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新世界を探索し始めたエルナとシオンは、やがて一人の奇妙な男と遭遇した。男はボロボロのローブを纏い、空中に浮かぶ「エラーログ」のような光の断片を拾い集めていた。
「……おや、君たちが『特異点』の令嬢と王子かい? 困るんだよね、君たちが勝手にプログラムを書き換えたせいで、僕の仕事が山積みだ」
男は「バグ取り屋」と名乗った。彼は、かつて世界の意志に雇われていたが、システムが壊れたことで自由契約になったという「元・神の使い」だった。
「エルナ、下がっていろ。こいつ、人間ではない」 シオンが剣を抜き、殺気を放つ。しかし、男は軽やかに肩をすくめた。
「まあ待ちなよ、氷の王子様。戦うつもりはない。ただ、忠告しに来たんだ。……エルナ嬢、君が書き換えた『自由』のコードは完璧じゃない。システムの『修正力』は、今度は物理的な形を取って君を襲う。……例えば、君の命を削ることでしか魔法が使えなくなるとかね」
エルナは自分の手を見た。確かに、魔力を使うたびに胸の奥が焼けるような痛みを感じていた。 「……代償、ということかしら?」
「そうだ。そしてシオン王子、君の『執着』も代償を払っている。君がエルナを愛し、彼女を守ろうと力を振るうたびに、君の『時間』は削られ、急速に死へと向かっている。……物語を壊した報いさ」
シオンの表情が一瞬だけ強張った。しかし、彼はすぐに不敵な笑みを浮かべ、エルナをさらに強く抱き寄せた。
「……それで? 私の命が尽きるのが先か、お前が救われるのが先か……。面白い賭けではないか。エルナ、お前を自由にするためなら、私の寿命など塵と同じだ」
「殿下! 勝手に自分の命をチップにしないでくださいまし!」
エルナはバグ取り屋の胸ぐらを掴んだ。 「ねえ、その代償を無効化する方法も、どこかに書いてあるんでしょう? 教えないなら、あなたのその『ログ』とやらを全部燃やしてしまいますわよ!」
悪役令嬢、執着王子、そして世界のバグ。 壮大な旅路は、世界の裏側を知る新たな仲間を加え、代償を巡る残酷で美しい舞台へと突き進んでいく。
「……っ、あ……」
銀色の草がそよぐ「境界の地」を歩む最中、エルナは突如として襲いかかった激痛に、その場に膝を突いた。胸の奥が、熱した鉄を押し当てられたかのように焼ける。彼女が書き換えた世界の理(コード)——「自由」。その自由を行使するための魔力を練るたび、彼女の生命力は確実に削り取られていた。
「エルナ!!」
背後から、影が滑り込むように彼女を抱きとめた。シオンだ。彼の腕は、以前よりも切迫した力で彼女を締め上げる。シオンの肌は、触れれば凍傷を負いそうなほどに冷たい。彼もまた、エルナを保護するために「禁忌の魔術」を乱用し、その代償として命の灯火を急速に消費していた。
「……触らないで、殿下。あなたの体、氷のように冷え切っていますわ。私の魔力を分けるから……」 「馬鹿なことを言うな。お前が魔力を使えば、それだけお前の死が近づく。……いいか、エルナ。これからは指一本動かすな。お前が呼吸すること以外のすべては、私が代行する」
シオンの瞳は、底知れない闇を湛えていた。彼はエルナの首筋に顔を埋め、その脈動を確かめるように深く吸い込む。彼の執着は、今や生存本能と不可分になっていた。
「嫌ですわ、そんなの。私は『自由』を求めて世界を壊したんです。あなたの腕の中に閉じ込められるために、シナリオを書き換えたわけではありません!」
「ならば、私を殺してから行け。お前を失う恐怖に耐えながら生きるなど、私には不可能だ」
シオンの言葉は、脅しではなく切実な告白だった。二人は、自由という名の果実を口にした代償として、互いを「救うために殺し合う」という残酷な矛盾に陥っていた。 エルナは、震える手でシオンの頬に触れた。彼の端正な顔立ちは、代償による苦痛を微塵も見せず、ただ狂おしいほどの愛だけを自分に向けている。
「……バグ取り屋が言っていた『命の樹』。そこへ行けば、この代償を無効化できるかもしれません。……行きましょう、殿下。二人で、本当に笑い合える場所へ」
新世界の地図にはない、伝説の霊峰。そこを目指す二人の足跡は、美しくも悲しい銀の粒子となって、境界の地に刻まれていった。
「……おや、君たちが『特異点』の令嬢と王子かい? 困るんだよね、君たちが勝手にプログラムを書き換えたせいで、僕の仕事が山積みだ」
男は「バグ取り屋」と名乗った。彼は、かつて世界の意志に雇われていたが、システムが壊れたことで自由契約になったという「元・神の使い」だった。
「エルナ、下がっていろ。こいつ、人間ではない」 シオンが剣を抜き、殺気を放つ。しかし、男は軽やかに肩をすくめた。
「まあ待ちなよ、氷の王子様。戦うつもりはない。ただ、忠告しに来たんだ。……エルナ嬢、君が書き換えた『自由』のコードは完璧じゃない。システムの『修正力』は、今度は物理的な形を取って君を襲う。……例えば、君の命を削ることでしか魔法が使えなくなるとかね」
エルナは自分の手を見た。確かに、魔力を使うたびに胸の奥が焼けるような痛みを感じていた。 「……代償、ということかしら?」
「そうだ。そしてシオン王子、君の『執着』も代償を払っている。君がエルナを愛し、彼女を守ろうと力を振るうたびに、君の『時間』は削られ、急速に死へと向かっている。……物語を壊した報いさ」
シオンの表情が一瞬だけ強張った。しかし、彼はすぐに不敵な笑みを浮かべ、エルナをさらに強く抱き寄せた。
「……それで? 私の命が尽きるのが先か、お前が救われるのが先か……。面白い賭けではないか。エルナ、お前を自由にするためなら、私の寿命など塵と同じだ」
「殿下! 勝手に自分の命をチップにしないでくださいまし!」
エルナはバグ取り屋の胸ぐらを掴んだ。 「ねえ、その代償を無効化する方法も、どこかに書いてあるんでしょう? 教えないなら、あなたのその『ログ』とやらを全部燃やしてしまいますわよ!」
悪役令嬢、執着王子、そして世界のバグ。 壮大な旅路は、世界の裏側を知る新たな仲間を加え、代償を巡る残酷で美しい舞台へと突き進んでいく。
「……っ、あ……」
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「エルナ!!」
背後から、影が滑り込むように彼女を抱きとめた。シオンだ。彼の腕は、以前よりも切迫した力で彼女を締め上げる。シオンの肌は、触れれば凍傷を負いそうなほどに冷たい。彼もまた、エルナを保護するために「禁忌の魔術」を乱用し、その代償として命の灯火を急速に消費していた。
「……触らないで、殿下。あなたの体、氷のように冷え切っていますわ。私の魔力を分けるから……」 「馬鹿なことを言うな。お前が魔力を使えば、それだけお前の死が近づく。……いいか、エルナ。これからは指一本動かすな。お前が呼吸すること以外のすべては、私が代行する」
シオンの瞳は、底知れない闇を湛えていた。彼はエルナの首筋に顔を埋め、その脈動を確かめるように深く吸い込む。彼の執着は、今や生存本能と不可分になっていた。
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「ならば、私を殺してから行け。お前を失う恐怖に耐えながら生きるなど、私には不可能だ」
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「……バグ取り屋が言っていた『命の樹』。そこへ行けば、この代償を無効化できるかもしれません。……行きましょう、殿下。二人で、本当に笑い合える場所へ」
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