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アステリア王国から送り込まれたのは、国王直属の「異端審問官」たちだった。彼らは魔導艦から魔法の拡声器を使い、大陸全土に響き渡る声で告げた。
『逆賊エルナ・フォン・ラインハルト、および彼女に惑わされたシオン第一王子! 直ちに投降せよ! さもなくば、この大陸を「浄化の炎」で焼き尽くす!』
「浄化の炎……。王家が隠し持っていた、古代の殲滅魔法ね」 レオンが忌々しそうに空を仰ぐ。隣でユリが震えながらも、聖女の杖を握りしめた。
「エルナお姉様を逆賊だなんて……。本当の逆賊は、あんな酷いことを言える人たちの方です!」
エルナは思考を巡らせた。真っ向から戦えば、協力的な竜人族の集落が灰になる。ならば、ここでも「悪役令嬢」の特権を使うしかない。
「殿下、提案があります。私、一度だけ『死んだこと』にしませんか?」 「却下だ」 シオンが即答した。その瞳には、冗談でも許さないという苛烈な光が宿っている。
「話を聞いてください! 偽装死ですわ。私が死んだと思わせれば、追っ手は一度引き上げます。その隙に、私たちは大陸の地下に広がる『迷宮都市』へ移動するんです。……殿下、私を信じてくださる?」
エルナは、シオンの頬を両手で包み込んだ。彼は、エルナに触れられると、どんなに狂った状態でもわずかに理性が戻る。
「……条件がある。お前が死ぬ演技をする間、私の魔力を一瞬たりとも絶やさない。お前の心臓の音を、私の魔力が常に監視する。……それから、演技が終わった後は、三日間、私から片時も離れないと誓え」
「三日は長すぎますが……わかりましたわ、背に腹は代えられません!」
エルナの作戦が始まった。彼女は竜人族の秘薬を飲み、仮死状態となる。シオンは、あたかも「エルナを失って絶望した王子」を演じながら、審問官たちの前で、巨大な氷の棺(ひつぎ)を自ら作り上げた。
「……エルナは死んだ。私の手で、永遠の氷に閉じ込めた。……これ以上、私を怒らせるな。さもなくば、お前たちの王都をこの女の墓標として凍らせてやる」
シオンの放つ、この世のものとは思えないほどの冷気と殺意。審問官たちは、そのあまりの「本気度」に腰を抜かし、彼女の死を確信して逃げ帰っていった。しかし、氷の棺の中で眠るエルナは知らなかった。シオンが彼女の頬に流した涙が、本物の「絶望」に近いものであったことを。
審問官を追い払った四人は、竜人族の案内で地下深くの『迷宮都市アガルタ』へと身を隠した。ここは古代文明の遺産が眠る、魔法の明かりに照らされた幻想的な地下空間だ。
仮死状態から目覚めたエルナを待っていたのは、約束通りの「シオンによる徹底的な拘束」だった。
迷宮都市の一室。壁は滑らかな魔石で作られ、中央には巨大なベッドが据えられている。 「……殿下。もう起きましたし、体調も万全ですわ。だから、その……抱きしめる力を少し弱めていただけません?」
エルナはシオンの腕の中で、身動きが取れずにいた。シオンは彼女の背中に顔を埋め、深く、深く呼吸を繰り返している。まるで、彼女が本当に消えていないかを確認するように。
「……嫌だ。お前が冷たくなったあの瞬間、私は、自分の中の何かが完全に壊れる音がした。演技だと分かっていても、もうお前を一人にはできない。……お前の血の匂い、心臓の音、体温。そのすべてが私に属していると、お前自身の口で言え」
「殿下……」
シオンの愛は、もはや「溺愛」という可愛い言葉では片付けられない域に達していた。彼はエルナの首筋に顔を上げ、耳元で低く囁く。
「お前が求めた自由。それは、私の隣にあっても得られるはずだ。……エルナ、いい加減に諦めろ。お前がどこへ逃げようと、私はこの世界の法を書き換え、神を殺してでも、お前を連れ戻す。……お前が望むなら、この迷宮都市をお前のためだけの『楽園』にしてもいい」
エルナは悟った。この男にとって、世界とは「エルナがいるかいないか」の二択でしかないのだ。 一方で、ユリとレオンもまた、迷宮の探索中に新たな「世界の秘密」を発見していた。
「レオン様、あれ……。エルナお姉様の名前が刻まれた、古い石碑があります」 「……『運命を拒む者、虚無より現れ、氷の王と共に天を焼く』。これ、エルナとシオンのことか? ……どうやら、彼らが逃げているこの道筋自体、もっと大きな『神の遊戯』の一部らしい」
自由を求めて逃げ続けるエルナ。しかし、その足跡は、世界の崩壊を招く予言をなぞり始めていた。
『逆賊エルナ・フォン・ラインハルト、および彼女に惑わされたシオン第一王子! 直ちに投降せよ! さもなくば、この大陸を「浄化の炎」で焼き尽くす!』
「浄化の炎……。王家が隠し持っていた、古代の殲滅魔法ね」 レオンが忌々しそうに空を仰ぐ。隣でユリが震えながらも、聖女の杖を握りしめた。
「エルナお姉様を逆賊だなんて……。本当の逆賊は、あんな酷いことを言える人たちの方です!」
エルナは思考を巡らせた。真っ向から戦えば、協力的な竜人族の集落が灰になる。ならば、ここでも「悪役令嬢」の特権を使うしかない。
「殿下、提案があります。私、一度だけ『死んだこと』にしませんか?」 「却下だ」 シオンが即答した。その瞳には、冗談でも許さないという苛烈な光が宿っている。
「話を聞いてください! 偽装死ですわ。私が死んだと思わせれば、追っ手は一度引き上げます。その隙に、私たちは大陸の地下に広がる『迷宮都市』へ移動するんです。……殿下、私を信じてくださる?」
エルナは、シオンの頬を両手で包み込んだ。彼は、エルナに触れられると、どんなに狂った状態でもわずかに理性が戻る。
「……条件がある。お前が死ぬ演技をする間、私の魔力を一瞬たりとも絶やさない。お前の心臓の音を、私の魔力が常に監視する。……それから、演技が終わった後は、三日間、私から片時も離れないと誓え」
「三日は長すぎますが……わかりましたわ、背に腹は代えられません!」
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審問官を追い払った四人は、竜人族の案内で地下深くの『迷宮都市アガルタ』へと身を隠した。ここは古代文明の遺産が眠る、魔法の明かりに照らされた幻想的な地下空間だ。
仮死状態から目覚めたエルナを待っていたのは、約束通りの「シオンによる徹底的な拘束」だった。
迷宮都市の一室。壁は滑らかな魔石で作られ、中央には巨大なベッドが据えられている。 「……殿下。もう起きましたし、体調も万全ですわ。だから、その……抱きしめる力を少し弱めていただけません?」
エルナはシオンの腕の中で、身動きが取れずにいた。シオンは彼女の背中に顔を埋め、深く、深く呼吸を繰り返している。まるで、彼女が本当に消えていないかを確認するように。
「……嫌だ。お前が冷たくなったあの瞬間、私は、自分の中の何かが完全に壊れる音がした。演技だと分かっていても、もうお前を一人にはできない。……お前の血の匂い、心臓の音、体温。そのすべてが私に属していると、お前自身の口で言え」
「殿下……」
シオンの愛は、もはや「溺愛」という可愛い言葉では片付けられない域に達していた。彼はエルナの首筋に顔を上げ、耳元で低く囁く。
「お前が求めた自由。それは、私の隣にあっても得られるはずだ。……エルナ、いい加減に諦めろ。お前がどこへ逃げようと、私はこの世界の法を書き換え、神を殺してでも、お前を連れ戻す。……お前が望むなら、この迷宮都市をお前のためだけの『楽園』にしてもいい」
エルナは悟った。この男にとって、世界とは「エルナがいるかいないか」の二択でしかないのだ。 一方で、ユリとレオンもまた、迷宮の探索中に新たな「世界の秘密」を発見していた。
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