界に正面から殴り込んだ。
そして――散った。
「え……!?」
呆然と、芽華実は目の前の光景に立ちすくむ。
飾仲の放った一撃は、確かに亀裂の入った結界を破るには十分な威力をもっていた。
だが、亀裂も何もない溌剌とした結界の敵ではなかった。
「あっぶなーい、ギリギリセーフ」
よく知る声が、背後から聞こえた。同時、フーの結界の前に重ねるようにして張られていた堅牢な結界がふっと消える。
後ろから、芽華実の横を通り過ぎて、フーの前に二人の少女が歩み出た。
「間に合ってよかった。大丈夫? フー」
「あれはフーの鏡像というわけね。まさか渦中の鏡像に出くわすことになるとは」
シナモン色のロングヘアをした草猫が、振り返ってさっきと同じ声でフーを気遣い、その隣で、藤色の髪をポニーテールに結わえた念猫が、敵を見つめて薄く微笑んだ。
――一方その頃。
「きゃあっ!」
「あうっ!」
竜巻から放り出された芽華実とフーは、腹ばいで地面に叩きつけられると、痛みに呻きながら何とか体を起こした。
「痛た……フー、大丈夫?」
「ええ……頭から落ちなかっただけよかったわ……」
「そんな悠長なことも言っていられなくなるわよ」
会話の間に滑り込ませられたナイフのような声に、二人はハッと前を向いた。薄グレーの髪をしたフーの生き写しが、ゆっくりと二人に歩み寄ってくるところだった。
彼女が身にまとっているのは、ルシルが着ていたものとはまた異なる民族衣装だ。着物のような右前の襟が二重になった少し丈の長い上衣と短いキュロット。大きく広がった袖とキュロットにはスリットが入っており、二重構造に見えるものの、全体的に薄手の仕立てだ。ルシルが着ていたものが着物に相当するなら、こちらは浴衣のような簡素さがある。
二人はまだ痛む体に鞭打って立ち上がった。骨が折れていなかったのが幸いだ。
どうやら、ここにいた猫たちは先程の竜巻に恐れをなして逃げていったらしい。遊びに使われていたのだろうボールや、途中で脱げたのか小さな子供用の靴などがあちこちに残されていた。先程の場所からは見えなかった噴水が近くで水を噴き上げているのを見るに、だいぶ離れた位置に落とされたようだ。
閑散としてしまった公園の広場で、芽華実とフーは不敵なたたずまいを見せる少女と相対した。
フーがぴりりと神経をとがらせながら問う。
「……あなたは、私の鏡像……」
「あなたたちが決めた呼称なんて知らないし、あなたに準ずる存在ととらえられるのも不愉快よ。私は私、カザナカフー。飾仲フーよ」
飾仲と名乗った鏡像は、フーとは違い歯に衣着せぬ言葉選びで言い放った。フーならあくまでも婉曲的に、角の立たない言い回しを探すだろう。
「私に準ずるのが嫌というけれど、同じ名前を名乗るのは厭わないの?」
「いずれあなたはいなくなって、私がこの名前の主になるのだからいいのよ。それに、主従はともかく私とあなたが同位の存在なのは認めているし」
飾仲は自分の胸に左手を当て、瞑目しながら言う。
「風猫なのも、人間界の知識に精通しているのも同じ。ショートケーキが好きなのも――それを上回ってアワのことが好きなのも」
「……、ぇえっ!?」
変わらず身構えながら飾仲の口上を聞いていたフーは、最後の一言に数秒遅れで激しく反応した。
「す、えっ、すっ……す!?」
「好きでしょ。アワのこと。私がそうなんだもの」
「ち、違っ……め、芽華実、違うのよ! これはその、アワは……そう、友達! 友達として好きってことなの!」
漫画であれば手足が四本描かれるであろうほどバタつきながら、同じく漫画であれば波線で描かれるであろうほど口をあわあわさせる。パートナーがそこまで否定するなら信じたい芽華実だが、ノンバーバルな側面が懸命に墓穴を掘っている。
「私には家のしがらみなどないもの。あなただって本当は、自分の気持ちを……」
「あーっ、わー、わー! 聞こえないーっ!」
耳をふさいで闇雲に叫びだすフーは、自分が聞こえなくても芽華実が耳にするのが一番困ることに気づいていない。
「だけど、その気持ちを伝えることはもうないわ」
飾仲の手の中で風が渦を巻いた。セルフ耳栓をしていたフーは、それを見てハッと基に戻る。
「自分の気持ちに素直にならなかったことを後悔するのね」
「――芽華実っ!」
フーが鋭く叫ぶと同時に、芽華実の前に躍り出て半球状の結界を展開する。直後、そこへ風の刃がぶつかる衝撃が、空気をびりびりと震わせた。
「フー……!」
「芽華実、お願い」
両手を突き出して結界を保ちながら、フーが真剣な顔で芽華実を振り返った。
共闘の覚悟なら決まっている。芽華実は猫力を解放しながら、パートナーの言葉を待った。
やがて、フーが口を開いた。
「……デ、デタラメだとしても、彼女の言ってたこと、ほ、他の人には言わないでね!」
「……あ、うん」
期待と違うお願いだった。彼女にとっては目の前の鎌鼬より実家の勘当のほうが怖いらしい。
「それより、私も戦うわ。フーの姿をした相手を攻撃するのは心苦しいけれど、でも……!」
「いいのよ」
落ち着きを取り戻したフーは、柔らかな目元に凛とした覚悟を宿して言った。
「私のために力を貸してくれるんでしょう。お願いするわ、私のパートナー」
頷きあう二人。
直後、以心伝心の示し合わせに従って、結界を解いたフーと芽華実は二手に分かれた。
飾仲の攻撃が再開される。ヒュンと音を立てて迫る鎌鼬は、フーを狙った。
「二穴の足、惰気飾る苦悩、意思超える願と心得よ、思考の広原に盲目に踊れ!」
芽華実の詠唱に応じた源子が、木の根となって地面から突き出る。その鋭い先端が飾仲に向けられるも、当の本人は見向きもしない。
鎌鼬は変わらずフーを狙う。これにはフーも黙ってはおらず、風術で対抗した。
「渦巻け、旋風!」
突き出した手から巻き起こるつむじ風。直接的な殺傷力のある利器でこそないものの、鎌鼬よりも大きな風の塊だ。
風を風でかき消そうというフーの目論見。しかし、飾仲が伸ばした左手がそれをさらに覆した。フーが放った風の塊が、繭の糸がほどかれるように消えていく。
鏡像であるがゆえか、詠唱や言霊を必要としないようだが、飾仲が今使った術は、気憩と呼ばれる、無風状態を作り出すものだ。ご丁寧にフーの旋風のみを狙って空気の流れを止め、鎌鼬を阻むものを取り払った。
「く……!」
慌てて地面に身を投げ出したフーの頭上を、二つの鎌鼬がかすめ去っていく。その崩れた体勢を狙った飾仲が、次なる攻撃に移るより先に――芽華実の詠唱が完成した。
「這え、堅肢!」
水面から顔を出した首長竜のような太い木の根が、一気に伸び上がった。鎌首をもたげ、その先端を飾仲へ突き込んでいく。
飾仲はそこでようやく振り返った。無造作に手を振り、予備動作いらずの鎌鼬で迎え撃つ。鋭い風の刃は、人の頭ほどの直径の根も一太刀で済ませてしまう。
一本目が切り飛ばされる。二本目が切り伏せられる。そして三本目……だけは、その外皮を削ぐにとどまった。地面と平行に突き進んできた二本と違い、途中で突き上げるように角度を変えた三本目の動きを、飾仲は予測できなかったのだ。
鋭い先端が、飾仲の腕をとらえた。衣服が裂け、皮膚が破られる。
だが、その出来事に息をのんだのは、フーと芽華実の方だった。
「そんな……!」
「水……!?」
二人もまた、傷口から飛び散るものが赤い血ではなく透明な水であることに驚きを隠せなかった。それは、鏡像との戦いにおけるたった一度きりの猫だましのようなもので、されど決定的な隙を生む瞬間。
「止まっている暇なんてないわよ!」
無色透明な血を滴らせ、左手がフーに向けられる。そこに荒々しい風が渦を巻いた。それが次の瞬間、凄まじいスピードで直線状に放たれた。
言うなれば、横向きの竜巻。二人を吹き飛ばしたものよりも細く小ぶりだが、直感的に分かる――鎌鼬だ。
通常の鎌鼬が一太刀浴びせるようなものだとすれば、この竜巻状の鎌鼬は粉砕機の回転刃のようなもの。巻き込まれれば、ズタズタという言葉では足りない惨劇は必至だ。
触れるだけで指が飛ぶ凶悪な風の蛇が、フーにあぎとを開く。
芽華実の喉が叫声をほとばしらせた。彼女の視線が追いついた時には、すでに爆発的な土ぼこりが舞い上がっていた。地面がえぐられ、芝の付着した土が辺りに無造作に飛び散る。
茶色くけぶる空間に、芽華実が恐る恐る呼びかける。
「ふ……フー……!?」
土煙が、風に乗って彼方へ流されていく。その跡に、フーの姿はなかった。
まさか、と総毛立つ芽華実だが、えぐれた地面には肉片も赤黒い液体もなかった。何より、飾仲の苛立たしげなため息が、芽華実にとっての最悪の事態を否定していた。
「そうね、その手はあった」
上へ向けて放たれた言葉に、芽華実も頭上を仰ぐ。その視線の先――地上五メートルほどの高さで、白鳥のような真っ白な翼を携えたフーが刀印を構えていた。
「刈れ、鎌鼬!」
刀印を突き出し、続けざまに風の刃を差し向ける。ヒュンヒュンッと音を立て、刃は空気を撫で切りながら飾仲へ向かう。
さらに。
「渦巻け、旋風!」
飾仲の近くで、渦巻く風が巻き起こった。ちょうど、その退路を塞ぐように。
旋風自体には強い殺傷能力はないものの、巻き込まれれば体の自由を奪われることは必至。その間に鎌鼬に追いつかれれば、斬り捨て御免と相成る。
無論、飾仲も黙ってはいないだろう。さっきと同様に気憩を使うだろうか。それでもいい、と芽華実は思う。それならば、その直後に草術で不意をつくだけだ。
だが、芽華実の見当は外れた。
飾仲は、回避を選んだ。全方向を封鎖されながら。
四面楚歌でも、飾仲がフーと同じ特性を持つ以上――一方向だけ退路が保証されている。
源子の翼が大きく羽ばたいた。それは、風の渦と刃が入り乱れる地上から、飾仲をフーと同じ高さに引き上げた。
フーに使える術が、その鏡像に使えないはずがないのだ。
「私の方が上手く飛べるわよ」
不敵に笑うと、飾仲は一気に滑空した。その左手から鎌鼬を繰り出しながら、滞空するフーへと肉薄していく。
「……!」
フーは動揺を見せた。まさか飾仲自身が向かって来るとは思わなかった。
泡を食いながらも、翼を操り、飛んでくる鎌鼬はかろうじてかわした。だが、次の瞬間、肩に衝撃を受ける。空中でフーの体がふらついた。
スピードを乗せて激突した飾仲のほうは、軌道を大きくぶれさせることなくしばらく滑空。その後、残心をとるようにターンを利かせて体ごと振り返った。
「……っ!」
フーも素早く振り返る。その両手に風を集め、砲弾の形をとって打ち放った。
「飛ばせ、風砲!」
風術の中では初歩的な技。それゆえに、発射も迅速だ。
だが、飾仲の白翔もまた敏捷だった。
速度をつけて、滑るように後退。さすがに追う風砲の速度の方が勝り、徐々に距離は詰まっていく。
それでも、着弾の時間は緩やかに遅らせられた。
風の砲弾が頭部に直撃する直前、ぐっと高度を落とす。彼方へ飛び去った風砲の余波に頭頂の髪を揺らしながら、飾仲はフーの方へと飛びながら急上昇。あまりにトリッキーな相手の動きについていけないフーに、身をひねって突き上げるような肘打ちを叩き込んだ。
「く……!」
とっさに体の正面で腕を交差させてガードするフー。飛行速度を乗せて激突してくる衝撃が、骨までびりびりと震わせた。
突き上げる衝突の勢いで、二人の体はさらに高度を増す。
その速度が緩んだところで、間合いを切られる前にフーが鎌鼬を放った。彼我の距離は一メートルもなく、一瞬で届く距離。にもかかわらず、一瞬で横にさばいた飾仲の白翔の羽の数枚を散らすだけに終わる。
間髪入れずに飛ばしたもう一撃も、飾仲は見切ったように最低限の動きで彼方送りにすると、いたずらっぽい笑みとともに大きく旋回してみせた。
後を追おうとするフーを嘲笑うように背後へ回り、かと思えば急上昇して天を仰がせる。猛スピードの滑空と鋭い方向転換を自由自在に操り、フーの目を翻弄する。
地上十メートルでの移動とは思えない縦横無尽。重力も慣性も無視したような飛び方は、まるで自身という駒を指先で動かすかのよう。
(格が……違いすぎる……!)
その姿を見失わないことにさえ必死のフーに、反撃の余地はなかった。
再び、猛スピードで飾仲の特攻が迫る。悪意のある自動車のような緩まぬ速度が、容赦なくフーをはね飛ばした。大きく体勢を崩されるフーを尻目に、飾仲は貫通した弾丸のごとくまっすぐに抜けていく。
半ば錐もみ状態となったフーは、めまいを覚えながら何とか持ち直した。そうしてとらえた視界の中に、決して見失ってはならない相手の姿を探す。
――ない。
全身が戦慄する。
フーの認識から、ついに飾仲が消えた。
「フー!」
下方から芽華実の声が響く。
その切迫した声色に、飾仲の所在を知った。
空中で踵を返す。一瞬でも早く、真後ろの敵に相対しようとする。
直後、フーの片翼が真っ二つに切り裂かれた。
「っ……!」
風の刃の名残が頬をかすめ去る。はらはらと散る白い羽根が、そしてその源泉たる片翼が、崩れ去って源子へと返っていく。
滞空はままならなかった。がくんと高度が落ちる。
そこへ、ダメ押しの鎌鼬が迫った。狙いはもう片方の翼、ではない。
これ以上機動性を奪う必要がないなら、目的への最短距離は――。
「うぅ……っ!」
「フー……!」
赤いしぶきが弾けた。舞い上がる羽根の白が共演する。
ほどけていく翼の残滓に包まれるようにして、フーの体は地上へと落下した。最初の片翼を消された時点で徐々に高度が下がっていたため、およそ三メートルからの地面への打擲ですんだのは幸いだ。
ぐったりと横倒しになったフーは、左の脇腹を真っ赤に染め上げていた。すっぱりと切られた傷口からは、じわじわと血が流れ出ている。
駆け寄った芽華実は、直後、後方に軽やかな着地の音を聞いた。
振り返って、飾仲が冷酷な天使のように降り立つのを見ると、とっさに撓葛を発動させる。地面を突き破って現れた撓葛は、飾仲を下ろした両の腕ごと胴体に巻き付いて拘束した。これで、しばらくの時間は稼げるだろう。
「フー、大丈夫!?」
「ええ……!」
警戒を怠らぬよう、体は飾仲のほうを向けながら、芽華実は後ろにかばったフーの様子を振り返った。フーは体を起こして座り込んだ姿勢になり、純猫術の光を脇腹にあてがっていた。顔は痛みをこらえるようにこわばっているが、その目はしっかりと芽華実を見つめ返している。
その様子を心配そうに見ていた芽華実は、ふと目を見開いた。
手をかざしている脇腹のブラウスが、それ以上赤色の面積を広げない。
既に出血が止まっている。それは、以前見たフーの回解処法と比べると、格段の速さだった。
「……春先にアワと修行した時、パワーのある術は私には難しかった」
芽華実の表情から察したフーが、そう切り出した。
「水術最強の術を会得したアワとは違って、私は強力な風術を習得することはできなかった。だけど……ううん、だからといってもいい。私はそのかわりに、回解処法を上達させたの」
一つ大きく呼吸して、フーは汗の浮かんだ顔で微笑んで見せる。
「アワみたいに、あなた達を脅かす者を撃退する術は得ることはできなかったけれど……私はこの術で、助ける術であなた達を守るって決めたの」
言って、治療は継続しながら、フーはゆっくりと立ち上がった。
まだ休んでいた方が、と声をかけそうになって、芽華実はフーが警戒したものに気づいた。
ぶつん、と繊維質のものがちぎれる音。振り返れば、飾仲を拘束していたはずの撓葛が、彼女の足元に散らばっていた。何とか手を体とつるの間に滑り込ませ、鎌鼬で断ち切ったようだ。
「私を束縛している間に攻撃すればよかったのに。そちらのミフウメガミはまぬけた子なのね」
「敵なんて眼中になくなるほど友達を心配してくれる、とっても優しい子よ。自慢のパートナーだわ」
いまだダメージを抱えながらも、珍しくフーが皮肉めいた反論をする。
飾仲はそれさえも軽くあしらうように笑った。
「おかげで勝機を逃すとしても?」
飾仲の手から生まれた鎌鼬が、次々に二人へと襲い掛かる。動転してたたらを踏んだ芽華実の前に出たフーが、両手を突き出し結界を張った。オレンジがかった半透明の湾曲した壁に、刺さりそうな勢いで鎌鼬が激突していく。
「ほらほら、そのままじゃ反撃もできずにされるがままよ?」
「く……!」
フーの表情に焦りが浮かんだ。結界術も無敵ではない。強力な技を、あるいは度重なる攻撃を受ければ、耐久性を上回った時点で瓦解する。
今のフーは、まだ傷が癒えきっていないせいで結界も本調子ではない。ただでさえ防御力の低下した結界に、鎌鼬は矢継ぎ早に飛んできては衝突を繰り返していく。
みし、と身の毛もよだつような音がした。
前方の防壁に亀裂が走ったことに、フーも、芽華実も――そして飾仲も、気づいた。
「これで終わりね」
脆弱点へ目がけて、鎌鼬が飛ぶ。飾仲の確信めいた面持ちを見れば、着弾前からその威力の大きさは明らかだった。
芽華実の喉がひきつった。鎌鼬が正面から結界を突き破れば、中央に立つフーは確実に犠牲になる。しかし、だからといって、結界を解いて横へかわすほどの猶予はない。
最善はおろか、次善の行動に移る間もなかった。
今度こそ無事では済まない凶暴な風の刃が、結界に正面から殴り込んだ。
そして――散った。
「え……!?」
呆然と、芽華実は目の前の光景に立ちすくむ。
飾仲の放った一撃は、確かに亀裂の入った結界を破るには十分な威力をもっていた。
だが、亀裂も何もない溌剌とした結界の敵ではなかった。
「あっぶなーい、ギリギリセーフ」
よく知る声が、背後から聞こえた。同時、フーの結界の前に重ねるようにして張られていた堅牢な結界がふっと消える。
後ろから、芽華実の横を通り過ぎて、フーの前に二人の少女が歩み出た。
「間に合ってよかった。大丈夫? フー」
「あれはフーの鏡像というわけね。まさか渦中の鏡像に出くわすことになるとは」
シナモン色のロングヘアをした草猫が、振り返ってさっきと同じ声でフーを気遣い、その隣で、藤色の髪をポニーテールに結わえた念猫が、敵を見つめて薄く微笑んだ。
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