【完結】義妹(いもうと)を応援してたら、俺が騎士に溺愛されました

未希かずは(Miki)

文字の大きさ
56 / 64

55.それでこそフィンだ

しおりを挟む
「ちがう。違う違う違う!!
 そんなの、全部でたらめだ!!」

 俺は思わず叫んだ。

「だってフィンは、ずっと自分の中にある魔力が循環できなくて、苦しんでたって言ってた!
 それなのに、聖なる泉をあんた達から奪ってまで、魔法を使おうなんて、思うわけがない!!」

 隣国の男は、俺を見て鼻で笑った。

「口では何とでも言える。
 お前に嘘をつくことなんて簡単さっ!」

「そんなっ! フィンはそんなことしない。するわけないっ!」

 悔しかった。
 フィンの辛さも努力も知らないくせに。
 あんなに優しくて、自分よりも俺を大切にしてくれるフィンが盗むなんてこと、するわけないのに――っ!

 みんな、俺と隣国の男、どちらを信じれば良いのか悩んでいるみたいだった。
 俺じゃ、みんなを説得しきれないんだ。
 悔しくて涙がにじむ。

 その時、ずっと静かに見守っていたガルディアがすくっと立つ。
 陛下に向かってお辞儀をしていた。

「発言を許可願います。陛下」

「うむ。申せ」

 ガルディアは頭を上げ、会場にいる皆をぐるりと見渡した。

「私は、小さい頃から殿下のおそばにおりました。
 殿下は、ずっと魔力を体内にため込んでいるせいで、成長がかなわず、そして身体も弱かった。
 私は正直、殿下は長生きできないのではと思っておりました。
 今出席されている方の中には、幼き頃の殿下を知る方もいるでしょう」

 ガルディアは、ちらりと議場にいる貴族たちを見やる。
 貴族たちが「そんな時期もありましたな」「確かに、幼少期の殿下は今とは全く違っておられた」などと話す声が聞こえる。

「けれど、殿下はその時ですら、努力を怠らなかった。
 魔法に頼るのではなく、自らの努力で体を鍛え、勉学に励んでいらっしゃった。
 そんな殿下だからこそ、私はおそばに仕えたいと思えたのです」

 ガルディアは俺の近くに歩み寄ってきた。

「その殿下が魔法を使うとき。それは全て、エリゼオに関わることのみでした。
 エリゼオのもとに行きたい、エリゼオを守りたい、エリゼオを監視したい。
 すべて、エリゼオへの愛にあふれていた。
 殿下にとって、魔法もエリゼオへの愛も、全て内から湧き出るもの。
 そんな泉だの聖水だの、外から頼るようなものではないと、私は証言します」


 ……ん?
 いいこと言ってるようで、途中不穏なセリフあるし、なんの証拠もない感想じゃないか、これ?
 でも、ガルディア、めっちゃいいこと言ったみたいな顔してるし、い、いいのかな。

「あのー、すみません。
 私も発言してよろしいでしょうか」

 あ、この間の査問会でいいこと言ってくれた文官さんだ! 彼なら安心できる。
 俺は大きく縦に首を振った。

「うむ。申せ」

 陛下の許可を受け、文官が話しだした。

「仮に、聖なる泉を使って魔法を使えるのだとして。
 それはどのようにして使うのですか?
 泉の水を飲むとかですか?」

 隣国の男は、突然の質問にうろたえる。

「そ、そんなの俺が知るわけない!
 王家が昔、我々から泉を取り上げたんだから!」

 なんだそれ。
 知らずに言ってたんかい。
 一気に男の信ぴょう性が下がるな。

「うーん。どうやって使えるのか分からなければ、もしその泉を奪還しても意味ないですよね?
 まあいいでしょう。あなたたちは、聖水をのんでいるんですよね?
 ということは、おそらく泉の力を使うためには、その水を飲まなくてはいけない。
 けれど、考えてください。
 地下にある水を、誰にも知られずにこっそり王家の人々が飲むなんてことできますか?
 だって、いつでも護衛の方に囲まれています。
 そして、口にするものすべては、毒見役が飲んでからでないと口にできませんよ?
 そう考えると、王家の人々だけが独占するなんて、どだい無理な話だと思うんですよ」

 お、さすが文官さん。ナイスなツッコミだ。

「じゃ、じゃあ、飲まなくても、この王宮にいるだけで、自然と泉の力をもらえているんじゃないか!?」

 うん、隣国の人も適当になってきたな。

「うーん、それこそ、王宮にはたくさんの人が働いていますし、人によってはずっと王宮に泊まり込んで仕事をしてる人もいますよ?
 けれど、少しも魔法なんか使えません。
 そう考えたら、やっぱり、環境ではなくて、その人の持ってる体質とか才能とか遺伝とか。その可能性の方が理屈にかなうと思うんですよ。
 だって、あなたたち隣国ストラウス国では、その泉なんかなくたってバンバン魔法を使って、魔道具も開発してるって聞いたことがありますよ?」

 文官さーーん!!
 俺、文官さんに抱きついて、お礼が言いたい!!

 ん? フィン?
 何でまた俺の前に立つんだよ?

「うむ。そうだな」

 陛下が重々しく口を開いた。

「わしも魔法は少しだが扱える。だが、泉の存在など聞いたこともなければ、飲んだこともない」

 陛下はフィンを見つめる。

「フィルベルト。
 こ奴は、生まれたときから魔力に包まれておった。
 産声をあげた瞬間、部屋中が光に満ちたのを、わしはこの目で見た。
 それは、王宮の記録にも残っているはずだ」

 なんだよ、陛下も証拠持ってんじゃん!
 隣国の男はがっくりと膝をついた。
 両手が床につき、肩が震えている。
 側にいるカリオも、男が気の毒になったのか、拘束していたはずの手を外緩め、見守っていた。

「そ、そんな……だって、私はずっと……」

 男の声が途切れ、掠れる。

「ずっと、その教えを信じて生きてきたのに……うそ、嘘だ……」

 ぶつぶつとつぶやいた後、カリオの腕をすり抜け、そのままフィンに向かって走り出した。
 あ、あいつ、いつの間にかナイフを持ってる!

「フィン――っ!」

 おれは思わずフィンの前に飛び出した。
 けれど、その前に。

 ドンッ!

 カリオとガルディアがあっという間に男を組み伏せていた。
 二人の動きが速すぎて、俺の目が追い付かない。

 ガルディア、いつの間にか手首を拘束していたロープを外してるし。
 あれ、いつ外したんだ?
 やっぱ、すごいな。

「かっけー……」

 俺がぽつりとつぶやいたら、フィンが俺のほっぺをつかんでにっこり笑ってる。

「ん? 誰がかっこいいの? カリオ? ガルディア?
 エリゼオ、君は私のものだと言ったでしょう?
 浮気は許さないよ?」

 ああ、フィンったら。
 いつも通りのフィンだ。
 そうだよ。そう来なくっちゃ。
 それでこそフィンだ!

しおりを挟む
感想 83

あなたにおすすめの小説

巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】

晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。 発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。 そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。 第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

欠陥Ωは孤独なα令息に愛を捧ぐ あなたと過ごした五年間

華抹茶
BL
旧題:あなたと過ごした五年間~欠陥オメガと強すぎるアルファが出会ったら~ 子供の時の流行り病の高熱でオメガ性を失ったエリオット。だがその時に前世の記憶が蘇り、自分が異性愛者だったことを思い出す。オメガ性を失ったことを喜び、ベータとして生きていくことに。 もうすぐ学園を卒業するという時に、とある公爵家の嫡男の家庭教師を探しているという話を耳にする。その仕事が出来たらいいと面接に行くと、とんでもなく美しいアルファの子供がいた。 だがそのアルファの子供は、質素な別館で一人でひっそりと生活する孤独なアルファだった。その理由がこの子供のアルファ性が強すぎて誰も近寄れないからというのだ。 だがエリオットだけはそのフェロモンの影響を受けなかった。家庭教師の仕事も決まり、アルファの子供と接するうちに心に抱えた傷を知る。 子供はエリオットに心を開き、懐き、甘えてくれるようになった。だが子供が成長するにつれ少しずつ二人の関係に変化が訪れる。 アルファ性が強すぎて愛情を与えられなかった孤独なアルファ×オメガ性を失いベータと偽っていた欠陥オメガ ●オメガバースの話になります。かなり独自の設定を盛り込んでいます。 ●最終話まで執筆済み(全47話)。完結保障。毎日更新。 ●Rシーンには※つけてます。

冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる

尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる 🌟2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟 ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。 ――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。 お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。 目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。 ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。 執着攻め×不憫受け 美形公爵×病弱王子 不憫展開からの溺愛ハピエン物語。 ◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。 四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。 なお、※表示のある回はR18描写を含みます。 🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。 🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

処理中です...