25 / 50
25
しおりを挟む
シオンの放つ絶対零度の衝撃と、ザカリアの放つ因果の光が真っ向から衝突した。 衝撃波で礼拝堂が崩落し、王都の地面が大きく揺れる。 爆炎の中、シオンの翼がザカリアの心臓を貫いたかに見えた。
「……がはっ……! 馬鹿な……、人間一人の執念が、世界の法を凌駕するだと……!?」
ザカリアの体が、光の塵となって崩れていく。しかし、彼は今際の際に、不吉な笑みを浮かべた。
「……だが、忘れるな。私が消えても、お前たちの『逃走』は終わらない。……この世界の外側……『上位の世界』から、お前たちを観測する者たちが動き出す……」
その言葉と同時に、中心のクリスタルが砕け散った。 その瞬間、エルナとシオンの意識は、真っ白な空間へと投げ出された。
空も地面もない、無の世界。 そこでエルナが見たのは、無数に浮かぶ「ディスプレイ」のような窓だった。そこには、自分たちの人生を「物語」として読み、楽しんでいる、知らない世界の人々の姿が映し出されていた。
「……これが、世界の真実? 私たちは、誰かの娯楽として生かされていたの?」
絶望しそうになるエルナの肩を、強い力が抱きしめた。 「……関係ない」
シオンの瞳は、この虚無の世界にあってもなお、エルナだけを映していた。
「観測者が誰であろうと、私のやることは変わらない。……エルナ、お前を自由にする。この偽りの箱庭(世界)そのものを飛び出してでもな。……お前の足首に鎖を繋ぐのが世界だというなら、私はその鎖を、お前と私を繋ぐ絆に作り替えてやろう」
「……殿下。あなた、本当にどこまで行っても救いようのないストーカーですわね」
エルナは涙を拭い、微笑んだ。 大司教との決戦は終わった。しかし、それは「世界の管理人」との、さらに壮大な戦いの序章に過ぎなかったのだ。
「……行きましょう、殿下。私たちの物語は、まだ始まったばかり、あなたの愛の重さに耐えてみせますわよ!」
二人の前には、未知なる「外の世界」への扉が開かれようとしていた。
崩落の轟音も、大司教の断末魔も聞こえない。そこは、音も重力も、そして時間という概念すらも希薄な、純白の牢獄だった。エルナが目を開けると、視界の端々には無数の「窓」が浮いていた。そこには、かつての自分の人生、あるいは見知らぬ誰かの日常が、まるで動画サイトの画面のように無数に再生されている。
「……何、ここ。私の人生が、ただの『コンテンツ』として並べられているの?」
エルナの声が震える。前世の記憶がある彼女には理解できた。ここは物語の外側、プレイヤーや読者という「観測者」がキャラクターを消費する場所なのだ。恐怖で膝が笑いそうになったその時、背後から氷のような冷たさと、太陽のような熱量を同時に持った腕が彼女を抱きしめた。
「……見るな、エルナ。奴らの視線をお前に浴びせるな。お前を娯楽として消費するなど、万死に値する無礼だ」
シオンだった。彼の純白の髪は、虚無の世界の光を反射して神々しく、しかしその瞳は狂気的なまでの独占欲で濁っている。シオンにとって、エルナの人生が誰かの覗き見の対象であるという事実は、大司教の裏切り以上に許しがたい侮辱だった。シオンは片手を天に掲げると、虚無の空間に「絶対零度」の魔力を解き放った。
「我が名はシオン・フォン・アステリア。この女を望むのは、運命でも観測者でもない、私一人だ。……お前たちの『画面』ごと、永遠の氷の中に閉じ込めてやろうか?」
シオンの魔圧によって、周囲の「窓」がパキパキと音を立てて凍りつき、砕け散っていく。しかし、砕けた窓の奥から、無機質な音声が響き渡った。
『エラー。重要キャラクターの暴走を検知。システム・パッチを適用します。……対象、エルナ・フォン・ラインハルト。……「自由」という概念を削除し、初期設定「悪役令嬢」へと再構築を開始。』
「……なんですって? 私をまた、あの地獄へ戻そうっていうの!?」
エルナは叫んだ。今度はシオンの胸を借りるだけではない。彼女は手首の「魂の共鳴」を通じてシオンの魔力を逆流させ、自らの意志を虚無へと叩きつけた。
「……がはっ……! 馬鹿な……、人間一人の執念が、世界の法を凌駕するだと……!?」
ザカリアの体が、光の塵となって崩れていく。しかし、彼は今際の際に、不吉な笑みを浮かべた。
「……だが、忘れるな。私が消えても、お前たちの『逃走』は終わらない。……この世界の外側……『上位の世界』から、お前たちを観測する者たちが動き出す……」
その言葉と同時に、中心のクリスタルが砕け散った。 その瞬間、エルナとシオンの意識は、真っ白な空間へと投げ出された。
空も地面もない、無の世界。 そこでエルナが見たのは、無数に浮かぶ「ディスプレイ」のような窓だった。そこには、自分たちの人生を「物語」として読み、楽しんでいる、知らない世界の人々の姿が映し出されていた。
「……これが、世界の真実? 私たちは、誰かの娯楽として生かされていたの?」
絶望しそうになるエルナの肩を、強い力が抱きしめた。 「……関係ない」
シオンの瞳は、この虚無の世界にあってもなお、エルナだけを映していた。
「観測者が誰であろうと、私のやることは変わらない。……エルナ、お前を自由にする。この偽りの箱庭(世界)そのものを飛び出してでもな。……お前の足首に鎖を繋ぐのが世界だというなら、私はその鎖を、お前と私を繋ぐ絆に作り替えてやろう」
「……殿下。あなた、本当にどこまで行っても救いようのないストーカーですわね」
エルナは涙を拭い、微笑んだ。 大司教との決戦は終わった。しかし、それは「世界の管理人」との、さらに壮大な戦いの序章に過ぎなかったのだ。
「……行きましょう、殿下。私たちの物語は、まだ始まったばかり、あなたの愛の重さに耐えてみせますわよ!」
二人の前には、未知なる「外の世界」への扉が開かれようとしていた。
崩落の轟音も、大司教の断末魔も聞こえない。そこは、音も重力も、そして時間という概念すらも希薄な、純白の牢獄だった。エルナが目を開けると、視界の端々には無数の「窓」が浮いていた。そこには、かつての自分の人生、あるいは見知らぬ誰かの日常が、まるで動画サイトの画面のように無数に再生されている。
「……何、ここ。私の人生が、ただの『コンテンツ』として並べられているの?」
エルナの声が震える。前世の記憶がある彼女には理解できた。ここは物語の外側、プレイヤーや読者という「観測者」がキャラクターを消費する場所なのだ。恐怖で膝が笑いそうになったその時、背後から氷のような冷たさと、太陽のような熱量を同時に持った腕が彼女を抱きしめた。
「……見るな、エルナ。奴らの視線をお前に浴びせるな。お前を娯楽として消費するなど、万死に値する無礼だ」
シオンだった。彼の純白の髪は、虚無の世界の光を反射して神々しく、しかしその瞳は狂気的なまでの独占欲で濁っている。シオンにとって、エルナの人生が誰かの覗き見の対象であるという事実は、大司教の裏切り以上に許しがたい侮辱だった。シオンは片手を天に掲げると、虚無の空間に「絶対零度」の魔力を解き放った。
「我が名はシオン・フォン・アステリア。この女を望むのは、運命でも観測者でもない、私一人だ。……お前たちの『画面』ごと、永遠の氷の中に閉じ込めてやろうか?」
シオンの魔圧によって、周囲の「窓」がパキパキと音を立てて凍りつき、砕け散っていく。しかし、砕けた窓の奥から、無機質な音声が響き渡った。
『エラー。重要キャラクターの暴走を検知。システム・パッチを適用します。……対象、エルナ・フォン・ラインハルト。……「自由」という概念を削除し、初期設定「悪役令嬢」へと再構築を開始。』
「……なんですって? 私をまた、あの地獄へ戻そうっていうの!?」
エルナは叫んだ。今度はシオンの胸を借りるだけではない。彼女は手首の「魂の共鳴」を通じてシオンの魔力を逆流させ、自らの意志を虚無へと叩きつけた。
0
あなたにおすすめの小説
麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。
スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」
伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。
そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。
──あの、王子様……何故睨むんですか?
人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ!
◇◆◇
無断転載・転用禁止。
Do not repost.
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~
魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。
ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!
そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!?
「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」
初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。
でもなんだか様子がおかしくて……?
不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。
※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます
※他サイトでも公開しています。
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
王女殿下のモラトリアム
あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」
突然、怒鳴られたの。
見知らぬ男子生徒から。
それが余りにも突然で反応できなかったの。
この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの?
わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。
先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。
お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって!
婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪
お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。
え? 違うの?
ライバルって縦ロールなの?
世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。
わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら?
この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。
※設定はゆるんゆるん
※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。
※明るいラブコメが書きたくて。
※シャティエル王国シリーズ3作目!
※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、
『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。
上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。
※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅!
※小説家になろうにも投稿しました。
断罪されてムカついたので、その場の勢いで騎士様にプロポーズかましたら、逃げれんようなった…
甘寧
恋愛
主人公リーゼは、婚約者であるロドルフ殿下に婚約破棄を告げられた。その傍らには、アリアナと言う子爵令嬢が勝ち誇った様にほくそ笑んでいた。
身に覚えのない罪を着せられ断罪され、頭に来たリーゼはロドルフの叔父にあたる騎士団長のウィルフレッドとその場の勢いだけで婚約してしまう。
だが、それはウィルフレッドもその場の勢いだと分かってのこと。すぐにでも婚約は撤回するつもりでいたのに、ウィルフレッドはそれを許してくれなくて…!?
利用した人物は、ドSで自分勝手で最低な団長様だったと後悔するリーゼだったが、傍から見れば過保護で執着心の強い団長様と言う印象。
周りは生暖かい目で二人を応援しているが、どうにも面白くないと思う者もいて…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる