当て馬令嬢は自由を謳歌したい〜冷酷王子への愛をゴミ箱に捨てて隣国へ脱走したら、なぜか奈落の底まで追いかけられそうです〜

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「初期設定？ 削除？ 笑わせないでくださいまし！ 私はもう、あなたの書いた台本（コード）なんて忘れてしまいましたわ！」


エルナは前世の知識を総動員した。この世界が「システム」で動いているのなら、そこには必ず「バグ」が存在する。彼女は虚無の中に浮かぶ、システムの中枢と思われる巨大な光の柱へと、シオンと共に突撃した。


「殿下！ 私の魔力と、あなたの執着を一つに合わせますわよ！ 奴らの『管理権限』を奪い取ってやりましょう！」


「お前の望むままに。私の魂ごと、お前に預ける」


シオンは一切の迷いなく、自らの命の源である魔力回路をエルナに開放した。シオンの膨大な魔力がエルナの体内を駆け巡り、彼女の視界に「世界のソースコード」が浮かび上がる。エルナは現代のプログラミング概念を魔法に変換し、空中に文字を刻み始めた。


Rewrite Rule: Character[Elna] status: FREE_WILL = true; Scenario[Villainess_Destruction] = DELETED; World_Boundary = UNLIMITED;


「これでどうかしら……！ 私はもう、誰にも決められた結末なんて迎えませんわ！」


エルナが「Enter」を叩くように魔力を爆発させた瞬間、白い空間が激しく明滅し、システムの声が悲鳴を上げた。 『警告……致命的な論理エラー……。物語の整合性が維持できません……。世界を……「オープンワールド」へ強制移行します……。』


光の洪水が二人を飲み込む。エルナは意識が遠のく中、シオンの手を離さないように強く握りしめた。シオンもまた、意識が消える寸前までエルナを自分の体へと引き寄せ、耳元で執拗に囁き続けた。


「……たとえ世界が作り替えられようと、私はお前を必ず見つけ出す。お前の魂に、私の魔力の刻印が刻まれている限り、お前は私の腕の中から逃げられない……」


それが、古い「物語」の終わりであり、全く新しい「生存競争」の始まりだった。



次にエルナが目を覚ました時、そこは王都の地下礼拝堂でも、白い虚無でもなかった。 見上げた空には二つの月が浮かび、地平線の先にはアステリア王国には存在しないはずの「浮遊島」がいくつも漂っている。


「……ここ、どこ？ アステリアじゃない……？」


エルナは立ち上がり、周囲を見渡した。草木は銀色に輝き、大気中の魔力濃度は以前の数百倍に跳ね上がっている。世界のシステムを「ハック」した影響で、隔離されていたはずの「外の世界」とアステリアが融合してしまったのだ。


「……起きたか、エルナ」


すぐ隣で、大岩に腰掛けたシオンが彼女を見ていた。彼の容姿に大きな変化はないが、そのまとう雰囲気はより一層人外の領域に近づいていた。シオンは立ち上がると、エルナの泥を払うように彼女の頬を優しく、しかし離さないという意志を込めて撫でた。


「ここは『境界の地』。お前がシステムの檻を壊したことで、世界は形を変えた。もはや『アステリア』という国も、『隣国』という概念も意味をなさない。……力ある者が、自分の望むルールで土地を支配する、真の弱肉強食の世界だ」


シオンの言葉通り、遠くの地平線では巨大な精霊が練り歩き、アステリアの騎士団がパニックに陥りながら魔物と交戦しているのが見えた。


「……自由にはなったけれど、前よりも過酷な世界になったみたいね」


「案ずるな。お前が望むなら、この混沌とした新世界すべてをお前に献上しよう。お前が笑って暮らせる場所を作るためなら、私は新しい世界の神であっても排除する」


シオンはエルナの腰を引き寄せ、深いくちづけを落とした。酸素を奪うような、そして魂を縛り付けるような、重苦しく甘い誓い。 エルナは苦笑しながらも、その独占欲を拒まなかった。この混沌とした世界で、唯一変わらないのがこの男の「狂気」であることを、彼女はどこかで頼もしく感じていた。