当て馬令嬢は自由を謳歌したい〜冷酷王子への愛をゴミ箱に捨てて隣国へ脱走したら、なぜか奈落の底まで追いかけられそうです〜

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迷宮都市での数日間、エルナはシオンの過保護すぎる攻撃（豪華な食事、執拗な添い寝、甘い言葉の絨毯爆弾）をかわしながら、ユリたちが見つけた石碑の解読に挑んでいた。


「……なるほどね。要するに、私が『逃げ続ける』ことで世界のエネルギーが攪拌され、最終的に世界がリセットされる……。それがこのゲームの『真のエンディング』というわけね」


エルナは石碑を指先でなぞりながら、不敵に笑った。 「冗談じゃないわ。私は私の人生を生きるために逃げているの。世界を滅ぼすための駒になんて、なってたまるもんですか！」


エルナの瞳に、かつての「悪役令嬢」としての勝気な光が戻る。彼女はシオンを振り返り、力強く宣言した。


「殿下！ 聞いてください。私たちは、もう逃げるのをやめますわ！」 シオンが驚きに目を見開く。 「……私から離れると言うのか？」


「逆ですわ！ 私たちが『世界の正解』を自分たちで作るんです。追っ手を待つのではなく、こちらからアステリア王国、そしてこの世界を管理している『意志』そのものに殴り込みをかけます！ ……もちろん、殿下も一緒です。一生私に執着すると仰ったんですから、世界の果てまで付き合っていただきますわよ？」


「……。ふっ、あはははは！」 シオンは、狂おしいほどの歓喜を込めて笑い声を上げた。 「いいだろう。お前がそう望むなら、私はお前の剣となり、盾となり、世界を地獄に変えてでもお前の道を切り開こう。……愛している、エルナ。お前のその、傲慢なほどに強い瞳が大好きだ」


シオンはエルナの手を取り、その手の甲に深く、刻印を残すような口づけを落とした。


物語は「防衛」から「侵略」へとその色を変える。 エルナとシオン。嫌い合っていたはずの二人は、今や世界を震撼させる最強の「共犯者」として、自分たちの運命を書き換えるための進撃を開始するのであった。



迷宮都市アガルタの最深部。そこには、数千年前の古代文明が遺した最大にして最強の遺産――空中要塞『星辰の箱舟（アストラル・アーク）』が眠っていた。 巨大な魔石を動力源とし、大気を泳ぐように飛翔するその巨体は、まさに世界を書き換えるための玉座にふさわしい。


「……これこそが、私たちが世界に反旗を翻すための『翼』ですわ」


エルナは、制御パネルに浮かび上がる古代文字を、現代知識をフル回転させて読み解いていた。彼女の指先が、冷たい金属の感触をなぞる。隣では、シオンがその様子をじっと、一秒たりとも見逃さないという執念を込めて見つめていた。


「エルナ、これをお前の意のままに動かすには、膨大な魔力が要る。……私の心臓をこの炉心に直結させても構わん。お前が望むなら、私の命の最後の一滴まで、この船の燃料に変えてやろう」


「またそんな不吉なことを！ 殿下、あなたが燃料になったら、私が誰を顎で使えばいいんですの？ ……いいですか、あなたの魔力は『出力』のために使ってください。私がこの船の『脳』になり、あなたがその『力』になる。それが私たちの共同作業ですわ」


エルナはシオンの冷たい手を握り、制御レバーを共に握らせた。 シオンの瞳に、暗く、それでいて狂おしいほどの歓喜が宿る。彼はエルナの背後から包み込むように重なり、彼女の首筋に冷たい鼻先を寄せた。


「共同作業、か……。いい響きだ。お前と私が、一つの巨大な怪物となって世界を蹂躙する。……お前の望む自由のために、私はこの世界のすべてを焼き払う準備ができているぞ、エルナ」


轟音と共に、数千年間の眠りについていた『箱舟』が、迷宮都市を揺らして浮上を開始した。地下から地上へ、そして天高く。 新大陸レガリアの空に、かつてない巨影が姿を現した。それは、世界の意志に対する宣戦布告であった。