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13.俺は親友になりたい
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訓練を始めて三か月が経った。
俺もずいぶん慣れてきて、フィンの立てたメニューを全てこなしても、もう倒れることはなくなってた。
最近のフィンは、すごく忙しそうだった。
訓練に来ない日も増えたし、来ても短い時間で切り上げることが多かった。
それでも約束通り、短い時間の中で俺のために自衛の訓練に付き合ってくれた。
はじめは、剣が自分に向かってくるだけで、目をつぶって固まってしまった。
だからまずは、剣筋を見極めて避ける訓練から始めた。
それから、剣撃を剣で受け流す訓練。
徹底的に”自分を守る”訓練だった。
けど、やり始めて気づいた。
今までの走り込みや筋トレって、すごく大切なものだったんだなって。
走り込みで俊敏さと持久力を手に入れて、柔軟のおかげでしなやかに動ける。
小さめの剣を使う俺にとっては、筋力よりも姿勢の安定が何より重要だった。
あの水浸しになった姿勢矯正訓練も意味があったんだな。
改めてフィンの指導がどれほど計算されてたかに驚いた。
けど、あのキスしようとしたり、顔を近づけてきたりしてきた行動だけは、意味がないと思うけどな!
……うん、絶対無いよな。
まあ、それは置いておいて。
だから俺は、今まで以上に基礎トレーニングに力を入れた。
おかげで、体力もぐんとついた。
筋トレは相変わらずおもりを使わせてくれないから筋肉はつかなかったけど、それでも体は確かに強くなっていた。
今では、フィンが組んだ訓練メニューをこなしても、そこまでへばることはない。
だから、騎士の雑用も積極的に引き受けられるようになっていた。
訓練も大事だけどさ。
俺みたいな素人をみんなが受け入れてくれているんだもんな。
だから、少しは騎士団のために役に立ちたかった。
前に洗濯物を持って行っただけでフィンに褒められた。
それが地味にうれしかったんだ。
だから、もっと頑張ろうって思った。
そのおかげか、最近では騎士のみんなとも仲良くなれた気がする。
その中でも、カリオってやつと特に気が合った。
カリオは俺と同じ平和主義タイプ。
周りと仲良く、穏やかに生きるのが一番の幸せだと思ってる。
考え方が俺と似てて、すぐに打ち解けた。
ある日、俺は王の紋章のついた盾を、カリオと一緒に磨いていた。
「ずいぶんエリゼオも騎士の訓練に慣れてきたよな。フィン様のしごきにもついていけるなんて、すごいぞ」
「へへ、まあね」
カリオに褒められて、俺は悪い気がしなかった。
照れくさくて、盾を磨く手に少し力が入る。
「けどさあ、フィン様もお前を騎士団に入れて、何がしたいんだろうな?」
「さあね。フィンみたいに偉い人の周りにはきっとすげえ奴ばっかりだろ? 俺みたいな平凡なやつが珍しいのかもよ」
カリオは手を止めて、真っすぐ俺を見た。
「……なあ、エリゼオ。フィン様に振り回されてて、平気なのか?
もし無理してるなら、俺が上に掛けあってやろうか?
フィン様が何者かは俺も詳しくは知らないし、俺自身は平民出身で偉くなんかないけど。
こう見えて俺、一応騎士としては優秀で、上からも目をかけられてるんだ。俺の所属する騎士団の団長に頼めば何とかなるかもしれない」
カリオの真剣な目を見て、本気で俺の事を心配してくれてるのが分かった。
だから、俺も真剣に答えた。
「カリオ、ありがとな。
あいつは強引だけど、ほんとに嫌なことは絶対しない。俺は大丈夫だよ」
俺が笑いかけても、カリオはじっと俺を見つめたままだった。
「フィンはさ、責任感が強くて、いろんなものを抱え込んでるんだと思う。
でも、誰かに愚痴ったりしないだろ? そういうとこ、凄いよな。あいつといると、俺も頑張ろうって思えるんだ」
フィンのこと、俺がどう思ってるかなんて話すのは、これが初めてだった。
ちょっと嬉しくて、つい聞かれてもいないことまでさらに話し出してしまった。
「それにさ、あいつが俺をそばに置くのは、きっとこの人畜無害なモブって感じがいいんじゃないかな。
俺がいて少しでも休まるなら、そばにいてやってもいいって思えるくらいには……俺はあいつのこと、好きだぞ。
俺はあいつの友人として支えられたらと思ってる」
フィンが好きなサーラの”義兄”だから仲良くしてもらってる、なんてことは話せないけど。
でも、これは俺の本当の気持ち。
そのとき――
遠くで、かちっと小さな音がした。
マウスのクリック音みたいな。
まさかね。
この世界にパソコンなんてあるはずないのに。
カリオは、ふーっと長く息を吐いて、少しだけ眉を下げて笑った。
「そっか。まさか惚気を聞かされるとは思わなかったよ。
わかった、俺はお前たちを見守ることにする。
けど、困ったときはちゃんと俺に頼れよ? 俺だってお前の友人なんだから」
やっぱり、カリオは良い奴だ。
俺はこれからも、カリオとは仲良くやっていきたいって素直に思えた。
それにさ、フィンと違って変な冗談を言わないからな。
フィンはすぐ、俺を赤面させて楽しむから。
最近はあんまり一緒にいないから、それも減ったけどさ。
べ、べつにそれが寂しいなんて一つも思ってないんだからな!
◇◇◇
片付けを終えてカリオと別れたあと、俺は訓練場を出ようとした。
そこで、ちょうど訓練場にやってきたフィンと出会った。
「エリゼオ、もう帰るの?」
「うん。今日は手伝いもたくさんこなせたし、結構、訓練に慣れてきたかも。
フィンはこれから訓練? 頑張りすぎるなよ」
そう言ったら、フィンが少し疲れたような顔で微笑んだ。
そして、ぽつりと呟いた。
「……エリゼオと話すときが、一番落ち着くな。疲れが吹っ飛ぶよ、ありがとう。
気をつけて帰るんだよ」
「……っ! あ、ああ」
俺の心臓が跳ねた。
何、それ。そんな顔で、そんな声で言うなよ。
いつもみたいに冗談言ってみろよな。
真面目にそんなこと言われたら、まるで、俺が特別だって言われてるみたいじゃないか。
俺、お前とは友人として隣にいるって決めたんだ。
ううん。
友人じゃなくて、親友になりたいんだ。
だから、お前を好きだってこと、思い出させるなよ。
お前はサーラが好きなんだろ?
そういうことはサーラに言ってやれよ。
サーラなら、きっとすげえ喜んでくれるぞ。
「推し様にそんなこと言っていただけるなんて!!」
って叫びながら気絶しそうだ。
そんなサーラを想像して、ちょっとだけ笑顔になった。
そんな俺を見て、フィンが悪戯っぽく笑う。
「なあに、私の言葉で笑ってくれるの?
最近のエリゼオは、ときどき素直に笑ってくれるよね?
ああ、可愛いな。よし、このまま私の部屋に行こうか。うん、ちょっと私とベッドで話を——」
「すとぉーーっぷ!! 何言ってんの? 何言ってんの?
馬鹿じゃないの!?
フィンのばぁーーーーーーーか!!」
もう、フィンの冗談が最近おかしい。
すぐに部屋に行こうとか言いだすし。
閉じ込めておきたいとか平気で言うし。
どうしたん? そんなに仕事がつらいのか!?
話を聞くぞ?
……って、だめだ、これ部屋に連れ込まれるパターンだ!
もう、俺以外にそんなこと言ったら、セクハラで訴えられるんだからな!!
俺もずいぶん慣れてきて、フィンの立てたメニューを全てこなしても、もう倒れることはなくなってた。
最近のフィンは、すごく忙しそうだった。
訓練に来ない日も増えたし、来ても短い時間で切り上げることが多かった。
それでも約束通り、短い時間の中で俺のために自衛の訓練に付き合ってくれた。
はじめは、剣が自分に向かってくるだけで、目をつぶって固まってしまった。
だからまずは、剣筋を見極めて避ける訓練から始めた。
それから、剣撃を剣で受け流す訓練。
徹底的に”自分を守る”訓練だった。
けど、やり始めて気づいた。
今までの走り込みや筋トレって、すごく大切なものだったんだなって。
走り込みで俊敏さと持久力を手に入れて、柔軟のおかげでしなやかに動ける。
小さめの剣を使う俺にとっては、筋力よりも姿勢の安定が何より重要だった。
あの水浸しになった姿勢矯正訓練も意味があったんだな。
改めてフィンの指導がどれほど計算されてたかに驚いた。
けど、あのキスしようとしたり、顔を近づけてきたりしてきた行動だけは、意味がないと思うけどな!
……うん、絶対無いよな。
まあ、それは置いておいて。
だから俺は、今まで以上に基礎トレーニングに力を入れた。
おかげで、体力もぐんとついた。
筋トレは相変わらずおもりを使わせてくれないから筋肉はつかなかったけど、それでも体は確かに強くなっていた。
今では、フィンが組んだ訓練メニューをこなしても、そこまでへばることはない。
だから、騎士の雑用も積極的に引き受けられるようになっていた。
訓練も大事だけどさ。
俺みたいな素人をみんなが受け入れてくれているんだもんな。
だから、少しは騎士団のために役に立ちたかった。
前に洗濯物を持って行っただけでフィンに褒められた。
それが地味にうれしかったんだ。
だから、もっと頑張ろうって思った。
そのおかげか、最近では騎士のみんなとも仲良くなれた気がする。
その中でも、カリオってやつと特に気が合った。
カリオは俺と同じ平和主義タイプ。
周りと仲良く、穏やかに生きるのが一番の幸せだと思ってる。
考え方が俺と似てて、すぐに打ち解けた。
ある日、俺は王の紋章のついた盾を、カリオと一緒に磨いていた。
「ずいぶんエリゼオも騎士の訓練に慣れてきたよな。フィン様のしごきにもついていけるなんて、すごいぞ」
「へへ、まあね」
カリオに褒められて、俺は悪い気がしなかった。
照れくさくて、盾を磨く手に少し力が入る。
「けどさあ、フィン様もお前を騎士団に入れて、何がしたいんだろうな?」
「さあね。フィンみたいに偉い人の周りにはきっとすげえ奴ばっかりだろ? 俺みたいな平凡なやつが珍しいのかもよ」
カリオは手を止めて、真っすぐ俺を見た。
「……なあ、エリゼオ。フィン様に振り回されてて、平気なのか?
もし無理してるなら、俺が上に掛けあってやろうか?
フィン様が何者かは俺も詳しくは知らないし、俺自身は平民出身で偉くなんかないけど。
こう見えて俺、一応騎士としては優秀で、上からも目をかけられてるんだ。俺の所属する騎士団の団長に頼めば何とかなるかもしれない」
カリオの真剣な目を見て、本気で俺の事を心配してくれてるのが分かった。
だから、俺も真剣に答えた。
「カリオ、ありがとな。
あいつは強引だけど、ほんとに嫌なことは絶対しない。俺は大丈夫だよ」
俺が笑いかけても、カリオはじっと俺を見つめたままだった。
「フィンはさ、責任感が強くて、いろんなものを抱え込んでるんだと思う。
でも、誰かに愚痴ったりしないだろ? そういうとこ、凄いよな。あいつといると、俺も頑張ろうって思えるんだ」
フィンのこと、俺がどう思ってるかなんて話すのは、これが初めてだった。
ちょっと嬉しくて、つい聞かれてもいないことまでさらに話し出してしまった。
「それにさ、あいつが俺をそばに置くのは、きっとこの人畜無害なモブって感じがいいんじゃないかな。
俺がいて少しでも休まるなら、そばにいてやってもいいって思えるくらいには……俺はあいつのこと、好きだぞ。
俺はあいつの友人として支えられたらと思ってる」
フィンが好きなサーラの”義兄”だから仲良くしてもらってる、なんてことは話せないけど。
でも、これは俺の本当の気持ち。
そのとき――
遠くで、かちっと小さな音がした。
マウスのクリック音みたいな。
まさかね。
この世界にパソコンなんてあるはずないのに。
カリオは、ふーっと長く息を吐いて、少しだけ眉を下げて笑った。
「そっか。まさか惚気を聞かされるとは思わなかったよ。
わかった、俺はお前たちを見守ることにする。
けど、困ったときはちゃんと俺に頼れよ? 俺だってお前の友人なんだから」
やっぱり、カリオは良い奴だ。
俺はこれからも、カリオとは仲良くやっていきたいって素直に思えた。
それにさ、フィンと違って変な冗談を言わないからな。
フィンはすぐ、俺を赤面させて楽しむから。
最近はあんまり一緒にいないから、それも減ったけどさ。
べ、べつにそれが寂しいなんて一つも思ってないんだからな!
◇◇◇
片付けを終えてカリオと別れたあと、俺は訓練場を出ようとした。
そこで、ちょうど訓練場にやってきたフィンと出会った。
「エリゼオ、もう帰るの?」
「うん。今日は手伝いもたくさんこなせたし、結構、訓練に慣れてきたかも。
フィンはこれから訓練? 頑張りすぎるなよ」
そう言ったら、フィンが少し疲れたような顔で微笑んだ。
そして、ぽつりと呟いた。
「……エリゼオと話すときが、一番落ち着くな。疲れが吹っ飛ぶよ、ありがとう。
気をつけて帰るんだよ」
「……っ! あ、ああ」
俺の心臓が跳ねた。
何、それ。そんな顔で、そんな声で言うなよ。
いつもみたいに冗談言ってみろよな。
真面目にそんなこと言われたら、まるで、俺が特別だって言われてるみたいじゃないか。
俺、お前とは友人として隣にいるって決めたんだ。
ううん。
友人じゃなくて、親友になりたいんだ。
だから、お前を好きだってこと、思い出させるなよ。
お前はサーラが好きなんだろ?
そういうことはサーラに言ってやれよ。
サーラなら、きっとすげえ喜んでくれるぞ。
「推し様にそんなこと言っていただけるなんて!!」
って叫びながら気絶しそうだ。
そんなサーラを想像して、ちょっとだけ笑顔になった。
そんな俺を見て、フィンが悪戯っぽく笑う。
「なあに、私の言葉で笑ってくれるの?
最近のエリゼオは、ときどき素直に笑ってくれるよね?
ああ、可愛いな。よし、このまま私の部屋に行こうか。うん、ちょっと私とベッドで話を——」
「すとぉーーっぷ!! 何言ってんの? 何言ってんの?
馬鹿じゃないの!?
フィンのばぁーーーーーーーか!!」
もう、フィンの冗談が最近おかしい。
すぐに部屋に行こうとか言いだすし。
閉じ込めておきたいとか平気で言うし。
どうしたん? そんなに仕事がつらいのか!?
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