【完結】義妹(いもうと)を応援してたら、俺が騎士に溺愛されました

未希かずは(Miki)

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14.頑張りすぎるなよ……

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 デートをした日から、三か月。
 今日のフィンは、最近にしては珍しく、朝から訓練場に来ていたのが遠くから見えた。
 ここ最近のフィンは、ほとんど来れなくて、俺が帰るころになってようやく顔を出すことが多かったのに。

(今日は一緒に訓練できるかな)

 そう思って笑顔で近づいたけど、すぐに違和感に気づいた。

 フィンの歩幅が、少しだけ狭い。
 時々、目を閉じて動きを止めている。
 フィンを気を付けて見てなきゃ分からない変化だけど、俺はすぐに分かった。 
 サーラに報告するために、普段からフィンをよく見ていたから。

 近くで見ると、フィンの顔にはうっすらと隈ができていた。
 もしかして、眠れてないのか? 忙し過ぎるんじゃないか?

 だから俺は、調理場でお湯をもらってきて、温めたタオルを差し出した。

「これ、目元に乗せて休んで。
 最近、忙しくて眠れてないんじゃないか?
 目の下の隈、ひどいぞ」

 すると、フィンは驚いたように目を見開き、タオルを差し出した俺の手首を引っぱった。
 そのまま訓練場の端にあるベンチまで連れていかれて、俺は座らされた。

 ――え、何?と思った瞬間。


 フィンがそのまま、俺の膝の上に頭をのせて寝転んできた。

「今日は、君の膝で寝させて」

 キラキラした笑顔で言われたら、もう抵抗できるわけない。
 俺は大人しく膝枕を引き受けた。
 フィンは俺の太ももに頭をのせ、タオルを目元に当てて穏やかに呼吸している。

 ……可愛い。
 気づいたら、そっと髪を撫でていた。

「あ、ごめん。つい」

「いや、そのままでいてくれないか?」

 タオルで目元は見えなかったけど、口角が上がってた。
 その笑みに、胸の奥が温かくなった。

 やがて穏やかなフィンの寝息が聞こえてきた。

「フィンは、いつも頑張ってるよな。
 でも、無理だけはすんなよ」

 たぶん聞こえてないだろうけど、俺は小さく呟いた。

 前世の俺を思い出す。
 責任を感じると、キャパを超えて無理をして――結局、倒れた。
 もしフィンがそんなふうに倒れたら……いやいや、駄目だ! 
 俺が絶対、そんなことさせないからな。

 目元のタオルをそっと上げて、フィンの顔を見た。
 穏やかに眠る寝顔に、俺はほっと息を吐く。

 完璧な人間が、俺の膝の上で無防備に眠ってる。
 そんな姿を見れるのって、凄く貴重だよな。
 そう思うと、胸の奥がじんわりと温かくなった。

 フィンの髪が俺の太ももをくすぐる。
 フィンのぬくもりが膝にじんわり伝わってくる。
 フィンの熱が俺の体温と混ざりあって、一つになっていくような気がした。

 気づけば、二時間くらい経っていた。
 けれど、不思議とあっという間だった。
 

「ありがとう。よく眠れたよ。
 エリゼオは、私が弱った姿も許してくれるのだな」

 目を覚ましたフィンは、もういつもの凛々しい顔に戻っていた。
 数時間前まで隈を作っていたとは思えない。

「何言ってんだよ。当たり前だろ。
 無理して倒れたら、みんな困るじゃないか」

 俺は不器用にしか言えなかったけど、フィンは嬉しそうに笑ってた。

「夜も毎日、膝枕してほしいくらいだ。
 今度、私と旅行でもして、一緒に泊まろうか?」

 そんな冗談を言ってからかう元気も出てた。

「旅行はいいけど、部屋は別な」

「いいのかい!?」

 まさか俺からOKがもらえると思ってなかった口ぶりだ。
 なんだよ、本気じゃ無かったのかよ。

 ちえっ。フィンとなら楽しめそうかなって思ったのにさ。
 まあいいや。
 そんなことよりフィンに必要なのは休憩だ。旅行なんか行ってる場合じゃないだろ。

 それより。
 俺がフィンのためにできる事、何かないかな。
 今のままだと、教えてもらうばっかりで、フィンの負担にしかなってない気がする。
 少しでもフィンの力になりたいんだ。

 帰りの馬車で、サーラはいつものように推しの話を楽しそうにしていた。
 でも、俺は今日の膝枕のことだけは話せなかった。
 
 推しの弱った姿なんて、サーラには見せられない。
 言わない方がいいよなって思った。
 
 
 ——それに。
 あのときの甘えるような表情は、教えたくないなって、そう思っちゃったんだ。
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