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12.今までと変わらない……よな?
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翌日、訓練場に朝日が差し込み、木剣の打ち合う音が響いていた。
いつもと変わらない風景。
そして、これからも変わらないはずの風景だ。
俺はそれを眺めながら、心の中で呟いていた。
(昨日のことは忘れよう。これからは友人として、サーラの義兄として頑張るんだ!)
気付けばぼんやりしていたみたいで、フィンが近づいていたことにまったく気づかなかった。
「エリゼオ、おはよう」
「ひゃあっ! お、おう、お、おはよっ」
フィンはすぐに俺の様子の違いに気づいたみたいで、悪戯っぽく笑った。
「ふふっ、そんな可愛い反応されたら、悪いオオカミに食べられちゃうよ?
あ、私がオオカミになっていいっていうなら、大歓迎だけどね。
もちろん、エリゼオはもう私のものだから、他のオオカミに味見させたら駄目だからね?」
「おいっ! 味見ってなんだよ! 俺は餌じゃないんだからなっ」
「あはは、そうそう。エリゼオはそうでなくっちゃ。
あんまり難しいことは考えなくていいよ。君は私だけを見てて」
そう言い残して、フィンは軽やかに去っていった。
なんだよそれ。
でも、そのおかげで自分が力んでいたことに気づけた。
たったそれだけの会話で、俺の肩の力がふっと抜けるのを感じたんだ。
◇◇◇
午後、再びフィンが来たときには、いつも通りの俺たちがいた。
フィンがからかって、俺が言い返す。
けれど、相変わらず容赦のない地獄の特訓。
今の俺は、ひたすら腕立て伏せとスクワットを限界まで繰り返していた。
「なあ、なんで俺、剣を持たせてくれないんだよ。俺も本気で打ち込みしてみたい」
ずっと思っていたことを勇気を出して口にすると、フィンは少し困ったように目を細めた。
「うーん……。まあ、これからは自分の身を守れる方がいいものね。
じゃあ、自衛のための訓練をしようか」
“自衛のため”って、なんだよそれ。
「敵と戦う力もつけてこそ、騎士だろ?」
唇を尖らせて言い返すと、フィンは人差し指を俺の唇にそっと当てた。
それだけの仕草なのに、俺の呼吸が一瞬止まる。
「剣はね、振るうほどに傷つくんだ。
だから、君には”守る”ことを覚えてほしい」
フィンの優しさが伝わってきて、胸に響く。
けれど、俺の中に残ったのは嬉しさではなく。
焦りだった。
(戦えなかったら、俺はお前の隣に立てないんじゃないのか?)
喉の奥まで出かかったその言葉を、俺は飲み込んだ。
◇◇◇
帰りの馬車。
サーラが嬉しそうに身を乗り出してくる。
「お義兄さま! 本日も推し様はお元気でしたか!? お怪我はございませんでしたか!?」
サーラは、恥ずかしがってフィンのことを絶対に名前で呼ばない。
だから俺も、名前は出さずに「推し騎士」って呼んでいた。
けれど、俺なりにフィンのことはちゃんと伝えるようにしていたんだ。
「お、おう。今日もちゃんと訓練してたよ。実践訓練でさ、推し騎士一人で複数相手にしてたんだけど、あっという間に倒してて、ほんと強かった」
サーラは夢見るような表情で両手を胸の前で合わせる。
「さすがは推し様ですわ!……わたくし、初めてお会いした日のことを、今でも忘れられませんの」
「初めて会った日?」
「はい。あの日、町で暴漢に絡まれそうになったところを、助けてくださったんですの。
お礼を言ったら、とても嬉しそうに笑ってくださって……『無事でよかった』って。
その笑顔が、本当に優しくて……。あの瞬間、世界が輝いて見えたんです」
サーラの頬がほんのり赤く染まる。
その表情を見て、俺は思わず拳を握りしめた。
――昨日、フィンが言っていた。
“あの時、ありがとうって笑ってくれた子がいた”って。
“その笑顔を守りたいと思った”って。
あれって、やっぱりサーラのことだったのか。
二人とも同じ瞬間に惹かれあったなんて、奇跡みたいだ。
それなのに。俺はそれを素直に喜べない……
って俺、今、変なこと考えてた!
危ない危ない。
俺は、”サーラを幸せにする”って決めたんだ。
だったら、サーラとフィンが両想いなことは、嬉しいことのはず、だ。
だって、大切な二人が幸せになれるんだからさ。
「お義兄さま? どうなさいました?」
「あ、いや……なんでもないよ。サーラが楽しそうで何よりだ」
サーラは俺に笑顔を向け、幸せそうに推しの話を続けた。
俺は、それに笑顔で頷いたんだ。
いつもと変わらない風景。
そして、これからも変わらないはずの風景だ。
俺はそれを眺めながら、心の中で呟いていた。
(昨日のことは忘れよう。これからは友人として、サーラの義兄として頑張るんだ!)
気付けばぼんやりしていたみたいで、フィンが近づいていたことにまったく気づかなかった。
「エリゼオ、おはよう」
「ひゃあっ! お、おう、お、おはよっ」
フィンはすぐに俺の様子の違いに気づいたみたいで、悪戯っぽく笑った。
「ふふっ、そんな可愛い反応されたら、悪いオオカミに食べられちゃうよ?
あ、私がオオカミになっていいっていうなら、大歓迎だけどね。
もちろん、エリゼオはもう私のものだから、他のオオカミに味見させたら駄目だからね?」
「おいっ! 味見ってなんだよ! 俺は餌じゃないんだからなっ」
「あはは、そうそう。エリゼオはそうでなくっちゃ。
あんまり難しいことは考えなくていいよ。君は私だけを見てて」
そう言い残して、フィンは軽やかに去っていった。
なんだよそれ。
でも、そのおかげで自分が力んでいたことに気づけた。
たったそれだけの会話で、俺の肩の力がふっと抜けるのを感じたんだ。
◇◇◇
午後、再びフィンが来たときには、いつも通りの俺たちがいた。
フィンがからかって、俺が言い返す。
けれど、相変わらず容赦のない地獄の特訓。
今の俺は、ひたすら腕立て伏せとスクワットを限界まで繰り返していた。
「なあ、なんで俺、剣を持たせてくれないんだよ。俺も本気で打ち込みしてみたい」
ずっと思っていたことを勇気を出して口にすると、フィンは少し困ったように目を細めた。
「うーん……。まあ、これからは自分の身を守れる方がいいものね。
じゃあ、自衛のための訓練をしようか」
“自衛のため”って、なんだよそれ。
「敵と戦う力もつけてこそ、騎士だろ?」
唇を尖らせて言い返すと、フィンは人差し指を俺の唇にそっと当てた。
それだけの仕草なのに、俺の呼吸が一瞬止まる。
「剣はね、振るうほどに傷つくんだ。
だから、君には”守る”ことを覚えてほしい」
フィンの優しさが伝わってきて、胸に響く。
けれど、俺の中に残ったのは嬉しさではなく。
焦りだった。
(戦えなかったら、俺はお前の隣に立てないんじゃないのか?)
喉の奥まで出かかったその言葉を、俺は飲み込んだ。
◇◇◇
帰りの馬車。
サーラが嬉しそうに身を乗り出してくる。
「お義兄さま! 本日も推し様はお元気でしたか!? お怪我はございませんでしたか!?」
サーラは、恥ずかしがってフィンのことを絶対に名前で呼ばない。
だから俺も、名前は出さずに「推し騎士」って呼んでいた。
けれど、俺なりにフィンのことはちゃんと伝えるようにしていたんだ。
「お、おう。今日もちゃんと訓練してたよ。実践訓練でさ、推し騎士一人で複数相手にしてたんだけど、あっという間に倒してて、ほんと強かった」
サーラは夢見るような表情で両手を胸の前で合わせる。
「さすがは推し様ですわ!……わたくし、初めてお会いした日のことを、今でも忘れられませんの」
「初めて会った日?」
「はい。あの日、町で暴漢に絡まれそうになったところを、助けてくださったんですの。
お礼を言ったら、とても嬉しそうに笑ってくださって……『無事でよかった』って。
その笑顔が、本当に優しくて……。あの瞬間、世界が輝いて見えたんです」
サーラの頬がほんのり赤く染まる。
その表情を見て、俺は思わず拳を握りしめた。
――昨日、フィンが言っていた。
“あの時、ありがとうって笑ってくれた子がいた”って。
“その笑顔を守りたいと思った”って。
あれって、やっぱりサーラのことだったのか。
二人とも同じ瞬間に惹かれあったなんて、奇跡みたいだ。
それなのに。俺はそれを素直に喜べない……
って俺、今、変なこと考えてた!
危ない危ない。
俺は、”サーラを幸せにする”って決めたんだ。
だったら、サーラとフィンが両想いなことは、嬉しいことのはず、だ。
だって、大切な二人が幸せになれるんだからさ。
「お義兄さま? どうなさいました?」
「あ、いや……なんでもないよ。サーラが楽しそうで何よりだ」
サーラは俺に笑顔を向け、幸せそうに推しの話を続けた。
俺は、それに笑顔で頷いたんだ。
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